配信日時 2019/04/19 20:00

【二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉(3)】「英語は採点対象ではない」 加藤喬

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
お仕事の依頼など、問い合わせは以下よりお気軽にどうぞ
 
E-mail hirafuji@mbr.nifty.com
WEB http://wos.cool.coocan.jp
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こんにちは。エンリケです。

加藤さんが翻訳した武器本シリーズ最新刊が出ました。
今回はMP5です。

「MP5サブマシンガン」
L.トンプソン (著), 床井 雅美 (監訳), 加藤 喬 (翻訳)
発売日: 2019/2/5
http://okigunnji.com/url/14/
※大好評発売中


加藤さんの手になる書き下ろしンフィクション
『二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉─』
の第三話です。

感想をお聞かせください。

さっそくどうぞ。


エンリケ


追伸
ご意見ご質問はこちらから
https://okigunnji.com/url/7/


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新シリーズスタート!

『二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉』(3)
 
「英語は採点対象ではない」

Takashi Kato

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□はじめに

 書下ろしノンフィクション『二つの愛国心──アメリカで母国
を取り戻した日本人大尉』の3回目です。「国とは?」「祖国と
は?」「愛国心とは?」など日本人の帰属感を問う作品です。
 
 学生時代、わたしは心を燃え立たせるゴールを見つけることが
できず、日本人としてのアイデンティティも誇りも身につけるこ
とがありませんでした。そんな「しらけ世代の若者」に進むべき
道を示し、勢いを与えたのはアメリカで出逢った恩師、友人、そ
して US ARMY。なにより、戦後日本の残滓である空想的平和主義
のまどろみから叩き起こしてくれたのは、日常のいたるところに
ある銃と、アメリカ人に成りきろうとする過程で芽生えた日本へ
の祖国愛だったのです。
 
 最終的に「紙の本」として出版することを目指していますので、
ご意見、ご感想をお聞かせいただければ大いに助かります。また、
当連載を本にしてくれる出版社を探しています。


□今週の「トランプ・ツイッター」
 
 先日、東アフリカのウガンダ共和国でアメリカ人女性と現地の
ガイドが武装集団に誘拐されました。これを受けトランプ大統領
は「誘拐犯を迅速に逮捕し、裁きを受けさせろ」とツイート。ほ
どなく拉致被害者らは無事解放され、8人のウガンダ人が誘拐容
疑で同国治安部隊によって拘束されています。事件発生直後から
米軍は、ウガンダ治安部隊に対し情報収集および監視、偵察など
の支援と連絡要員を提供したということです。トランプ大統領が、
海外で窮地に陥った同胞保護をいかに真剣にとらえているかを示
す逸話です。

 1979年、テヘランのアメリカ大使館がイスラム法学生らに
占拠され外交官など50人以上が人質になった事件でも、当時の
カーター大統領は四軍を投入し救出作戦を敢行しています。ヘリ
の不調などで任務は中止となりましたが「自国民救出のためなら、
米国は武力行使をいとわない」という固い決意を全世界に示した
のです。

 ことほど左様に「大きな棍棒を持って紳士的に話す」のがアメ
リカ流。武力の裏打ちがない外交は無力だと知っているからです。
見方を変えれば棍棒外交とは、一般市民と政治家が自国軍をきわ
めて深く信頼、尊敬して初めて可能なのです。

 翻って日本はどうか。太平洋上に墜落したF35戦闘機に関し、
身を挺して防衛任務につくパイロットへの感謝や尊敬は聞かれず
「まかり間違えば基地周辺の住民が犠牲になっていたかも知れな
い」との発言が報道されています。また「宮古島住民への配慮か
ら、陸自駐屯地から誘導ミサイルと迫撃砲の弾薬を撤去した」防
衛省判断にも耳を疑います。台湾有事となれば最前線に立つ部隊
が、丸腰でどう戦うのか・・・
 
 いずれの事例でも、一部の国民がまだ自衛隊を真の国防軍とし
て受け入れられない事実と、政治家が国民の軍隊アレルギーを恐
れるあまり自衛官を犠牲にしている現状が露呈しています。棍棒
外交が禁じ手とされるのも、いまだにはびこる軍不信も戦後の残
滓。このままでは国がもちません。

 本日のトランプ・ツイッター、キーワードは bring someone 
to justice。「裁判にかける」「裁きを受けさせる」を意味する
慣用表現です。


Uganda must find the kidnappers of the American Tourist 
and guide before people will feel safe in going there. 
Bring them to justice openly and quickly!

「ウガンダ政府はアメリカ人旅行者と現地ガイドの誘拐犯らを探
し出せ。さもないと旅行者は安心して行けなくなる。誘拐犯らに
裁きを受けさせろ、速やかに公開法廷で!」


「二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉」(3)


(前号までのあらすじ)
 自衛隊パイロットを目指す計画は父の予想外の言葉で頓挫。ほ
どなく、生まれて初めて国外に出たわたしは、自分の英語がまっ
たく役に立たないことを思い知らされた。流ちょうな英語を操り、
外国人と難なく意思疎通する知人の存在に衝撃を受け「採点対象
ではない英語」の存在に気づいた。

「英語は採点対象ではない」

 1976年、あまり勝算のない大学受験が近づいていた。逃げ
場のない焦燥感が内側から身を焼く日々。「受験だけで、その後
の人生がすべて決まるはずはない」と担任に相談してみた。「大
学合格以外に加藤の人生はない」とにべもなかった。「いま逃げ
たら行き場はない」とも諭された。ビルに囲まれた日当たりの悪
い校庭が格子なき監獄に思われ、登校するたび気持ちが萎(な)
えていった。気分が悪いと保健室に逃れたが、消毒液の臭気が病
院を連想させ、それが死のイメージに繋がって慄(おのの)いた。
このままでは危ないと思った。

これに遡る1973年、父は悪性リンパ腺腫瘍を発病していた。
40年前、この血液癌は死に至る病。次の3年間、御茶ノ水の順
天堂大学医学部付属順天堂医院に手術のための入退院を繰り返し
た。担当医らの勧めに従い、本人への告知はされなかった。この
頃、父の書斎にエリザベスキューブラー・ロスの『死ぬ瞬間:死
にゆく人々との対話』など、死の受容プロセスについての書籍が
山積みになった。尋常ならぬ洞察力を持つ父のこと。不条理な運
命を見通していたと思う。

1976年2月、制癌剤の効果が失せ、父は三度目の手術を受け
た。その翌月、案の定、わたしは大学受験にすべて落ちた。見舞
いに行った際「来年がんばれば良い」と言われたが、来年にはこ
の世の人ではないかも知れない父を前に、無邪気に「はい」とは
答えられない。親しい人らにわたしの受験校名を告げ、微かに微
笑んでいたという父。その期待を裏切った後ろめたさもあった。

ほどなく喀痰検査で結核菌が発見された。強制退院を余儀なくさ
れ、父は東京郊外の療養所に移って行った。

4月9日、自宅浪人生活を始めて間もないわたしは、一本の電話
を受けた。父が療養中だった清瀬の国立療養所東京病院からだ。
電話先の婦長は「患者の様態が急変し血圧が降下し始めたので直
ぐ来て欲しい」と言う。母が付き添っているはずだと答えると、
いつも通り小一時間前に帰ったとの返答。間が悪い。ネットも携
帯電話もない時代、こちらに向かっている母に急を告げる手段は
ない。自分にできるのは一刻も早く清瀬に向かうこと。玄関に母
への置き手紙を残し、タクシーを飛ばした。

事情を話すと、運転手は喜々としてカミカゼ運転を始めた。ギア
チェンジの時間を惜しむかのように、加速時はエンジンの回転数
をギアに合わせ、クラッチを踏まずにシフトした。行先を確かめ
る運転手への受け答えもそこそこに、私は後部座席で沈思した。
今や避けがたい父の最期、ほどなく聞くだろう母や弟の慟哭、一
家が直面する不透明な未来、父という人生のビーコンを失う戸惑
いなど、思考の断片が沸き起こっては消え、舞い戻り、乱舞した。

 一歩入るや病室の空気がいつもと違うと感じた。医師らも看護
婦達も普段の柔和な表情をかなぐり捨て、駆け足で入退室を繰り
返している。その中心にいるのは林立する点滴に囲まれた父。近
づいて怖々覗き込むと、両目が茶色く濁っている。生気の失せた
視線がジーッと注がれたが、粘土のような表情に変化は現れない。
いたたまれず右手を握ると、押し返された。拒絶ではなく、前後
不覚の姿を見られたくない強い矜持だったろう。

 作家は微かに「ペン」と言った。小物机にあった書きかけの原
稿用紙と万年筆をあてがう。万年筆はポロリとシーツの上に落ち
た。濁った瞳の向こう側の心は、このときなにを書き残そうと欲
したのか。父はSFの翻訳や児童文学に傾注しつつも、基本的に
は私小説の作家だと任じていた。だが、そのころまだ創作者とし
ては燃焼しきっていなかった。創作に心血を注ぐべき時間を、病
魔に奪われた無念を伝えたかったのだろうか・・・

病室のドアが勢いよく開き、主治医と助手が駆け込んできた。看
護婦数人がトレイに載ったポンプのような器具を押して後に続く。
反射的に父の脇を離れ、目の前で展開する救命措置を見守った。
瞳孔をチェックし聴診器を胸にあてがっていた主治医が叫ぶ。
「カンフルだ!」間髪を入れず助手が太い注射針のついたシリン
ダーを手渡す。医師の手が患者の胸を尺取り虫のように這い、心
臓の位置を確認するとやおら注射器を突き立てた。シリンダーに
鮮血が流れ込む。それを押し返すように医師は渾身の力でピスト
ンを押し込んだ。

「板を背中に。早く!」指示された助手と看護婦たちが父の身体
の下に板を押し込む。医師は患者の上に覆いかぶさり、両手を重
ね心臓マッサージを始めた。はだけた着物から父の痩せ細った身
体が見える。力なく横たわったまま動かない。「代わってくれ!」
息を切らした医師の声に、助手が素早くマッサージを引き継ぐ。
「ポンプ!」看護婦がベッド脇の器具から伸びる細いチューブを
医師に手渡す。彼はそれを患者の口から喉へ、喉から胃へと挿入
しスイッチを押した。不快な音と共に、どす黒い液体が吸い出さ
れてきた。血だろうか。

ひとしきり吸引が終わると、医師が何回も瞳孔と鼓動を確かめ・・・
そして初めてわたしを見て「息子さんですね」と言った。

ほどなく、医師も助手も看護婦達も潮が引くように病室を後にし
た。わたしは不気味なポンプの横に、動かぬ父と共に取り残され
ていた。


(以下次号)


加藤喬(たかし)


●著者略歴
 
加藤喬(かとう・たかし)
元米陸軍大尉。都立新宿高校卒業後、1979年に渡米。アラスカ
州立大学フェアバンクス校他で学ぶ。88年空挺学校を卒業。
91年湾岸戦争「砂漠の嵐」作戦に参加。米国防総省外国語学校
日本語学部准教授(2014年7月退官)。
著訳書に第3回開高健賞奨励賞受賞作の『LT―ある“日本
製”米軍将校の青春』(TBSブリタニカ)、『名誉除隊』
『加藤大尉の英語ブートキャンプ』『レックス 戦場をかける
犬』『チューズデーに逢うまで』『ガントリビア99─知られざ
る銃器と弾薬』『M16ライフル』『AK―47ライフル』
『MP5サブマシンガン』『ミニミ機関銃(近刊)』(いずれも
並木書房)がある。 
 
 
追記
「MP5サブマシンガン」
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『チューズデーに逢うまで』関係の夕刊フジ
電子版記事(桜林美佐氏):
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150617/plt1506170830002-n1.htm
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150624/plt1506240830003-n1.htm
 
『レックス 戦場をかける犬』発売中
http://www.amazon.co.jp/dp/489063309X 
 
『レックス 戦場をかける犬』の書評です
http://honz.jp/33320

オランダの「介護犬」を扱ったテレビコマーシャル。
チューズデー同様、戦場で心の傷を負った兵士を助ける様子が
見事に描かれています。
ナレーションは「介護犬は目が見えない人々だけではなく、
見すぎてしまった兵士たちも助けているのです」
http://www.youtube.com/watch?v=cziqmGdN4n8&feature=share
 
 
 
きょうの記事への感想はこちらから
 ⇒ https://okigunnji.com/url/7/
 
 
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日本語でも英語でも、日常使う言葉の他に様々な専門用語があ
ります。
軍事用語もそのひとつ。例えば、軍事知識のない日本人が自衛
隊のブリーフィングに出たとしましょう。「我が部隊は1300時
に米軍と超越交代 (passage of lines) を行う」とか「我が
ほう戦車部隊は射撃後、超信地旋回 (pivot turn) を行って離
脱する」と言われても意味が判然としないでしょう。
 
 同様に軍隊英語では「もう一度言ってください」は
 "Repeat" ではなく "Say again" です。なぜなら前者は
砲兵隊に「再砲撃」を要請するときに使う言葉だからです。
 
 兵科によっても言葉が変ってきます。陸軍や空軍では建物の
「階」は日常会話と同じく "floor"ですが、海軍では船にちな
んで "deck"と呼びます。 また軍隊で 「食堂」は "mess 
hall"、「トイレ」は "latrine"、「野営・キャンプする」は 
"to bivouac" と表現します。
 
 『軍隊式英会話』ではこのような単語や表現を取りあげ、
軍事用語理解の一助になることを目指しています。
 
加藤 喬
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