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こんにちは、エンリケです。
「警戒航空隊」の最終回です。
AWACSの実像が、簡潔・明快かつ綿密に案
内されています。渡邉さんの真骨頂です。
「要撃管制」ならではの取材の苦労ばなしも
他では聞けないものでしょうね。
今も上空を飛んでいるかもしれない
AWACSの姿を想像しながら読んでください。
さっそくどうぞ
エンリケ
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『ライター・渡邉陽子のコラム (236)
― 航空自衛隊 警戒航空隊(5)―
渡邉陽子
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こんばんは。渡邉陽子です。
警戒航空隊の連載は今回が最後です。今回はDCとか要撃管制とか、
少し耳慣れない言葉が出てきます。航空自衛隊はさまざまな職種に
よるスペシャリストによって構成されている組織ですが、その職種
のひとつが要撃管制。戦闘機は、滑走路上では航空管制に誘導され
ますが、スクランブルで上空に飛び立ったら、そこからは要撃管制
の指示に従って飛びます。私は数多くある職種の中でも昔から管制
が好きで、特に航空自衛隊にしかない要撃管制には並々ならぬ興味
を持ってきました。でも「秘」だらけで、ぜんぜん取材にならない
んですよね(泣)
AWACSは浜松基地がベースで、今年の航空祭は10月20日です。私は
もう宿も予約済みです。
■航空自衛隊 警戒航空隊(5)
AWACSには早期警戒管制機という名称があります。一方、今年
1月から三沢基地に配備されたE-2Cの後継機であるE-2Dは
早期警戒機といい、「管制」の文字が含まれていません。
E-2Dは空中で相手を早期に発見するための航空機であり、「空
飛ぶレーダーサイト」と言われています。一方、AWACSも早期
警戒機であることは同じですが、管制機能を持っていることに大き
な特徴があります。つまり「空飛ぶDC」とも言えるわけです。
DCとは全国に4か所置かれている防空指揮所(DC)のことで、
上空の警戒監視だけでなく、戦闘機などをスクランブルさせた際に
は戦闘機の誘導や必要な処置を行なっています。空港の管制塔で航
空機の誘導などを行なうのが航空管制、DCで戦闘機の誘導を行な
うのは要撃管制。要撃管制はレーダーサイトやE-2Dではできま
せん。ここが2つの機種の大きな違いです。
防衛白書の「島嶼部における攻撃への対応」には、島嶼防衛のイメ
ージ図が掲載されています(平成30年版ではP320)。そこに描
かれたAWACSを見ると、戦闘機(や艦艇)と情報を共有し、指
揮している構図がよくわかります。AWACSの運用が始まって間
もない頃は「AWACSは統合運用の象徴」という言葉がよく使わ
れていたのも納得です。
とある訓練の朝。
午前7時、約30名が集まった一室でブリーフィングが始まりました。
衛星写真や天気図を用いての気象報告やAWACSの整備状況、そ
して本日の飛行計画などが、それぞれの担当者から説明されていき
ます。
外へ出てみると、ちょうどAWACSがエプロンに運ばれてくると
ころでした。これから給油やPRと呼ばれる飛行前点検が約1時間
かけて行なわれます。機体が大きいので、作業している隊員たちが
やけに小さく感じます。
整備が終わるころ、AWACSに搭乗するミッションクルーが整然
とやってきました。こういう何気ない動きがきっちり決まっている
のは、さすが自衛官です。
その中でひとり、重そうな荷物を抱えてタラップを上がっていく隊
員がいます。なにを持っているのかと思いきや、准曹士先任が「A
WACSの一番後ろには民間機と同じギャレーがあって、フライト
が長いときはそこで食事を解凍したりします。彼が持っていったの
はコーヒーですね」と教えてくれました。
ほかの部隊、ほかの機種ではなしえない、AWACSだからこそ担
う任務・役割は、隊員の士気につながるものかもしれません。その
一方で、長いフライトはクルーに負担を強いるものであり、どんな
ミスも許されない厳しい環境下に長時間置かれていることを意味し
ています。しかも上空を長時間監視するというのは、集中力を維持
することが難しい単調な作業なのではないでしょうか。しかし、実
際には一度として同じ日などないわけです。
取材時、警戒航空隊員としての誇りをどんなときに感じるかという
話になったとき、隊員のひとりが「先輩から聞いた言葉ですが」と
教えてくれました。
「2002年の日韓ワールドカップ開催時、AWACSは警戒のた
めに日本の上空を常時飛んでいた。青色のユニフォームを着たサポ
ーターたちはそれを知らない。我々は人に知られることはなく、寡
黙に上空を警戒して回っている。それが誇りだ」。
今年のラグビーワールドカップでも、来年の東京オリンピックでも、
もちろんAWACSは国民に知られることなく警戒監視のために飛
んでいることでしょう。
ミッションクルーの搭乗から10分ほど後にパイロットも到着し、
機体の点検を行なってからAWACSに乗り込みました。
それからまもなくして離陸したAWACSは美しいラインで上昇を
続け、やがて取材陣の視界から消えていきました。空飛ぶDCは、
今日も人知れず上空で監視の目を四方八方に光らせています。
(おわり)
(わたなべ・ようこ)
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□著者略歴
渡邉陽子(わたなべ・ようこ)
神奈川県出身。大学卒業後、IT企業、編集プロダクション勤
務を経て2001年よりフリーランス。2003年から月刊
『セキュリタリアン』『MAMOR』などに寄稿。
現在は自衛隊関連の情報誌などで記事を発表。メルマガ「軍事
情報」で自衛隊関連の記事を配信中。
2016年6月、デビュー作
『オリンピックと自衛隊 1964-2020』を刊行。
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