配信日時 2019/04/26 20:00

【二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉(4)】「作家ごっこ」 加藤喬

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
お仕事の依頼など、問い合わせは以下よりお気軽にどうぞ
 
E-mail hirafuji@mbr.nifty.com
WEB http://wos.cool.coocan.jp
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こんにちは。エンリケです。

加藤さんが翻訳した武器本シリーズ最新刊が出ました。
今回はMP5です。

「MP5サブマシンガン」
L.トンプソン (著), 床井 雅美 (監訳), 加藤 喬 (翻訳)
発売日: 2019/2/5
http://okigunnji.com/url/14/
※大好評発売中


加藤さんの手になる書き下ろしンフィクション
『二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉─』
の第四話です。

戦後日本の空想平和主義に骨の髄まで冒された若者が、
いかにして祖国への帰属感を取り戻したか?を描き出してゆく
この連載はいかがですか?

最終回を迎えるまでなんとも言えないよ、
というのが正直なところかもしれませんが、
今日までの連載で描き出されてきた当時の状況は、
匂いや音とともに自分の中に蘇ってくる印象を受けますね。
当時の自分を懐かしく思い起こしている方も少な
くないようです。

あなたの感想もぜひお聞かせください。
https://okigunnji.com/url/7/


また、
わが国唯一の
米国発・トランプツイッター解読

「今週の「トランプ・ツイッター」」

もいつものごとく充実した内容です。


さっそくどうぞ。


エンリケ


追伸
ご意見ご質問はこちらから
https://okigunnji.com/url/7/


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新シリーズスタート!

『二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉』(4)
 
「作家ごっこ」

Takashi Kato

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□はじめに

 書下ろしノンフィクション『二つの愛国心──アメリカで母国
を取り戻した日本人大尉』の4回目です。「国とは?」「祖国と
は?」「愛国心とは?」など日本人の帰属感を問う作品です。
 
 学生時代、わたしは心を燃え立たせるゴールを見つけることが
できず、日本人としてのアイデンティティも誇りも身につけるこ
とがありませんでした。そんな「しらけ世代の若者」に進むべき
道を示し、勢いを与えたのはアメリカで出逢った恩師、友人、そ
して US ARMY。なにより、戦後日本の残滓である空想的平和主義
のまどろみから叩き起こしてくれたのは、日常のいたるところに
ある銃と、アメリカ人に成りきろうとする過程で芽生えた日本へ
の祖国愛だったのです。
 
 最終的に「紙の本」として出版することを目指していますので、
ご意見、ご感想をお聞かせいただければ大いに助かります。また、
当連載を本にしてくれる出版社を探しています。


□今週の「トランプ・ツイッター」
 
 不法移民の流入で国境警備隊の収容施設が満杯になったことを
受け、トランプ大統領は「移民受け入れに寛容な聖域都市への不
法移民移送を検討中」とツイート。野党の重鎮ペロシ下院議長は
間髪を入れず「この思い付きは米大統領の名に値しない。我が国
が直面する移民問題を軽視している」と反対の意思を示しました。

 聖域都市とは不法移民にも米市民と変わらない社会福祉を与え
る地方自治体を指し、これらの市区町村は全米で500余に上り
ます。ほとんどが民主党支持者の多い地域であることから、トラ
ンプ氏の発言は「国境の壁建設で協力を拒む野党への揶揄(やゆ)」
との見方もあります。対峙して一歩も引かない両氏の姿は西部劇
の決闘シーン顔負け。しかしこの戯画的状況の裏には、アメリカ
を分断する深い溝が潜んでいます。

 民主党の立ち位置は「貧困や迫害を逃れてやってきた人々は差
別なく、すべて受け入れる。これが移民国家アメリカの原点であ
り、また、あるべき姿だ」というユートピア的なものです。開か
れた国境を主張し、不法入国した人々の人権を国内法で擁護する
のもこのためです。これに対し共和党は「アメリカの国益に適う
節度ある移民受け入れ」を提言し、不法移民は犯罪者として取り
締まる現実路線です。

 民主党の理想主義は情緒で物事を考える層に訴えるもので、空
想社会主義に共感する人々や、まだ人生体験が足りない若者層な
どに支持されています。しかし現実社会では、聖域都市の条例で
逮捕を免れた常習不法移民らがアメリカ市民や警察官を殺害する
事件が続発。また不法移民が社会福祉を甘受する一方、アメリカ
のために戦った多くの戦傷復員兵がホームレスになって路上生活
の憂き目に遭っています。分断されたアメリカの日常風景に、ユ
ートピア的「情治」社会を目指すことが、即、現実問題の解決に
はならない教訓があります。

 翻って日本はどうか。「平和を愛する諸外国の人々の公正と信
義を信頼し、我が国の平和と生存を守っていく」という態度は高
潔で、ヒューマニティに訴えるものです。しかしわたしには・・・
日本の立ち位置を示してきたこの一文が、ユートピア的平和主義
と極東の現状に生じた乖離の原因ではないか、と思えてなりません。

 本日のトランプ・ツイッター、キーワードは subject to。「支
配下/影響下/管理下に置かれる」という意味です。

Those Illegal Immigrants who can no longer be legally held 
(Congress must fix the laws and loopholes) will be, subject 
to Homeland Security, given to Sanctuary Cities and States!

「これ以上の期間、法的に拘束できない不法移民は(議会は移民
法を改訂し、法の抜け穴をなくさなければならない)国土安全保
障省の管理下に置かれることとなり、聖域都市と聖域州に移送さ
れる!」



「二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉」(4)

(前号までのあらすじ)
「SF作家や翻訳家として活躍していた父は、わたしにとって憧
憬と畏怖の対象であると同時に、漆黒の大洋に光を発するビーコ
ンのような存在でもあった。その父が口にした「軍人になったら
帰る家はないと思え」との言葉にわたしは戸惑い、人生で初めて
見つけたゴールを失った。本気で取り組めぬまま迎えた大学受験
に失敗し自宅で浪人生活を始めた頃、入退院を繰り返していた父
が47歳で早世した。」

□「作家ごっこ」

新宿花園神社の脇道を通り抜け、勝手知ったるネオン街を目指す。
目的地は新宿ゴールデン街。父が亡くなって間もなく、亡父の作
家仲間に連れられて足を運ぶようになった。

ゴールデン街はビルの谷間の、そこだけ戦後間もなく時計が止ま
ってしまったような不思議な空間。闇市を模した映画のセットに
迷い込んだかの趣だ。百メートル四方の狭い土地に、路地を隔て
た飲食店が長屋のように建ちならぶ。大抵の店には二階に昇る急
角度の階段があり、客が五?六人も入れば身動きが取れなくなった。

新宿区役所寄りの入り口近くだったと思うが、毎晩、店の外に出
した白いバースツールに座って足を組み、紫煙を吐きだす厚化粧
の女がいた。一言も発せず、ただ、けだるい目配りで酔客を誘っ
た。わたしは通り過ぎざま、彼女のバーに出没する得体の知れな
い人々を想像してはひとり興じた。

路地にはネオンに浮かぶ妖しげな扉が無数に口を開け、その一つ
一つの内側で夜な夜な百鬼夜行の図が繰り広げられているに違い
なかった。なぜか、それが心優しい光景に思えた。あらゆるディ
テールが曝(あば)かれる昼間は許されない「ごっこ遊び」の仮
想空間。輪郭のぼやけた、曖昧な、だからこそ、見果てぬ夢もい
っとき叶う別世界。

七〇年代後半「ばあ まえだ」は文壇バーとして名が通っていた。
客のなかには手編み帽子の似合う直木賞作家がいて、いつも普段
着姿で飲んでいた。

「ああ、タカシちゃん、いらっしゃい」

まえだのママは化粧っ気のない顔でいつもそう迎えてくれる。注
文しなくても、定番の皮付きピーナッツとニッカ・ウイスキーの
水割りが出る。わたしは誰と話すでもなく、ただ、周りで交わさ
れる言葉に聞き耳を立てつつウイスキーを舐める。ピーナツはい
つも手付かずのままだ。

夜な夜な、名の通った作家や、その参謀を務める腕利き編集者ら
がやって来る。頂点の人たちを間近にし、彼らの息づかいに触れ
ていると、なぜか先への不安が和らいだ。

ほろ酔い加減のSF作家のひとりが、
「これ、Fさんの息子。オレの忘れ形見」
と言ったことがある。わたしは嬉しかった。本物の作家達の仲間
入りが許されたように感じたからだ。そんなことが重なるうち、
この酒場が、作家である父の息づかいや振る舞いに触れ、まだ知
らなかった父と繋がる儀式の場になって行った。夜のゴールデン
街を充たすレトロな雰囲気も手伝って、そんな「作家ごっこ」が
妙に信じられた。

一九七七年、私は大学に籍は置きながらも授業にはいっさい出て
いなかった。週に三?四日、まだ国鉄と呼ばれていた山手線の渋
谷駅近くでバラの露天商をやった。酔客相手にけっこうな金にな
ったが、みかじめ料を取り立てるヤクザを避け頻繁に場所を変え
なければならなかった。幼なじみに頼まれ、蜂の子やイナゴが売
りの郷土料理屋でバーテンの真似事もやった。昼間は懸賞小説応
募を名目に、おんなともだちの家にこもり原稿用紙の枡目を埋め
る毎日。糸の切れた凧。父が亡くなってからの自分だった。

バイトと作家ごっこの生活に先がないことは予感していた。が、
心を燃え立たせるゴールが見当たらない。二十歳の体力も気力も
みなぎっているのに、エネルギーの向けどころが掴めない。

この体たらくを見かねたのか、父の作家仲間でもあり叔父にもあ
たるMが勧めた。

「このまま日本にいたらダメになる。アメリカに行って英語をモ
ノにして来い」

この留学提案にわたしはたじろいだ。英語が出来なかったからで
ある。ヨーロッパ旅行で触発された英語熱とは裏腹に、会話のレ
ベルはその後も足踏み状態。英語の勉強すらままならないのに、
英語で文学や歴史、心理学や哲学を学ぶことに怖じ気づいた。い
きおい米国留学への返答はずるずる先延ばしされ、一年経っても
具体的な計画は何一つできていなかった。

その晩、「まえだ」に翻訳家Tがやってきた。のちに小説を書き、
直木賞を取る。

Tには幼い頃の思い出がある。団地住まいの頃、しばしば父を訪
ねてやってきた。兵隊のような刈りあげに黒縁メガネ、そして太
い眉毛がトレードマークだった。小学生の目にも質実剛健と映っ
たが、外見に似合わず子供好きで、私は何回か肩車をしてもらっ
た記憶がある。Tおじさん。そう呼んでいた。

あとで知るのだが、翻訳家志望だったTを勤め先に編集者として
入社させ、父が社を辞めるときには後継者としたのだという。そ
のころは、フリーとなり、翻訳だけでなく、随筆でも活躍してい
た。

 この晩、Tと会うのは父の葬儀以来。一年以上が過ぎていた。

「お久しぶりです」
 
 答えはなかった。妙だと思った。まえだの狭い店内で聞こえな
いはずはない。

「恥ずかしい文章を書きやがって」

 ずいぶん経ってからTがぼそりと言った。心持ち顔を下げグラ
スを覗き込んでいる。誰に向かって発された言葉か分からず、私
はただ「はい?」と言った。

「雑誌にキミが書いた文章だ」

今度は、眼光鋭い目が黒メガネの奥からわたしを見すえた。ふざ
けているのではなかった。もとよりジョークが言える人ではない。

父が死んで二、三か月後、父が創刊した雑誌に、当時の編集長の
厚意で短い文章を書かせてもらった。三八年経って読み返してみ
ると、「壁」に見立てた亡父を乗り越えようと気負う、拙い文だ。
だがあの晩、幼少の記憶とカウンターの端で憮然とするTとが繋
がらず、酔いと困惑が同時進行で深まった。

「こんなところに出入りして、作家気取りか」

ああ、そうだったか。見事な直撃弾に返す言葉もない。

「キミは息子かもしれないが、息子イコール作家じゃない」

プロがこちらの弱みを冷徹に言い当てた。退却しかない。腰を浮
かせかけたとき、

「Fなんて、たいしたことはなかったんだ」

耳を、疑った。だが、彼に目を向ける客は他にいない。本人もま
えだのママも鬼籍に入り、店もなくなった今、彼が本当にそう言
ったのかを知る術はない。また父の後を継いだにもかかわらず、
ほどなくやめる不本意さから、鬱屈したものがあったのかもしれ
ない。ひとつ確かなのは、わたしがこの反撃のチャンスを逃さな
かったことだ。

「貴様」

 声を荒げTににじり寄ろうとするのと、「まえだ」のママが
「たかしちゃん、止めなさい」
と命令するのが同時だった。まえだで彼女の言葉に逆らえる者は
いない。血がのぼった二十歳にも本能で分かった。

弾かれたようにドアを出て、「ごっこ遊び」のネオン街から走り
去った。酔客でごった返す歩道を闇雲に歩く。そして、何度もつ
ぶやく「もう日本には居られない・・・」

数日後、叔父にアメリカ行きの決心を伝えた。


(以下次号)


加藤喬(たかし)


●著者略歴
 
加藤喬(かとう・たかし)
元米陸軍大尉。都立新宿高校卒業後、1979年に渡米。アラスカ
州立大学フェアバンクス校他で学ぶ。88年空挺学校を卒業。
91年湾岸戦争「砂漠の嵐」作戦に参加。米国防総省外国語学校
日本語学部准教授(2014年7月退官)。
著訳書に第3回開高健賞奨励賞受賞作の『LT―ある“日本
製”米軍将校の青春』(TBSブリタニカ)、『名誉除隊』
『加藤大尉の英語ブートキャンプ』『レックス 戦場をかける
犬』『チューズデーに逢うまで』『ガントリビア99─知られざ
る銃器と弾薬』『M16ライフル』『AK―47ライフル』
『MP5サブマシンガン』『ミニミ機関銃(近刊)』(いずれも
並木書房)がある。 
 
 
追記
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『チューズデーに逢うまで』発売中
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『チューズデーに逢うまで』関係の夕刊フジ
電子版記事(桜林美佐氏):
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150617/plt1506170830002-n1.htm
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150624/plt1506240830003-n1.htm
 
『レックス 戦場をかける犬』発売中
http://www.amazon.co.jp/dp/489063309X 
 
『レックス 戦場をかける犬』の書評です
http://honz.jp/33320

オランダの「介護犬」を扱ったテレビコマーシャル。
チューズデー同様、戦場で心の傷を負った兵士を助ける様子が
見事に描かれています。
ナレーションは「介護犬は目が見えない人々だけではなく、
見すぎてしまった兵士たちも助けているのです」
http://www.youtube.com/watch?v=cziqmGdN4n8&feature=share
 
 
 
きょうの記事への感想はこちらから
 ⇒ https://okigunnji.com/url/7/
 
 
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日本語でも英語でも、日常使う言葉の他に様々な専門用語があ
ります。
軍事用語もそのひとつ。例えば、軍事知識のない日本人が自衛
隊のブリーフィングに出たとしましょう。「我が部隊は1300時
に米軍と超越交代 (passage of lines) を行う」とか「我が
ほう戦車部隊は射撃後、超信地旋回 (pivot turn) を行って離
脱する」と言われても意味が判然としないでしょう。
 
 同様に軍隊英語では「もう一度言ってください」は
 "Repeat" ではなく "Say again" です。なぜなら前者は
砲兵隊に「再砲撃」を要請するときに使う言葉だからです。
 
 兵科によっても言葉が変ってきます。陸軍や空軍では建物の
「階」は日常会話と同じく "floor"ですが、海軍では船にちな
んで "deck"と呼びます。 また軍隊で 「食堂」は "mess 
hall"、「トイレ」は "latrine"、「野営・キャンプする」は 
"to bivouac" と表現します。
 
 『軍隊式英会話』ではこのような単語や表現を取りあげ、
軍事用語理解の一助になることを目指しています。
 
加藤 喬
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PS
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マガジン作りにご協力いただいた各位に、心から感謝しています。
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しています。ありがとうございました。

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