配信日時 2019/08/08 20:00

【ライター・渡邉陽子のコラム (242)】神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱芳文の半生(2)

こんにちは、エンリケです。

「第32代陸上幕僚長火箱芳文の半生」のニ回目です。

感じるところ多い内容です。

さっそくどうぞ


エンリケ

追伸
来週の配信はお休みです




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『ライター・渡邉陽子のコラム (242)
 ― 神は賽子を振らない 
   第32代陸上幕僚長火箱芳文の半生(2)―

         渡邉陽子
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こんばんは。渡邉陽子です。
現在発売中の「正論」9月号(*)に「自衛隊あってのオリンピッ
ク」第3回が掲載されました。
今回は選手村や輸送など、いわゆるロジにおける自衛隊の支援を紹
介しています。なかにはどこまで自衛隊におぶんにだっこ?と思う
ような支援も。前回の東京五輪で自衛隊がここまでやったこと、多
くの方に知っていただきたいです。

(*)https://amzn.to/32XT0tg



■神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱芳文の半生(2)

先週に続き、元陸上幕僚長火箱芳文氏の半生を振り返る連載「神は
賽子を振らない」の第2回をお届けします。

防大では2年になると、陸海空のどの自衛隊に進むか決まる。
火箱は最初、航空自衛隊でパイロットになりたいと思っていた。と
ころが航空実習で飛行機に乗ったときエアポケットで激しく揺れ、
「これはあまり気持ちのいいもんじゃないな」と思ってやめた。
海上自衛隊の乗艦実習では波が高くて「これも嫌だな」。
一方、行進訓練では周囲が根を上げて次々と倒れていくのだが、火
箱は「なんでみんなこの程度で倒れるんだ」と不思議に思うほど余
裕だった。そして「俺の道はこれしかないな、陸だ」と、陸上自衛
隊を希望することにした。しかも職種は柔道で鍛えた屈強な体を生
かせる歩兵、つまり普通科以外は一切眼中になかった。
実際、防大を卒業後に入校した幹部候補生学校で職種が決まる際も
「私を普通科にやらなければ自衛隊を辞めます」と言ったほどだ。
さらに言えば、空挺の基本降下課程と幹部レンジャー課程はかなら
ず受けたいと思っていた。

ところで、火箱が防大生だったころはまだ自衛隊に対する風当たり
が強い時代だった。
「税金泥棒」と言われた先輩の話も聞いていたし、制服で出かける
といつも奇異な目で見られている感じもした。それでも防大に入っ
たことに悔いはなかった。

しかし入校してしばらくは「『陸海空軍その他の戦力はこれを保持
しない』と憲法に明記されている。じゃあ俺たちはなんなんだ」と
いう思いが胸の内でくすぶっていた。
「戦力」を「実力」と言えば軍隊ではないのか、階級の名称を大中
小ではなく一二三と数字にすれば軍隊ではないのか。憲法の授業で
は無理矢理の解釈を習ったが、それで納得できるわけもない。

自分たちの存在意義がわからず苦しかったが、結局のところそれは
自分自身で植え付けていくしかないものだった。そして日々の学業
や訓練を重ねていくうちに、国を守るということがどれほど大事な
ことか理解できるようになる。そうなると自衛隊が世間からどうと
らえられようが、われわれは国を守るために存在するのだと迷わず
思えた。
最初からそういう思いが抱けていればいいのだが、ほとんどの学生
はそこまで深く考えずに防大生になる。火箱もそのひとりだ。自衛
官として国を守るという意識は、日々の教育や先輩との共同生活の
中で徐々に培われていくものなのだ。

4年間で一度だけ、火箱は「防大を辞めようか」と悩んだことがある。
それは2年になったばかりのときで、規律正しい生活が苦痛という
のではなく、なにごとに対してももっとじっくり、より深く考えた
り学んだりしたいと思ったのだ。
防大での勉強は概論が多く物足りなかったし、理数系の学問よりも
政治や歴史についてもっと専門的に学ぶ時間が欲しかった。
東京の大学に進学した高校の同級生の下宿先に遊びに行き、彼と仲
間たちが多方面について熱く、そして大らかに議論しているのを目
の当たりにしたときは、彼らがまぶしかった。自分のしているすべ
ての学問が中途半端で浅く感じられ、「俺は一体なにをやっている
んだろう」とも思った。
後から思えば「防大病」とでもいう病にかかっていたのかもしれな
い。指導官に相談すれば騒ぎになる、両親に話せば心配させてしま
う。思いあぐねて兄に話すと、ただ「自分で決めろ」とだけ言われ
た。

悶々とする日々が続いたが、結果的に時間が最大の助言者となった。
柔道の試合が近づいていたので余計なことを考える余裕もなく練習
に打ち込んでいるうちに、次第に気持ちに変化が生じた。
「勉強が物足りないなら自分でもっと勉強すればいいだけの話じゃ
ないか。平日が忙しいなら土日でその時間を作ればいい」と、前向
きな気持ちになれたのだ。それに防大を中退して地元に帰る自分の
姿を想像するとぞっとした。
そうして数カ月間のもやもやを乗り越えてからは、卒業まで一度も
迷うことはなかった。


(わたなべ・ようこ)

※現在連載中

「PANZER」9月号
「神は賽子を振らない」第5回
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「正論」9月号
「自衛隊あってのオリンピック」第3回
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□著者略歴

渡邉陽子(わたなべ・ようこ)
神奈川県出身。大学卒業後、IT企業、編集プロダクション勤
務を経て2001年よりフリーランス。2003年から月刊
『セキュリタリアン』『MAMOR』などに寄稿。
現在は自衛隊関連の情報誌などで記事を発表。メルマガ「軍事
情報」で自衛隊関連の記事を配信中。
 
2016年6月、デビュー作
『オリンピックと自衛隊 1964-2020』を刊行。

 
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