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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
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こんにちは、エンリケです。
「裏切りのスパイ戦」「ハイブリッド戦争とインテリジェンス」
でおなじみの、インテリジェンス研究家・山中祥三さんの
短期連載をきょうからスタートします。
今回のテーマは
「米大統領とインテリジェンス」
です。
トランプ大統領とインテリジェンスの関係
に関する話は意外なほど目に触れません。
薄っぺらくない国際情勢認識・分析・判断・決心
をしたいなら必読です。
さっそくどうぞ。
エンリケ
山中さんへの感想や疑問・質問やご意見は、
こちらから⇒
https://okigunnji.com/url/7/
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(新)短期連載・米大統領とインテリジェンス(1)
「トランプ大統領とインテリジェンス機関の微妙な関係」
山中祥三(インテリジェンス研究家)
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□はじめに
皆様ご無沙汰しております。
面白そうなテーマを見つけたので、今回から新シリーズで「米大
統領とインテリジェンス」と題して短期連載(4回予定)を開始
します。
さて、2016年の米大統領選における「ロシア疑惑」をめぐり、
バー(Barr)司法長官は19年3月24日、マラー(Mueller)
特別検察官の捜査報告書の結論に関する書簡を公表しました。
全4頁の結論で、マラー氏が同22日に司法省に提出した捜査報
告書の結論を要約したものです。
これを受けてバー司法長官は「トランプ氏が司法妨害の罪に当
たるという十分な証拠はなし」との判断を下しています。
その結果トランプ大統領は「ロシアとの共謀も司法妨害もなか
った。完全な潔白が証明された」と記者団に語りました。当然、
民主党はこれには満足せず報告書の全体公表を求めていました。
そのため4月18日、バー司法長官は、マラー特別検察官がま
とめた捜査報告書を公表しました。一部は、進行中の捜査に関わ
るなどのため、黒塗りの箇所もありますが報告書は448頁にも
上りました。
報告書は、ロシアによる2016年米大統領選挙への干渉につ
いて二部構成となっています。
I部ではロシア政府が大統領選に組織的に介入していたと断定
し、トランプ陣営とロシア側がたびたび接触していた事実を認定
しています。しかし、トランプ氏の長男が故意に罪を犯したと証
明するのは難しく、証拠不十分のため刑事責任は問えないとの考
えが示されています。
II部では、司法妨害について10の事例が検証されています。
しかし、最終的には大統領が罪を犯したとは結論づけないが、完
全に無罪としたわけでもないと有罪か無罪の判断を見送り、実質
的にその判断を議会に委ねた形になっています。
民主党は、これでも不十分とし、下院司法委員会委員長がマラ
ー氏に対し議会証言を要請し、5月15日の開催が調整されてい
ます。
このような経緯で、約2年に渡った捜査の結果提出された報告
書は、秘密部分を除いて公表されましたが、結局、無罪か有罪か
の判断は明確にされていません。今後議論の場は、議会に移され
るでしょうが、大統領の弾劾のためには、上院で2/3以上の賛
成が必要です。共和党が過半数を占める上院の構成では弾劾のハ
ードルは高いと思われます。
それを見越して、民主党のペロシ下院議長も大統領の弾劾訴追
の手続きには否定的であることから、この件は、司法長官の辞任
要求問題や、今後の大統領選において、トランプ氏の資質を問う
ネガティブキャンペーンの一環などとして使われる可能性が高い
と思われます。
この問題が政争の具にされる状況はまだまだ続くでしょうが、
インテリジェンス機関にとっては、ロシアの「ハイブリッド戦争」
に対する敗北であり、さらにこの件がきっかけで、大統領と米イ
ンテリジェンス機関との関係も最悪のものとなっています。
ロシアの「ハイブリッド戦争」については、以前のメルマガハ
イブリッド戦争とインテリジェンス(2)「米大統領選挙にみる
ハイブリッド戦争の実態」で述べたため、今回は「大統領とイン
テリジェンス機関との関係」について考えてみたいと思います。
実は両者の関係がうまくいっていないのは、トランプ大統領の時
が初めてではありません。今回のメルマガでは、まずトランプ大
統領とインテリジェンス機関との関係を見たあとで歴代大統領と
インテリジェンス機関との関係を見たいと思います。
▼インテリジェンス機関のトップの役割
アメリカのインテリジェンス・コミュニティーは、今でこそ我
が国の自衛隊に匹敵する人員と予算を有しているが、第二次大戦
までは、戦争に備えて設置し、戦争終結とともに組織を廃止する
か、著しく縮小するパターンを繰り返してきた。
第二次大戦直前、対外情報能力に不安を感じていたフランクリ
ン・ルーズヴェルト大統領(1933~45年在任)は、194
1年「情報調整官室(OCI)」を発足させた。その最も重要な
任務は、国家安全保障に関わる全てのインフォメーションを取り
まとめて分析し、大統領らを補佐することであり、人員は600
名、予算は1千万ドルの規模だった。
1942年6月、OCIは戦略情報局(OSS)に改組。第二
次大戦後のインテリジェンス機関は、伝統に則って縮小されよう
としていた。しかし、世界的にソ連の共産主義の影響力が明らか
になるにつれ、軍事面だけでなく、政治面や経済面をバランスよ
く把握する必要に迫られた。ところが、各インテリジェンス機関
からは、見通しの異なるインテリジェンスがバラバラに大統領へ
上がっていた。そのためトルーマン大統領は、国家安全保障に関
するすべてのインフォメーションが適切に共有され、評価され、
大統領のところへ上がるようにする必要に迫られた。
1947年トルーマン大統領政権下、各省庁間の情報活動におけ
る調整を職務とする中央情報組織である中央情報局(CIA)が
設置され、その長官は中央情報長官を兼務した。このようにして、
CIAがアメリカのインテリジェンス・コミュニティーをまとめ
る体制が出来上がり、徐々に強化されていくこととなった。
大統領日々報告(PDB)とは、中央情報長官が毎日大統領に対
して行なう国際情勢に関するブリーフィングであり、長官の重要
な役目の1つであった。
しかし、CIA長官が中央情報長官を兼務することは、インテリ
ジェンス・コミュニティーの中で長らく問題とされてきており、
2001年の9.11同時多発テロなどの教訓にもとづき、04
年のインテリジェンス改革法により、大統領日々報告を含む中央
情報長官としての役割は国家情報長官へ引き継がれることとなっ
た。
▼週に1日だけのトランプ氏へのインテリジェンス報告
2016年12月10日のCNN電子版によれば、翌年1月20
日就任予定のドナルド・トランプ次期米大統領は、安全保障など
に関する日々の情報報告を、平均して週に1回しか受けていない
こと、その一方でマイク・ペンス次期副大統領は日々の報告を受
けていることを、事情に詳しい米当局者が明かした。
内部関係者は、世界の安全保障情勢は矢継ぎ早に変化が起きるこ
とから、米大統領はできる限り最新の情報に精通している必要が
あると指摘する。
大統領への機密情報報告に関する著書があるデービッド・プリ
ース氏は、トランプ氏が報告を受けている頻度は標準以下だと指
摘する。大半の次期大統領は、日々の報告書を読み、報告者とこ
れについて議論する機会を毎日のように持ってきたという。
ただし、プリース氏によれば、以前にもニクソン元大統領のよう
に就任前の口頭による情報報告を受けるのを一切拒否した例もあ
る。当時困ったインテリジェンス機関の当局者は、ニクソン氏の
秘書に書面で毎日報告を送る手段に訴えたものの、こうした封筒
も開封されることなく返送されていたという。
▼トランプ新大統領初の公式訪問はCIA本部訪問
このように、大統領就任前のトランプ氏は、ロシアがサイバー
攻撃で米大統領選に介入したとされる情報に疑問を呈し、歴代大
統領が毎日受けてきた安全保障に関する日々の定例報告は必要な
いとの意向を示すなど、インテリジェンス機関との軋轢が懸念さ
れていた。
しかし、トランプ大統領は就任翌日の2017年1月21日、大
統領としての初の公式訪問先としてバージニア州ラングレーにあ
るCIA本部を選んだ。
CIA訪問の目的は高官から事情説明を受けるためとし、殉職者
を象徴する星が刻まれたCIA玄関ロビーの壁の前でスピーチし
た。そこでは「私とインテリジェンス機関の間に確執があるかの
ように不誠実なメディアが報じている」などと述べ、CIAとの
関係改善をアピールしていた。当日は土曜日にもかかわらず、多
くの職員が参加しスピーチを温かく受け入れた。
▼大統領とインテリジェンス機関との確執の再燃
しかし、トランプ大統領のCIA訪問からわずか1カ月後には、
大統領とインテリジェンス機関との対立が再燃した。この大統領
のインテリジェンス機関への不信感の強まりのきっかけは、同年
2月13日のフリン大統領補佐官の辞任である。
フリン氏をめぐっては、政権発足前にロシア政府関係者と電話
でオバマ前政権の対露制裁を協議したとされる通話記録の内容が
マスコミにリークされた。
下院情報委員会のニューネス委員長は、2017年2月16日、
フリン氏とロシア側との通話記録やトランプ大統領とメキシコ大
統領やオーストラリア首相との電話会談の内容など、機密情報が
リークされた事例の大半はオバマ政権下で採用された政府職員に
よる仕業だとし、党派対立が問題の背景にあるとの見方を示して
いる。
しかしながら、議会やインテリジェンス機関の間では、フリン
氏を含む複数のホワイトハウス幹部とロシア・プーチン政権との
親密な関係を懸念する声が以前からくすぶっていた。
2016年の大統領選挙に保守系の第三勢力から立候補した元
CIA職員のエバン・マクマリン氏は、ツイッターで「インテリ
ジェンス機関の職員は宣誓により、合衆国憲法を国内外の敵から
守ることを第一の任務としている」「米大統領は米国の最大の敵
にとりこまれたのではないか」と指摘。「通話記録のリークはホ
ワイトハウスにロシアの影響力が浸透するのを防ぐためだった」
とし、政権内部のロシア・コネクション解体を狙ったインテリジ
ェンス機関の工作だったとの見方を示した。
ニューヨークタイムズは、2017年2月16日までに、トラ
ンプ大統領が米投資ファンド、サーベラスを率いるスティーブン・
ファインバーグ氏を政権入りさせ、インテリジェンス機関のあり
方を広く再検討する任務にあたらせようとしていると伝えた。フ
ァインバーグ氏は、大統領選でトランプ氏を支援している。サー
ベラスは、企業再建ファンドとして有名であるが、インテリジェ
ンス機関に精通しているわけではないとみられている。2018
年5月11日に、大統領インテリジェンス諮問委員会の長に指名
されている。
また、2018年8月15日にホワイトハウスは、ブレナン元
CIA長官の国家機密情報へのアクセス権を取り消すと発表した。
ブレナン氏はトランプ大統領への厳しい批判で知られ、トランプ
氏による報復との見方が広がっている。米国では後任者らが助言
を得るため、インテリジェンス機関などで幹部だった人物にも退
任後も一定期間、機密情報に接する資格を与え続けることが多い。
どの人物を対象にするかは政権の判断となる。
▼大統領就任後も大統領日報(PDB)をスキップ
CIAのウェブサイトによれば、オバマ政権では大統領や国家
安全保障政策に携わる主要当局者は、週に6日の割合でPDBを
受けていた。
ところが、2018年1月15日のBBCによれば、トランプ大
統領の活動スタイルは、オバマ大統領のスタイルとはかなり異な
っている。トランプ大統領は、共和党全国委員会の「作戦司令部」
が毎朝作っているという「マスコミ報道まとめ」を受け取っている。
また、3人のスタッフが朝6時から、共和党と民主党に関するテ
レビ、新聞、ネットメディアの報道をモニターしていて、30分
ごとにホワイトハウスにレポートを送る。
その後、大統領は執務室へと移動するが、インテリジェンス機関
による日々のブリーフィングの大半はスキップしているようであ
る。行事や打ち合わせは日によってさまざまだが、トランプ大統
領は「エグゼクティブ・タイム」という時間をスケジュールに組み
込んでいる。
アメリカのオンラインニュースメディア・アクシオスが入手した
トランプ大統領の裏スケジュールによれば、エグゼクティブ・タ
イムの実態は、公邸2階のイエロー・オーバル・ルームで、テレ
ビを見たり、電話をしたり、ツイッターしたりしている時間が含
まれるとされる。
このエグゼクティブ・タイムには、公式の打ち合わせなどは含ま
れていない。エグゼクティブ・タイムは1日に合計9時間に及ん
だこともあるようだ。
このようななかで2018年3月、トランプ大統領はティラーソ
ン国務長官を更迭し、その後任に何とポンペオCIA長官を指名
する。
次回はそのあたりのとこから始めたい。
(つづく)
(やまなか・しょうぞう)
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