配信日時 2019/06/28 20:00

【二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉(13)】「チョコレートと羊」 加藤喬

ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
お仕事の依頼など、問い合わせは以下よりお気軽にどうぞ
 
E-mail hirafuji@mbr.nifty.com
WEB http://wos.cool.coocan.jp
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こんにちは。エンリケです。

加藤さんが翻訳した武器本シリーズ最新刊が出ました。
今回はMP5です。

「MP5サブマシンガン」
L.トンプソン (著), 床井 雅美 (監訳), 加藤 喬 (翻訳)
発売日: 2019/2/5
http://okigunnji.com/url/14/
※大好評発売中


加藤さんの手になる書き下ろしノンフィクション
『二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉─』
の第十三話です。

<脳を使って考えている物ではない何か・・・
それが「自分」だったからだ。>

との一文に、同じ括目を得た日のことを思い出しました。
自分の場合は江戸時代の古典を読んでいたとき。引っ張り
出してまた読みたくなりました。

トランプの日米同盟言及が話題になってますが、
きょうの「トランプツイッター」を読むと、
それを理解する補助線のひとつが見えるかも、、、


さっそくどうぞ。


エンリケ


追伸
ご意見ご質問はこちらから
https://okigunnji.com/url/7/


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『二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉』(13)
 
「チョコレートと羊」

Takashi Kato

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□はじめに

 書下ろしノンフィクション『二つの愛国心──アメリカで母
国を取り戻した日本人大尉』の13回目です。「国とは?」
「祖国とは?」「愛国心とは?」など日本人の帰属感を問う作品
です。
 
 学生時代、わたしは心を燃え立たせるゴールを見つけることが
できず、日本人としてのアイデンティティも誇りも身につけるこ
とがありませんでした。そんな「しらけ世代の若者」に進むべき
道を示し、勢いを与えたのはアメリカで出逢った恩師、友人、そ
して US ARMY。なにより、戦後日本の残滓である空想的平和主義
のまどろみから叩き起こしてくれたのは、日常のいたるところに
ある銃と、アメリカ人に成りきろうとする過程で芽生えた日本へ
の祖国愛だったのです。
 
 最終的に「紙の本」として出版することを目指していますので、
ご意見、ご感想をお聞かせいただければ大いに助かります。また、
当連載を本にしてくれる出版社を探しています。


□今週の「トランプ・ツイッター」6月17日付

 イスラエルは民主主義を堅持する多民族国家。総人口800万
人中75パーセントを占めるユダヤ人にも、2割強のアラブ人に
も、その他の少数民族にも等しく言論、報道、宗教の自由が保障
されています。司法の独立が確立された法治国家ですから、裁判
では政府の恣意的介入を心配する必要はありません。また、女性
にも兵役が課されるなど男女差が少なく、中東地域唯一の人権尊
重国家だと言えます。

 科学やバイオテクノロジー分野の水準が高い技術立国でもあり、
起業精神に富むユダヤ人の国民性を反映し、ハイテク関連のベン
チャー企業が多いことでも知られています。建国から70年余り
の若い国ではありますが、アメリカの盟邦であることも含め、日
本との共通項が意外に多いことに気がつきます。

 日本との決定的な違いは国防意識と防衛努力の真剣さ。194
8年の建国当初から今日まで、「イスラエルを地図上から抹殺す
ること」を国是とするアラブ諸国の侵略とテロを撥(は)ね除(の)
けてきた歴史が裏打ちしています。四方を陸続きの敵に囲まれた
小国が生き残るためには「平和を愛する諸国民の公正と信義を信
頼する」とか「専守防衛」などとナイーブで悠長なことは言って
いられません。開戦の兆候を事前に察知し、展開前の敵軍を相手
国内で叩く。つまり「先制攻撃」がこの国の存立を可能にしてき
たのです。

 この極めて現実的かつ効果的な国防政策を支持するのがトラン
プ氏。歴代大統領が躊躇してきたゴラン高原のイスラエル主権承
認を断行したのがその証しでしょう。ゴラン高原とは、イスラエ
ル、シリア、ヨルダン、レバノンが国境を接する地域で、日本で
言えば大阪府か香川県ぐらいの大きさです。1967年、第三次
中東戦争でイスラエルが占領して実効支配を続け、1981年に
は併合を宣言しています。イスラエルとシリアの停戦監視任務で、
自衛隊が長く派遣されていた土地としても知られています。

「戦争で奪った領土は認めない」という領土不拡大の原則に賛同
する日本は、ロシアによる北方領土不法占領に反対する立場から
も、この併合を認めていません。してみると、プーチン政権のク
リミア併合にお墨付きを与えかねない危険を冒してまで、トラン
プ大統領がゴラン高原におけるイスラエル主権を承認した理由は
なにか?

 ワイルドカード大統領の真意は知る由もありません。しかしな
がら日米同盟の今後を考えるとき、トランプ氏のイスラエル贔屓
(びいき)には重要な示唆が隠されているように思います。米国
製兵器の提供こそ受けているものの、日本や韓国、ドイツとは異
なり、イスラエルには一兵の米兵たりとも駐屯していません。国
防に対するこの独立独歩姿勢が「主権国家なら、自力で国を守る
実力と気概があって然るべきだ」という、トランプ流の国防観と
見事に一致しています。

 砲艦外交はもとより、先制攻撃も選択肢に残すトランプ最高司
令官からの「日本もイスラエルを規範とせよ」とのメッセージか
もしれません。だとしたらこれは千載一遇のチャンス。反ユダヤ
主義が蔓延する世界にあって、宗教に寛容な日本はユダヤ人に対
する偏見とは無縁です。この稀有な国民性を活かしイスラエルと
ひときわ強固な信頼関係をむすぶ。実現すれば、緊張高まるアメ
リカとイラン、そして互いを主敵と見なすイスラエルとイランを
仲立ちする日本の価値は飛躍的に高まります。先日もトランプ氏
の意を汲んでイランを訪れた安倍総理、イスラエルへの大胆な接
近が日本の仲介外交に資することは見通しているでしょう。

 本日のトランプ・ツイッター、イスラエルのネタニヤフ首相の
ツイッターをトランプ氏が再投稿したものです。ゴラン高原に開
設されたユダヤ人入植地を「トランプ・ハイツ」(トランプ高原)
と命名した際のものです。キーワードは named after。「・・・に
ちなんで名付ける/命名する」という意味の表現です。

Establishing a new community in the Golan Heights named 
after a friend of Israel, US President @realDonaldTrump. 
A historic day!
 
「イスラエルの友であるドナルド・トランプ合衆国大統領にちな
み、ゴラン高原に開設された新入植地を『トランプ・ハイツ』と
命名する。歴史的な日だ!」


「二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉」(13)


(前号までのあらすじ)
 アラスカ大の哲学教授クレイチーは、チェコスロバキアでナチ
スドイツや共産主義に抵抗し、アメリカ亡命後も水爆の平和利用
を騙る「チェリオット計画」に反対した行動する哲学者だった。
彼が教える白夜の哲学教室は、権威に左右されない独立思考を養
うための培養土。学生らを前に、教授は「政府が思想操作や抑圧
に手を染めず、人道と平等、そして個人の自由を重んじるオープ
ン・ソサイアティこそ理想の国家だ」と折に触れ力説した。苗床
に落とされたモミのように、オープン・ソサイアティを志向する
心が発芽しかけていた。


▼チョコレートと羊

哲学部に出入りするようになったころ、わたしの世界観は実に単
純だった。世の中とは、五感を通して体験する物質界のことだっ
たのだ。心や霊というものは存在せず、「自分」とか「意識」は
脳内の神経伝達物質の作用だと素朴に納得し、疑問や不都合は感
じなかった。無邪気で頑固な唯物論者だったわたしに、哲学版
「目から鱗」を体験させたのがテッド・シュミット教授だ。

アイビーリーグ出身のウィトゲンシュタイン研究者だったが、伸
び放題の口髭頬髭と簡素な身なりは、哲学者というより木こりか
罠猟師。実際、シュミットはサマー・セッションなどはいっさい
教えず、夏場の数か月はブリストル湾に自前のトロール漁船を浮
かべサケ漁に没頭した。象牙の塔に閉じこもる学究肌ではなく、
インテリ・アウトローとでもいった反骨の風もあった。

心の哲学とは心と身体の結びつきを扱い、非物質的なものだとさ
れる心と、感覚器や脳といった肉体の相互作用を考察する。授業
初日、シュミットは10人ほどの学生を前にこう切り出した。

「この世の万物が緑色だったとしよう。人も、動物も、建物も、
空も、すべておなじ色調の緑だ。この世界の住人が『なんてこと
だ!世界中のあらゆるモノが緑だなんて!』と気づくまでにどの
ぐらいかかる?」

わたしは質問そのものが理解できなかった。設定が突飛だったせ
いもある。が、問いかけの動機、つまり、教授がなにを教示しよ
うとしているのか皆目見当がつかなかったのだ。大方のクラスメ
ートも面食らった様子で、防寒構造で窓のない教室に拘束衣のよ
うな沈黙が充ちていった。

「永遠です」
 後列に座っていた女子学生の凛とした声に金縛りが解けた。
「みんなに分るように説明してくれないかな?」
「緑を緑として認識するためには、対比になる他の色が要ります。
ですから、グリーン・ワールドのグリーン・マンは彼の世界がグ
リーンである事実に永遠に気づきません」
「上出来だ。ありがとう」
教授は次に、着古したシャツのポケットからおもむろにチョコレ
ートを取り出し、
「甘い物は好きかな?」
と聞いた。はい、と答えた学生に手渡すや質問した。
「このチョコを10枚、20枚、いや、1トン分ひとまとめにし
たら、羊になるかな?」
「ひつじ・・・ですか?」
彼の当惑はわたしの顔にも浮かんでいたに違いない。シュミット
はこちらの視線を捉え、
「タカシ、どうだ?チョコが羊になるか?」
と迫った。
「魔法でも使わない限り、なりません」
「魔法とは言い得て妙だ」
髭面に満足そうな笑みを浮かべ、教授は全員に向かってこう付け
加えた。
「初日の会話を、学期の終りに思い出すこと。アルキメデスの
ユリーカ・モーメントがあれば上出来だ」

やがて学期末はやって来たが「分かった!」と叫んで風呂から飛
び出すユリーカの閃きはついに訪れなかった。シュミットの謎か
けが鮮明な像を結んだのは、「緑」という比喩を「物質」と呼び
直してみたときだ。優に1年以上が経っていた。石であれ鉄であ
れ機械であれ、物は意識を持たない。驚異的な計算能力を発揮す
るスパコンにも自覚はない。同様に脳はタンパク質の塊であり、
脳内の神経伝達物質もアミノ酸などの「物」だ。

では、人間の意識はどこから来るのか? 緑の世界で緑を認識す
るには緑以外の色彩が要るように、「物」が「物」であることを
認識するためには、対比となる「非物質」が必要だ。ならば、物
質である脳を考察する意識は「物」ではない・・・

しかし・・・チョコを1トンひとかたまりにしても羊にならない
ように、物質をどれほど膨大かつ複雑に組み合わせても「非物質」
にはならない。では、物である脳や神経伝達物質からいかにして
非物質の自意識が生じるのか? このとき、わたしは生まれて初
めて脳と意識の間に横たわる不可思議なギャップに気づき、驚嘆
し、舞い上がった。脳を使って考えている物ではない何か・・・
それが「自分」だったからだ。

このユリーカ・モーメントは、カデット(士官候補生)としての
自分にも少なからぬ影響を与えた。意思を持たぬ物質界にあって、
善悪や良否など価値判断を下し、物質間の因果関係を左右できる
のは人間だけだ。いかに複雑精巧なハイテク兵器が登場しようと、
それを使うか否かの最終決断は将兵に委ねられる。使っても使わ
なくても、生じた結果に責任を負うのは人間で、武器ではない。
自分の判断のみが、敵はもちろん部下や戦闘に巻き込まれた民間
人の命運を決めるのだ。軍人の責務に対する自覚がいっそう深ま
ったのは、シュミットとの出逢いがもたらした思いがけない収穫
だった。


(つづく)


加藤喬(たかし)



●著者略歴
 
加藤喬(かとう・たかし)
元米陸軍大尉。都立新宿高校卒業後、1979年に渡米。アラスカ
州立大学フェアバンクス校他で学ぶ。88年空挺学校を卒業。
91年湾岸戦争「砂漠の嵐」作戦に参加。米国防総省外国語学校
日本語学部准教授(2014年7月退官)。
著訳書に第3回開高健賞奨励賞受賞作の『LT―ある“日本
製”米軍将校の青春』(TBSブリタニカ)、『名誉除隊』
『加藤大尉の英語ブートキャンプ』『レックス 戦場をかける
犬』『チューズデーに逢うまで』『ガントリビア99─知られざ
る銃器と弾薬』『M16ライフル』『AK―47ライフル』
『MP5サブマシンガン』『ミニミ機関銃(近刊)』(いずれも
並木書房)がある。 
 
 
追記
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『チューズデーに逢うまで』関係の夕刊フジ
電子版記事(桜林美佐氏):
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150617/plt1506170830002-n1.htm
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150624/plt1506240830003-n1.htm
 
『レックス 戦場をかける犬』発売中
http://www.amazon.co.jp/dp/489063309X 
 
『レックス 戦場をかける犬』の書評です
http://honz.jp/33320

オランダの「介護犬」を扱ったテレビコマーシャル。
チューズデー同様、戦場で心の傷を負った兵士を助ける様子が
見事に描かれています。
ナレーションは「介護犬は目が見えない人々だけではなく、
見すぎてしまった兵士たちも助けているのです」
http://www.youtube.com/watch?v=cziqmGdN4n8&feature=share
 
 
 
きょうの記事への感想はこちらから
 ⇒ https://okigunnji.com/url/7/
 
 
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日本語でも英語でも、日常使う言葉の他に様々な専門用語があ
ります。
軍事用語もそのひとつ。例えば、軍事知識のない日本人が自衛
隊のブリーフィングに出たとしましょう。「我が部隊は1300時
に米軍と超越交代 (passage of lines) を行う」とか「我が
ほう戦車部隊は射撃後、超信地旋回 (pivot turn) を行って離
脱する」と言われても意味が判然としないでしょう。
 
 同様に軍隊英語では「もう一度言ってください」は
 "Repeat" ではなく "Say again" です。なぜなら前者は
砲兵隊に「再砲撃」を要請するときに使う言葉だからです。
 
 兵科によっても言葉が変ってきます。陸軍や空軍では建物の
「階」は日常会話と同じく "floor"ですが、海軍では船にちな
んで "deck"と呼びます。 また軍隊で 「食堂」は "mess 
hall"、「トイレ」は "latrine"、「野営・キャンプする」は 
"to bivouac" と表現します。
 
 『軍隊式英会話』ではこのような単語や表現を取りあげ、
軍事用語理解の一助になることを目指しています。
 
加藤 喬
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しています。ありがとうございました。

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