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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊
した即応予備自衛官でもあります。
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堂下さんのデビュー作
『作戦司令部の意思決定─米軍「統合ドクトリン」で勝利する─』
への読者反響の一部です。
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「難しい内容をかみ砕き、例示も豊富、コンパクトにまとまって
いる」
「早速、大学の授業で活用、図書館にも入れさせてもらいました。
経営戦略、組織コミュニケーションにも有益な内容です。」
「作戦を組立てる側から理解でき目から鱗でした。防衛、外交関係
者、さらには一般の読者にとっても有益な内容を、詳細かつ分かり
やすくまとめられている。」
「政府機関の政策決定や企業経営者の意思決定にも、広く応用で
きるヒントが含まれている。」
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『作戦司令部の意思決定─米軍「統合ドクトリン」で勝利する─』
http://okigunnji.com/url/352/
こんにちは、エンリケです。
本連載も今回で第20話となりました
きょうからは「海軍式の功罪」と題した
海軍には耳の痛い話が始まります。
大東亜戦争をめぐる提督の知見は、
一見素通りしそうな何気なさで記されていますが、
見る人が見れば非常に新鮮で、ハッとさせられる内容
です。
今日の記事は、
今起きている事柄に応用できる考え方でもあり、
戦史や歴史から何をいかに抽出するか?のお手本でもあり、
熟読してノートにとる価値のある内容と感じます。
エンリケ
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【戦う組織のリーダーシップ─今に生きる海軍先輩の教え─(20)】
海軍式の功罪(その1)「トップのリーダーシップ」
─自ら大局を正しく把握する─
堂下哲郎(元海将)
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□はじめに
前回は「センス・オブ・ユーモア」、ユーモアは柔軟性の尺度
という話でした。これまでの連載のなかで、「海軍式リーダーシ
ップ」として四つの資質、二つの個性、三つの役割、平時と有事
の違いについて述べてきました。また、指揮官先頭、「分(ぶん)」
を大事にすること、合理主義や柔軟性など、「海軍式」の「美点」
とでもいうべき側面を見てきましたが、これからは、第15回で触
れた「伝統の功罪」のような「海軍式」の欠点についても検討し、
戦う組織のリーダーシップのあり方について考えてみたいと思い
ます。
今回はその1回目として、海軍におけるトップのリーダーシップ
はどうだったか考えてみます。
▼海軍式リーダーシップの限界
そもそも海軍のリーダーシップが立派なものだったのなら、な
ぜ無謀な対米戦争に踏み切り、国家を存亡の危機に追い込むこと
になったのでしょうか? 海軍をまとめ上げ、針路を示す立場に
ある高位の人々のリーダーシップに問題はなかったのでしょうか?
海軍式リーダーシップは、作戦の現場において部隊をまとめ上
げ勇敢に任務に邁進させるという点では大きな成果を挙げたのは
確かです。しかし、戦争全体の見通しを立て、そのなかで戦略や
作戦を構想するといった「ハイコマンド」の領域ではいくつも疑
問符がつきます。
そもそも、海軍中央の戦争指導にあたる立場の人々は戦争をど
のように終結させるのか見通しを持たないまま「ドイツも非常に
勝っていることだし、バランスということもあるので、講和のキ
ッカケはその間に出るだろう」と戦争を始めてしまいました。ま
た、山本五十六連合艦隊司令長官の強いリーダーシップで強い反
対を押し切って採用された真珠湾奇襲攻撃は、それまで着々と日
本海軍が積み上げてきた艦隊決戦とは異なる彼独自の対米作戦構
想でしたが、その構想は海軍全体としては共有されていませんで
した。
山本は、真珠湾攻撃が成功したあと、敵の痛いところを次々と
衝いて敵の主力を誘い出して撃滅し、米国の戦意を失わせ戦争を
終わらそうと考えていました。しかし、軍令部(天皇直属の海軍
の中央統括機関。海軍全体の作戦・指揮を統括)は、有利になっ
た情勢をもとに長期持久態勢を作ろうとして、次々と手を広げて
ゆきました。このようなちぐはぐな展開になった大きな原因は、
南方の資源確保や真珠湾攻撃といった第一段作戦以降の作戦構想
が定まっていなかったことにあります。さらに、このことが運命
のミッドウェー作戦につながってしまう大きな要因となるのです
から皮肉なものです。
▼山本五十六長官のリーダーシップ
第4回の連載で、リーダーの個性を「感性」と「理性」の側面か
らみました。そしてこの個性が作戦構想に投影された例として、
真珠湾の奇襲を取り上げ、「理外の理」を生み出した山本五十六
長官の発想は、理詰めの思考というより「感性」から生み出され
た作戦構想であるとしました。
山本長官は、このような独自の全く新しい構想であるにもかかわ
らず、それを部下指揮官に積極的に説明することはありませんで
した。たとえば、開戦直前に南遣艦隊長官として赴任する小沢中
将には「まあ適当にやってもらおう」としか指示していません。
山本長官は3年8か月もの長期間、連合艦隊司令長官の職にあ
りましたので、太平洋戦争の前半は彼の構想で戦ったといっても
過言ではありません。しかし同時に、山本の「個性」だけがあの
大戦争を規定するはずもありません。戦略レベルにおける戦争指
導に影響した海軍としての問題をみてみます。
▼日本海軍の「戦略」
海軍の合理性、柔軟性については、よい伝統の一つとして紹介
しました(第18回)。しかし、戦略や構想づくりという点では、
前動続行や硬直性が目立ち、残念ながら当てはまらないようです。
たとえば、日本海軍の伝統的な艦隊決戦の思想は、日露戦争にお
ける日本海海戦の大勝利という成功体験に基づいています。この
ときに起草された「海戦に関する綱領」をもとにして「海戦要務
令」が制定されました。その後数回の改訂もあり、これに囚(と
ら)われることに警鐘を鳴らす指導者もいましたが、結果的には
戦艦による艦隊決戦、奇襲や短期決戦の思想が強く根付き終戦ま
で変わることはありませんでした。
また、日本は「国家総力戦」となった第一次世界大戦を身をも
って体験していないので、太平洋戦争も「制限戦争」になると誤
判断してしまいました。このため短期決戦のイメージをもったま
ま終戦の見通しをもたずに開戦してしまうという致命的な判断ミ
スをしてしまったのです。海軍では、もっぱら兵器、戦術の研究
ばかりで戦争そのものに関する研究がなされなかったことが、戦
争というものの性格が変化した大局を見誤る大きな原因でした。
ちなみに、海軍参謀のトラの巻とされた『海戦要務令』による
と、戦略とは「敵と離隔してわが兵力を運用する兵術」とされ、
戦術は「敵と接触してわが兵力を運用する兵術」と定義されてい
ます。つまり、「戦略」「戦術」を両者の本質的な区別ではなく、
「視界の届く範囲の外と内」で区分していたことになります。こ
れは大きな欠陥のある考え方であり、航空機の出現などで戦い方
の本質が大きく変化したことに対応できなかった一因とも考えら
れます。
▼トップリーダーに求められるもの
戦う組織のトップリーダーは自らの明確な戦略構想をもち、それ
を部下指揮官にも理解させ、そのうえで具体的な作戦構想と計画
を示さなければならないと思います。
リーダーが構想を立てるためには、まず大局を正しく把握するこ
とが不可欠であり、これは個々の幕僚には期待し得ないことです。
特に戦略レベルの構想ともなると戦争に関係するさまざまな要因
についての正しい理解が必要であり、これには歴史や国際情勢な
どについての深い造詣が求められます。トップリーダーにこそ求
められる知識、見識といえます。
国家レベルの目標や戦略と連接するように構想を立てたら、エン
ドステートを定め、階層化、機能別の仕分けをしないと「使える
戦略」にはなりません。「使える戦略」とはそこから個々の作戦
を構想でき、情勢の変化に対応できうるものです。そしてリーダ
ーは自らの構想を立てたら部下指揮官にわかりやすく説明して納
得させなければなりません。この一連の考え方は拙著『作戦司令
部の意思決定』で詳しく述べましたので省略します。
戦略構想を立てた後の大きな課題は、それを情勢の変化に応じ
て修正・転換させなければならないということです。そのために
は、まずは情勢の変化を正しくつかむことが不可欠だと思います。
その情勢の変化の幅が一定レベルを超えるときには構想の代替案
を検討することになります。作戦司令部では「レッドチーム」な
どが担当することになりますが、その際には「代替将来分析」
「SWOT分析」などの拙著で紹介した手法を用いることになります。
論理的思考(ロジカル・シンキング)は当然のこととして批判的
思考(クリティカル・シンキング)が求められる場面です。
▼歴史の教訓
米海軍は、日本海軍の真珠湾攻撃により空母機動部隊の時代の
到来を認識するとともに、低速の戦艦群を失ったことから、一挙
に航空主兵の近代海軍に変革できました。ところが航空主兵の時
代の到来を認識していたはずの日本海軍は、真珠湾攻撃の後も戦
艦中心の艦隊決戦の考え方が強く残りました。さらに真珠湾の
「大成功」により驕慢が生まれ、半年後にはミッドウェー海戦で
大敗を喫します。この大敗も大本営発表で隠されたことからさら
に変革が遅れたのです。
私たちは程度の差こそあれ、現状維持バイアスや埋没費用バイ
アスがあることを認識して常に戦略の見直しを意識する必要があ
ります。特に日本海海戦の大勝利のような大きな成功体験や莫大
な予算を要する戦艦群の建造など大きな投資をした場合などです。
誇るべき伝統があり、組織に前動続行ムードがある場合などはさ
らに気をつけなければなりません。
▼トップのリーダーシップとは
トップリーダーに求められるリーダーシップとその他のリーダ
ーに求められるものとは大きく異なることを銘記する必要があり
ます。それは、過去の成功や判断を疑い、場合によっては否定し
て新たな行動指針を作ることが含まれ得るもので、トップでなけ
れば決断できないものでしょう。そして、それは組織の存亡を左
右しかねない極めて重要なものであるということです。これを可
能にするのはトップリーダーの優れた資質やレッドチームなどの
批判的思考を受け入れる組織の風土があるかどうかにかかってい
るといえます。
(つづく)
(どうした・てつろう)
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【著者紹介】
堂下哲郎(どうした てつろう)
1982年防衛大学校卒業。米ジョージタウン大学公共政策論修士、
防衛研究所一般課程修了。護衛艦はるゆき艦長、第8護衛隊司令、
護衛艦隊司令部幕僚長、第3護衛隊群司令等として海上勤務。陸
上勤務として内閣官房内閣危機管理室(初代自衛官)出向、米中
央軍司令部先任連絡官(初代)、統幕防衛課長(初代)、幹部候
補生学校長、防衛監察本部監察官、自衛艦隊司令部幕僚長、舞鶴
地方総監、横須賀地方総監等を経て2016年退官(海将)。
PS
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