配信日時 2019/05/31 20:00

【二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉(9)】「アラスカ─カナダ・ハイウェイ走破」 加藤喬

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
お仕事の依頼など、問い合わせは以下よりお気軽にどうぞ
 
E-mail hirafuji@mbr.nifty.com
WEB http://wos.cool.coocan.jp
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こんにちは。エンリケです。

加藤さんが翻訳した武器本シリーズ最新刊が出ました。
今回はMP5です。

「MP5サブマシンガン」
L.トンプソン (著), 床井 雅美 (監訳), 加藤 喬 (翻訳)
発売日: 2019/2/5
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加藤さんの手になる書き下ろしンフィクション
『二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉─』
の第九話です。

冒頭のトランプツイッターには、
訪日中のものもありますよ。

さっそくどうぞ。


エンリケ


追伸
ご意見ご質問はこちらから
https://okigunnji.com/url/7/


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『二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉』(9)
 
「アラスカ─カナダ・ハイウェイ走破」

Takashi Kato

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□はじめに

 書下ろしノンフィクション『二つの愛国心──アメリカで母国
を取り戻した日本人大尉』の9回目です。「国とは?」「祖国と
は?」「愛国心とは?」など日本人の帰属感を問う作品です。
 
 学生時代、わたしは心を燃え立たせるゴールを見つけることが
できず、日本人としてのアイデンティティも誇りも身につけるこ
とがありませんでした。そんな「しらけ世代の若者」に進むべき
道を示し、勢いを与えたのはアメリカで出逢った恩師、友人、そ
して US ARMY。なにより、戦後日本の残滓である空想的平和主義
のまどろみから叩き起こしてくれたのは、日常のいたるところに
ある銃と、アメリカ人に成りきろうとする過程で芽生えた日本へ
の祖国愛だったのです。
 
 最終的に「紙の本」として出版することを目指していますので、
ご意見、ご感想をお聞かせいただければ大いに助かります。また、
当連載を本にしてくれる出版社を探しています。


□今週の「トランプ・ツイッター」5月26日付

「大統領や首相になると嫌なやつとも笑いながらテーブルを囲ま
なければならないが、ゴルフだけは好きな相手とでなければでき
ないものだ」

 将軍として第二次世界大戦を勝利に導き、後年、第34代米国
大統領になったアイゼンハワーの言葉です。ゴルフのお相手は岸
信介(きしのぶすけ)総理大臣。敵国であり占領軍であった米国
と、同盟国としての新関係構築に舵を取った昭和の名宰相(めい
さいしょう)です。岸総理は安倍首相の祖父にあたります。たか
がゴルフと言うなかれ。この会談から半世紀以上、日米は強固な
同盟を育んできたのです。

 安倍首相とトランプ大統領のゴルフは今回で5回目と言います
から、よほど馬が合うのでしょう。祖父譲りのゴルフ外交はトラ
ンプ氏との個人的信頼関係を築き、その結果、日米同盟深化と日
本の地位向上という尊い実を結びつつあります。

 米大統領初の大相撲観戦も、居合わせた日本人相撲ファンの拍
手と大歓声や、升席でのVIP観戦を可能にした相撲協会の努力、そ
して日米警護関係者の尽力でつつがなく運びました。大統領杯を
渡すトランプ氏の満面の笑みは外交儀礼ではないホンモノ。六本
木の夕食会では、大統領の選挙地盤であるアイダホ産じゃがバタ
ーをふるまうなど、安倍総理の粋でソツのないおもてなしが効い
ていました。

 トランプ大統領も拉致被害者家族に直接会って支援を約束した
り、夏の参院選で貿易問題が政局にならぬよう気遣ったりと、安
倍首相への真摯な配慮を見せました。宮中晩さん会では「『トモ
ダチ作戦』の支援を、決して忘れることはないでしょう」と天皇
陛下が令和初の国賓トランプ大統領にお言葉をかけられ、日米の
友情が盤石であることを世界に示したのです。

 3年前トランプ氏の当選が決まるや、安倍総理は外国首脳とし
て初めて、しかも、就任前のトランプ氏を訪ねました。型破りか
つ一見予測不能な性格の底に息づく、稀有なリーダーシップを見
抜いていたからです。その読みに狂いはなかった。大物は大物を
知る、と言うところでしょう。

 それに引き換え野党議員らの態度は度量に乏しい。トランプ訪
日を観光旅行と皮肉り安倍首相をツアーガイドと揶揄して見せて
も、自らの器量不足と政権担当能力欠如を証明するのみ。アメリ
カの二大政党制も機能不全に陥っていますが、日本政界はそのは
るか以前で足踏み状態にあるようです。

 本日のトランプ・ツイッター、キーワードは honor。「名誉」
「光栄」を意味します。

Tonight in Tokyo, Japan at the Ry?goku Kokugikan Stadium, 
it was my great honor to present the first-ever U.S. President’s 
Cup to Sumo Grand Champion Asanoyama. Congratulations! 
A great time had by all, thank you @AbeShinzo!!

「今宵、東京の両国国技館において、優勝を果たした朝乃山関に
初の米大統領杯を贈呈することができ大変光栄だ。優勝おめでと
う!安倍晋三総理、素晴らしい時間をありがとう!!」


追伸: 同日付のトランプ・ツイッターから、読者が興味を持つ
と思われるものをあと3本記しておきます。最初のツイッターは
安倍首相への配慮と考えられます。二番目は北朝鮮の短距離弾道
ミサイル発射を重要視しないとする内容で、米主流マスコミはト
ランプ氏の拉致被害者家族支援声明との矛盾を指摘しています。
最後は日本の官僚の発言を伝えたものですが、真偽のほどは不明
です。

Great progress being made in our Trade Negotiations with 
Japan. Agriculture and beef heavily in play. Much will wait 
until after their July elections where I anticipate big 
numbers!
「日本との貿易交渉では、農産物と牛肉の分野で大きな進展が見
られた。あとは7月の参院選が終わるまで待とう。その時点で大
きな合意があるだろう」
 
North Korea fired off some small weapons, which disturbed 
some of my people, and others, but not me. I have confidence 
that Chairman Kim will keep his promise to me, & also smiled 
when he called Swampman Joe Biden a low IQ individual, & worse. 
Perhaps that’s sending me a signal?
「北朝鮮が小型兵器を数発発射した。トランプ政権内外で動揺し
ている人たちがいるが、わたしは違う。金委員長が私との約束を
守ると確信している。因みに、金委員長が腐敗したキャリア政治
家のジョー・バイデンを低能と呼んだのを聞いて思わず笑ってし
まった。わたしへのメッセージかな?」
 
Great fun and meeting with Prime Minister @AbeShinzo. Numerous 
Japanese officials told me that the Democrats would rather see 
the United States fail than see me or the Republican Party 
succeed - Death Wish!
「安倍晋三総理大臣との会談は大変楽しかった。多くの日本官僚
らが言っていた。民主党の政治家はわたしや共和党が勝利するの
を見るよりは米国そのものが破綻することを望むだろうと。自殺
願望だ、これは!」



「二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉」(9)

(前号までのあらすじ)
 母国に「居所」を見いだせず逃げるようにやってきたアメリカ
で、わたしは北カリフォルニアの田舎町に流れ着いた。恩師らの
助言と支援のお陰でコミュニケーションの道具として英語を身に
つけ始めていた頃、個人教師のエリザベスと知り合い、恋に落ち
た。ほどなくして、父親の形見だという大型回転式けん銃と共に
引っ越してきたエリザベスとの同棲生活が始まった。半年後、ア
メリカ流「蕎麦屋の二階」結婚式を挙げた。


▼アラスカ─カナダ・ハイウェイ走破
 
 ラッセン・カレッジを卒業後、妻を伴って東京に戻った。だが、
仕事がなかった。どうにか英語をモノにし、異国で生き延びたと
いう自信が裏目に出た。アメリカ流の自己主張と率直な物言いが、
行く先々で「和を乱す」と判断されたのだ。東京に軸足を置いた
求職活動はじき行き詰まり、契約通訳としてアフリカの小国に単
身赴任する口を見つけた。工作機械の使い方を指導する町工場エ
ンジニアの補佐役だ。現地での給料は日本で振り込まれる額の3
倍と聞き、その場で引き受ける気になった。不安げなエリザベス
を実家に残し、わたしは間もなく赤道の国に飛んだ。

が、うまい話には裏があった。同国の経済が破綻していたため、
ここの通貨は円にもドルにも交換できなかったのだ。給料日に受
け取る帯付きの札束は、一歩国外に出ればただの紙くず。半年後、
わたしは予定を前倒しして仕事場から姿を消し、アフリカ大陸の
最高峰キリマンジャロ山に向かった。ポーター数人を雇い、標高
約5900メートルの頂上を目指した。下山して出国するまでに、
ためこんだ札束の山はきれいになくなっていた。
 
 一文無しで東京に舞い戻ったわたしを哀れんでか、米国行きを
薦めた叔父が仕事をくれた。本人が社長を務める著作権代理店で
の見習いポストだ。英語が使えるとあって、わたしは欧米出版社
との連絡業務に嬉々として取り組んだ。英文タイプした手紙や契
約書を航空便で送るのが日常業務だったが、緊急性の高いものは
テレックスと呼ばれる電信回線を使った。当時は最先端の通信手
段だった。この頃、エリザベスは米国系の清涼飲料水会社で秘書
をしており、妻は妻なりに生まれて初めての都会生活を楽しんで
いた。

 そんな毎日が半年ほど続いただろうか。師走のある日、叔父か
ら翌年夏にテキサス州ダラスで行なわれるブックフェアへの同行
を命じられた。エージェント見習いとしての初舞台。意気込みと
不安が交錯した。

再渡米が現実になると、いくつか渇望が頭をもたげ始めた。実務
面では、まず四年制大学への編入が浮かんだ。社会に出てみて、
通訳や翻訳能力もふくめた学力不足が明らかになったからだ。先
々世界に出ていくためには、もっと包括的な教養を、しかも英語
で身につける必要がある。マグダーミッド教授に教わった、英語
で新知識を学び実生活に応用する快感をいまいちど、もっと本格
的に味わってみたくもあった。

情緒面では、アメリカ社会の度量が懐かしかった。初出場の弁論
大会でわたしはルールを無視せざるを得なかったが、審判や弁論
コーチは、追い詰められて思いついた「崖っぷち戦術」を認めて
くれた。イニシアティブと個人のユニークさが奨励される国柄が
嬉しく、また、肌に馴染んだ。

アメリカに存在する茫漠とした風景も心に根を下ろしていた。北
カリフォルニアで遭遇した大地はかつて憧れた西部劇の舞台と見
紛うばかり。広大無辺の荒野に心身が共鳴し、いつしか同化して
いった。都会の古巣に舞い戻っては見たものの、いちど触れてし
まった「夢の国」の魅力は忘れ難かった。

いっぽう、叔父の厚意でありついた著作権エージェントという仕
事にはやりがいも安定もあった。本音を言えば、英語が使える願
ったりかなったりの職場を、先が見えないアメリカ生活と引き換
えにするのは怖くもあり、また、軽挙にも思えた。だが・・・2
3歳の直感は「いまを逃したら、人生の目的を極めるチャンスは
2度と来ない」と言っていた。広大なアメリカのどこかに、自分
が真に属する居場所があるにちがいない・・・無鉄砲な予感が信
じられた。連日、心は母国の無難な環境と異国での可能性の狭間
で揺れに揺れた。容易に結論は出なかった。

このジレンマを解消する決定投票になったのが銃への愛着だ。ス
ーザンビルの貸金庫には、撃ちこみ、磨き上げられたコルトが預
けてある。「自分の拳銃」に対する恋慕は募り、日に日に抑えが
たくなった。東京でも空気銃免許を取得し射撃練習を続けていた
が、拳銃射撃の醍醐味はエアライフルで充たされることはなかっ
た。

米国出張を機に現出した人生の岐路で、わたしは最終的に「自分
が本当にやりたいことを見つけるためアメリカに永住する」との
結論に達した。エリザベスに帰米の気持ちを伝えると、初めての
都会生活に未練がある素振りだったが、故国恋しさからか表立っ
て反対はしなかった。承諾をとりつけるや、目的地の選択にとり
かかった。脳裏にはすでに、あの「空気の缶詰」が浮かんでいた。
全米一の広さを誇り、前人未踏の大荒野がいまも残るアラスカ。
銃と暮らすにも最良の環境に違いない。オーロラの光と白夜の下
で、かつての開拓者のように未来を切り開く。わたしにとっては
冒険心を刺激する青写真だった。

もっとも、雪とて稀なカリフォルニア育ちの妻は、零下30度に
なる極寒の地への移住にはあまり乗り気ではないようだった。し
かし、四年制大学への編入が比較的容易なことや、まわりに気兼
ねせず暮らせる人口密度の低さ、アラスカ住人の独立気質、そし
て、飼い慣らされていない大自然の魅力を引き合いに出し「最後
の開拓地」行きを飲ませた。

出張が翌月に迫ったころ、叔父にアメリカ永住の決心を伝えた。
ブックフェア後、そのままアラスカを目指す計画に驚いた様子だ
ったが、大学への編入手続きが進行中だと知ると承諾してくれた。

帰国する叔父と南カリフォルニアの空港で別れ、わたしは近くの
街で中古フォードを手に入れた。一足先に帰米したエリザベスと
は、恩師マクダーミッド夫妻宅で落ち合う約束だ。初めてアメリ
カにやって来たときと同じルートを辿り、わたしは一路、妻が待
つスーザンビルを目指した。

カナダを通りアラスカ州とワシントン州を結ぶのが全長2237
キロのアラスカ─カナダ・ハイウェイ。通称アルキャン・ハイウ
ェイだ。1920年代から構想はあったが、費用対効果が乏しい
道路への出費にカナダ政府が乗り気でなく計画は進まなかった。
これを一変させたのが、日本軍の真珠湾攻撃とそれに続くアリュ
ーシャン列島進出。武器貸与法に基づき戦車や戦闘機などをソビ
エトに運ぶ目的もあり、米陸軍工兵隊が突貫工事で1942年1
0月に開通させた。とは言っても、完成当時は粗末な道路だった
らしい。舗装は荒く勾配もきついうえ、断崖絶壁でもガードレー
ルなどはなかった。カナダのユーコン準州やアラスカには地下に
パーマフロストと呼ばれる氷の層があり、地表の植生に守られて
夏でも溶けることがない。しかし道路を作った部分は植生が剥ぎ
とられ地中の微妙な熱バランスが崩れる。夏場に永久凍土が溶け
地下に大きな空洞が生じた結果、せっかく開通した道路のうち2
00キロ近くが陥没し、しばしば通行不能に陥ったという。

1983年夏。スーザンビルを出発し、妻をナビゲーターに、こ
のアルキャン・ハイウェイ走破に挑んだ。その頃までにはずいぶ
ん改善されていたが、雪解け水で舗装が流失している箇所も多く、
泥田になった道では轍にハンドルを取られ、家具満載の中古ステ
ーションワゴンはよく立ち往生した。当時まだガソリンスタンド
はまばらだったから、次の街までの燃料計算には気を遣った。

エリザベスと二人でジワジワ傾く燃料計をにらむ運転が続く。い
まタンクにあるガソリンだけが頼り。店がないことには手持ちの
ドルもただの紙切れだ。峠の向こうに人家を期待する気持ちが祈
りに似てくる。タンクが半分を切り針が「空」に近づくと、道路
より燃料計に目がいく。祈りは冷や汗混じりの焦りに、そして涙
ながらの懇願に変わる。

山道で1台のフォルクスワーゲンとすれ違った。一瞬、我々の目
が相手の視線と合った。ワイパーの跡が扇形に残るフロントガラ
スの向こうで、男の焦燥しきった顔に笑みがあふれ、拳をあげて
なにか叫んだ。エリザベスとわたしも同じポーズで叫び返した。
まるで旧知にでも出遭ったかのように、がむしゃらに手を振り合
った。最北の原野で一瞬だけ人生が交差し、再びまみえることは
ない旅人同士のふれあい。アラスカの荒野は、時として粋な演出
をしかけてくる。

ひたすら北上を続けユーコン準州に入ると、道路脇に建っていた
電信柱がなくなる。行く手に灰色の蛇の如く伸びるアルキャン・
ハイウェイが文明の痕跡だが、心細いこと限りない。妻が助手席
でまどろみ話し相手を失うと、こちらも催眠状態に陥る。ふと、
回り灯篭の中を走り続けているような錯覚に捕らわれる。時速8
0キロで何時間も走り続けているのに、確かさっき通り過ぎた湖
やコケの絨毯に覆われた沼地、人の背ぐらいしかない黒々とした
松の林が何回も現れる。まさに走馬燈の影絵世界。もちろん常識
で考えれば、1本道のアルキャン・ハイウェイで道に迷うはずは
ない。走り続けていれば、嫌でもアラスカに行き着く道理だ。に
もかかわらず、徐々に常識が色褪せ、地図やコンパスが信じられ
なくなる。知らぬ間に異次元に迷い込んでしまったのではない
か・・・このあたりの原野は、人の心をたぶらかす特異空間だ。 

ユーコンの真っ只中で、景色に優しさを与えていた木々と地衣類
が見えなくなった。剥き出しの岩肌が迫る。屏風のような一枚岩
が人の視線を超然とはねのける。反対側には深くえぐられた大峡
谷が口を開け、はるか下方には何十にも枝分かれした泥流がどこ
へともなく流れていくばかり。大きさの分かる人工物がないので
距離感が掴めない。対岸まで300メートルなのか数キロなのか
判然としない。ことによると、人類が生まれてからさほど変わっ
ていない光景だ。

周囲十数キロにエリザベスと自分のほか誰もいない。こんなとこ
ろでパンクしたりエンストを起こしたりしたら・・・浮き足立つ
感覚が股間にわき起こるのと、唐突に大地に降り立ってみたくな
るのが同時だった。路肩に車を寄せて止め、エンジンを切る。目
を覚ました妻が不安そうにあたりを見回す。車外に出ると、痛い
ような静寂が押し寄せる。無音の状態が「痛い」というのはいか
にも妙だが、茫洋たる空間を充たす静けさは、都会の喧噪に慣れ
た耳には圧迫と感じられるせいかもしれない。伴侶と立っている
のだが、差し込むような孤独感が背中を貫く。そして、周囲の自
然がことごとくわたしたちを無視していることに気づく。牙を剥
いて迫る凶暴さではない。さりとて慈しみ溢れる優しさでもない。
言ってみれば、人間の存在と営みに対する究極の、聳え立つ無関
心なのだ。

「行きましょう」そう言われて我に返る。人のルールが通じない
場所にいることが急に怖くなり二人して車内に崩れ込む。エンジ
ンの鍵を差し込むが、エリザベスの目は鍵を握る指が微かに震え
ているのを見逃さない。一瞬の躊躇。もしかからなかったら? 
アラスカまで何週間、ことによると何か月かかるかも知れない。
地球の大きさに横面を張られた思いは妻も同じだったろう。祈る
ような気持ちで鍵を回し・・・そしてエンジンが吠えた瞬間、文
明の有難さと心強さに2人とも小躍りした。



(つづく)

加藤喬(たかし)



●著者略歴
 
加藤喬(かとう・たかし)
元米陸軍大尉。都立新宿高校卒業後、1979年に渡米。アラスカ
州立大学フェアバンクス校他で学ぶ。88年空挺学校を卒業。
91年湾岸戦争「砂漠の嵐」作戦に参加。米国防総省外国語学校
日本語学部准教授(2014年7月退官)。
著訳書に第3回開高健賞奨励賞受賞作の『LT―ある“日本
製”米軍将校の青春』(TBSブリタニカ)、『名誉除隊』
『加藤大尉の英語ブートキャンプ』『レックス 戦場をかける
犬』『チューズデーに逢うまで』『ガントリビア99─知られざ
る銃器と弾薬』『M16ライフル』『AK―47ライフル』
『MP5サブマシンガン』『ミニミ機関銃(近刊)』(いずれも
並木書房)がある。 
 
 
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『チューズデーに逢うまで』関係の夕刊フジ
電子版記事(桜林美佐氏):
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150617/plt1506170830002-n1.htm
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150624/plt1506240830003-n1.htm
 
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『レックス 戦場をかける犬』の書評です
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オランダの「介護犬」を扱ったテレビコマーシャル。
チューズデー同様、戦場で心の傷を負った兵士を助ける様子が
見事に描かれています。
ナレーションは「介護犬は目が見えない人々だけではなく、
見すぎてしまった兵士たちも助けているのです」
http://www.youtube.com/watch?v=cziqmGdN4n8&feature=share
 
 
 
きょうの記事への感想はこちらから
 ⇒ https://okigunnji.com/url/7/
 
 
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日本語でも英語でも、日常使う言葉の他に様々な専門用語があ
ります。
軍事用語もそのひとつ。例えば、軍事知識のない日本人が自衛
隊のブリーフィングに出たとしましょう。「我が部隊は1300時
に米軍と超越交代 (passage of lines) を行う」とか「我が
ほう戦車部隊は射撃後、超信地旋回 (pivot turn) を行って離
脱する」と言われても意味が判然としないでしょう。
 
 同様に軍隊英語では「もう一度言ってください」は
 "Repeat" ではなく "Say again" です。なぜなら前者は
砲兵隊に「再砲撃」を要請するときに使う言葉だからです。
 
 兵科によっても言葉が変ってきます。陸軍や空軍では建物の
「階」は日常会話と同じく "floor"ですが、海軍では船にちな
んで "deck"と呼びます。 また軍隊で 「食堂」は "mess 
hall"、「トイレ」は "latrine"、「野営・キャンプする」は 
"to bivouac" と表現します。
 
 『軍隊式英会話』ではこのような単語や表現を取りあげ、
軍事用語理解の一助になることを目指しています。
 
加藤 喬
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そして、メルマガを作る機会を与えてくれた祖国に、心から感謝
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(代表・エンリケ航海王子)

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