配信日時 2019/02/13 20:00

【意外と知られていない面白兵器技術(49)】「火器の照準」(直接照準 その5) ─戦車の射撃統制装置(その3) 市川文一

────────────────────────────
ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
お仕事の依頼など、問い合わせは以下よりお気軽にどうぞ
 
E-mail hirafuji@mbr.nifty.com
WEB http://wos.cool.coocan.jp
────────────────────────────
【10月6日配信】桜林美佐の国防ニュース最前線
「イージス・アショアは再検討するべき~装備品
老朽化で災害派遣に支障が出る!?」
市川文一元陸自武器学校長 
 https://youtu.be/aEOhNJ3twN0

市川さんの新刊が好評です。
『猫でもわかる防衛論』
https://amzn.to/2qBGuNJ


こんにちは、エンリケです。

五十一回目の面白兵器技術です。

いま、「F-4」に関する本を読んでいるところですが、
今回の記事を拝読し、通じるものがあると感じます。

子どもの頃は、ゲームをやってたら
「勉強しろ」とよく叱られたものですが、
勉強するよりゲームをもっとやっておいた方が
良かったかもしれないなあーw
と思いました。


今回も面白いです。

さっそくどうぞ。


エンリケ


ご意見・ご感想はコチラから
 ↓
https://okigunnji.com/url/7/

─────────────────────────────
意外と知られていない面白兵器技術(51)

「火器の照準」(直接照準 その5)
 ─戦車の射撃統制装置(その3)

市川文一(元武器学校長・陸将補)
─────────────────────────────

□はじめに
 
 今回は、直接照準装備の最後となる戦車の指揮・射撃統制装置
です。射撃統制装置の前に「指揮」が付いていますが、10TKは数
両の戦車を指揮できる機能がFCSに付加され、射撃だけでなく指
揮機能もFCSで統制できることを表しています。ディスプレイに地
形、敵、味方が表示され、ゲームをしているような感覚で戦車の
指揮、射撃ができます。

 表示機能だけ見ると、現物がゲームに追いついたということに
なりますが、技術的な面では全く事情が異なります。ゲームの世
界では、地形も敵も味方もコンピューターが好きなように表示す
ればいいわけですが、10TKのディスプレイは現実を表さなければ
なりません。

 地形データだけでも、植生、標高、建造物などが現実と一致し
ていなければ、戦車が動くことさえできません。さらに、味方の
位置をリアルタイムで表示し、敵を捜索して追随しなければなり
ません。ゲームでは直線で飛ぶ弾丸も、現実の弾丸は複雑な弾道
を描くため射撃諸元の計算も簡単でないことはすでに説明しまし
た。

 10TKは、軽量化、単価低減、性能向上の相反する要素を追求し
たため、戦車としての問題点も多々ありますが、日本国内で戦闘
することを前提とすればNo.1であることは間違いありません。今
回説明する指揮・統制機能も世界でトップクラスの性能を有して
います。

 読者のH様から、ご所見を頂きました。ありがとうございます。
H様からは、元自衛官の自分にとっては当たり前のことも、読者
の皆さんには知らないことが多いということを何度かご教授いた
だき、我々自衛官OBがもっと情報発信しなければいけないことを
痛感しています。

 現在は、自分の専門分野である兵器に関する連載をしています
が、もう一つの専門分野の兵站に関する連載について検討中です。
また、安全保障の二つの重要要素「意思」と「戦力」のうち、
「戦力」に関して前回で連載しましたが、「意思」についても、
どのようなアプローチで語ろうかと思案中です。今の連載の後、
少し期間が空くかもしれませんが、引き続き、情報発信していこ
うと考えていますのでよろしくお願いします。


▼指揮統制能力が飛躍的に向上した10式戦車

90TKでほぼ完成された射撃統制装置としてのFCSは、10TKではさら
に能力を上げ、特に走行間での移動目標射撃の命中精度を向上さ
せました。前回も説明しましたが、左右に方向を変えながら走る
スラローム走行での射撃も高い命中精度を得られるようになりま
した。

等速度で一方向に移動している場合に、未来位置を予測すること
は難しいことではありません。ところが、スラローム走行のよう
に速度も移動方向も不規則に変化するような場合に未来位置を正
確に予測するのは非常に難しく、高度な技術が必要です。

多くの走行データを蓄積・分析し、射撃時の未来位置を計算する
ための複雑なアルゴリズム(問題を解くための計算手順)を作り、
高度なソフトウェアで処理しなければなりません。当然、短時間
でデータ処理できる高性能なハードウェアも不可欠です。

このようなFCSの進化も、90TKの開発経験が基本となり、さらに
90TKの実運用(日本では訓練のみですが)を通じて得られた各種
データが元になっています。これも国内開発の強みで、日本国内
で運用するために必要な機能を特化して強化することができます。
10TKの射撃能力で特徴的なのがスラローム射撃ですが、当然、す
べての射撃要素が能力向上しています。

しかし、10TKのFCSの特徴は、なんといっても指揮統制能力の向上
です。90TKまでは、無線機を使った音声による指揮統制が主体で
したが、10TKでは戦車同士がコンピューターネットワークでつな
がり、デジタルデータを共有でき、指揮統制能力が飛躍的に向上
しました。

これらの指揮統制のための情報を表示するため、10TKになって車
長席と砲手席に初めて液晶のディスプレイが登場しました。タッ
チパネルです。この液晶ディスプレイには、地形(地図)、彼我
の戦車の位置、味方戦車の状況(燃料、残弾数)など、戦闘に必
要な情報が映し出されます。ディスプレイだけ見れば戦車のバト
ルゲームをしている感覚です。情報を選択して、複数の画面を表
示することもできます。10TKは多くのカメラを装備していますが、
これをディスプレイに表示することで戦車の中にいながら外の状
況を確認できます。

今までは無線により彼我の位置を確認し、地図上に書き込むか頭
の中でイメージを作らなければならなかったのが、ディスプレイ
上に自動的に情報が表示され、一目で確認できるわけです。敵戦
闘車両については10TKに装備された赤外線センサーで捉えられま
す。各車が捉えた目標は瞬時に味方戦車にネットワークで共有さ
れます。90TKまでは、無線伝達での情報共有だったため時間がか
かり、射撃機会を逃がすことや、逆に死角になっている敵から射
撃されるということも、10TKでは局限されるわけです。

▼友軍相撃がなくなった10式戦車のネットワーク

敵味方の正確な位置がリアルタイムで地図上に表示されるという
のは戦闘上非常に有利ですが、少し違った観点からも各種利点が
あります。戦場は混乱と錯誤の連続です。一つの目標に複数の戦
車が射撃するオーバーキルや友軍相撃と呼ばれる同士討ちが起こ
ります。現代戦であれば、大規模な戦車戦が行なわれた湾岸戦争
でも多くの友軍相撃が起こっています。オーバーキルは戦闘の効
率性の問題がありますが、直接、戦闘の敗因となることは多くは
ありません。

ところが友軍相撃は単に味方の戦力が落ちるということだけでは
なく、汗水垂らして訓練してきた家族のような同じ部隊の隊員を
撃ってしまったという精神的な打撃が深刻です。これは友軍相撃
した戦車乗員だけではなく部隊全体に伝わり、大きな士気の低下
につながります。10TKのネットワークは、この友軍相撃をほぼ完
全になくすことができます。

敵の発見に関しては完全というわけにはいきませんが、味方戦車
の位置についてはネットワーク機能で常に情報共有できます。ま
た、味方表示がない場合は何かのトラブルが予想されるため、戦
車の運用や射撃要領を変えることができます。何事も100%はあり
得ませんが、10TKのネットワークが機能している限り友軍相撃は
起こりえないでしょう。

オーバーキルについても、有効に機能します。複数の目標がある
場合は、指揮官が最も効率的かつ効果的な戦闘ができるように、
味方戦車に目標を配分します(自動でも可能です)。オーバーキ
ルの防止にも機能しますが、逆に危険な目標を複数車で射撃して
完全に破壊することも可能です。

▼次期戦車に改善を期待

最後に、高性能なFCSを持つ10TKになっても未だ改善されない問
題も紹介しておきます。多くのセンサーと液晶のディスプレイを
装備し、ネットワークでつながる最新鋭の戦車ですが、FCSで制
御されるのは主砲である120mm戦車砲だけです。戦車には戦車砲
以外に12.7mm重機関銃と7.62mm同軸銃(砲身と同じ方向を向くこ
とから同軸の名称が使われています)が装備されています。

同軸銃は近距離の人員が主たる目標で、しかも、戦車砲と射線が
同一で主砲のコントロールに同調して一緒に動くので問題ありま
せん。問題なのは12.7mm重機関銃です。これは、車長がハッチか
ら身体を出さなければ射撃できません。すべて手動です。FCSで
制御できません。7.62mm同軸銃と違い12.7mm重機関銃はかなり威
力があります。徹甲弾を使えば軽装甲は抜けます。対空用として
も使用できます。

折角装備されている比較的な大きな火力が有効的に使えないのは、
兵器としては大きな問題です。今の技術であれば、砲塔内から
FCSで制御するのは簡単なことですが、やはり、ネックとなって
いるのは経費の問題でしょう。数千万の単価アップで、性能は大
きく向上します。次期戦車での改善を期待したいところです。



(つづく)


(いちかわ・ふみかず)


市川さんへのメッセージ、ご意見・ご感想は、
このURLからお知らせください。

https://okigunnji.com/url/7/


 
【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。1983年、陸上自
衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合幕僚監部
人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕僚監部武器・化学課
長、東北方面後方支援隊長、愛知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤務を最後に
2017年8月に退官。

退官後の9月にはYouTube
「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
 https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/aEOhNJ3twN0

著書に『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)がある。
 https://amzn.to/2qBGuNJ

 
PS
弊マガジンへのご意見、投稿は、投稿者氏名等の個人情報を伏
せたうえで、メルマガ誌上及びメールマガジン「軍事情報」が
主催運営するインターネット上のサービス(携帯サイトを含む)
で紹介させて頂くことがございます。あらかじめご了承くださ
い。
 
PPS
投稿文の著作権は各投稿者に帰属します。
その他すべての文章・記事の著作権はメールマガジン「軍事情
報」発行人に帰属します。


最後まで読んでくださったあなたに、心から感謝しています。
マガジン作りにご協力いただいた各位に、心から感謝しています。
そして、メルマガを作る機会を与えてくれた祖国に、心から感謝
しています。ありがとうございました。

 
●配信停止はこちらから
https://1lejend.com/d.php?t=test&m=example%40example.com
 
 
----------------------------------------
 
発行:おきらく軍事研究会
(代表・エンリケ航海王子)
 
メインサイト
https://okigunnji.com/
 
問い合わせはこちら
https://okigunnji.com/url/7/
 
 
Copyright(c) 2000-2018 Gunjijouhou.All rights reserved.