配信日時 2019/02/06 20:00

【意外と知られていない面白兵器技術(50)】「火器の照準」(直接照準 その4) ─戦車の射撃統制装置(その2) 市川文一

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
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【10月6日配信】桜林美佐の国防ニュース最前線
「イージス・アショアは再検討するべき~装備品
老朽化で災害派遣に支障が出る!?」
市川文一元陸自武器学校長 
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こんにちは、エンリケです。

五十回目の面白兵器技術です。

今回も面白いです。

さっそくどうぞ。


エンリケ


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意外と知られていない面白兵器技術(49)

「火器の照準」(直接照準 その4)
 ─戦車の射撃統制装置(その2)

市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに
 
 陸自兵站、補給のうちの「交付の要領」の続きです。補給品も
種類によって、個人単位で使用するものと部隊単位で使用するも
のがあります。また、特定の部隊でしか使用しないものもありま
すから、補給品の種類によって交付系統が変わります。弾薬であ
れば81mm迫撃砲弾薬は各普通科中隊で使いますが、120mm迫撃砲
弾薬は重迫撃砲中隊のみです。

 また、補給品の携行量は部隊や個人の輸送力によって制限があ
りますから、日々、使用量を把握しなければなりません。糧食等
の毎日決まった量を消費するものであれば、人員数を掌握してい
れば必要量を交付できますが、弾薬の場合は個人や部隊によって
使用量が異なりますから、毎日、全数を掌握する必要があります。

交付数が少ないのは、次の戦闘に影響を与えるため当然問題とな
りますが、多くても携行できなくなるので、攻撃時のように常に
移動している場合は、最悪、残置していかなくてはならなくなり
ます。弾薬やミサイルは在庫量が少なく緊急増産も制限があるた
め、非常に貴重な補給品です。無駄なく使用しなければなりませ
ん。

災害支援時の支援物資のように必要なものと量がある程度特定さ
れる場合は、物資と輸送手段を確保すれば、最近主流となったプ
ッシュ型で、要求がなくても先行的に交付することもできます。
部隊が使用する補給品は種類が多く、交付系統が複雑で個人や部
隊の携行量が制限されるため、確実に消費量を把握する必要があ
ります。プッシュ型の交付と部隊交付を混同することがあります
が、必要な補給品と量を把握しているかいないかという観点で全
く異なります。

陸自補給について、読者のご要望で数回にわたり概要を簡単に説
明してきましたが、今回で、ひとまず終了します。何か疑問な点
がありましたら、ご質問ください。秘密に該当する事項もありま
すから、すべて回答できませんが(弾薬の備蓄量とか)可能な範
囲で回答します。

さて、本題の兵器技術ですが、直接照準の4回目、戦車の射撃統
制装置(FCS)の2回目です。74TKのFCSはアナログのコンピュー
ターを使った非常に簡易なものですが、90TKからのFCSは移動間射
撃を可能にするために本格的なコンピューターを使い、複雑な計
算をしています。現有戦車としては、ほぼ完成形と考えて問題あ
りません。

▼進化する戦車の射撃統制装置

 74TKから90TKへの進化の中で、射撃統制装置としてのFCSの機能
は概ね完成され、精度はともかくとして、走行しながら移動して
いる目標を射撃することが可能となりました。「精度はともかく」
の表現は、戦車の動きの激しさで命中率が変わるということを意
味しています。

 90TKから10TKへの進化の中で、コンピューターのハードとソフ
ト、センサーの能力向上により走行間射撃の命中精度は向上して
います。いまだ開発は着手されていませんが、新しい戦車の命中
精度はさらに向上することでしょう。

 FCSの機能とは、弾道に影響を与えるさまざまな要因を計算して、
照準具で捉えた目標(砲と目標は直線です)と実際に打ち出され
る弾丸が描く弾道の差を、砲に射角と方位角(射撃諸元とも呼び
ます)として与えることです。

 固定目標を停止して射撃する場合、レーザーのように弾丸の弾
道が直線であれば、FCSの機能は必要ありません。しかし、実際
の弾丸は、砲身の曲がりや車体の傾きにより当初から方向が変わ
り、重力により落下し、風により流されます。これらをセンサー
で捉え、コンピューターで瞬時に計算し、射撃諸元を修正するの
です。

 弾道に与える要因として主要なものは、目標までの距離、車体
の傾き、横風、発射薬の温度、砲身の曲がりです。これらをレー
ザー測距器や各種センサーで捉えます。目標までの距離、車体の
傾き、砲身の曲がりについてはすでに説明しましたが少し補足し
ます。

 砲身の方向に対して車体が左右に傾くと砲身を上げたとき(射
角を大きくしたとき)に車体が傾いた方向に砲身が向き、射角は
射距離に応じた射角に比して小さくなります。74TKでは姿勢制御
で車体を水平にして車体の傾きをなくしましたが、90TK、10TKで
は車体の傾き(正確には砲の傾き)をセンセーで検出して、FCSに
より射撃諸元を修正します。

 砲身の曲がりはサーマルジャケットにより最小限に抑えられて
いますが、120mmクラスの砲身になると曲がり無視できるほどに
は抑えられません。そこで、センサーにより砲身の曲がりを検出
し、FCSで計算して射撃諸元を修正します。90TK、10TKについてい
たセンサーも、機動戦闘車では砲身が105mmとなったため、なくな
りました。ちなみに砲身の砲口付近についている小さな箱形なも
のがセンサーの一部です。

 横風センサーが捉えるのは戦車付近の風であり、弾丸が通過す
る場所の風向風速とは全く同じではありません。しかしながら、
戦車の射距離はせいぜい2~3kmなので、弾道への影響はほとん
ど差がないと考えられます。

 発射薬については、以前説明したとおり温度によって燃焼速度
が変わらないような工夫されていますが、完全ではありません。
温度が高くなると燃焼速度が速くなり弾丸の初速も早くなります
から、温度によって射角を修正する必要があります。

 走行間に移動目標を射撃するとなると、さらに複雑になります。
移動目標を射撃するには弾丸が目標に到着するときの未来位置を
予測し、弾丸発射時には目標がない方向に射撃しなければなりま
せん。自分の未来位置も予測し、未来位置を基準に射撃諸元を算
定する必要があります。当然、常に目標を追随できなければ、適
時に射撃することは不可能です。

走行しながら目標を追随する場合、74TKのように照準具と重い砲
塔が一体となっているとどうしても遅れが出ます。そこで、90TK
からは照準具が独立して動きます。照準具にはスタビライザー
(安定化装置)が付いており、車体の動きにかかわらず常に目標
を捉えられるように制御されます。照準具が独立することにより、
車長と砲手が別の目標を捉えることができるようになりました。

74TKも車長と砲手の2名の射撃が可能です。それぞれが、概ね同
じ機能を持った照準具と射撃装置を装備しています。通常は砲手
が射撃をしますが、車長が優先目標を発見して射撃したい場合は、
車長が優先権をとることができます。直接照準眼鏡による射撃は
砲手の位置でしかできません。

また、走行間射撃では射撃時の自己位置が非常に重要です。発射
ボタンを押した時間と実際に砲口から弾丸が発射される時間はわ
ずかながら差が生じます。わずかですが、命中精度には大きく影
響します。つまり、戦車の動きをFCSで予測し弾丸が発射される自
己位置を基準として、砲に射角と方位角を与えるわけです。自己
位置はジャイロと加速度センサーにより補正します。

90TKから10TKへの進化の中でスラローム射撃があります。左右に
方向変換をしながら射撃をするのがスラローム射撃ですが、急激
に速度と方向が変わるため弾丸発射時の自己位置を予測するのが
難しく90TKでは十分な精度が得られません。センサーの性能向上、
コンピューターの計算能力の向上と高度なソフトウェアの開発に
より10TKでは高い命中精度を得られるようになりました。


(つづく)


(いちかわ・ふみかず)


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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。1983年、陸上自
衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合幕僚監部
人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕僚監部武器・化学課
長、東北方面後方支援隊長、愛知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤務を最後に
2017年8月に退官。

退官後の9月にはYouTube
「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
 https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/aEOhNJ3twN0

著書に『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)がある。
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