配信日時 2019/01/21 20:00

【戦う組織のリーダーシップ ─今に生きる海軍先輩の教え─(21)】海軍式の功罪(その2)「スタッフ組織の問題」 ─ミッドウェー作戦大敗の真の要因─  堂下哲郎(元海将)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊
した即応予備自衛官でもあります。
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堂下さんのデビュー作
『作戦司令部の意思決定─米軍「統合ドクトリン」で勝利する─』
への読者反響の一部です。

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「難しい内容をかみ砕き、例示も豊富、コンパクトにまとまって
いる」

「早速、大学の授業で活用、図書館にも入れさせてもらいました。
経営戦略、組織コミュニケーションにも有益な内容です。」

「作戦を組立てる側から理解でき目から鱗でした。防衛、外交関係
者、さらには一般の読者にとっても有益な内容を、詳細かつ分かり
やすくまとめられている。」

「政府機関の政策決定や企業経営者の意思決定にも、広く応用で
きるヒントが含まれている。」


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『作戦司令部の意思決定─米軍「統合ドクトリン」で勝利する─』
http://okigunnji.com/url/352/



こんにちは、エンリケです。

軍隊を考えるとき必要なのは、
「組織」という観点だとずっと思っています。

どうもこの面で、
ほとんどの戦後日本人は感覚がずれている感を持ちます。

軍事史を振り返る際も、軍事的に考える際も、
意思決定も決心もすべては「組織」という観点が不可欠です。

この視座がないと、常に誰かに利用されるだけの
「理論的な個人の感情論」に堕してしまいます。


エンリケ



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【戦う組織のリーダーシップ─今に生きる海軍先輩の教え─(21)】

 海軍式の功罪(その2)「スタッフ組織の問題」
  ─ミッドウェー作戦大敗の真の要因─

 堂下哲郎(元海将)
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□はじめに
 
 韓国海軍駆逐艦のレーダー照射問題は、14日のシンガポールで
の実務者協議でも平行線となり、長期化しそうな印象です。韓国
海軍の現場部隊のレベルがこの程度であること、その後の対応が
指導者によってこれだけの振れ幅があるというということが分か
りました。北朝鮮の脅威があるなか、当面は日米、米韓それぞれ
でしっかりやるしかないようです。これは大きな試練です。

また、韓国の北朝鮮への傾斜や、トランプ政権の在韓米軍撤退論
を考えると、北朝鮮後の世界をイメージしつつ対処することが重
要になると思います。半島の核と弾道ミサイルだけは完全に除去
しておいてもらわなければなりません。

 さて、前回は日本海軍におけるトップのリーダーシップはどう
だったのか考えてみました。いわゆる「海軍式」にも欠点があり、
戦う組織のリーダーシップのあるべき姿について貴重な教訓を残
しているということです。「海軍式の功罪」の第2回は、スタッ
フ組織の問題を考えてみたいと思います。
 
 
▼リーダーシップの三要素
 
 これまでリーダーシップについてさまざまな角度から論じてき
ましたが、それらは主にリーダーそのものについてのものでした。
しかし、考えてみると、リーダー本人だけでできることはたかが
知れています。事実、今日あらゆる組織において規模の大小はあ
ってもスタッフ組織やそこにおける意思決定や行動を規定する規
範のようなものがないことはなく、ましてや「戦う組織」におい
てをや、です。

 「海軍式の功罪」を考えるにあたり、この(1)リーダー、
(2)スタッフ組織、(3)意思決定・行動規範をリーダーシップ
の3つの要素として考えてみたいと思います。前回はリーダー、
特にトップリーダーの重要性について論じましたので、今回は第
2の要素であるスタッフ組織に着目してみます。

▼「長老制」司令部
 
 海軍のスタッフ組織は司令部ということになりますが、階層化
された海軍部隊の司令部の中で、その頂点に位置したのが連合艦
隊司令部です。3年8か月に及んだ太平洋戦争は、山本五十六、
古賀峯一ら順次4人の連合艦隊司令長官により戦われました。吉
田俊雄(海兵59期)著『四人の連合艦隊司令長官』は、この連合
艦隊司令部の「仕事ぶり」について詳しいのですが、そのなかか
らスタッフ組織に関する点を引いてみます。
 
 まず、日本海軍では、スタッフ(参謀)は、あくまでも指揮官
を補佐するものとされ、指揮官の指揮権に介入することは許され
ていませんでした。この点は、陸軍の参謀が現地の部隊に派遣さ
れ、指揮権の一部を行使して現地の指揮官に命令することがあっ
たのと大きな違いです。
 
また、司令部の中では、一般的に先任参謀(大佐)が、カナメに
あたる最も重要な役割をもっていると考えられていました。参謀
長は少将でチェック役、長官は中将か大将で、だいたい「ウン」
と頷いて採用しますから、先任参謀のアタマで艦隊が動くといっ
て過言ではなく、いわば「長老制」とでもいえるような態勢でし
た。

▼「人間関係」司令部

もっとも、司令部内の力関係は、長官、参謀長、先任参謀などの
力量により、あるいは微妙な人間関係によって、司令部ごとに違
いがみられました。たとえば、最も色合いのハッキリしていたの
は、開戦時に真珠湾攻撃に行った南雲中将率いる機動部隊司令部
と、その上級司令部である山本大将の連合艦隊司令部でした。

南雲司令部の場合は、「南雲艦隊」といわずに「源田艦隊」と陰
口を叩かれたように、源田航空参謀の進言に長官も参謀長もウン
と頷いて、そのまま南雲長官の名で命令が出されるスタイルでし
た。一方の山本司令部の場合は、山本長官の方針が長官の特別の
信頼を受けている黒島先任参謀に直接に伝えられ、宇垣参謀長は
浮いていたといわれています。
 
 そして、山本長官の突然の戦死の後を継いだ古賀長官は、就任
に際して有能な福留参謀長の配置を求めました。この要望はかな
えられたのですが、司令部でその参謀長の占めるウェイトが非常
に大きくなり、もっぱら参謀長が作戦指導にあたり、古賀長官は、
ともするとツンボ桟敷におかれたような格好になったといわれて
います。
 
「いくさはどうなっているのかね?」
 将棋の腕前が古賀長官とチョボチョボで、長官に呼び出されて
夜寝る前に一局対戦していた司令部の後任の参謀が、将棋の合間
に長官にそう聞かれて、びっくりしたという実話があります。そ
の後、この参謀は、将棋に呼ばれるたびに長官に戦況の「御進講」
をして、長官からたいそう感謝されたといいますから本当にビッ
クリです。
 
▼逸脱する参謀
 
 このように司令部ごとのスタイルはさまざまだったのですが、
これが実質的な作戦の遂行に悪影響を与えるようになると問題で
す。4人の連合艦隊司令長官は皆、人の好き嫌いがハッキリして
いたそうですが、なかでも山本長官は、黒島先任参謀をはじめと
する特定の参謀を重用する傾向が強かったといいます。真珠湾攻
撃後、戦争の転換点となる運命のミッドウェー作戦前の話です。

山本五十六長官のギャンブル好きは有名ですが、吉田によると、
毎夜の幕僚との将棋が山本司令部内に「将棋的発想」を発生させ
たといいます。緒戦の真珠湾攻撃での大戦果で、山本長官には、
名将、英雄、聖将など、ずいぶん「肩書」がふえていました。将
棋の相手をしている幕僚は、しかるべく将棋のうまい特定の者た
ちに絞られていたのですが、彼らが一種の特権意識をもち、「五
尺の身体が一間にも二間にもふくらんだ気持」になったのです。
 
 当時検討されていたミッドウェー作戦には、やむを得ないこと
とはいえ、本質的にも時間的にも無理がありました。ところが、
毎夜の将棋がなんとなく特定の幕僚たちを勉強不足にし、それを
埋める手段のようにして押しの強い人間にする傾向が生じたとい
います。

このようなミッドウェーの欠陥部分を担当幕僚たちは、この押し
の強さと勉強不足とで押しまくりました。もっともな疑問を呈す
る艦隊の幕僚に「じゃ、頼まん。他の艦隊にやらせる」と立ち上
がりドアをバアンと閉めて出て行く、そんな後から考えると正気
の沙汰と思えないくらいラフな作戦準備が、連合艦隊で急がれて
いったのです。

日本海軍では、スタッフはあくまでも指揮官を補佐するものとさ
れ、それが美点ともされてきましたが、これでは完全に逸脱して
います。大敗を喫するミッドウェー作戦の前には敗因につながる
さまざまな落ち度があったのですが、計画作業の中心でこのよう
なことが起きていたとは暗澹たる気持ちになってしまいます。

▼「政治的決断」によるミッドウェー作戦
 
このような幕僚の不勉強や独走の問題が生じた一方、連合艦隊司
令部と軍令部作戦課の間でも次の作戦方針がかみ合わず、連合艦
隊の考えるミッドウェー作戦をめぐって深刻な溝が生じていまし
た。真珠湾攻撃のとき、山本長官から「これが採用されなければ
辞職すると伝えよ」といわれ、驚いた軍令部が作戦を採用したと
いう前例がありました。これにならってミッドウェーを担当した
参謀もブラフをかけましたが、今度は作戦課は動きませんでした。
 
 とはいえ、作戦課の大反対を押し切り、トップが政治的判断で
採用した真珠湾攻撃が心配をよそに大成功を収めていました。山
本長官の着想と力量についての評価は、真珠湾以前と圧倒的に違
っていたため、軍令部のトップの立場は微妙でした。
「山本長官が自信があるとおっしゃるのなら、長官におまかせし
ましょう」
 またもやトップの「政治的決断」で採用が決まったのですが、
作戦課の参謀たちは当然、猛烈に怒りました。
「作戦課の頭ごしに連合艦隊が作戦をおやりになるのだったら、
どうぞご勝手におやりください」

 国運をかけた大戦争を二人三脚で戦うべき両者が、このような
話にもならない状態となったのですが、これをミッドウェー作戦
の大敗により元に戻してくれたのは敵将のハルゼー中将だったの
ですから泣くに泣けない話です。
 
▼教訓と対策
 
司令部組織の執務態勢が時々の人間関係、力関係で多少変化する
のは仕方のないことだと思います。しかし、それは許容範囲内で
なければなりません。また、戦略レベル(連合艦隊)と作戦レベ
ル(各艦隊)の間の摩擦や不協和音もよくある話ですが、それが
作戦の結果や戦争指導に影響するようではダメです。さらに戦争
指導に「政治的判断」が影響するとしても、それは作戦としての
健全性が確保される範囲内でなければなりません。

このような日本海軍のスタッフ組織が経験した問題は、現在でも
あちこちで起きていると思います。尊敬される大企業や組織で、
判断ミスから大きな損失を出したり、信じられないような不祥事
やトップの暴走がそれです。これらは、日本的組織だからという
のではなく、確固たるグローバル企業と目される組織でも見られ
る問題です。

現在の軍事組織では、政府レベルから現場の部隊レベルに至るま
で、計画を策定するための手順とそのチェック要領が定められて
います。また、日々のスタッフ組織における業務の流れや意思決
定の健全性を保つための多くの工夫がなされています。それは、
拙著『作戦司令部の意思決定』で取り上げた、司令部組織の「ク
ロスファンクショナル化」や業務を円滑化、健全化するための
「クリティカルパス」「バトルリズム」「意思決定サイクル」な
どです。

 組織を作るのが人間である以上、それが軍事組織であるかない
かを問わず起こり得る問題は普遍的であり、その対策も基本にお
いて共通するのではないでしょうか。

 次回は、このシリーズの締めくくりとして、第三の要素である
行動規範・意思決定の問題を取り上げたいと思います。


(つづく)



(どうした・てつろう)


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【著者紹介】
堂下哲郎(どうした てつろう)
1982年防衛大学校卒業。米ジョージタウン大学公共政策論修士、
防衛研究所一般課程修了。護衛艦はるゆき艦長、第8護衛隊司令、
護衛艦隊司令部幕僚長、第3護衛隊群司令等として海上勤務。陸
上勤務として内閣官房内閣危機管理室(初代自衛官)出向、米中
央軍司令部先任連絡官(初代)、統幕防衛課長(初代)、幹部候
補生学校長、防衛監察本部監察官、自衛艦隊司令部幕僚長、舞鶴
地方総監、横須賀地方総監等を経て2016年退官(海将)。

 
 

 
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