配信日時 2019/06/24 08:00

【桜林美佐の美佐日記(32)】自衛隊OBを活かす仕組みづくり

こんにちは、エンリケです。

「抑止力に関する論理矛盾」が
国の隅々まで大手を振ってまかり通っている現実は、
自衛隊と地域社会とのつながりがなくなり始めている
こととも関連しているのではないか?

そんなことを感じさせてくれる一文です。

そうそう、そうなんだよ、
と思わず声を出してしまうあなたを
思い浮かべてください、、、

さっそくどうぞ。


エンリケ


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桜林美佐の「美佐日記」(32)

自衛隊OBを活かす仕組みづくり

桜林美佐(防衛問題研究家)
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 おはようございます。桜林です。「男もすなる日記といふもの
を、女もしてみむとてするなり」の『土佐日記』ならぬ『美佐日記』
は今回で32回目です。

 今月初め、陸上自衛隊の施設部隊要員がアフリカのケニアに行
き、重機の操作教育を行なうミッションについてお伝えしました
が、出発する際に残した言葉が印象的でした。

 「今、小麦が黄金色に輝いています。帰る頃には稲が迎えてく
れるでしょう!」

 今回は福岡や佐賀出身の隊員さんが多かったのですが、皆さん
の原風景というのは、まさに私が今、毎日見ている田園なんだな
あと思い知らされます。東京モノ、しかも六本木や歌舞伎町で幼
年期を過ごした私には全く分からない感覚でしたが、この歳にな
って初めて日本の自然を味わえたことに感謝するばかりです。こ
れまで唱歌「ふるさと」はいい曲だなあとは思いながらも、実際
には景色がピンとこなくて、みんながじーんときている中でちょ
っと寂しかったのですよね・・。

 地方の部隊に行くと、実家で農業をしているという隊員さんに
会うことも少なくなく、5月の連休や休日などみんな行楽に行く
のかと思いきや、「田植えに帰ります」という話を聞きます。お
母さんたちはその時を心待ちにしながら日々過ごしているに違い
ありません。休暇に親孝行をして、また戻ったら訓練に励む、こ
うしたことは自衛隊では昔も今も変わらないようです。そういう
隊員さんやご家族に「自衛隊に入ってよかった」と言ってもらえ
るようになってもらいたいとつくづく思います。
 
 そういう気持ちで、先般も夕刊フジでの連載で、自衛隊を国家
公務員の枠から出せば処遇改善の可能性が高まり親御さんの安心
につながる旨を書いたところ、「子供を戦場に行かせたい母親な
んていません!」などという反応(反論?)がTwitterに投稿され
ていました。なぜ、そのような解釈になるのか・・・(汗)。自
衛隊という職業そのものを認めたくないということなのでしょう
か。残念です。

 ただ、確かにこの人の言うことには同意できて、子供を戦場に
行かせたいなどとは思いません。しかし、だからこそ抑止力が必
要であることは言を俟ちません。そこまで思考が到達しないので
しょう。

これと同じような論理矛盾で、銃をなくせ、核を廃絶せよ、原発
はいらない・・・などがあります。しかし一方で、包丁廃止や自
動車禁止の運動は一切聞いたことがありません。近々の事件・事
故を思い出して頂ければ明白ですが、刃物や車が凶器になってい
る事実を無視した言論が相変わらず盛んです。

 自分は銃は使うことがないが、包丁や車は生活に必要だからOK
という考え方って、あまりに自分勝手ですよね・・。「子供を戦
場に行かせたくない」と叫ぶ人も、自分の子供しかイメージして
いないとしか思えず、共同体という意識が希薄なのかもしれませ
ん。

 大阪での交番襲撃事件を受けて、巷では警察官に銃を持たせる
なという議論が出ているのだとか。まさにこれは「危ないから持
たない」という高齢者の免許返納キャンペーンと同じ思考。その
時の空気で、もし半ば衝動的に放棄してしまうようなことであれ
ば取り返しがつきません。

 兵器については、核兵器が世の中で最も恐ろしいと考える人が
多いと思いますが、核は恐ろしいだけに保有国どうしが「使わな
い」ことで平和が維持していることから、むしろ通常兵器よりも
平和に貢献しているという見方もできます。ルワンダでは100
万人が虐殺されたとされますが、大半がこん棒などの原始的な武
器が使われたといわれているのです。

 大阪の交番襲撃で、意識不明の重体となった巡査はラグビー部
で鍛えた体力で油断はできないものの快方に向かっているという
ニュースは、何よりの救いです。回復を心より祈っています。福
岡県の朝倉市出身ということで、まさに先述したケニア派遣の自
衛官と同じ景色を見て育ったのかと思うと他人とは思えません。

 さて、この事件の報道の中でも「地域」と「交番」についての
関わりが色々と取り上げられていましたが、そこで思ったのは、
「地域」と「自衛隊」についてのことです。とりわけ陸上自衛隊
の各部隊では「地域とともに」というモットーを掲げているとこ
ろが多く見られ、これは陸自の特性を言い表していると思います。

 しかし、それぞれで本当に地域との相互理解が深められている
のかは、正直言って分かりません。なぜなら、駐屯地の周辺の人々
が、そこの部隊が一体何をしているのか知らないということが多
分にあるからです。

 陸自の駐屯地は160か所あり、各地で懸命に地域社会へ向け
た広報やイベントなどの活動をして、自衛隊サイドとしては「地
域とともに」活動しているような感覚を持っていると思いますが、
実際にどれくらいの成果をあげているのかについては検証される
ことはないでしょう。つまり、160の駐屯地は地域とともにあ
り、そこに根差しているというのはへたをすると一方通行の思い
であるという側面も頭に置かなければいけないということです。

 私はこれら駐屯地の存在は危機管理上も重要と思っていますが、
周囲の人がみんな自衛隊を分かってくれていると思いあがっては
ならないと、厳しいようですが感じます。駐屯地の開放日に訪れ
る人はほとんどが好意的な人なので、つい地域とうまく付き合っ
ていると思いがちになるのではないかと危機感を覚えたからです。

 もちろん、はなから「自衛隊反対」という人は別として、行事
などに「行ってみたい」「知ってみたい」という潜在需要をいか
に開拓するか、この課題に取り組む何らかの機能、たとえば退官
した方の力などが必要なのではないかという気がします。

 少なくとも、盛んに各地で「地域とともに」と謳っているのに、
駐屯地の隣に住む人が「ここは何してる人たちなの~?」という、
この皮肉的現実をどう改善するかという話はあまり聞いたことが
ありません。

ニュースになっているイージスアショアの地元説明や、宮古島の
ゴタゴタなど「地域とともに」あるはずの自衛隊どうしたんだと
いう案件が続いています。

かつては防衛施設庁があり、地元調整に専念する人たちが膝を突
き合わせ、酒を酌み交わして理解を得てきたことも多々あったと
想像します。陸上自衛隊もかつてはサービス業さながらのお付き
合いで理解者を増やして来ました。自衛官はもはやそのような役
割を担う時代ではなくなると私は思いますが、では、施設庁やか
つての自衛官の代わりを行なうのは誰になるのか、ということに
なります。地方防衛局がそれに該当するのでしょうが、内局の方々
に従来のような期待をかけるのは限界があるのではないでしょう
か。また、防衛局と制服の皆さんとの連携や意思疎通はうまくい
っているのかなということも、ちょっとばかり心配です。

重ねて訴えたいのは、自衛隊OBの方々は数多く存在します。毎
日のように全国のどこかで退官する人がいるのです。民間との懸
け橋であり、かすがいになってもらえる人たちがいるのですから、
もっともっと上手に活かす仕組みはできないものでしょうか。

<おしらせ>
YouTubeチャンネルくららで毎週土曜にアップしている「国防ニュ
ース最前線」、今週も伊藤俊幸・元海将とお送りします。

http://okigunnji.com/url/42/



(つづく)



(さくらばやし・みさ)



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【著者紹介】
桜林美佐(さくらばやし・みさ)
昭和45年、東京生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、
ディレクターとしてテレビ番組を制作。その後、国防問題などを
中心に取材・執筆。著書に『奇跡の船「宗谷」─昭和を走り続け
た海の守り神』『海をひらく─知られざる掃海部隊』『誰も語ら
なかった防衛産業[改訂版]』『武器輸出だけでは防衛産業は守
れない』『防衛産業と自衛隊』(いずれも並木書房)、『終わら
ないラブレター─祖父母たちが語る「もうひとつの戦争体験」』
(PHP研究所)、『日本に自衛隊がいてよかった』(産経新聞出
版)、『ありがとう、金剛丸─星になった小さな自衛隊員』(ワ
ニブックス)。月刊「テーミス」に『自衛隊密着ルポ』を連載。


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