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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
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【10月6日配信】桜林美佐の国防ニュース最前線
「イージス・アショアは再検討するべき~装備品
老朽化で災害派遣に支障が出る!?」
市川文一元陸自武器学校長
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こんにちは、エンリケです。
四十九回目の面白兵器技術です。
冒頭文も本文も目を離せない記述ばかりです。
さっそくどうぞ。
エンリケ
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意外と知られていない面白兵器技術(49)
「火器の照準」(直接照準 その3)
─戦車の射撃統制装置(その1)
市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに
陸自兵站、補給のうちの「交付」の続きです。前回は交付の方
法を説明しましたので、今回は交付の要領です。部隊が行動して
必要な補給品を使用し、なくなってしまってから補給品を受け取
っていたなら、不測事態に対応できません。特に、弾薬について
は、常に携行していなければ戦闘が生起したときに戦う術があり
ません。
したがって、補給品は必要な種類と量を個人・部隊レベルで携
行して、使用した分を交付するのを基本とします。中、長期間に
わたって独立して行動する場合は、その期間必要な補給品全数を
携行しなければなりません。携行できない分については、航空機
などによる部隊交付を計画します。なお、作戦準備期間などの戦
況が落ちついている時、調理のために生の食材を交付する場合な
どは毎日調達して現品を交付します。
ここでの「携行」は概念区分としては「保管」に含まれますが、
個人~連隊レベルでは「保管」という言葉は使われません。面白
いことに、平時に保有している整備用部品も師団以上でしか「保
管」という言葉は使いません。部隊は、全てを携行するのが基本
となっています。(現実には輸送力の問題で携行できませんが)
個人が使用した補給品をいきなり大・連隊や師団から交付を受
けるわけに行きませんから、それぞれの部隊レベルで補給品を携
行します。個人や部隊が携行する補給品は、それぞれのレベルで
異なります。個人が携行できる量は限界があり、部隊が小さくな
るほど輸送力が限定されるため、個人や部隊の生存や戦闘に直結
する補給品を必要性と可能性から判断して携行します。
師団クラスになるとほぼ全ての補給品を保有しています。弾薬
だけは、保管する地積が広大で、射爆撃による誘爆の危険性が高
いため、師団が位置するさらに後方の安全性の高い地域で交付す
るため、保有は方面隊となります。(以下つづく)
読者のH様から、ご所見とご質問を頂きました。ありがとうござ
います。ご質問は「潜水渡河時の水密構造について」です。戦車
は河川を渡るときに、潜水して河床を走ることができます。当然、
水が戦車内に入らない構造で、空気の吸排気ができなければなり
ません。
水密構造にするには、乗員がいる砲塔と操縦席だけ水密にして、
後はエンジンの吸排気を確保する方法と戦車全体を水密構造にす
る方法がありますが、戦車全体を水密構造にする方法が多く使わ
れていると思います。戦車は車体全体が密閉構造に近い形状で、
また、河川の通過であれば潜水深度も浅く水圧が低いため、戦車
全体を水密化する方が効率的だと考えられます。
エンジンの吸排気は、シュノーケルを装着して河川の上の空気を
使います。したがって、潜れる水深はシュノーケルの長さに左右
されますが、通常は2~3mです。構造そのものは簡単ですが、
シュノーケルの取り付けや水密処置をする必要があるため、準備
時間がかかります。
さて、本題の兵器技術ですが、直接照準の3回目、戦車の射撃統
制装置(FCS)です。74TKで初めてFCSが搭載されましたが、弾道
計算を行なう電子計算機はアナログです。アナログのコンピュー
ターが使用されていた時期は非常に短期間ですから、74TKのFCSは
希少価値があります。74TK退役の時期には、模擬信号発生回路と
模型の戦車を組み合わせて、使える状態で展示するのが望ましい
でしょう。
▼戦車の射撃統制装置(FCS)─アナログ計算機からデジタルへ
74TK以降の戦車は射撃統制装置(FCS)が装備されています。戦車
のFCSを簡単に説明すると、「目標の距離、移動速度、戦車の状態
(傾きや移動速度)、風向・風速等のデータから目標に命中させ
るための発射角と発射方向を計算して砲を動かす装置」です。
構成される装置は、センサー(目標の捕捉・追随、戦車の状態の
検出、気象状況の計測)、弾道計算機(目標をセンサーから得ら
れた情報から射角・方位角を算出)、旋回・俯仰制御装置(弾道
計算機が算出した諸元に基づき砲を制御する)が基本となります。
古い世代の戦車はこれらの装置の一部を装備し、限定された能力
しかありませんが、最新の戦車ではこれらの装置を完備して高い
能力を発揮します。
日本で初めてFCSが搭載されたのが74TKですが、レーザー測距とア
ナログ弾道計算機の働きで砲が自動的に射角をとるのは当時では
画期的なことでした。61TKに比べて、目標の発見から射撃までの
時間が大幅に短縮され、命中精度も向上しています。
命中精度の向上には車体の姿勢制御も大きく寄与しています。油
気圧式のサスペンションにより上下左右に車体を傾けられること
についてはすでに説明しましたが、この機構を利用してボタン1
つで車体を水平にすることができます。車体を水平にすることに
より、後は目標までの距離がわかればかなり正確な射撃ができま
す。
レーザー測距の原理はレーダーの原理と同じです。レーザーを発
射してから目標に反射して帰ってくるまでの時間を測定すれば、
「光の速さ×時間」で距離がわかります。74TKではレーザーにル
ビーレーザーが使われています。レーザーポインターと同じ赤い
光です。90TK以降は赤外線帯域の出力の高いレーザーが使われて
います。
74TKのFCSで興味深いのが、なんといってもアナログ計算機でしょ
う。現在使われている計算機、コンピューターは、ほぼすべてが
デジタルです。アナログ計算機が使われていたのは1960年代まで
ですが、かといって古い世代の人に馴染みのあるものではありま
せん。装置が大型のうえ非常に高価で、一般の人が目にすること
もないものでした。
1960年代には電卓(デジタル)が登場しましたが、重さが20kg、
価格は50万円という現在では考えられないような代物で、とても
卓上計算機といえるようなものではありません。電卓が小型化、
低価格化されるのが1970年代初期、パソコンが個人で手に入るよ
うになるのが1970年代後半です。
電子計算機(コンピューター)もアナログの時代は短く、すぐに
デジタル計算機へと移行したため、アナログ計算機そのものに希
少価値があるといえます。アナログとデジタルの違いについては
省略しますが、アナログ計算機でも加減乗除だけでなく微積分な
どの複雑な計算もできることを紹介しておきます。
74TKに搭載されているアナログ計算機は、射角や射距離に応じる
修正角を電圧や電流といった電気信号(これがアナログの特徴で、
通常は電圧を使います)で入出力します。照準潜望鏡で目標を捉
えてレーザー測距をすると、目標までの距離を電気信号に変換し
て目標の距離に応じた射角を計算し、修正角を電気信号として俯
仰制御装置に送り砲を駆動します。
74TK開発時にはデジタル計算機もありましたが大型かつ高価な
ため、それほど複雑ではない74TKの弾道計算は、アナログ計算機
のメリットが大きかったと思われます。90TKを開発する頃には現
在のようなコンピューター技術も手軽に使えるようになり、アナ
ログ計算機は姿を見なくなりました。(90TKが射撃するための弾
道計算をアナログで行なうのは不可能です)
74TKの特徴の1つに砲安定機能があり、この機能があるがため
に74TKでも走行間射撃が可能と勘違いする人もいますが、74TKの
FCSの能力を考えれば走行間射撃ができないのは明らかです。74TK
の砲安定は車体の向きを変えても砲の向きが変わらないものです
が、目標にロックオンしているわけではありません。おおむね目
標の方向に向いているだけです(正確には、方角で規制されてい
ます)。射撃するときは停車して照準しなければなりません。し
かし、停車した後照準するときに砲を動かす距離が短くなります
から、この機能があるために射撃までの時間がかなり短縮されま
す。
(つづく)
(いちかわ・ふみかず)
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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。1983年、陸上自
衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合幕僚監部
人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕僚監部武器・化学課
長、東北方面後方支援隊長、愛知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤務を最後に
2017年8月に退官。
退官後の9月にはYouTube
「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/aEOhNJ3twN0
著書に『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)がある。
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