こんにちは、エンリケです。
いま、和辻哲郎の『日本倫理思想史』を読んでいるところですが、
実に愉しい理由のひとつは、「日本人の内面の歴史」を描き出し
ている点かもしれません。
さてきょうの桜林さんの記事は、
人間の内面に関する話です。
感じるところ多いですね。
さっそくご覧ください。
エンリケ
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桜林美佐の「美佐日記」(35)
「避けてはいけない」ことに向き合う
桜林美佐(防衛問題研究家)
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おはようございます。桜林です。「男もすなる日記といふものを、
女もしてみむとてするなり」の『土佐日記』ならぬ『美佐日記』
は今回で35回目です。
コンビニやスーパーで何かを買う時、その商品があと2個しか
なかったらどうしますか?
実は私は、1個は残しておきます。後でその商品が欲しくて買い
物に来た人が気の毒だなあと、つい考えてしまうからです。
賞味期限や消費期限も、なるべく長持ちする物を買うべきと考
える方が多いようですが、そうすると、期限が迫っている物は遠
からず処分され「フードロス」になってしまうと思い、期限の近
い物を選ぶ癖も、「変ってるね」とよく人に言われます。
「なんでそんなことするの?」と言われますが、誰に言われた
わけではなく、なんとなく自然に身についていたので、もしかし
て、これが「神の見えざる手」というものなのか??と勝手に思
い込んでいました。
そのうちにアダム・スミスの『国富論』というのを学校で習い、
「神の見えざる手」とは行政が規制せず市場に任せておけば経済
は安定するという意味だと聞いて「なんのこっちゃ」という理解
しかできませんでしたが、少なくとも私の思っていた「神の見え
ざる手」とはぜんぜん違うんだなあと知りました(因みにアダム・
スミスが言ったのは「見えざる手」led by an invisible handで
「神の」とは言ってないそうです)。
しかし最近になって、渋沢栄一が1万円札の顔になるというニ
ュースがあり、関連の記事をいくつか読むことがあったのですが、
私が勘違いしていたと思っていた「神の手」の話(と、勝手に命
名)は、当たらずとも遠からずだったのではないかと分かったの
です。
渋沢栄一は日本で初めて銀行を設立した人であり、株式制度を
導入した人ということで、日本の「資本主義の父」と言われます
が、その一方で「道徳経済合一説」というものも唱えています。
『論語』を学んでいた渋沢は経済活動における道徳の必要性を強
く認識し、公益を追求し「日本全体を良くしたい」という理念を
持っていたようです。
日本の防衛産業の歴史を紐解いた際も感じていましたが、かつ
ての経営者には同じような考え方が多かったようですよね。
実は、その渋沢栄一が、自らこのように言っているのです。
「私の愉快に思いますのはアダム・スミスの学説が私の信条た
る道徳に一致することであります」と。
実は、アダム・スミスには『国富論』の前に『道徳感情論』と
いう著書があり、そこではスミスも私利心が全てではなく「隣
人を愛する」ことの重要性を説いているのだそうです。私のコ
ンビニでの買い物もこの点だけ適合するかなと・・・!
ただし、アダム・スミスは自己利益を追求していくことで
「自然に」「見えざる手」によって社会全体が繁栄するという、
些か無理がある理論だったため、現在社会ではどちらかという
と「う~ん・・・そりゃむりでしょ」と首を傾げられている印象
があります。
一方で渋沢はアダム・スミスの「利益優先」(結果的なみんな
の幸せ理論)に比べ「倫理優先」で何事も行なったということで
す。それはどういうことかというと「経営の社会的責任」を優先
することだといいます。
即ち「広く民に施して衆を救う」ことが使命だと。現代ではCSR
(Corporate Social Responsibility)という言葉がぴったりくる
ようです。
こうした渋沢の理念、生き方に米国の経営学者ピーター・ドラ
ッカーはいたく感銘を受け、渋沢はロスチャイルドやロックフェ
ラーよりも優れた実業家だと評価しているのだそうです。
こうした経営理念が、現在でも欧米などで広く研究されている
といい、中国でも研究が進んでいるといいます。
不思議なのは、日本国内であまりこうした側面が語られないよ
うに見えることです。いえ、側面どころか本質なのかもしれない
のに。
話が飛ぶようですが、例えば『人生がときめく片づけの魔法』
の著者であるコンマリこと近藤まりえさんは今、米国で超有名人
です。2015年の米国誌『TIME』の「最も影響力のある百人」
のひとりにも選ばれています。
コンマリさんの本は私も読み、素晴らしいものでした。当時、
テレビにもよく出演していて、その内容は「片づけられない人を
助ける」というものが多かったのですが、コンマリメソッドの本
質は実はそこではないと、本を読んで理解し、すっかりファンに
なりました。
コンマリメソッドは、物を捨てることが目的のように思われるか
もしれませんが、むしろ「感謝する」ことが重要で、胸がときめ
かないものを手放すこともその物に感謝すればこそなのです。
要するに、このメソッドは単なる整理整頓術ではなく、人の内
面に働きかけているのです。
コンマリにはまっている米国の女性が「洗濯物をたたむ時にテ
レビやラジオを消すようになった」と言っていて、そのことで目
の前の服たちと向き合えるようになった・・といった話を聞きま
した。いわばこれは片づけることによるマインドフルネスなので
す。
以前に書きましたが、私もずっとテーブルの上に置きっぱなし
にしていた資料や本を片付けることができた時、本当に感動しま
した(隣の部屋に移しただけですが)。これは「片付けられない
」症候群に陥っていないとなかなか分かってもらえない気持ちか
もしれませんが・・・。
コンマリが色々なおうちを訪ねて一緒に片づけをするネットフ
リックスでの番組では、きれいになった家で依頼主と抱き合って
涙するシーンが多いようです。
とにかく、今回書きたかったのは、経済にしても片づけにして
も、何であれ日本では表面的な捉え方のみで、あえて内面には触
れないところが歯がゆく、もったいないなということです。
世界の紛争や対立も民族や国境のみならず「宗教」という内面世
界を知らなければ到底理解できないはずなのに、なぜかそこは避
けて論評されることが多いようです。
「避けなければいけない」と思っている向きが多いようですが、
「避けてはいけない」のではないでしょうか。
大阪で開催されたG20サミットに際し、世界宗教サミットも行
なわれていたことはあまり知られていません。
わが国では、宗教というと社会や政治、経済とかけ離れた分野
だと思われていて、宗教理解の重要性を認識していないのではな
いかと松本佐保・名古屋市立大学教授が書かれていたコラムを読
み、納得しました。やはり日本人の多くは宗教的なことを毛嫌い
しているのだと。そこで、『戦争は人間的な営みである』(並木
書房)でもお馴染みの石川明人先生の本を改めて紐解いている昨
今です。
ホルムズ海峡に有志連合が派遣されるかもしれないといったニュ
ースが出てきています。その傍らで参院選に向けた選挙演説を連
日で耳にしますが、内容があまりに矮小で、倫理観のかけらもな
いような話ばかり。日本人の精神年齢がますます低下するのでは
ないかと憂いてしまいます。
<おしらせ>
YouTubeチャンネルくららで毎週土曜にアップしている「国防ニュ
ース最前線」、今週は伊藤俊幸・元海将に解説して頂きます。
http://okigunnji.com/url/42/
(つづく)
(さくらばやし・みさ)
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【著者紹介】
桜林美佐(さくらばやし・みさ)
昭和45年、東京生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、
ディレクターとしてテレビ番組を制作。その後、国防問題などを
中心に取材・執筆。著書に『奇跡の船「宗谷」─昭和を走り続け
た海の守り神』『海をひらく─知られざる掃海部隊』『誰も語ら
なかった防衛産業[改訂版]』『武器輸出だけでは防衛産業は守
れない』『防衛産業と自衛隊』(いずれも並木書房)、『終わら
ないラブレター─祖父母たちが語る「もうひとつの戦争体験」』
(PHP研究所)、『日本に自衛隊がいてよかった』(産経新聞出
版)、『ありがとう、金剛丸─星になった小さな自衛隊員』(ワ
ニブックス)。月刊「テーミス」に『自衛隊密着ルポ』を連載。
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