配信日時 2019/02/27 20:00

【意外と知られていない面白兵器技術(53)】防護装備(その1) 直接防護装備(1)「装甲材料」 市川文一

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
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【10月6日配信】桜林美佐の国防ニュース最前線
「イージス・アショアは再検討するべき~装備品
老朽化で災害派遣に支障が出る!?」
市川文一元陸自武器学校長 
 https://youtu.be/aEOhNJ3twN0

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こんにちは、エンリケです。

五十三回目の面白兵器技術です。

この連載をご覧になって
お分かりになったのではないでしょうか?

兵器技術とは、
時代の工業技術と同義なんです。

兵器技術なるものだけが、
他と無縁な場所にぽこんと所在しているん
じゃないんです。

その国の工業技術の水準が
その国の兵器技術の水準なんです。

時代の工業技術に追いつけない国が
他国の兵器技術に依存するんです。

わが国の工業技術が世界に冠たるものであることを
国民多数は知っていますが、それを兵器技術につな
げる理性がまだありません。

お付き合いで買っている外国兵器への支出を賄うための
予算増は、国産兵器技術のために不可欠だ、ということへ
の理解もありません。

軍事技術いや、軍事そのものから国民が目をそらして
きたツケを支払わされるのは政府でも自衛隊でもあり
ません。国民です。けっきょく、自らの身で払わなけ
ればいけなくなるんですね。

他に例を見ないこの連載も、残りわずかとなりました。


さっそくどうぞ。


エンリケ


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意外と知られていない面白兵器技術(53)

 防護装備(その1)
 直接防護装備(1)「装甲材料」

市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに
 
 新しく防衛計画の大綱と中期防衛力整備計画が策定されました
が、中期計画の経費の部分については誤った報道が多いことが気
になります。「新中期計画の経費は、現中期計画の経費24兆6700
億円に対し、2兆8000億円増の27兆4700億円」というものです。

 実際に中期計画の本文を読む人は少ないため、このような数字
が一人歩きします。中期計画本文の「V 所要経費」の金額が書か
れた部分を抜粋します。

「この計画の実施に必要な防衛力整備の水準に係る金額は、平成
30年度価格でおおむね 27 兆 4,700 億円程度を目途とする。(中
略)本計画の下で実施される各年度の予算の編成に伴う防衛関係
費は、おおむね 25 兆 5,000 億円程度を目途とする。」というよ
うに二つの数字が出てきます。

ここだけ読むと全く意味がわかりませんが、簡単にいうと「装備
品の単価低減や各種経費の節約をして2兆円を捻出しなさい。あ
くまでも防衛費として予算を組むのは、25 兆5,000億円ですよ」
ということです。前中期計画も平成25年度価格を基準として24兆
6,700億円に対して、実際の予算は23兆9,700億円と7,000億円の節
約を求めています。

つまり、実際の予算の伸びは23兆9,700億円から25兆5,000億円の
1兆5,300億円です。経費というのは実際に組まれる予算が基準で
あり、節約を前提とした金額には意味はありません。

同じ国の予算で「年金の交付額は本年度を基準に5年間で500万
円/人としますが、実際の予算は450万円/人です。生活にするの
に困らない経費を50万円節約してください」というのと変わりあ
りません。年金でこのような政策をとれば、マスコミや野党から
袋叩きになりますが防衛費に関しては何の反応もありません。
(つづく)

  さて、本題の兵器技術ですが、今回から4回にわたり最後のテ
ーマとなる防護装備を取りあげます。本連載も残り4回というこ
とです。全56回の連載で、テーマについては自分の得意な分野に
偏った感はありますが、陸上兵器の技術に関して概ね網羅したと
思います。専門的になりすぎるため、あえて外したテーマもあり
ますが、かなり専門的なことが書かれているブログなどもありま
すので、軍事技術のネットサーフィンも面白いと思います。

▼装甲の強度を高める──硬さと柔らかさの両立

 いよいよ最後のテーマとなります。敵の射撃から身を守るため
の防護装備です。明確な定義はありませんが、弾やミサイルが命
中しても損害を最小限にするのが直接防護装備で、弾やミサイル
に当たらないようにするのが間接防護装備です。まずは一般的に
装甲と呼ばれる直接防護装備の装甲材料です。

現在、装甲材として多く使用されるのは鋼鉄です。炭素を1~2
%含む鉄を主体とした合金です。このほか、マンガン、ニッケル、
コバルト、モリブデン、シリコン、チタンなどの元素を少量加え
ることで、より高強度な鋼鉄ができます。軟鉄と呼ばれる通常の
鉄は、炭素や他の元素をほとんど含まない純粋な鉄です。また、
通称、焼き入れといわれる熱処理で金属内の結晶を整えることに
より強度を増します。日本刀を熱して叩いて水で冷やす工程が熱
処理です。

鉄鉱石から鉄を作る工程を製鉄と呼びますが、製鉄でできる銑鉄
(せんてつ)は炭素の含有量が多く不純物も含まれるために硬く
て脆いのが特徴です。鋼鉄や軟鉄の原料となります。また、鋳物
の原料としても使われます。銑鉄から炭素と不純物を取り除き
(炭素を1~2%に減らす)、他の元素を加えて鋼鉄を作る工程
が製鋼です。

 装甲の強度を高めるには、硬くて柔らかいという、矛盾する要
素を両立させなければなりません。柔らかいと弾丸が抜けやすく、
硬いと弾丸が衝突した衝撃で割れてしまいます。7.62mmクラスま
での小火器弾であれば硬いだけの装甲でも役割を果たしますが、
12.7mm以上の中口径弾の徹甲弾になると装甲が割れて弾丸が貫通
してしまいます。

硬さと柔らかさ(「粘り」と言った方が感覚的にわかりやすいで
すね)を両立させるためには、材質(鉄に加える元素の種類と量)
と熱処理をはじめとする製造方法が重要です。装甲板は専門のメ
ーカーが作りますが、ノウハウについては秘中の秘です。防弾鋼
板を専門に製造しているメーカーもありますが、最近は高張力鋼
(ハイテン)と呼ばれる強度の高い鋼鉄が民間用にも使われるよ
うになり、一般の製鋼所でも製造しています。高張力鋼の中には、
対小~中口径弾であれば防弾用に使えるものあります。

▼装甲の軽量化──日本だから製造できた10式戦車

装甲は厚くするほど強度は増しますが、全体の重量が重くなり機
動性が悪くなります。硬さと粘りに軽さも必要となるわけです。
日本では、車両重量が重くなると道路や橋梁の重量制限により通
過できる経路が限定されてしまいます。とくに橋梁の重量制限の
問題が多く、90TKだと通行にかなりの制限を受けます。また、90
TKはトレーラー輸送する場合は、法律上の制限で輸送時には何か
部品を外さなければなりません(砲塔を外せば輸送上の問題は解
決されます)。

10TKは、90TKの重量の問題を解決するために、車両全体を小型化
するとともに、強度の必要性に応じてアルミ合金などの軽量の材
料を使っています。また、各種装置にさまざまな技術を用いて軽
量化を図っています。戦車の重量に最も影響するのが火力(戦車
砲の口径)と防護力(装甲強度)ですから、火力と防護力を維持
したまま軽量な戦車を作ろうとすると、戦車を構成するあらゆる
装置の軽量化が必要となります。

たとえば段ボールの場合は、紙と紙の間に波形の空間を持つ3重
構造(空間部の三角形の連なりをトラス構造と呼ぶ)にすること
で強度を増しています。そのほか蜂の巣の構造をヒントに考えら
れたハニカム構造も軽量で強度が高い構造です。これらの軽量で
強度を高める構造を各種装置に導入して、徹底した軽量化が図ら
れています。

戦車の性能の優劣については簡単に比較できません。戦う戦場に
よって変化します。車両重量による橋梁の通過制限が多く、田畑
などの泥濘地が多い日本国内であれば、10TKは間違いなくナンバ
ーワンでしょう。戦車本来の性能を犠牲にすることなく、軽量化
を達成するために神経質なほど全ての部品を軽量化しています。
ここまで細かな作業ができるのは日本人だけではないかと思われ
ます。10TKの性能でここまで軽い戦車の開発、製造は日本以外の
国では難しいでしょう。

軽量化を図る手段として、装甲が取り外しできる構造もあります。
脅威や機動する路面強度に応じて装甲を変えられれば、軽量化と
装甲強度が両立できます。この考えは、10TKや水陸両用車(AAV7)
にも取り入れられています。

軽くて強い材質というとチタンがありますが、高価かつ加工しに
くいために車両用として使われることはありません。また、人員
用の防弾チョッキには、カーボンファイバーを使った強化プラス
チックなどが使われていますが、やはり、チタンと同様に高価で
加工がしにくいのが問題です。現状では、鉄を主体とした装甲に
頼らざるを得ません。

イラク派遣の時は、装輪車にも付加装甲が取り付けられる準備を
しました。現在、自衛隊で使用している装輪車(各種トラック)
は防弾仕様ではありません。前線から後方まで戦場となり得る現
在の情勢を考えるなら、装輪車も防弾仕様にすべきですが、コス
トが大幅に上がります。

 もともと、防弾仕様でない車両に装甲を取り付けると、乗員が
乗っているキャビンが極端に重くなり車両バランスが非常に悪く
なります。大型トラックであれば、荷物を積むためにエンジン出
力が確保されているためバランスだけの問題ですみますが、小型
トラックだとエンジン出力が足りずにまともに走れなくなります。

 装甲で意外と問題になるのが、防弾ガラスが重いことです。ポ
リカーボネートやポリウレタンを使い積層構造にして強化するな
どの改善はされていますが、ガラスそのものの材質の特性から鋼
鉄に比べるとかなりの厚さが必要となり必然的に重くなります。
装甲車では他の装甲に比べて防弾ガラスが使われる比率が小さい
ためあまり問題とされませんが、装輪車だと防弾ガラスの占める
割合が大きいため影響が大きくなります。



(つづく)


(いちかわ・ふみかず)


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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。1983年、陸上自
衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合幕僚監部
人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕僚監部武器・化学課
長、東北方面後方支援隊長、愛知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤務を最後に
2017年8月に退官。

退官後の9月にはYouTube
「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
 https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/aEOhNJ3twN0

著書に『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)がある。
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