配信日時 2019/06/20 20:00

【二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉(12)】「白夜の哲学教室」 加藤喬

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
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こんにちは。エンリケです。

加藤さんが翻訳した武器本シリーズ最新刊が出ました。
今回はMP5です。

「MP5サブマシンガン」
L.トンプソン (著), 床井 雅美 (監訳), 加藤 喬 (翻訳)
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加藤さんの手になる書き下ろしノンフィクション
『二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉─』
の第十二話です。

ソ連という全体主義国家の専制と戦った闘士が、
米国に亡命後、反核運動や環境保護運動に挺身する根っこが
見えた気がします。

日本人として、この国に生まれ、この国で育ち、この国で
生き続けることのできる幸福を思い浮かべましょう、、、

さっそくどうぞ。


エンリケ


追伸
ご意見ご質問はこちらから
https://okigunnji.com/url/7/


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『二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉』(12)
 
「白夜の哲学教室」

Takashi Kato

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□はじめに

 書下ろしノンフィクション『二つの愛国心──アメリカで母国
を取り戻した日本人大尉』の12回目です。「国とは?」「祖国
とは?」「愛国心とは?」など日本人の帰属感を問う作品です。
 
 学生時代、わたしは心を燃え立たせるゴールを見つけることが
できず、日本人としてのアイデンティティも誇りも身につけるこ
とがありませんでした。そんな「しらけ世代の若者」に進むべき
道を示し、勢いを与えたのはアメリカで出逢った恩師、友人、そ
して US ARMY。なにより、戦後日本の残滓である空想的平和主義
のまどろみから叩き起こしてくれたのは、日常のいたるところに
ある銃と、アメリカ人に成りきろうとする過程で芽生えた日本へ
の祖国愛だったのです。
 
 最終的に「紙の本」として出版することを目指していますので、
ご意見、ご感想をお聞かせいただければ大いに助かります。また、
当連載を本にしてくれる出版社を探しています。


□今週の「トランプ・ツイッター」6月8日付

 アメリカ人は「フロンティア(開拓地)」という言葉が好きで
す。19世紀、ヨーロッパからの移民流入に伴い、大西洋岸から
西へ西へと未開地の開拓が進みました。カウボーイやガンマンに
象徴されるこの西部開拓時代は、ハリウッド映画の定番として繰
り返し映像化されたこともあり、米国黎明期のロマンチックなイ
メージとして今日に至っています。本土のフロンティアが消滅し
た後も、アラスカ州ノームなどでゴールドラッシュが起きると、
一攫千金を夢見た人々が大挙して北を目指しました。アラスカが
「最後のフロンティア」の愛称で知られる所以です。
 もちろんフロンティアは白人側の呼称。先住民から見た西部開
拓とは、侵略者による殺戮と土地強奪だったという解釈もできま
す。アメリカ建国は誰の視点を取るかによって様相が異なる・・・
これは米国を理解するうえで忘れてはならない事実です。とは言
うものの、先住民が市民として米社会に組み込まれてからほぼ
1世紀。いま大多数のアメリカ人がフロンティアに抱くのは、
不屈の開拓者精神と、凛々しいパイオニアたちのイメージでしょ
う。

 「アメリカは月を目指す。簡単なゴールだからではない。困難
だからこそ、われわれは月を目指すのだ」。1962年、ケネデ
ィ大統領の名演説が開拓者精神を現代アメリカに蘇らせました。
新たなフロンティアを与えられたNASAは7年後の1969年
7月20日、大統領の公約通り史上初の月着陸を達成。全世界が
アポロ11号の快挙に沸きました。

 「宇宙開発競争は米ソ軍拡競争の裏の顔だった」。そういう醒
めた見方もあるでしょう。しかし、ケネディが指し示した遠大な
ゴールに向かい、アメリカ人が一致団結し、その持てる才能、創
造性、夢見る力、専門的知識、テクノロジー、そして開拓者魂を
総結集したことは間違いありません。当時小学六年生のわたしは、
月面からの中継を見つめながら、開拓者たちの底力に驚愕しまし
た。

 そして今回、トランプ大統領はNASAに対し、さらに遠大な
目標を指示。「月に還る」ことは火星への中継地に過ぎないとい
うのです。米国文化の神髄である開拓者魂が、分断深まるアメリ
カをつなぎとめる鎹(かすがい)になるかどうか、大いに興味が
あります。

 今回のトランプ・ツイッター、キーワードは focus on。
「集中する」という意味です。

 For all of the money we are spending, NASA should NOT 
be talking about going to the Moon - We did that 50 years 
ago. They should be focused on the much bigger things we 
are doing, including Mars (of which the Moon is a part), 
Defense and Science!


 「巨額の予算を持つNASAは、月に行くことを話題にしてい
るようではいけない。50年前、われわれはすでに成し遂げた。
NASAはもっと重大なことに集中するべきだ。それは、火星で
あり(月に還るのはその一環だ)、国防であり、科学だ!」



「二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉」(12)


(前号までのあらすじ)
 陸軍士官を目指しカデット生活を送ると同時に、わたしはチェ
コスロバキア出身の哲学者、クレイチー教授の門下生になった。
第二次世界大戦ではレジスタンスとしてナチスドイツに抵抗し、
戦後は共産化した祖国から逃れアメリカに亡命するという波乱万
丈の生きざまに共感したからだ。独裁者の手にかかった戦友の死
に意味を与え続けることが生き残った者の義務だと説く「戦う哲
学者」に、わたしは傾倒していった。

▼白夜の哲学者たち

戦争が終わり独立はとりもどした。それもつかの間、ソビエトの
影響下に入ったチェコスロバキアには共産党独裁体制が敷かれた。
国全体が再び収容所になろうとしていた。冷戦構造が固まった頃、
クレイチー青年は反政府運動に身を投じ、敢えて国家を敵にまわ
した。夜な夜な反共ビラを街中に貼って回ったが、それを秘密警
察の私服がじっと監視していた。ほどなく逮捕状が出された。捕
まればウラニウム鉱山での強制労働が待っている。四六時中放射
能を浴びる劣悪な作業環境は事実上の死刑判決。反体制青年は地
下にもぐり5年間の潜伏生活を送った。父親がアパートに秘密の
小部屋を作り、当局の捜索からかくまってくれたのだ。チェコス
ロバキア版アンネ・フランクともいうべき生活は、膨大な読書と
哲学的洞察を深める時間を与えてくれた。

しかし反抗者を許さぬ独裁政権の追及は執拗につづいた。監視と
密告が日常茶飯事となった故郷にいるかぎり、強制労働所送りは
時間の問題だと思われた。祖国を捨てる・・・この袋小路を生き
延び、独裁への戦いをつづけるためにはそれしかなかった。決心
を伝えると、ひとり父がオーストリアへ脱出する手はずを整えて
くれた。

決行の日、酢と辛子を体中に塗りこんだ。誰にも見とがめられず
首尾よく石炭を積んだ貨車の底に身を潜めた。国境の駅で列車が
止まり軍用犬と警備兵らが近づいてきた。そのうちの一頭が真上
にやって来て石炭を蹴散らした。暗闇の中、思わず身をこわばら
せ、息を殺す。酢と辛子のカクテルが功を奏したのか、犬はひと
しきり吠えると隣の貨車に飛び移っていった。

オーストリアに逃げ延びたクレイチーは、米国が資金を提供する
反共ラジオ局で職を得た。同時にインスブルック大学で哲学博士
号を修め、後年、より大きな自由と独立をもとめ、アメリカに亡
命した。前述のとおり、アラスカ州の公式愛称は〈最後の開拓地〉。
その名が示すごとく、荒くれ者や金鉱掘り、ハンターといった、
社会の主流から外れた者たちの吹き溜まりだった。およそ哲学と
は似つかわしくない。反面、権威に疑いの目を向け、政府の介入
を厭い、学歴や年齢は不問という土地柄だ。

1986年までは、自分で開墾した土地が自分のものになる自営
農地法が施行されていた。不屈の努力と縦横な想像力で成功を目
指す生き方はアメリカン・ドリームそのもの。ナチス占領下と共
産党独裁体制下では不可能だった人生が実現できる。若きクレイ
チー教授は開拓者の心意気に共鳴し、そして賭けた。

わたしが何の期待も予備知識もなく白夜の哲学教室に足を踏み入
れた頃、クレイチーはすでに4半世紀教壇に立っていた。しかし
当時でも黎明期の活躍ぶりは語り継がれていた。古参の数学教授
がときおり授業そっちのけで、若きクレイチーの破天荒ぶりを述
懐した。極めつきは、原子力が繁栄のシンボルとしてもてはやさ
れていた50年代後半のエピソード。当時ネバダ砂漠で大気中
核実験が毎年のように行なわれたが、放射能の危険は無視されて
いた。

信じがたいことに、通常軍服にサングラスという軽装で見物する
のが流行りだった。空中核爆発の衝撃波を真下で体験し、感極ま
って声を震わす高級将校さえ出る始末。そんな世相を背景に米原
子力委員会が、アラスカ北部のトンプソン岬で水素爆弾を数珠つ
なぎに爆発させ、人工湾を作るプロジェクトを立ち上げた。チェ
リオット計画という。

これを水爆の父と呼ばれたエドワード・テラー博士が強力に後押
しした。産業の乏しいアラスカ州に経済的発展をもたらすという
触れこみだった。人類の終末をもたらすパンドラの箱を開けた罪
悪感からか、核の平和利用という理想図を描いてみせた博士の知
名度と、アイゼンハワー大統領を味方につけた政治手腕もあった
のだろう。

いずれにせよ〈最後の開拓地〉の指導者たちは魂を売った。連邦
政府からの交付金と住民や環境の死を引き換えにする、現代のフ
ァウスト博士になったのだ。連邦予算の流入を見こんだ計画推進
派には同州選出の上院議員やアラスカ大学学長、地元新聞解説員
それに教会関係者までが名を連ねた。反対を封じこめる盤石の布
陣に、行動する哲学者はどう振る舞ったのか。

教室は静まり返り、学生らは息をするのも忘れ、数学者の次の言
葉を待つ。学者肌のとつとつたる口調が真実味をいっそう際立た
せた。先住民居住地の近くで水爆を爆発させるとは正気の沙汰で
はない。ウラニウム鉱山送りを宣告した独裁政権を彷彿とさせる
愚行に、新米教授は果敢に反対した。

即刻学長に呼び出される。住民の健康被害と壊滅的な環境破壊を
訴えたが、逆に、黙るかアラスカを去るかだと迫られた。ところ
がレジスタンス仕込みの反骨精神は怯むどころか勢いを増した。
環境保護団体が反対運動に加わるようになると、全米が注目し始
めた。世論も広範な放射能汚染に不安を抱くようになった。その
結果、教授の目論見どおりチェリオット計画は1962年に中断
された。

クレイチーは、政府が思想操作や抑圧に手を染めないオープン・
ソサイアティこそ理想の国家だと折に触れ力説した。人道、平等、
個人の自由を尊ぶオープン・ソサイアティは、対極にある全体主
義、つまりナチス主義と共産主義との戦いを通じてたどり着いた
結論だ。将来、新たな独裁主義やチェリオット計画の愚を繰り返
さないためには、権威に左右されない考え方と物事を批判的に見
る目を養うしかない。

60年代にクレイチーがたった一人で始めた白夜の哲学教室は、
そのための培養土だったのだ。わたしは苗床に置かれた籾殻で、
オープン・ソサイアティを志向する心が発芽するのは時間の問題
だった。が、独立型思考は規律と階級で束ねられた軍隊と必ずし
も相性が良いものではない。当時、わたしははまだこのことに気
づいていなかった。


(つづく)


加藤喬(たかし)



●著者略歴
 
加藤喬(かとう・たかし)
元米陸軍大尉。都立新宿高校卒業後、1979年に渡米。アラスカ
州立大学フェアバンクス校他で学ぶ。88年空挺学校を卒業。
91年湾岸戦争「砂漠の嵐」作戦に参加。米国防総省外国語学校
日本語学部准教授(2014年7月退官)。
著訳書に第3回開高健賞奨励賞受賞作の『LT―ある“日本
製”米軍将校の青春』(TBSブリタニカ)、『名誉除隊』
『加藤大尉の英語ブートキャンプ』『レックス 戦場をかける
犬』『チューズデーに逢うまで』『ガントリビア99─知られざ
る銃器と弾薬』『M16ライフル』『AK―47ライフル』
『MP5サブマシンガン』『ミニミ機関銃(近刊)』(いずれも
並木書房)がある。 
 
 
追記
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『チューズデーに逢うまで』関係の夕刊フジ
電子版記事(桜林美佐氏):
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150617/plt1506170830002-n1.htm
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150624/plt1506240830003-n1.htm
 
『レックス 戦場をかける犬』発売中
http://www.amazon.co.jp/dp/489063309X 
 
『レックス 戦場をかける犬』の書評です
http://honz.jp/33320

オランダの「介護犬」を扱ったテレビコマーシャル。
チューズデー同様、戦場で心の傷を負った兵士を助ける様子が
見事に描かれています。
ナレーションは「介護犬は目が見えない人々だけではなく、
見すぎてしまった兵士たちも助けているのです」
http://www.youtube.com/watch?v=cziqmGdN4n8&feature=share
 
 
 
きょうの記事への感想はこちらから
 ⇒ https://okigunnji.com/url/7/
 
 
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日本語でも英語でも、日常使う言葉の他に様々な専門用語があ
ります。
軍事用語もそのひとつ。例えば、軍事知識のない日本人が自衛
隊のブリーフィングに出たとしましょう。「我が部隊は1300時
に米軍と超越交代 (passage of lines) を行う」とか「我が
ほう戦車部隊は射撃後、超信地旋回 (pivot turn) を行って離
脱する」と言われても意味が判然としないでしょう。
 
 同様に軍隊英語では「もう一度言ってください」は
 "Repeat" ではなく "Say again" です。なぜなら前者は
砲兵隊に「再砲撃」を要請するときに使う言葉だからです。
 
 兵科によっても言葉が変ってきます。陸軍や空軍では建物の
「階」は日常会話と同じく "floor"ですが、海軍では船にちな
んで "deck"と呼びます。 また軍隊で 「食堂」は "mess 
hall"、「トイレ」は "latrine"、「野営・キャンプする」は 
"to bivouac" と表現します。
 
 『軍隊式英会話』ではこのような単語や表現を取りあげ、
軍事用語理解の一助になることを目指しています。
 
加藤 喬
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しています。ありがとうございました。

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