配信日時 2019/01/31 20:00

【ライター・渡邉陽子のコラム (217)】第2師団集合教育「レンジャー」(3)

こんにちは、エンリケです。

<レンジャー教育は学生だけでなく助教が学ぶ場で
もあります。>

とても大切な指摘ですね。

さっそくどうぞ

エンリケ


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『ライター・渡邉陽子のコラム (217)
 ― 第2師団集合教育「レンジャー」(3)―
         渡邉陽子
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〇〇さま

こんばんは。渡邉陽子です。先週末は仕事仲間と温泉に
行ってきました。いつもは演習場や基地で顔を合わせる
メンバーと、仕事抜きで、単なる遊びで、土日の丸々二
日間を過ごすというのは初めての経験でした。総勢7名
だったのですが、日頃から忙しくしている人たちばかり
なので、みんなの予定が揃ったことがそもそも驚きです。
露天風呂付きのコテージで飲んで食べてしゃべって、翌
日は大井川鉄道に乗って、大人の休日を思い切り満喫し
てきました。あー楽しかった!


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■第2師団集合教育「レンジャー」(3)

「急げ急げ!」「階段は走るな!」
支度をする学生を助教たちがあえて急き立てます。
指導部は教育隊長をはじめ、主任教官、教官を幹部自衛
官が、陸曹が助教を担当、数個の班にわけて全身全霊で
学生の教育指導に当たります。もちろん指導部の全員が
レンジャー隊員です。
助教は3連隊のレンジャー隊員から選出されているほか、
レンジャー学生が参加している部隊も教育を支援します。
ということは、同期で部隊も一緒、普段はよく飲む親し
い間柄が助教と学生という間柄になったり、部隊の先輩
を助教として指導したりといったことも珍しくないわけ
です。先輩や親しい仲間をカス呼ばわりすることもある
というなかなかシュールな関係ですが、これが軍隊とい
うものです(おっと自衛隊でした)。
そしてレンジャー教育は学生だけでなく助教が学ぶ場で
もあります。学生に指導する以上、自身もレンジャー隊
員としての高い能力を保持していなければならないし、
ときに教官から指導されることもあります。こういった
経験を積むほど、レンジャー教育によりふさわしい助教
へと進化していくのです。

学生たちが装具などを準備して集合すると、朝食のパン
が渡されました。しかしこれを食べられる時間を作れる
かは学生次第。ここから先は行動食で、1日1食取れる
かどうかとなります。
疲労、睡魔、空腹、そして渇き。学生たちは極限まで追
い込まれた状態で状況を付与され、それを遂行できるか、
そしてバディを思いやれるか、そして最後は自分の弱さ
に向き合いそれに打ち克てるかという己との戦いになり
ます。

この朝、示された時期までに空路潜入や水路潜入により
橋梁を破壊、敵車両部隊を伏撃、敵通信施設を襲撃とい
った想定(状況)が付与されました。学生たちは早速潜
入命令と行動計画の作成に取りかかります。また、この
際に学生による戦闘隊での役職も示されました。
最終想定における戦闘隊長、副戦闘隊長、通信手、小隊
陸曹、班長といった役職は結節で替わり、学生全員が経
験します。いつどのタイミングでどんな役職を命じられ
るかわからないので、これも学生にとってはかなりのプ
レッシャーになることでしょう。心身が限界に達してい
る状態のときに戦闘隊長を命じられたら、冷静な判断が
できるのか、的確な指示が出せるのか。自分の判断ミス
や不備によって状況を完遂できなかったら。そんな思い
は不安を通り越して恐怖すら覚えるかもしれません。
しかもこの最終想定はレンジャー教育の卒業試験ともい
えるものなので、指導部ではなく戦闘隊の計画主導で進
められます。ということは、戦闘隊長の指揮運用が悪け
れば行程がどんどん遅れることになるのです。
ちなみに学生長は学生の中でいちばん階級が上の隊員が
なることが決まっている固定の役職です。今回は27名の
中で唯一の2曹が学生長を拝命しましたが、士長でレン
ジャーとなり3曹になってほやほやという助教から怒鳴
られることもあり得るわけで(部隊だったらまず考えら
れないことです)、しかも教育期間中終始「学生長だか
ら」と言われ続ける、なんともストレスやプレッシャー
の大きな立場です。ただ2曹でレンジャー教育に臨むと
いうことは、自分が学生長になる可能性が高いというこ
とも覚悟した上での挑戦なのかもしれません。

110mm個人携帯対戦車弾、通称LAMや84mm無反動砲といっ
た重い装備も全員で順番に持つのですが、これも今から
山中に入るとか疲労の極みといったときに順番が回って
きたら、さぞや絶望的な気持ちになることでしょう。第
2師団広報室長の3佐(当時)は、学生たちを見渡して
「学生たちにはもう取材陣のカメラを気にしている余裕
はありません。この先はおそらく、われわれが正直、報
道の人に見られたくないなと思うシーンも出てくるでし
ょう。きつい、つらい、眠い、さらに空腹と、苦しい状
況に追い込まれるほど人間は『自分』が出ますから。た
だそのとき、この戦闘隊のためにという気持ちを失うこ
となく動けるか、あるいは自分のことばかり考えてしま
うようになるかといった部分も、最終想定の教育といえ
ます」。レンジャー教育の助教も教官も経験してきた人
のコメントは真摯で胸に響きました。



(以下次号)


(わたなべ・ようこ)


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□著者略歴

渡邉陽子(わたなべ・ようこ)
神奈川県出身。大学卒業後、IT企業、編集プロダクション勤
務を経て2001年よりフリーランス。2003年から月刊
『セキュリタリアン』『MAMOR』などに寄稿。
現在は自衛隊関連の情報誌などで記事を発表。メルマガ「軍事
情報」で自衛隊関連の記事を配信中。
 
2016年6月、デビュー作
『オリンピックと自衛隊 1964-2020』
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を刊行。

 
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