配信日時 2019/01/09 20:00

【意外と知られていない面白兵器技術(46)】戦車の面白技術(3)─自動装てん(土偏に眞)装置 市川文一

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
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【10月6日配信】桜林美佐の国防ニュース最前線
「イージス・アショアは再検討するべき~装備品
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市川文一元陸自武器学校長 
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こんにちは、エンリケです。

今年最初の配信です。

四十六回目の面白兵器技術。

衝撃の告白があります。

さっそくどうぞ。


エンリケ


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意外と知られていない面白兵器技術(46)

 戦車の面白技術(3)─自動装てん(土偏に眞)装置

市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに
 
 明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いしま
す。本連載も連載を開始してから1年が経とうとしています。長
い間のお付き合い、ありがとうございました。そろそろネタも尽
きてきましたので、あと1か月ほどの連載で終了となる予定です。
何か疑問になることや知りたいことがありましたら早めにお知ら
せください。

陸自兵站、補給の続きです。補給を考える上で、考慮すべき3つ
の要素「取得」「保管」「交付」のうちの今回は「保管」です。
補給を考える上で非常に重要であり、国内で作戦する上で法令な
ど多くの問題を抱える割にあまり考慮されないのが「保管」です。

 取得した補給品は、一度、集積して、交付しやすいように分別、
梱包しなければなりません。部隊が補給品を取得したら、そのま
ま、指揮下の部隊に交付できる訳ではありません。部隊によって
必要な補給品と量が変わります。補給品の再編成が必要というこ
とです。また、部隊はたくさんの補給品を持って戦闘できません
から、どこかに保管する必要があります。しかも、師団クラスが
使用する補給品は膨大な量となります。補給品を保管するための
広大な地積が必要で、受け入れ、払い出しのために多くの隊力が
必要です。

 災害派遣時の自隊補給品や支援物資であれば、体育館や倉庫な
ども活用できますが、防衛出動時は敵からの射爆撃による補給品
の損害も考えなければなりません。加えて、災害派遣では必要と
しない弾薬が全補給品に占める割合は最も多くなるのが通常です。
補給品は、射爆撃による損害が最小限になるような防護措置が必
要ですが、弾薬の場合は誘爆があるため、特に気を遣わなければ
なりません。(つづく)

 読者のD様から、面白いご意見をいただきました。ありがとう
ございます。ご意見は、前回登場のサーマルジャケットを使わず
に砲身を回転させて熱対策をしたらどうかというかというもので
すが、我々には気づかない視点で大変面白いアイデアかと思いま
す。サーマルジャケットの技術は確立されているため、現在の戦
車砲へ新たなシステムとして採用はないと思いますが、今後の新
しい装備、たとえばレールガンなどの開発で、問題解決のために
砲身そのものを回転させるというアイデアが使えるかもしれませ
ん。
 
さて、本題の兵器技術ですが、戦車の面白技術の3回目、自動装
てん(土偏に眞)装置です。自動装てん(土偏に眞)装置が装備
されて戦車乗員が4名から3名になりました。自動装てん(土偏
に眞)装置は、発射速度が向上し走行間での連続射撃を可能にす
るなど優れた装置ですが、乗員が減少したことによるデメリット
はあまり語られていません。

▼戦車砲、火砲の弾込めも人から機械へ
 
 小火器の世界では、弾倉が発明された1800年代から弾込めは自
動ですが、戦車や火砲は今でも人が弾込めをしています。小火器
は、弾倉やリンクベルトのおかげで連射も可能となりました。さ
らには、バルカン(ガトリング)砲のように銃(砲)身を数本束
ねこれを回転させ、弾薬装?も含めてすべて電動で作動させること
により、5,000発/分以上の発射速度も可能となりました。

戦車砲や火砲では、連射の必要性が高くないのと、弾丸が大きい
ため連射できる構造にすると装置も大きくなりすぎるため、連射
機構を開発するという動きはありません。そもそも、弾丸の大き
さと重さを考えると小火器のような連射は物理的に不可能でしょ
う。また、小火器と違って発射薬量の多い戦車砲や火砲では、連
射に耐えられる砲身を作るのは困難です。

ただし、高い発射速度は運用上必要です。初弾が外れた場合、次
弾をいかに早く発射できるかは勝敗を大きく左右します。このた
め、連射は無理としても、発射速度を高めるために自動装てん
(土偏に眞)装置が必要となります。現在では、発射速度を重視
して、戦車や自走榴弾砲で自動装?装置を装備するのが主流となっ
ています。

かつてのソ連では、戦車に自動装?装置を導入することにより弾薬
の装てん(土偏に眞)手が必要なくなるため、戦車乗員の削減を
図るのが目的であったという話もあります。しかしながら、乗員
が1名減ることにより、戦車の運用上いろいろな支障がでてきま
す。

 戦車を機能させるため、戦車の点検・整備、弾薬補給、給油な
ど、やるべき事項はたくさんあります。作戦間であれば偽装や築
城も必要です。61TK、74TKの乗員は、車長、砲手、操縦手、装て
ん(土偏に眞)手の4名でこれらの作業を行なっていましたが、
90TK、10TKでは自動装?装置の導入で装てん(土偏に眞)手がいな
くなり3名で行なわなければならなくなりました。作業量がほと
んど変わらないのに作業員が3/4になるというのは非常に大変
なことです。

 また、戦車を運用するには、操縦手、砲手、車長の3名が必要
です。手動装てん(土偏に眞)の場合は、乗員が4名で1名が負
傷したとしても、発射速度は遅くなりますが砲手と装てん(土偏
に眞)手は兼務できます。自動装てん(土偏に眞)の場合、乗員
が3名ですから、1名負傷して乗員が2名になると戦車を運用す
るのにいろいろと支障がでてきます。

操縦手はほかの操作を兼務できないため、戦車の運用(戦車の前
進目標・経路、射撃目標の決定、他車との連携など)、敵の捜索、
照準、射撃などを1名ですべて行なうこととなります。移動する
だけ、固定位置からの射撃だけなら2名でもなんとかなりますが、
移動しながらの戦闘となると2名ではほぼ不可能です。

 このように、戦車の運用上、利点ばかりとはいえない自動装てん
(土偏に眞)装置ですが、連続した走行間射撃を可能とし、最大
発射速度を向上するためになくてはならないものです。

日本の戦車も90TKから走行間射撃が可能となりました。61TK
や74TKでも走行間に射撃できないことはありませんが、能力上、
目標に命中させるのは極めて困難です。走行間射撃で目標に命中
する能力は、射撃統制装置の能力向上によるものですが、もし、
自動装てん(土偏に眞)装置がなければ2発目以降の発射速度は
著しく低下します。

 パレードの時のように、平地を真っ直ぐに一定速度で走るので
あれば、走行間に装?手が次弾を装?するのは容易ですが、不整地
で戦闘中に方向や速度を変えながら走行する戦車の砲塔内で次弾
を装てん(土偏に眞)するのは不可能に近いといえます。初弾が
命中しなかった場合や、敵の2両目の戦車に対応するためには、
次弾をいかに短時間で発射するのかが勝敗の分かれ目になります。
自動装てん(土偏に眞)装置があれば、走行間でも速やかに次弾
を装てん(土偏に眞)し、発射することができます。

 また、61TKは90mm、74TKは105mmですが、90TKからは120mm
と弾薬が大型化し、人が装?するには限界となる重量といわれてい
ます。特に欧米人と比べて小柄な日本人が扱うには、かなり厳し
い状況となります。狭い砲塔内での装てん(土偏に眞)は、日本
人であれば105mmが限界かと思われます。

 小火器と違い、目標に応じて弾種も変える必要があるため、次
弾、装てん(土偏に眞)する弾種も選択できます。砲手が弾種を
選択して速やかに装てん(土偏に眞)するのには高い練度が必要
ですが、自動装?装置はそれを簡単にやってしまいます。戦車乗車
員が4名から3名に減ったこと以外は画期的な装置です。
 
 自走榴弾砲の自動装てん(土偏に眞)装置も、発射速度向上に
は極めて有効です。榴弾砲での弾込めは、非常に重い弾丸を弾帯
が最初のライフリングに噛み込むようしっかりと押し込んだ後に、
装薬を挿入し、閉鎖機を閉鎖、火管を挿入してから、照準、発射
と結構な手間暇がかかります。日頃の練成訓練で、これらの操作
を短時間でできるようにする訳ですが、限界があります。

 特に射撃終了から弾込めするために砲を装?位置にして、再び射
角をとる時間は、短縮のしようがありません。75式自走155mm榴弾
砲では弾込めをするために砲を装てん(土偏に眞)位置に戻す必
要がありましたが、99式では発射位置での弾込めが可能です。こ
れにより、高い発射速度を実現しています。99式では、弾種の選
択から装薬の装てん(土偏に眞)までが自動です。すべての装て
ん(土偏に眞)が自動で行なえる榴弾砲は世界でも珍しく、日本
が世界に誇れる技術といえます。



(つづく)


(いちかわ・ふみかず)


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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。1983年、陸上自
衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合幕僚監部
人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕僚監部武器・化学課
長、東北方面後方支援隊長、愛知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤務を最後に
2017年8月に退官。

退官後の9月にはYouTube
「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
 https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/aEOhNJ3twN0

著書に『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)がある。
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