配信日時 2019/06/07 20:00

【二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉(10)】「ROTC:予備役士官訓練部隊」 加藤喬

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
お仕事の依頼など、問い合わせは以下よりお気軽にどうぞ
 
E-mail hirafuji@mbr.nifty.com
WEB http://wos.cool.coocan.jp
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こんにちは。エンリケです。

加藤さんが翻訳した武器本シリーズ最新刊が出ました。
今回はMP5です。

「MP5サブマシンガン」
L.トンプソン (著), 床井 雅美 (監訳), 加藤 喬 (翻訳)
発売日: 2019/2/5
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加藤さんの手になる書き下ろしンフィクション
『二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉─』
の第十話です。

ROTCという言葉と概念は理解してますが、
その実際の姿を見る機会はありませんね。
その貴重な機会です。


移民後の国のホンネ・現実が記されている
「今週のトランプ・ツイッター」を読み、冷や汗が止まりません。


さっそくどうぞ。


エンリケ


追伸
ご意見ご質問はこちらから
https://okigunnji.com/url/7/


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『二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉』(10)
 
「ROTC:予備役士官訓練部隊」

Takashi Kato

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□はじめに

 書下ろしノンフィクション『二つの愛国心──アメリカで母国
を取り戻した日本人大尉』の10回目です。「国とは?」「祖国
とは?」「愛国心とは?」など日本人の帰属感を問う作品です。
 
 学生時代、わたしは心を燃え立たせるゴールを見つけることが
できず、日本人としてのアイデンティティも誇りも身につけるこ
とがありませんでした。そんな「しらけ世代の若者」に進むべき
道を示し、勢いを与えたのはアメリカで出逢った恩師、友人、そ
して US ARMY。なにより、戦後日本の残滓である空想的平和主義
のまどろみから叩き起こしてくれたのは、日常のいたるところに
ある銃と、アメリカ人に成りきろうとする過程で芽生えた日本へ
の祖国愛だったのです。
 
 最終的に「紙の本」として出版することを目指していますので、
ご意見、ご感想をお聞かせいただければ大いに助かります。また、
当連載を本にしてくれる出版社を探しています。


□今週の「トランプ・ツイッター」5月16日付

御代替わりの日、ネットで日本各地の様子を見ていました。令和
元年の厳粛な空気の中、多くの同胞が祖国の安泰を心から喜び、
また、日本人としてのアイデンティティを噛みしめていることが
伝わってきました。晴れやかな気持ちで窓を見やると、かなたの
地平線にはメキシコの山々が鎮座しています。褐色の大地にヘビ
のように伸びる黒い線は国境の壁。かくも故郷とかけ離れた風景
に今さらながら驚き、同時に、日本の素晴らしさ、類まれさに心
を打たれました。

 国体を護持しつつ2000年以上の長きにわたり存立し、聖徳
太子以来、和の精神を育んできた日本。文化風俗習慣や言語を共
有する「一民族一国家」だからこそ成しえた偉業でしょう。わた
しは、あるがままの日本が好きです。移民に頼らず、いまの姿で
長く栄えていくのが一番だと思います。

「多民族国家に住む者がなぜそんなことを?」読者はそう訝(い
ぶか)るかも知れません。確かに、アメリカは先住民の土地に世
界中の人々が寄り集まってできた国。自由と機会均等の下、それ
ぞれのアメリカンドリームを追求する大志と努力、つまり「移民
パワー」がアメリカの繁栄と国力につながってきたのです。しか
し、その移民大国の基盤が揺らいでいます。時代遅れの移民法と、
とどまるところを知らない不法移民流入の結果、アメリカンドリ
ームの実現より社会福祉に頼る移民が増え、米社会に歪が生じつ
つあるのです。それだけではありません。移民や移民二世、三世
のなかにはアメリカの伝統や価値観に異を唱え、現行の政治体制
と社会形態を変革しようとする人々が出てきました。

 パレスチナ系アメリカ人として初めて下院議員に選出されたラ
シダ・タリーブ氏や、ソマリア難民から下院議員への転身を遂げ
たイルハン・オマール氏などはその急先鋒。開かれた国境を持論
とすると当時に、中東唯一の民主国家であり米国の盟邦であるイ
スラエル敵視発言を繰り返しています。また学生ローンの帳消し
を支持するなど「自由」と対を成すべき個人の「義務」と「責任」
をないがしろにする意見が目立ちます。国への献身や名誉を重ん
じる「古き良きアメリカの価値観」とは相いれない言動です。

 また、オマール氏は「外国人の視点から米国の外交政策を抜本
的に変革する必要がある」と主張していますが、わたしは違和感
を覚えます。移民制度が円滑に機能するには、移民側が受け入れ
国側の言語、文化、伝統、習慣、政治体制などを受容し、敬意を
払うことが不可欠。戦乱のソマリアを逃れた同氏を保護した米国
に恩義を感じるどころか「アメリカの政策が気に入らないから外
国人のわたしが作り直す」との態度は不遜です。

 しかし、アメリカは移民の国。こういった人たちの存在も認め
るしかありません。見るに忍びないことですが、彼女たちの影響
力が増すにつれ、アメリカは内側から変質していくことでしょう。
生まれも育ちも異なる人々を受け入れ、共存する多民族国家の宿
命とはこういうことです。

 人手不足解消を移民に頼っていれば、早晩、「外国人の目から、
日本を根本的に作り直す」と訴える人たちが出てきましょう。建
国の歴史を異にする日本は移民国家アメリカに倣う必要などなく、
世界に稀な「一民族一国家の道」を歩み続ければいい。わたしは
そう思います。

 本日のトランプ・ツイッターは、トランプ政権が提言する新移
民制度に関するものです。永住者や市民による親族の呼び寄せ
(連鎖移民)や抽選による移民ビザ発行に代わり、移民の能力と
教育レベル、そして、米国への潜在的貢献度によって優先順位を
決めるメリット・システムが目玉で、本来の移民パワーによる米
社会の活性化を意図しています。

We are here on this beautiful spring day to unveil our plan 
to create a fair, modern & LAWFUL system of immigration for 
the U.S. If adopted, our plan will transform America’s 
immigration system into the pride of our Nation and the envy 
of the modern world.
 「うららかな春日和の本日、トランプ政権は公正かつ時代に即
した移民法案を公表する。採用に至れば、我が国の移民制度は世
界に誇るべきものとなり、諸国の羨むところとなるだろう」


「二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉」(10)

(前号までのあらすじ)
 ラッセン・カレッジ卒業後、エリザベスを連れ日本に帰ったが
仕事にあぶれた。留学を勧めた叔父の厚意で翻訳権仲介エージェ
ント見習いとなるも、アメリカ生活に思いを馳せ、後ろ髪を引か
れる日々が続いた。叔父の通訳として米国ブックフェア出張を命
じられたことがきっかけとなり、スーザンビルに残してきたコル
ト45口径拳銃への未練と4年制大学への編入願望が抑えがたく
なった。思案の末、わたしは「本当にやりたいことを見つけるた
めにアメリカに永住する」決心を固め、ブックフェア後そのまま
アメリカに居残った。スーザンビルで妻と落ちあい、陸路、アラ
スカ州立大学フェアバンクス校を目指した。


▼ROTC:予備役士官訓練部隊

フェアバンクス市は内陸部タナナ平原の中ほどに位置している。
針葉樹林に囲まれているが、前述のパーマプロストのため木々は
あまり高くない。北には全長3千キロ余の大河ユーコンが流れ、
南に160キロほど行くと北米最高峰デナリ山をいただくアラス
カ山脈がそびえる。唯一のメトロポリス、アンカレッジはそこか
らさらに数百キロ先。南方の48州を網羅するようなハイウェイ・
システムは存在せず、したがって車で行ける範囲はごく限られて
いる。道路が整備されていない場所へ行くためには下駄履き感覚
で自家用機を操縦するか、辺境の気候と地形に精通したブッシュ・
パイロットに命を託すかしなければならない。

こんな人跡未踏の荒野に囲まれたフェアバンクスは文字通り陸の
孤島。20世紀初頭タナナ川周辺で金が発見された際、ゴールド
ラッシュのキャンプとして始まった。最後の開拓地と呼ばれる由
縁だ。ちなみに当時、犬橇の名手で金採掘にも活躍した伊予国松
山出身の和田重次郎という日本人がいた。船員として売られたり、
金発掘をめぐる無実の罪で投獄されかけたりと数奇な人生を送っ
た。類い希な行動力と体力そして起業家の先見で、フェアバンク
ス市建立の足がかりを築いたという。

アラスカ州立大学フェアバンクス校(UAF) は、この重次郎が
100年以上前に犬橇で疾走したタナナ平原を見晴らす丘の上に
ある。初めて見た時、稜線に見える白い建物群が真夏の陽光を浴
び輝いていた。ひときわ高い地球物理研究所の屋上には、衛星追
尾アンテナや各種センサーが天に向かって林立し、人の営みを飲
みこもうとする大自然に一矢を報いているように見えた。人類英
知の記念碑。アラスカ大から受けた鮮烈な第一印象だった。

我々が落ち着いた既婚学生寮は鉄筋コンクリート3階建て。冬場
の保温重視の設計で、部屋に細長い窓が一つだけというトーチカ
みたいな作りだ。しかし白樺の林に隣接する小高い土地にあり、
外に出れば付近の平原と山並みが一望できた。そのうえ授業が行
なわれる校舎や図書館、コンサートホール、クリニック、カフェ
テリア、パブ、学生センターなどが並ぶ主キャンパスまでは歩い
て行ける距離だ。

丘の麓に窓が全くない巨大な積み木状の建造物がある。これは大
学が運営する発電所で、キャンパスで消費される電力をすべてま
かなっている。おかげで電気代はただ。冬場はオイルが凍結しな
いようエンジン・ブロックを24時間暖めておく必要があるので、
貧乏学生には嬉しい配慮だった。

4キロほど離れたキャンパス西端には一大スポーツセンターが控
える。屋内プールとジョギングコース、バスケットボール・コー
ト、ウェイトルーム、サウナはもとより、なんと射撃場まで完備
している。冬の運動はクロスカントリースキーが主流だが、ここ
なら四季を通じどんな運動も可能だ。キャンパス内だけで普通の
生活が営める自己完結型コミュニティは軍事基地のようで、いか
にも最後の開拓地にふさわしい。    
 
アラスカ州住民になるまでの1年間、州外からの学生にはかなり
割高な授業料が課される。結婚後、アメリカでの就業や永住を可
能にするグリーンカードをとっておいたのが幸いし、連邦政府奨
学金と低金利のアラスカ州学資ローンがもらえた。おかげで学費
はまかなえた。そのうえ学期が始まって間もなく、エリザベスは
知人が経営する無線局で夜勤オペレーターになり、私は学生課で
留学生アドバイザーのアシスタントに収まった。これで卒業まで
の金銭的不安はなくなり学業に専念できる。アラスカ生活は幸先
の良いスタートを切った。

加えて、わたしにはいま一つ将来図があった。たまたま見た映画
で、ウエストポイント陸軍士官学校やアナポリス海軍兵学校以外
にも、米軍将校となる道が開かれていることを知ったのだ。アラ
スカ大にも陸軍予備役士官訓練部隊 (ROTC) が併設されてい
た。ROTCというのは、選ばれた州立、私立大学に設置された
軍事教育課程のことで、陸海空軍と海兵隊の士官を養成する。通
常の授業と並行し、週に数時間は軍事史、指揮官心得、小隊の運
用術などを習得する。また週末には大学キャンパスを離れ、最寄
りの基地で体力錬成、射撃訓練、野戦演習なども行なわれる。

「予備役」とはカデット(士官候補生)の身分を指すもので、指
導にあたる軍事学教授と教官らは、すべて正規軍のベテラン将兵
だ。卒業と同時に正規軍に入るカデットも多い。湾岸戦争中に統
合参謀本部議長を務めた陸軍のコリン・パウエル大将や、トラン
プ政権の初代国防長官、ジェームズ・マティス海兵隊大将もRO
TC出身だ。成績優秀なら大学の授業料を軍が肩代わりするほか、
生活費の一部を補完する手当など特典も多い。ここに入隊してリ
ーダーシップトレーニングを受け、卒業時に少尉として任官する
というブループリントを描いたわけだが、かつての敵国、米軍の
士官になろうという息子に父はどんな反応を見せただろう。父の
逆鱗に触れることを恐れ、口にすることもできなかった入隊とい
う目標を異国で実践する。これは、ばあ・まえだでTに「父の替
え玉願望」を看破されて恥じ入り、父親とは異なる道を求めた結
果だった。軍人が米国でもっとも尊敬される職業の一つであり、
高い社会的地位を約束されていることも動機になっていた。 

予備役士官訓練部隊(ROTC)オフィスに初めて出向いたとき、
両肩に金色の階級章をつけた2人の少尉と偶然すれ違った。当時
は緑色だった通常軍服姿の少尉は任官したてらしく、略章も技能
バッジもつけていない。が、この男女は輝きを放っていた。その
場に立ち尽くし、しばし彼らの後ろ姿に見惚れた。命をかけて国
に尽くし、同胞の尊敬を満身に受ける士官の凛々しさにしびれ、
奮い立った。母国に居場所が見つけられなかった者にとって、ま
っとうな人生を歩むための最後のチャンス。父亡きいま、わたし
を押しとどめられる者はいなかった。


(つづく)

加藤喬(たかし)



●著者略歴
 
加藤喬(かとう・たかし)
元米陸軍大尉。都立新宿高校卒業後、1979年に渡米。アラスカ
州立大学フェアバンクス校他で学ぶ。88年空挺学校を卒業。
91年湾岸戦争「砂漠の嵐」作戦に参加。米国防総省外国語学校
日本語学部准教授(2014年7月退官)。
著訳書に第3回開高健賞奨励賞受賞作の『LT―ある“日本
製”米軍将校の青春』(TBSブリタニカ)、『名誉除隊』
『加藤大尉の英語ブートキャンプ』『レックス 戦場をかける
犬』『チューズデーに逢うまで』『ガントリビア99─知られざ
る銃器と弾薬』『M16ライフル』『AK―47ライフル』
『MP5サブマシンガン』『ミニミ機関銃(近刊)』(いずれも
並木書房)がある。 
 
 
追記
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『チューズデーに逢うまで』関係の夕刊フジ
電子版記事(桜林美佐氏):
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150617/plt1506170830002-n1.htm
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150624/plt1506240830003-n1.htm
 
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『レックス 戦場をかける犬』の書評です
http://honz.jp/33320

オランダの「介護犬」を扱ったテレビコマーシャル。
チューズデー同様、戦場で心の傷を負った兵士を助ける様子が
見事に描かれています。
ナレーションは「介護犬は目が見えない人々だけではなく、
見すぎてしまった兵士たちも助けているのです」
http://www.youtube.com/watch?v=cziqmGdN4n8&feature=share
 
 
 
きょうの記事への感想はこちらから
 ⇒ https://okigunnji.com/url/7/
 
 
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日本語でも英語でも、日常使う言葉の他に様々な専門用語があ
ります。
軍事用語もそのひとつ。例えば、軍事知識のない日本人が自衛
隊のブリーフィングに出たとしましょう。「我が部隊は1300時
に米軍と超越交代 (passage of lines) を行う」とか「我が
ほう戦車部隊は射撃後、超信地旋回 (pivot turn) を行って離
脱する」と言われても意味が判然としないでしょう。
 
 同様に軍隊英語では「もう一度言ってください」は
 "Repeat" ではなく "Say again" です。なぜなら前者は
砲兵隊に「再砲撃」を要請するときに使う言葉だからです。
 
 兵科によっても言葉が変ってきます。陸軍や空軍では建物の
「階」は日常会話と同じく "floor"ですが、海軍では船にちな
んで "deck"と呼びます。 また軍隊で 「食堂」は "mess 
hall"、「トイレ」は "latrine"、「野営・キャンプする」は 
"to bivouac" と表現します。
 
 『軍隊式英会話』ではこのような単語や表現を取りあげ、
軍事用語理解の一助になることを目指しています。
 
加藤 喬
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そして、メルマガを作る機会を与えてくれた祖国に、心から感謝
しています。ありがとうございました。

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(代表・エンリケ航海王子)

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