配信日時 2019/08/16 20:00

【二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉(20)】「エアボーン!」 加藤喬

ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
お仕事の依頼など、問い合わせは以下よりお気軽にどうぞ
 
E-mail hirafuji@mbr.nifty.com
WEB http://wos.cool.coocan.jp
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こんにちは。エンリケです。

加藤さんが翻訳した武器本シリーズ最新刊が出ました。
今回はMP5です。

「MP5サブマシンガン」
L.トンプソン (著), 床井 雅美 (監訳), 加藤 喬 (翻訳)
発売日: 2019/2/5
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加藤さんの手になる書き下ろしノンフィクション
『二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉─』
の第二十話です。

<「主権国家の自己責任」としての国防は、日本人自らが、
今、この機に実現させるしかありません。>

というのは、わが国以外から見ればごく自然な感覚でしょう。

いつまでも過去のトラウマに囚われ、国を失う羽目に陥る国に
わが国は成り下がったのかどうか?これから試されることでし
ょう。私個人は非常に楽観的に見ています。

さっそくどうぞ。


エンリケ


追伸
ご意見ご質問はこちらから
https://okigunnji.com/url/7/


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『二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉』(20)
 
「エアボーン!」

Takashi Kato

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□はじめに

 書下ろしノンフィクション『二つの愛国心──アメリカで母国
を取り戻した日本人大尉』の20回目です。「国とは?」「祖国
とは?」「愛国心とは?」など日本人の帰属感を問う作品です。
 
 学生時代、わたしは心を燃え立たせるゴールを見つけることが
できず、日本人としてのアイデンティティも誇りも身につけるこ
とがありませんでした。そんな「しらけ世代の若者」に進むべき
道を示し、勢いを与えたのはアメリカで出逢った恩師、友人、そ
して US ARMY。なにより、戦後日本の残滓である空想的平和主義
のまどろみから叩き起こしてくれたのは、日常のいたるところに
ある銃と、アメリカ人に成りきろうとする過程で芽生えた日本へ
の祖国愛だったのです。
 
 最終的に「紙の本」として出版することを目指していますので、
ご意見、ご感想をお聞かせいただければ大いに助かります。また、
当連載を本にしてくれる出版社を探しています。


□今週の「トランプ・ツイッター」8月2日付
 
「ロケットマン・金正恩は自滅への道を突き進んでいる!」
「ドナルド・トランプは精神錯乱をきたした老いぼれだ!」
 
 2年前、米朝の指導者はお互いを「ロケットマン」「老いぼれ」
と呼び、連日激しい舌戦を繰り広げていました。ワイルドカード
大統領と独裁者が交わす言葉の威嚇がいつ熱い戦争にエスカレー
トするのか・・・朝鮮半島沖に集結する米海軍空母打撃群の動向
に、読者もそんな一抹の不安を覚えたことでしょう。

 今月2日、トランプ氏は国連安保理決議に違反し短距弾道弾発
射を繰り返す北朝鮮に関し、次のように書き込みました。
 
「金委員長は信頼関係を裏切って友人ドナルド・トランプを失望
させたくはないはずだ。北朝鮮がもつ無限の可能性を解き放つ指
導者である彼には、自国に対する壮大で美しいビジョンがある。
その実現にはアメリカと大統領である私が不可欠だ!」

 「ロケットマン」が「委員長」になっただけでも驚愕モノ。そ
のうえ短距離ミサイル発射を問題視しないばかりか、「金正恩委
員長がわたしとの信頼の絆をないがしろにするとは思わない」と
まで言い切った仰天発言を解釈するうえで、わたしは二つの可能
性を見ています。

 まず、トランプ大統領と金委員長がともに「望むと望まざると
にかかわらず、強大な権力者である父親の後継者となる星の下に
生まれた」という共通項。それまで口汚く罵りあっていた二人が、
サシで話してみてこの「絆」を直感した可能性はあります。取り
巻きには分からない、悲喜こもごもの運命を孤独な最高指導者同
士が感じあい、その場で、想定外の友情と信頼を育んだというシ
ナリオです。

 次に、マフィアがらみのビジネス界で清濁併せ?んでのしあがっ
てきた不動産王と、権力基盤維持のためには叔父でも腹違いの兄
でも平然と抹殺する独裁者には、自らを「強い指導者」と見る強
烈な自己像があるという点。言い換えれば、トランプ氏と金委員
長は「日本への被害者意識」を「反日感情」にすり替えて政権運
営の原動力とする文在寅大統領とは真逆の存在なのです。アジア
で初めて西欧列強と肩を並べた日本に対する「引け目」と「羨望」
を「敵意というエネルギー」に転換する文氏の政治手法は、当然、
常に後ろ向きであり、未来へのパワフルな牽引力にはなり得ませ
ん。この十年一日のごとき過去依存が、トランプ氏と金委員長を
して「文在寅は弱い指導者だ」と結論させ、韓国抜きの朝鮮半島
非核化に舵をきると同時に、剛腕トップ同士の個人的信頼関係を
深めた。米朝首脳の「この世ならぬ友情」にはこんな裏があった
のかも知れません。

 事の真相はさておき、トランプ氏と金委員長の豹変に日本はい
かに対処するのが得策か? 「日米安保破棄」への言及や「自国
のタンカーは自軍で守れ」との発言から、「国防は主権国家の自
己責任」がトランプ氏の本音。在韓米軍基地を楽々射程に収める
上、迎撃困難な新型短距離弾道弾発射を不問に付すということは、
遠からず在韓米軍撤退を検討している証左でしょう。つまり、米
朝間でグアムや米本土に到達可能な大陸間弾道弾と核弾頭の破棄
さえ実現できれば、朝鮮半島非核化は日韓朝の国防問題となり、
アメリカは関与しないという筋書きです。

 軍事的にアメリカに見放された場合、憲法九条に縛られた日本
は国家存立の危機に直面しましょう。確かに「戦争と交戦権の放
棄」は日本の再軍備に反対したマッカーサー元帥のお仕着せに他
なりません。連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)が戦争罪悪感を
日本人に植え付ける洗脳政策を行なったのも事実。しかし、日本
は1952年に主権を回復しGHQは廃止されています。つまり、いまも
マスコミや政界、教育現場に蔓延(はびこ)る「自虐史観」、
「祖国を憎む倒錯の心理」、「憲法第九条の神聖化」は日本人自
らの手で温存、強化されてきたのです。

 安倍首相との緊密連携を通じ、トランプ大統領はマッカーサー
の失策や「日本人が引きずる戦争トラウマ」を知ってはいるでし
ょう。国防の米国依存を生み出した「日本人の愛国心と民族矜持
の徹底破壊」が占領政策の大誤算だったことも認識しているはず
です。しかし・・・「アメリカは優に60年以上、日本を守って
きた。これ以上のタダ乗りはさせない」と断言するトランプ氏の
同情と理解を得ることはまず不可能。ならば、「主権国家の自己
責任」としての国防は、日本人自らが、今、この機に実現させる
しかありません。

 本日のトランプ・ツイッター、キーワードは smart。和製英語
では「痩せている」ですが、本来は「頭が切れる」「賢明な」と
いう意味で使われます。

I may be wrong, but I believe that........Chairman Kim has 
a great and beautiful vision for his country, and only the 
United States, with me as President, can make that vision 
come true. He will do the right thing because he is far too 
smart not to, and he does not want to disappoint his friend, 
President Trump!

「わたしは間違っているかも知れないが、金委員長は自国に対す
る壮大で美しいビジョンを持っていると信じる。アメリカと大統
領であるわたしのみが、このビジョンを実現できる。彼は正しい
ことを決断するだろう。彼ほど頭の切れる人間が、そうしない訳
がない。そして、友人であるドナルド・トランプを失望させはし
ないはずだ!」


「二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉」(20)

(前号までのあらすじ)
 訓練最後の難関は24時間ぶっ通しで行なわれる偵察任務だっ
た。大型ヘリで「敵地」に挿入された我々の小隊は戦術行軍を続
け、偵察目標の手前で夜を待った。闇夜のなかを移動中、照明弾
が打ち上げられ猛烈な爆発があたりで立て続けに起こった。待ち
伏せを制圧するためのM60機関銃が作動不良を起こしたことで
小隊は総崩れになって退却。その様子は逃げ惑う烏合の衆と変わ
りなかった。

▼「エアボーン!」


訓練も終わりに近づきふと時間が空いた時、幼少時のある光景が
なぜか蘇った。母が往診を終えた町医者に茶を勧めながらこう言
っているのだ。

「先生、わたし、女学校に教練指導でやってくる陸軍の軍曹が怖
かった。竹槍突撃でかけ声が小さかったりすると『攻撃精神が足
らーん!お前は非国民か』って怒鳴りつけて・・・」

その日は終戦記念日でもあったのだろうか。戦時を回想する母の
言葉に、往診の町医者がいつもの穏やかな口調で答える。

「海軍にも新兵イジメをする者はおりましたよ。空襲が始まると
ね、そんな部下を乗艦の甲板に集め『よく見ろ、あれが敵だ』と
軍刀で示し、自分は持ってきた脚立に腰をおろす。跳梁するグラ
マンを見あげたきり、もうなにも言わない。そのうち古参下士官
たちガタガタ震えだし『軍医殿、ここにもいつ敵弾が落ちてくる
か分りません。早く避難を!』と懇願する。こっちも内心は怖い
が、それでも黙って待つのですよ。全員青ざめた頃を見計らって
『仲間を痛めつける軍隊で戦争に勝てるか』と言ってやる。そし
て平然と艦内に戻る。これが効きましたな」

 小学生の頃、発熱で朦朧とした頭で聞いた母と医師の会話。も
んぺ姿で竹槍を構える女学生の母と、海軍の詰め襟軍服に軍刀を
携えた青年将校を思い描いた。太平洋戦争を身近に感じた原体験
だ。親しい人の思い出話は軍隊へのそこはかとない怖れを植え付
け、わたしは医師が口にした「新兵いじめ」という言葉の陰湿さ
におののいた。後年、それまでボンヤリとしていた旧軍忌諱(き
い)に実体験の裏付けを与えたのは、留学を勧めた叔父だった。
彼はわずか15歳で海軍甲種飛行予科練習生、いわゆる「予科練」
に志願している。15歳とはいかにも若いが、戦況悪化で消耗し
たパイロットを補うため、志願者の学歴と年齢制限が引き下げら
れた頃だ。前後して、叔父は東京大空襲で渋谷の実家を焼かれて
いる。九死に一生を得た家族は縁故を頼って疎開したが、友人、
知人の多くは焼夷弾で親兄弟を焼き殺された。沖縄陥落はもはや
時間の問題となり、本土決戦も避けられない戦況。日本は滅びへ
の道をひた走っていた。

志願理由を本人に聞いたことはないが、おそらくは母国の絶望的
状況下で「死中に活を求めるには、自分のような若者が一日も早
く一人前のパイロットになって米軍を迎え撃つしかない」そんな、
居ても立ってもいられない少年の心意気だったのではないか。し
かし、純真な祖国愛はあっさり裏切られる。アメリカに勝つため
の団結心や飛行技術育成など二の次で、精神主義の名を借りたリ
ンチが蔓延していたからだ。町医者が看破していた通り、敗戦ま
じかの旧軍は一蓮托生であるべき戦闘集団の体をなしていなかっ
た。敵を打ち破る本来の目的を見失い、階級社会の不満や苛立ち
を目下へのイジメで解消する愚行がまかり通っていたからだ。健
気な軍国少年が志願したとき、皇軍はすでに本土決戦を行なえる
組織ではなくなっていた。

叔父が著わした『敗戦三十三回忌─予科練の過去を歩く』に、特
攻要員志願を強要されたときのエピソードがある。叔父と同じ班
のひとりが「志願する者、一歩前に!」に応じなかった。死ぬた
めではなく「飛行機乗りになりたいから予科練に入った」という
純粋さからだったが、この男が真っ先に特攻要員に選ばれた。露
骨な見せしめだった。叔父はこのとき、予科練は消耗要員で、生
死をふくむ軍での処遇が上官の気分しだいである現実を思い知ら
された。

むろん体面上、体罰は禁止されていたが、古参下士官が行なうイ
ジメを見て見ぬフリをする悪習がはびこっていた。モールス符号
の聞き取り試験に失敗した者に対し、気合いを入れると称して行
なわれた懲罰はもはやサディスティックな暴行。両手を前に伸ば
し腰を折った練習生の尻を、精神注入棒で殴るバッターがそれだ。
あるとき、四〇回というバッターを科された男は何回も気絶し、
そのたび、教官は水を浴びせて起ちあがらせてはバッターを見舞
った。許しを請う仲間の苦悶を前に、叔父は「息をのんでみまも
る」しかなかったと記している。

米陸軍に志願するにあたり、叔父が体験したようなイジメを怖れ
ていなかったと言えばウソになろう。中学高校の体育会系部活で
垣間見た旧軍体質の名残や、ハリウッド映画のステレオタイプも
影響していた。が、杞憂だった。少なくとも80年代の米陸軍に
は、イジメも、差別も、嫌がらせも存在しなかった。

むろんこれは、1950?60年代にアメリカの黒人らが人種差
別撤廃を求めて展開した公民権運動の成果だ。第1次、第2次世
界大戦と朝鮮戦争に参戦した際、米軍には黒人部隊が編成された
が、64年に公民権法が制定されると、翌年から本格化したベト
ナム戦争では黒人も白人も同じ米兵として戦った。黒人士官に対
し、白人兵が敬礼したのは言うまでもない。

実体験として真っ先に思い浮かぶのは、ドリルサージャント(訓
練下士官)らの高いプロ意識だ。初めて実家を離れ他州にやって
来た大方の新兵にとって、まるつば帽子の訓練下士官は絶対権威
の権化であり、畏怖の対象であり、また、ある意味親代わりでも
ある。個人のアイデンティティや自負を剥ぎ取られ、困惑と絶望
のどん底にある新兵の目には、ほぼ神に近い存在なのだ。したが
って我々は、今風に言えば、軍曹らのセクハラやパワハラに極め
て脆弱な立場にあった。だが、階級と権威を乱用するドリルサー
ジャント(訓練下士官)は皆無だった。

どの国の軍隊でもそうだが、新兵訓練では行軍する際にケイダン
スというかけ声をかける。かつての日本で、木材や建築資材を引
くときに大勢で謳った「木遣り」のようなものだ。こぶしの利い
た訓練下士官の音頭に続き、新兵も声を張り上げるわけだが、興
に乗りすぎると、つい禁句を口にしてしまうことがある。卑猥な
意味を持ついわゆる四文字言葉だったり、ベトナム戦争で東洋人
を卑下する表現として使われた「グーク」を挿入したりすること
も稀にはあった。しかし即興ケイダンスのミスに気づくや、ドリ
ルサージャントらは行軍を即中止。「いまの表現は良くなかった。
キミらのなかに侮辱と感じた者がいたら謝罪する。申し訳なかっ
た」と率直に非を認めた。中国や韓国、ベトナムからの移民もい
たので、我々に直接謝ってくる教官もいた。

格闘技のオリエンテーションで開口一番、ブルース・リーのこと
を中国人に対する蔑称「チンク」と呼んだ年配の大尉もいた。わ
たしに気づいた教官が「キミを侮辱するつもりはなかった」と謝
罪する。
「サー、わたしは中国人ではありません」
「じゃあ、キミは・・・ベトナム・・・いや、韓国人か?」
わたしは右胸の名札に書かれたKATOを指し、
「JAP、キャプテン」
と微かな皮肉を込めて返した。ベテラン大尉は一瞬ひるんだがす
ぐ平静を取り戻し
「これは一本取られた。以後、気をつける」
と、そつなくその場を収めて教習に入った。

陸軍が許容しなかったのは言葉の乱用にとどまらない。旧軍のバ
ッターは論外だが、殴る蹴るもタブーであり、軍法会議モノの違
法行為だ。実際、ドリルサージャントは新兵に指一本触れてはな
らず、躾は懲罰腕立て伏せのかたちで行なわれた。それでも、体
力の限界を超える理不尽な罰を下す軍曹にはお目にかからなかっ
た。

話は前後するが、ルイス基地での基礎訓練終了後、ジョージア州
ベニング基地に移り、エアボーン・スクール(空挺学校)で落下
傘降下訓練を受けた。初降下の日、グループのなかで一番小柄だ
ったわたしは列の最後尾。つまり、輸送機の後部ドアから最初に
ジャンプするのは自分だった。3週間におよぶ訓練で体力と降下・
着地テクニックの準備はできていたが、本番はやはり怖い。
「降下まであと6分! 壁側の者、立て!」
降下長が叫ぶ。
「スタティク・ラインをフックアップしろ!」
スタティク・ラインとは、降下と同時にパラシュートを引き出す
黄色いコードのことだ。これを天井に渡されたワイヤーにつなげ
たらもう後戻りはできない。わたしが怖じ気づいたら、後ろの将
兵も機内につかえてしまうからだ。ジャンプのタイミングを逃せ
ば、輸送機は旋回して降下地点への接近をやり直さなければなら
ない。実戦なら、低空で旋回する輸送機は対空砲火の良いカモだ。
その時だ。
「カデット、先に失礼する」
 大柄な兵士がふたり、突然目の前に現れた。見覚えがあった。
入校式に参列していた空挺学校司令官の中佐と従軍牧師の少佐だ。
佐官らは落ち着いた様子でフックアップし、ジャンプ・マスター
(降下長)の指示を待つ。
「降下準備!」
降下長がドアを上にスライドさせ、身を乗り出して機外と降下地
帯の安全を確認する。
「装備点検!」
「オール オッケー、ジャンプ・マスター!」
中佐が答える。
「ゴー!」
一瞬の後、司令官と従軍牧師の身体は機外に吸い出されるように
見えなくなった。だがもう怖くなかった。上官らの模範で勇気が
出たのだ。わたしは躊躇なく二人のあとに続いた。

ことほど左様に、米軍では上に立つ者の率先行為が信頼関係の根
幹をなしている。「一緒に来い。わたしと同じようにやれ」が歩
兵科の合い言葉でもある。指揮官と所属部隊に対する信頼と忠誠
心、そして揺るぎない命令系統はこうして育まれていく。旧軍に
はこれが絶対的に欠けていた。

秋学期の初日、わたしは軍服に身を包んでROTCオフィスに赴
いた。左胸には憧れの空挺徽章が光る。基礎訓練卒業後、エアボ
ーン・スクール(空挺学校)に志願して手に入れた名誉ある技能
バッジだ。真新しいウィングを意識しつつ、ブラウン大尉の個室
をノックする。

「カデット・カトー、白旗を持ったロシア兵を射殺したそうだな」
開口一番、痛いところを突いてくる。いつものけわしい表情だ。
「大尉殿・・・状況判断を誤りました。申し訳ありません」
「本番で同じミスをしなければ良い」
「イエッサー」
「ところでな・・・」
大尉が机の引き出しから何か取り出す。差し出されたのは古い少
尉の階級章だ。
「任官式ではこれを使え。わたしが少尉時代に使っていたお古だ」
言葉の意味がすぐには分からず立ち尽くす。
「きれいに磨いておけよ」
ゴールド・バーを手渡す大尉が別人に見えた。微笑んでいたからだ。
「キャプテン・・・」
「下がってよし・・・エアボーン!」
めったにカデットを褒めない大尉が自分を「空挺」と呼んでくれ
た!二本のゴールド・バー(少尉の階級章)を受け取るや、わた
しは回れ右をしてオフィスをあとにした。うれし涙を見られたく
なかった。


(つづく)


加藤喬(たかし)



●著者略歴
 
加藤喬(かとう・たかし)
元米陸軍大尉。都立新宿高校卒業後、1979年に渡米。アラスカ
州立大学フェアバンクス校他で学ぶ。88年空挺学校を卒業。
91年湾岸戦争「砂漠の嵐」作戦に参加。米国防総省外国語学校
日本語学部准教授(2014年7月退官)。
著訳書に第3回開高健賞奨励賞受賞作の『LT―ある“日本
製”米軍将校の青春』(TBSブリタニカ)、『名誉除隊』
『加藤大尉の英語ブートキャンプ』『レックス 戦場をかける
犬』『チューズデーに逢うまで』『ガントリビア99─知られざ
る銃器と弾薬』『M16ライフル』『AK―47ライフル』
『MP5サブマシンガン』『ミニミ機関銃(近刊)』(いずれも
並木書房)がある。 
 
 
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『チューズデーに逢うまで』関係の夕刊フジ
電子版記事(桜林美佐氏):
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150617/plt1506170830002-n1.htm
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150624/plt1506240830003-n1.htm
 
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『レックス 戦場をかける犬』の書評です
http://honz.jp/33320

オランダの「介護犬」を扱ったテレビコマーシャル。
チューズデー同様、戦場で心の傷を負った兵士を助ける様子が
見事に描かれています。
ナレーションは「介護犬は目が見えない人々だけではなく、
見すぎてしまった兵士たちも助けているのです」
http://www.youtube.com/watch?v=cziqmGdN4n8&feature=share
 
 
 
きょうの記事への感想はこちらから
 ⇒ https://okigunnji.com/url/7/
 
 
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日本語でも英語でも、日常使う言葉の他に様々な専門用語があ
ります。
軍事用語もそのひとつ。例えば、軍事知識のない日本人が自衛
隊のブリーフィングに出たとしましょう。「我が部隊は1300時
に米軍と超越交代 (passage of lines) を行う」とか「我が
ほう戦車部隊は射撃後、超信地旋回 (pivot turn) を行って離
脱する」と言われても意味が判然としないでしょう。
 
 同様に軍隊英語では「もう一度言ってください」は
 "Repeat" ではなく "Say again" です。なぜなら前者は
砲兵隊に「再砲撃」を要請するときに使う言葉だからです。
 
 兵科によっても言葉が変ってきます。陸軍や空軍では建物の
「階」は日常会話と同じく "floor"ですが、海軍では船にちな
んで "deck"と呼びます。 また軍隊で 「食堂」は "mess 
hall"、「トイレ」は "latrine"、「野営・キャンプする」は 
"to bivouac" と表現します。
 
 『軍隊式英会話』ではこのような単語や表現を取りあげ、
軍事用語理解の一助になることを目指しています。
 
加藤 喬
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最後まで読んでくださったあなたに、心から感謝しています。
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そして、メルマガを作る機会を与えてくれた祖国に、心から感謝
しています。ありがとうございました。

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