配信日時 2019/07/08 08:00

【桜林美佐の美佐日記(34)】トップの条件─あなどれないトランプ大統領

こんにちは、エンリケです。

米大統領トランプさんについては、いろいろな面から
評価されてますが、今日のような切り口で評価した
声をあまり耳にしません。

ウラ読みしたり、こじれた(?)切り口が流行の昨今ですが、
桜林さんの切り口こそ、つい忘れがちな「地に足のついた
大人のスタンダード」のような気がします。


さっそくどうぞ。


エンリケ


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桜林美佐の「美佐日記」(34)

トップの条件─あなどれないトランプ大統領

桜林美佐(防衛問題研究家)
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おはようございます。桜林です。「男もすなる日記といふものを、
女もしてみむとてするなり」の『土佐日記』ならぬ『美佐日記』
は今回で34回目です。

渡邉陽子さんの、ある自衛官について書かれたコラムを読んで、
「あ、ありがち過ぎる・・・」とうなだれてしまいました。私は
最初から自衛隊の部外対応には過度の期待をしないことにしてい
るので「○○は持って行かなくて大丈夫なんですか?」などと聞
いてみたり、自主的に身分証明書やら印鑑やら、ほとんど不必要
な物まで持っていくことが多いのですが、自衛官の伝達ミスで米
軍基地に入る際に必要なアイテムを携行していなかったため取材
ができなくなったなんて本当に残念ですよね。

その担当自衛官はものすごく忙しかったか、やる気が出ない何ら
かの事情があったのかもしれないですね。そもそもこういう仕事
やりたくないんだよ、ミスすれば配置を変えてもらえるかな。み
たいな。いずれにしても、その後は鳴かず飛ばずだったことでし
ょう。

あと、ゲートの通過に対する意識が米軍と自衛隊ではぜんぜん違
うと感じます。最近は日米共同の基地が以前より増えましたが、
両者のギャップに戸惑う自衛官も少なからずいるようです。

因みに、米軍基地で暮らす人々でも、IDをうっかり忘れて外出し
てしまったら中には入れません。また、とある日米共同の施設で
はかつて自衛隊側のトップのお母さんがはるばる故郷から来たも
のの、入門する際に健康保険証しか身分を証明するものがなく、
部隊訪問を断念したということも聞きました。

これだけ厳しくても、ゲートを突破され自爆テロで何人もの死傷
者が出るといったことが実際に起きている国では、融通が利かな
いなあ・・・なんて言う人はいないのです。

感覚の違い、と言えば「時間」に対する捉え方も、どうしても自
衛隊と民間では違うと私も感じます。これは自衛隊に限らず、自
営業やフリーランスの職業以外はそういう傾向があるのかもしれ
ません。

ずいぶん前ですが、経済評論家の勝間和代氏が産経新聞にコラム
を書いていて、思わず「よく言ってくれた!」と膝を打ったこと
がありました。

 曰く「よく講演の前に主催者から打合せをしたいとか、挨拶に
行きたいと言われることがある」として、それは時間を売ること
であり受容しかねるといった趣旨だったと思います。

 例えばこれから本を書くとか、何らかの企画をするという打ち
合せならいざ知らず、講演などでは打ち合わせも挨拶も必要ない
はずで、仕事を受ける側としてはその時間に自分の勉強や他の仕
事をしたいのです。

 さらに言えば、その時間を割いたことで他の仕事を入れられな
いことにもなり、損失にもなるわけです。

 そのため、芸能プロダクションなどでは、本番以外の日に打ち
合わせが必要な場合は原則としては別途ギャラを請求するのが常
識的です。

 そういう厳しい現実も知らずに、東京に行ったついでに挨拶し
たいけどどうですか、なんて実に甘い考えなのです。

 ただ、勝間さんのコラムはこの後、なくなってしまったようで・・・、
やはりこういうストレートな意見って産経を愛読するおじさまた
ちには厳しすぎたのかもしれません・・・。

 私自身は、人と会えば何らかの面白い話があるかもしれないな
どという期待のもと、時間があれば会いますが、ただ、この姿勢
は一見いいようで、もしもその相手と会って特に興味深い話がな
かったり、まして行き帰りの電車が混んでいたとか、財布を落と
したとかアクシデントの類が起きた場合は「やっぱり時間のムダ
だった!」と、その人に対して極めて悪い印象を持つことになっ
てしまうという副作用がありますので注意が必要です。

 とにかく、1日24時間を有効に使うことに腐心しながら稼ぎ
出している身にとっては、時間を他人に差し出すことがいちばん
勇気の要ることなのです。

 さて、先日は大阪でG20が行なわれましたが、その後のトラン
プ大統領の訪朝が大きな話題となりました。世の中の関心は米朝
会談の内容や成果に集まっていますが、この際にトランプ大統領
が在韓米軍を激励に訪れたことは、日本国内ではほとんど報じて
いません。

 トランプ氏が初めて北朝鮮に入った現職の米大統領となったこ
とや、また、韓米首脳のDMZ訪問により、「史上初の3カ国会合」
が実現したことはもちろん大きなニュースですが、先般の強襲揚
陸艦「WASP」の訪問同様、米軍将兵に対する激励の様子が私にと
っては、やはり印象的でした。

 実は、前回2017年の訪韓時にもトランプさんは在韓米軍を
訪れているのです。しかし、なんと文大統領が先回りして基地で
待っていてサプライズ登場したために、文大統領にかまっている
間に時間がなくなってしまい、行なうはずだった演説を止め、米
軍将兵との握手や交流も断念し基地を後にしたのだとか。

 Oh~~なんということ・・・!文氏のなんというKYな行動・・・!
そういえば、あの時は夕食会に竹島付近でとれたエビを出したり、
元慰安婦の老女を同席させたり、まあ見ていられないものでした
が、せっかくの大統領と米軍兵士との交流機会を台無しにした罪
はさらに重いと言っていいでしょう。

 そのような苦い過去もあってか、今回のトランプ大統領の在韓
米軍基地でのスピーチはいつも以上に熱が入ったようです。ここ
でもやはり米軍兵士とその家族に対する謝意、ひたすら感謝です。
「直接話しかけてくれる」最高指揮官の言葉一つ一つに皆が聞き
入ります。

 その前の北朝鮮の金委員長との面会が長くなったため、話の途
中で出発予定時刻になったようですが、トランプ大統領は皆さん
を待たせたことを詫びた上、短く切り上げることはせず、またい
つものように何人かの兵士の名前とエピソードを紹介します。

 聞く人たちにとっては、大統領が彼らと向き合って感謝の言葉
を何度も何度も述べ、また兵士だけでなくその配偶者や家族に対
する気遣いをすることにいたく感動するものです。

ここには彼らが貴重な人生の「時間を捧げている」ことが、国に
とってのかけがえのない奉仕であるという意識があるのだと思い
ます。

 私はよく「これまでの防衛大臣で誰がいい?」と聞かれたりし
ますが、安全保障の知識があるとか経験が豊富とかより何より、
部隊や隊員のことに常に心が注がれているか、あるいはそのこと
に言及するかどうかが実力組織のトップとして「いい」と言える
最低限の条件ではないかと思います。

 ともあれ、私はこの一連のニュースの中では、トランプ大統領
が在韓米軍兵士の士気を鼓舞したことに注目しました。大統領選
に向け、色々な評価がありますが、少なくともこの人はあなどれ
ない、みくびってはいけないと、私は感じます。

 こうして拙いメルマガ読んで頂くのも、拙著を買いに行っても
らったり読んで頂いたりすることもそうですが、皆さまの「時間
を頂く」という感覚に敏感になり、一層の責任を果たしたいと改
めて思いました。


<おしらせ>
YouTubeチャンネルくららで毎週土曜にアップしている「国防ニュ
ース最前線」、今週は・・・お休みです!

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(つづく)



(さくらばやし・みさ)



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【著者紹介】
桜林美佐(さくらばやし・みさ)
昭和45年、東京生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、
ディレクターとしてテレビ番組を制作。その後、国防問題などを
中心に取材・執筆。著書に『奇跡の船「宗谷」─昭和を走り続け
た海の守り神』『海をひらく─知られざる掃海部隊』『誰も語ら
なかった防衛産業[改訂版]』『武器輸出だけでは防衛産業は守
れない』『防衛産業と自衛隊』(いずれも並木書房)、『終わら
ないラブレター─祖父母たちが語る「もうひとつの戦争体験」』
(PHP研究所)、『日本に自衛隊がいてよかった』(産経新聞出
版)、『ありがとう、金剛丸─星になった小さな自衛隊員』(ワ
ニブックス)。月刊「テーミス」に『自衛隊密着ルポ』を連載。


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