配信日時 2019/04/12 20:00

【二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉(2)】「軍人になったら帰る家はないと思え」 加藤喬

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
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E-mail hirafuji@mbr.nifty.com
WEB http://wos.cool.coocan.jp
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こんにちは。エンリケです。

加藤さんが翻訳した武器本シリーズ最新刊が出ました。
今回はMP5です。

「MP5サブマシンガン」
L.トンプソン (著), 床井 雅美 (監訳), 加藤 喬 (翻訳)
発売日: 2019/2/5
http://okigunnji.com/url/14/
※大好評発売中


加藤さんの手になる書き下ろしンフィクション
『二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉─』
の第二話です。

加藤少年の戦いが始まります。

さっそくどうぞ。


エンリケ


追伸
ご意見ご質問はこちらから
https://okigunnji.com/url/7/


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新シリーズスタート!

『二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉』(2)
 
「軍人になったら帰る家はないと思え」

Takashi Kato

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□はじめに

 書下ろしノンフィクション『二つの愛国心──アメリカで母国
を取り戻した日本人大尉』の2回目です。「国とは?」「祖国と
は?」「愛国心とは?」など日本人の帰属感を問う作品です。
 
 学生時代、わたしは心を燃え立たせるゴールを見つけることが
できず、日本人としてのアイデンティティも誇りも身につけるこ
とがありませんでした。そんな「しらけ世代の若者」に進むべき
道を示し、勢いを与えたのはアメリカで出逢った恩師、友人、そ
して US ARMY。なにより、戦後日本の残滓である空想的平和主義
のまどろみから叩き起こしてくれたのは、日常のいたるところに
ある銃と、アメリカ人に成りきろうとする過程で芽生えた日本へ
の祖国愛だったのです。
 
 最終的に「紙の本」として出版することを目指していますので、
ご意見、ご感想をお聞かせいただければ大いに助かります。また、
当連載を本にしてくれる出版社を探しています。


□今週の「トランプ・ツイッター」
 
 2017年、英国のジャーナリストで政治評論家のダグラス・
マレーが『ヨーロッパの不可思議な死』を上梓、論争を巻き起こ
しました。論旨はヨーロッパ文化の自死。ただならぬ主張です。
いわく「ギリシャ・ローマおよびキリスト教の伝統を継承してき
た欧州が内部から変質し、崩壊の瀬戸際にある」と。

 その原因として挙げられているのが、まず中東や北アフリカか
ら押し寄せた100万人を超える移民です。欧州の指導者らは多
文化主義を謳い、迫害や貧困から逃れてきた者は拒まずの政策を
貫きました。しかし、このユートピア的人道路線のつけを払わさ
れたのは一般市民。ヨーロッパの文化と伝統、言語、価値体系を
敵視する一部の移民が犯罪やテロに走ったのです。

 2015年、死者120名、負傷者300名以上を出したとさ
れるパリ同時多発テロや、同年ドイツで起きた大晦日集団女性暴
行事件が日本でも広く報道されましたから覚えている読者もいる
でしょう。著者はさらに「欧州の出産率低下」と「欧州が自らの
信条、伝統、そして正当性を見失った」ことを理由に挙げていま
す。

 移民受け入れを主導したとして批判を浴びるメルケル独首相や、
参加者30万人と言われる黄色いベスト運動に辞任を迫られるマ
クロン仏大統領、そして、欧州連合からの合意なき離脱問題で八
方塞がりのメイ英首相らの窮状を見るにつけ「ヨーロッパの自死」
にはそれなりの説得力があります。

 国境を廃し独立国家としてのアイデンティティが揺らいでいた
ところに、ヨーロッパ文化への同化を拒む移民が無秩序に流れ込
んだ・・・社会が未曽有の混沌に陥っても不思議はありません。
その反動は、欧州全体での白人至上主義や移民排斥運動過激化と
いう不幸なかたちで現れています。

 第二次世界大戦以降、移民受け入れのノウハウを体得してきた
はずの欧州ですらこの窮状。一方、単一民族国家であることを誇
ってきた日本は異民族との共存を体験したことが皆無です。日本
が欧州各国の二の舞を演じる可能性を軽視し、充分な議論を経ず
与党の賛成多数で成立した改正入管法が今月から施行され、次の
5年間で35万人の外国人労働者が定住します。労働力不足解消
のため移民国家を目指す与党に対し、野党の政治家諸氏が祖国へ
の献身と国政参加の腕前を見せるべきは正に今。失言大臣の罷免
にうつつを抜かしている時ではないのです。

 翻って、トランプ大統領が政治的リスクを冒してまで国家非常
事態を宣言し、国境の壁建設を急いでいるのはなぜか?急進左派
に乗っ取られた民主党が目指す「開かれた国境」が「米国文化の
自死」に結びつくと見抜いているからです。ワイルドカード大統
領は、国境が「国家を束ねる箍(たが)」であることを誰より良
く理解している。わたしはそう見ています。

 本日のトランプ・ツイッター、キーワードは open invitation。
「誰でもいつでも歓迎の招待」を意味します。米国境警備隊職員
ユニオンの副組合長、アート・デル・クエト氏が民主党議員らに
送ったメッセージをトランプ氏が再ツイッターしたものです。

“I haven’t seen any Democrats down here at the Border 
working with us or asking to speak to any of us. They have 
an open invitation. We are getting overrun, our facilities 
are overcapacity. We are at an emergency crisis.” Art Del 
Cueto, National Border Patrol Council.

「民主党議員らに『いつでも歓迎の招待状』を送ったが、国境ま
でやってきてわれわれ警備隊員に協力し、質問し、話しかけてき
た者はまだいない。国境警備隊は(不法移民の数に)圧倒されか
けており、移民収容施設は満杯状態。危機的非常事態だ」米国国
境警備隊職員ユニオン副組合長、アート・デル・クエト。



「二つの愛国心─アメリカで母国を取り戻した日本人大尉」(2)

「軍人になったら帰る家はないと思え」


(前号までのあらすじ)
 昭和30年代、日本の日常生活にはまだ先進国の面影はなかっ
た。日本人としてのアイデンティティも祖国愛も知らずに育った
わたしは、自然と父の蔵書やテレビで見るアメリカの風景に憧れ
た。西部劇の主人公らが白昼堂々携行する拳銃やライフルに目を
奪われる同時に、星条旗パッチを肩に天に向かって駆け上がって
いく宇宙飛行士の姿に痺れた。アメリカが「夢の国」になってい
った。


1970年、大阪万国博覧会開催。8月の炎天下、わたしは父と広大
な会場を歩いていた。父はそぞろ歩き、ということをしない。い
つも足早にどこかを目指した。一挙一動に「目的」がある。使命
感に突き動かされるかの姿が頼もしく、眩しく、わたしもそうな
りたいと願った。

父は三菱未来館の企画アドバイザーとしてEXPO70には企画
段階から加わり、会場と展示内容を熟知していた。その父の肝い
りで、開催期限も終わりに近づいていた万博の主要パビリオンを
巡る一日だった。

初めて見る千里丘陵は見渡す限り、突如出現した奇抜なパビリオ
ンに覆われていた。壮大な屋根に覆われたお祭り広場中央に鎮座
するアート・オブジェ太陽の塔。フランス館の巨大ドーム群、月
面基地を連想させるアメリカ館。着陸したUFO然とした東芝館。
どこを向いても、これまで見たことのない奇想天外で遊び心のあ
るカタチが飛び込んでくる。父が描く未来都市に彷徨い込んだか
の非現実感に首まで浸かり、作家の息子であることに、得も言わ
れぬ誇らしさと愉快を覚えた。

小一時間後、わたしたちはアメリカ館の中にいた。再突入の熱で
焼け焦げたアポロ11号の司令船が目の前にあった。アームストロ
ング船長がこれに乗って月に行った。実物の宇宙船とアームスト
ロングの存在が後ろ盾になり、暖めてきた決心を打ち明けた。

「ニール・アームストロングのようにパイロットになる。自衛隊
に入りたい」

父は長いこと無言だった。館内の喧噪にかき消され、告白が聞こ
えなかったのではないかと思った。

「自衛隊に入るのは良いが、軍人になったら帰る家はないものと
思ってほしい」

発された言葉はすぐには意味をなさなかった。それが「勘当」を
意味すると分かり驚愕した。身を守るために散弾銃を所持してい
た父が、自衛隊や武器を認めないはずはない。しかも、アームス
トロングのエピソードから戦闘機パイロットという職業に好意的
だと思っていた。困惑の極みで、父の真意を模索した。戦時中、
中等学校以上に配属された退役将校や下士官による学生、生徒た
ちへの軍事教練で芽生えた軍に対する嫌悪? 体罰や新兵イジメ
が日常化し、兵を消耗品として扱った旧軍に対するアレルギーか? 
あるいは敗戦の危機を目の前にして、大学生学徒出陣の年齢に達
しなかったにしても、予科練その他に志願しなかった引け目の裏
返しか? はたまた、進駐軍の雇われ通訳時代に味わった屈辱か・・・
いずれにせよ、わたしは父の意向に背くことを何よりも恐れた。
だから反論や批判は避け、本能の警告に従い、これ以降、父の前
では軍志向を封印した。


  わたしが初めて日本の外に出たのは1975年。父が後学のため
にと、ユネスコ主催のヨーロッパ・ツアーに席をとってくれたの
だ。その思惑は見事に功を奏した。この旅行で流暢に英語を操る
同年の男子高校生に出逢い、人知れず度肝を抜かれたからだ。大
英博物館でもモンマルトルの丘でもレマン湖湖畔のレストランで
もコロセウムの前でも、例の生徒の周りに英語を解する外国人が
集い、笑い声が湧いた。勉強家タイプではなく、むしろ世慣れた
遊び人の雰囲気を持つ男だったが、英語の受け答えのタイミング
が絶妙かつ自然で、教室英語のぎこちなさがカケラもない。聞け
ばアマチュア無線が趣味で、世界各国のハム達と交信して英語を
モノにしたらしい。雑音がひどい短波無線の英語を聞き分ける日
々の作業が、知らずのうちに聴解訓練になっていたのだ。切れ目
ない音の流れにしか聞こえないイギリス英語も、このアマチュア
無線家は難なく解した。受験で暗記した単語や慣用句で対抗しよ
うにも、話題と質問がチンプンカンプンで手も足も出ない。完敗
だった。

「こいつの英語は採点対象なんかじゃない。意思伝達の道具なの
だ!」

 頭上を無慈悲に素通りしていく英語に、生まれてこのかた感じ
たことのない、目が眩む嫉妬と羨望を覚えた。


(以下次号)


加藤喬(たかし)


●著者略歴
 
加藤喬(かとう・たかし)
元米陸軍大尉。都立新宿高校卒業後、1979年に渡米。アラスカ
州立大学フェアバンクス校他で学ぶ。88年空挺学校を卒業。
91年湾岸戦争「砂漠の嵐」作戦に参加。米国防総省外国語学校
日本語学部准教授(2014年7月退官)。
著訳書に第3回開高健賞奨励賞受賞作の『LT―ある“日本
製”米軍将校の青春』(TBSブリタニカ)、『名誉除隊』
『加藤大尉の英語ブートキャンプ』『レックス 戦場をかける
犬』『チューズデーに逢うまで』『ガントリビア99─知られざ
る銃器と弾薬』『M16ライフル』『AK―47ライフル』
『MP5サブマシンガン』(いずれも並木書房)がある。 
 
 
追記
「MP5サブマシンガン」
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『AK-47ライフル』
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『チューズデーに逢うまで』発売中
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『チューズデーに逢うまで』関係の夕刊フジ
電子版記事(桜林美佐氏):
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150617/plt1506170830002-n1.htm
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150624/plt1506240830003-n1.htm
 
『レックス 戦場をかける犬』発売中
http://www.amazon.co.jp/dp/489063309X 
 
『レックス 戦場をかける犬』の書評です
http://honz.jp/33320

オランダの「介護犬」を扱ったテレビコマーシャル。
チューズデー同様、戦場で心の傷を負った兵士を助ける様子が
見事に描かれています。
ナレーションは「介護犬は目が見えない人々だけではなく、
見すぎてしまった兵士たちも助けているのです」
http://www.youtube.com/watch?v=cziqmGdN4n8&feature=share
 
 
 
きょうの記事への感想はこちらから
 ⇒ https://okigunnji.com/url/7/
 
 
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日本語でも英語でも、日常使う言葉の他に様々な専門用語があ
ります。
軍事用語もそのひとつ。例えば、軍事知識のない日本人が自衛
隊のブリーフィングに出たとしましょう。「我が部隊は1300時
に米軍と超越交代 (passage of lines) を行う」とか「我が
ほう戦車部隊は射撃後、超信地旋回 (pivot turn) を行って離
脱する」と言われても意味が判然としないでしょう。
 
 同様に軍隊英語では「もう一度言ってください」は
 "Repeat" ではなく "Say again" です。なぜなら前者は
砲兵隊に「再砲撃」を要請するときに使う言葉だからです。
 
 兵科によっても言葉が変ってきます。陸軍や空軍では建物の
「階」は日常会話と同じく "floor"ですが、海軍では船にちな
んで "deck"と呼びます。 また軍隊で 「食堂」は "mess 
hall"、「トイレ」は "latrine"、「野営・キャンプする」は 
"to bivouac" と表現します。
 
 『軍隊式英会話』ではこのような単語や表現を取りあげ、
軍事用語理解の一助になることを目指しています。
 
加藤 喬
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