配信日時 2019/06/14 20:00

【二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉(11)】「戦う哲学者」 加藤喬

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
お仕事の依頼など、問い合わせは以下よりお気軽にどうぞ
 
E-mail hirafuji@mbr.nifty.com
WEB http://wos.cool.coocan.jp
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こんにちは。エンリケです。

加藤さんが翻訳した武器本シリーズ最新刊が出ました。
今回はMP5です。

「MP5サブマシンガン」
L.トンプソン (著), 床井 雅美 (監訳), 加藤 喬 (翻訳)
発売日: 2019/2/5
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加藤さんの手になる書き下ろしノンフィクション
『二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉─』
の第十一話です。

さっそくどうぞ。


エンリケ


追伸
ご意見ご質問はこちらから
https://okigunnji.com/url/7/


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『二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉』(11)
 
「戦う哲学者」

Takashi Kato

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□はじめに

 書下ろしノンフィクション『二つの愛国心──アメリカで母国
を取り戻した日本人大尉』の11回目です。「国とは?」「祖国
とは?」「愛国心とは?」など日本人の帰属感を問う作品です。
 
 学生時代、わたしは心を燃え立たせるゴールを見つけることが
できず、日本人としてのアイデンティティも誇りも身につけるこ
とがありませんでした。そんな「しらけ世代の若者」に進むべき
道を示し、勢いを与えたのはアメリカで出逢った恩師、友人、そ
して US ARMY。なにより、戦後日本の残滓である空想的平和主義
のまどろみから叩き起こしてくれたのは、日常のいたるところに
ある銃と、アメリカ人に成りきろうとする過程で芽生えた日本へ
の祖国愛だったのです。
 
 最終的に「紙の本」として出版することを目指していますので、
ご意見、ご感想をお聞かせいただければ大いに助かります。また、
当連載を本にしてくれる出版社を探しています。


□今週の「トランプ・ツイッター」6月1日付

 トランプ大統領の祖父は19世紀後半、アラスカのゴールドラ
ッシュを背景にホテルや食堂経営者として頭角を現し、不動産王
としての基礎を築いたといわれています。ビジネスを円滑に進め
るため、マフィアの一門とパートナーシップを結ぶこともあった
とか。後年この不動産王国を引き継いだ若きドナルド・トランプ
氏が、距離は置きつつ、脛に傷持つ人物や怪しげなビジネスマン
らと取引を続けたことは想像に難くありません。氏の醒めた現実
主義は、綺麗ごとでは済まない人々との交わりを通じ、酸いも甘
いも?み分けた結果なのでしょう。「人間というものは命と金を何
より大事にする」これがワイルドカード大統領の信条ではないか、
とわたしは見ています。
 
 空母打撃群を含む圧倒的軍事力を庭先でちらつかせ、北朝鮮や
イランの独裁者らに「抹殺の恐怖」を味合わせる力の外交はこの
人生訓に叶っています。一方、国家資本主義を振りかざし世界覇
権を目指す中国には貿易戦争をふっかけました。こちらは相手の
「金」に照準を定め、アメリカを長年食い物にしてきた独裁国の
不正を正すのが目的です。
 
 先日、トランプ氏はメキシコからの全輸入品に追加関税を課す
と発表しました。中南米から米国を目指す移民集団「キャラバン」
の取り締まりをメキシコ政府に促すものですが、内外の職業政治
家らは「不法移民問題を追加関税で解決するのは正道でない」と
こぞって批判。産業界を選挙基盤とする共和党族議員の中にも
「メキシコとのビジネスが失われ金銭的損失を招く」として反対
する動きがあります。それこそ正にトランプ氏の狙い。アメリカ
経済は一時的損失に耐えられるが、メキシコには付加関税に耐え
る体力がないとの読みです。「取引を成立させてなんぼ」の不動
産業出身のトランプ氏にとって「政治の正道」などユートピア的
戯言(ざれごと)に違いありません。メキシコが折れるまで、大
統領は自らの人生訓に従って行動すると思います。
 
 本日のトランプ・ツイッター、キーワードは run。「走る」
「立候補する」がよく知られていますが、この文脈では「(国を)
動かす」「治める」という意味です。
 
They (Mexico)  took many of our companies & jobs, the 
foolish Pols let it happen, and now they will come back 
unless Mexico stops the.......travesty that is taking place 
in allowing millions of people to easily meander through 
their country and INVADE the U.S., not to mention the 
Drugs & Human Trafficking pouring in through Mexico. Are the 
Drug Lords, Cartels & Coyotes really running Mexico? We will 
soon find out!

 「メキシコは多くの企業や仕事をアメリカから奪ってきた。愚
かな政治家らはそれを止めようともしなかった。米国に不法入国
する目的で、中南米から無数の移民がメキシコを自由に通ってや
って来ている。メキシコから流れ込む麻薬や人身売買の被害者は
言うまでもないことだ。この茶番をメキシコ政府が阻止しない場
合、(追加関税によって)奪われた会社や仕事はアメリカに戻っ
てくることになろう。メキシコを治めているのは麻薬王やドラッ
グカルテル、移民密輸業者たちなのか?すぐに分かる!」
 
追記:8日付のツイッターやマスコミ報道では、交渉の結果メキ
シコ政府が譲歩したそうです。メキシコ軍6000人を同国南部
国境に展開して中南米からの移民流入を阻止することになり、こ
れに伴い、付加関税措置は無期限延期。両者にとって有益なこの
結末、トランプ流人生訓のお陰かも知れません。



「二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉」(11)

(前号までのあらすじ)
 2200キロ強のアラスカ―カナダハイウェイを走破し、アラ
スカ州立大学フェアバンクス校の既婚学生寮に落ち着いた。極寒
の間もキャンパス内だけで普通の生活が営める自己完結型コミュ
ニティはどこか軍事基地のようでもあり、最後の開拓地の名にふ
さわしかった。20世紀初頭、まだゴールドラッシュの宿場町に
過ぎなかったこの町で、犬ぞりの名手として鳴らした伊予国松島
出身の和田重次郎は金採掘で頭角を現した。100年後、わたし
は「別の金」に青春を賭けようとしていた。その色と形からゴー
ルドバーと呼ばれる米軍少尉の階級章だ。通常の授業と並行し、
陸軍士官となるための訓練を受けるROTC(予備役士官訓練部
隊)のカデット(士官候補生)としての生活が始まった。


▼戦う哲学者

腕時計は夜の9時半を指している。サマー・セッションの講義が
終わり仲間の学生と外に出ると、輪郭のぼやけた校舎がひっそり
たたずんでいる。遠く地平線に沈もうとする太陽がアラスカ州立
大学フェアバンクス校のキャンパスに投げかける光は弱々しいが、
本が読めるぐらいには明るい。この季節、夜とも昼ともつかない
薄明のなかにうずくまるフェアバンクスは、時間が止まったよう
な非現実の趣を帯びる。曖昧な光と影が生み出す水墨画の風景の
なかに、学生は一人また一人と消えていった。

白夜。夏のあいだ北極圏の近くでは、太陽が地平線を舐めるよう
に進みなかなか沈まない。寝る時間になっても外を駆け巡る子供
らの歓声に、やってきた当初は違和感といら立ちを覚える。だが
白夜のあいだフェアバンクス市を囲む原野は冬場より優しく見え
る。つらつら物を考えるには良い頃合いだ。旧チェコスロバキア
出身の哲学者、ルーディ・クレイチー教授に出会ったのは、そん
な白夜の季節だ。

アラスカの自然は飼い慣らされていない。フェアバンクスから望
むアラスカ山脈の気高い美しさは、同時に、人間に対し完璧に冷
淡だ。方向感覚を失わせる樹氷の森や一瞬で視界を阻む氷霧、昨
日まであった道を押し流す雪解け水、パトカーも巡回しない遠隔
地域のハイウェイなど、油断する者にはどこでも死が待ち受ける。
街中のガソリンスタンドでさえ冬場は危険が潜む。給油中うっか
り零下30度に冷えたガソリンをこぼせば瞬時に凍傷にやられる
からだ。美しさと危険が表裏一体のアラスカに魅入られる人々は
多い。なかでも、生きることにひたむきすぎてかえって不器用な
人たちが流れ着く。しかし先住民を除けば、厳寒の冬に耐え、長
い夜に順応し、アラスカを故郷にできるのはほんの一握り。人並
み外れて独立心が旺盛で心身頑強、そして、いささか毛色の変っ
た漂着者のみということになろう。アラスカ大の哲学教授ルーデ
ィ・クレイチーは、私が最初に出遭った漂着者だった。

哲学入門クラスの初日、クレイチーはスクープを追う新聞記者の
ような足どりで教室に現れた。なだれこんできた、という感じだ
った。弾けるゼンマイを連想した。絹のように滑らかな金髪に碧
眼、年の頃は50代後半。どちらかといえば小柄でスポーツジャ
ケットが似合った。見る人を虜にする眼差しには、少年の好奇心
と相手を包みこむ優しさが宿る。学生一人一人の顔にすがすがし
い笑顔が注がれ、開口一番言った。

「哲学とは考えることについて考え、行動すること。言葉の遊び
ではない」

その後の1時間、教授は教室をくまなく歩きまわり対話した。学
生の意見や質問にジャブのような助言が繰り出された。身体もボ
クサーのように小刻みに動く。あり余る活力にじっとしていられ
ないのだ。学生が数十人はいたが、個人面談のような授業だった。
古代アテネのアゴラでソクラテスが行なった辻説法とはこうだっ
たと思わせる問答。暗記とは無縁の、躍動する心と心の真剣勝負
だった。試験の内容や形式には一言も触れない。型破りな教授に
不安を抱く学生もいたが、多くは真摯な人柄とヨーロッパ仕込み
の深い教養、そしてなにより、底なしのエネルギーに魅入られた。
初学期の終わりを待つことなく、私は専攻を心理学から哲学に変
えた。

哲学部はアラスカ大キャンパスの東端にある。コンサートホール
とレセプション大広間を擁する建物の2階。かなり奥まったとこ
ろに位置している。明るく開放的な1階に比べると窓も少なく、
なにやら舞台裏か楽屋みたいな印象だ。もっともそのぶん人通り
はまばらで、落ち着いてものを考えるには格好の場所だともいえ
る。授業の空き時間をこの哲学科オフィスで過ごすようになり、
クレイチーと顔を合わせる機会も学期を重ねるごとに増えた。あ
る日ドアを開けると、ひとりソファに腰をおろし茫洋とした表情
を浮かべる教授がいた。考えごとですかと水を向ける。

「命を落としかけた時のことを」

予想外の答えに面食らった。立ち尽くすわたしに、クレイチーが
さし向かいのソファを勧める。ほどなく、問わず語りが始まった。
わたしはたちまち惹き込まれた。

1938年から1945までナチス・ドイツ軍がチェコスロバキ
アを併合した。クレイチー少年もレジスタンスの一員となって抵
抗。ある日のこと、敗色濃いドイツ軍が田舎道に放置していった
装甲ハーフ・トラックを見つけた。分捕って戦利品にしよう。仲
間のアントニオと運転台に乗りこみエンジンをかけた。と、前方
のカーブに親衛隊のサイドカーが現れ、猛スピードで近づいてき
た。すさまじい機銃掃射が起こり、車体に当たった跳弾が金切り
声をあげて2人の耳元をかすめた。車載機銃を見やって一瞬逡巡
した後、運転台から飛び降り森に向かって駈け出す。行く手を池
が阻む。背後にサイドカーの爆音が迫り、一連射と足元に水しぶ
きが上がるのが同時だった。クレイチー少年はその場に倒れこん
だ。しかし、やられたのは隣を走っていたアントニオだった。仲
間の血潮を全身に浴びていた。撤退を急ぐ親衛隊員は、2人とも
死んだと思ったのかそのまま国境に向け走り去った。第二次世界
大戦終了のわずか数時間前だった。

そこで教授が立ち上がり窓際に歩み寄る。視線の先には、夏でも
雪をいただくアラスカ山脈の遠く霞んだ姿があった。アントニオ
は死んで自分は生き残った。1メートルが分けた生と死。逆もあ
りえたし、2人とも死んでいたかもしれない。あのとき我々の生
死には何の理由も必然もなかった。人生の無情な選別にどう対処
するべきか。独裁者の手にかかった戦友の死に意味を与え続ける
ことが、生き残った者の義務だと思い至った。

一言ずつ噛みしめる口調はいつもの嬉々とした教授ではなかった。
祖国を遠く離れた辺境で、来し方を思い起こし自らに語りかけて
いるようだ。クレイチーの横顔に、同じ辺境にやってきた外国人
である自分を重ねてみた。つながりを炙りだして見たかったが、
その前に語り部が再び口を開いた。


(つづく)

加藤喬(たかし)



●著者略歴
 
加藤喬(かとう・たかし)
元米陸軍大尉。都立新宿高校卒業後、1979年に渡米。アラスカ
州立大学フェアバンクス校他で学ぶ。88年空挺学校を卒業。
91年湾岸戦争「砂漠の嵐」作戦に参加。米国防総省外国語学校
日本語学部准教授(2014年7月退官)。
著訳書に第3回開高健賞奨励賞受賞作の『LT―ある“日本
製”米軍将校の青春』(TBSブリタニカ)、『名誉除隊』
『加藤大尉の英語ブートキャンプ』『レックス 戦場をかける
犬』『チューズデーに逢うまで』『ガントリビア99─知られざ
る銃器と弾薬』『M16ライフル』『AK―47ライフル』
『MP5サブマシンガン』『ミニミ機関銃(近刊)』(いずれも
並木書房)がある。 
 
 
追記
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『チューズデーに逢うまで』関係の夕刊フジ
電子版記事(桜林美佐氏):
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150617/plt1506170830002-n1.htm
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150624/plt1506240830003-n1.htm
 
『レックス 戦場をかける犬』発売中
http://www.amazon.co.jp/dp/489063309X 
 
『レックス 戦場をかける犬』の書評です
http://honz.jp/33320

オランダの「介護犬」を扱ったテレビコマーシャル。
チューズデー同様、戦場で心の傷を負った兵士を助ける様子が
見事に描かれています。
ナレーションは「介護犬は目が見えない人々だけではなく、
見すぎてしまった兵士たちも助けているのです」
http://www.youtube.com/watch?v=cziqmGdN4n8&feature=share
 
 
 
きょうの記事への感想はこちらから
 ⇒ https://okigunnji.com/url/7/
 
 
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日本語でも英語でも、日常使う言葉の他に様々な専門用語があ
ります。
軍事用語もそのひとつ。例えば、軍事知識のない日本人が自衛
隊のブリーフィングに出たとしましょう。「我が部隊は1300時
に米軍と超越交代 (passage of lines) を行う」とか「我が
ほう戦車部隊は射撃後、超信地旋回 (pivot turn) を行って離
脱する」と言われても意味が判然としないでしょう。
 
 同様に軍隊英語では「もう一度言ってください」は
 "Repeat" ではなく "Say again" です。なぜなら前者は
砲兵隊に「再砲撃」を要請するときに使う言葉だからです。
 
 兵科によっても言葉が変ってきます。陸軍や空軍では建物の
「階」は日常会話と同じく "floor"ですが、海軍では船にちな
んで "deck"と呼びます。 また軍隊で 「食堂」は "mess 
hall"、「トイレ」は "latrine"、「野営・キャンプする」は 
"to bivouac" と表現します。
 
 『軍隊式英会話』ではこのような単語や表現を取りあげ、
軍事用語理解の一助になることを目指しています。
 
加藤 喬
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しています。ありがとうございました。

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