配信日時 2018/12/26 20:00

【意外と知られていない面白兵器技術(45)】戦車の面白技術(2)─74式の砲身は2種類ある? 市川文一

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
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【10月6日配信】桜林美佐の国防ニュース最前線
「イージス・アショアは再検討するべき~装備品
老朽化で災害派遣に支障が出る!?」
市川文一元陸自武器学校長 
 https://youtu.be/aEOhNJ3twN0

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こんにちは、エンリケです。

今年最後の配信です。

冒頭文中の
「現在の自衛隊は兵站無視ではないかと思うことが
よくあります。」
とのことばに接し、同意するしかない現状。

いつまでこれで行くのか?
との思いは増える一方です。


さて四十五回目の面白兵器技術。
戦車の面白技術二回目は、
サーマルジャケットがテーマです。

「?」と感じる人も多いでしょうが、
現場技術の観点を養うことができる
優れた内容です。

来年の配信は、1/9からです。

さっそくどうぞ。


エンリケ


ご意見・ご感想はコチラから
 ↓
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意外と知られていない面白兵器技術(45)

戦車の面白技術(2)
 ─74式の砲身は2種類ある?



市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに
 
 2回、間を空けましたが、陸自兵站、補給の続きです。そして、
補給を考える上で、考慮すべき3つの要素「取得」「保管」「交
付」のうちの「取得」の続きです。前回は、備蓄に焦点を当てま
したが、今回は取得の手段についてです。

 補給品を取得するには、上級部隊から補給してもらうか、自分
で調達するか、回収(ろ獲品の使用、部品の採取など)するかで
す。しかし、根本まで遡れば調達することが主体となります。調
達の方法は国内調達(ライセンス国産を含める)か輸入(FMS調
達を含める)です。

 本連載でも、輸入の問題点については何度か触れましたが、継
戦能力を考えるならば国内調達が圧倒的に有利です。日本は多く
の原材料を輸入しているため、兵器の輸入も同じだろうという意
見もありますが、輸入の容易性という観点ではまったく異なりま
す。

 たとえば、弾道ミサイル対応のための最新迎撃ミサイルのSM
3ブロックIIAは、今のところ生産能力が限られているため、予算
があるからといっても必要な数量を買うことはできません。この
ミサイルは、数カ国による共同開発、共同生産で日本も参加して
いますが、アメリカ主導の開発、生産のためアメリカが優先です。

 日本有事の際も同様のことが起こります。日本だけが有事であ
れば、日本を優先して輸出してくれるでしょうが、自国も有事で
あれば当然自国を優先します。これは、ミサイルに限らず、弾薬
や部品に関しても同じです。

 SM3のように共同生産に参加していれば、ある程度の数を取
得できますが、次期中期計画で取得予定のFー35については、日
本は共同開発にも共同生産に参加していないため、Fー35を保有
する関連諸国が日本と同時に有事になった際は、修理用部品や専
用ミサイル、弾薬の取得はできないと考えるべきです。

 旧軍が各種作戦、戦闘で負けた大きな要因として兵站軽視がよ
く言われますが、現在の自衛隊は兵站無視ではないかと思うこと
がよくあります。Fー35についても同じです。実際の取得はこれ
からであり、将来の継戦能力を考えて、本体、ミサイル、弾薬に
ついて、より多くをライセンス国産できるよう、政府として粘り
強く交渉しなければなりません。

 さて、本題の兵器技術ですが、戦車の面白技術の2回目、サー
マルジャケットです。画像ネット検索で2種類の砲身を見つけて
ください。

▼砲身の曲がりを防止する「サーマルジャケット」

 ネットで「74式戦車」を画像検索して、たくさんの74式戦車の
砲身をよく見ると、2種類あるのを確認できます。ほとんどの砲
身は、ツルッとした筒ではなく、排煙器より前の下の部分がチャ
ックのようになっていて、筒が2つつながっているような形状を
しています。外径も太くなっています。ツルッとした細身の砲身
を探すのは難しいかもしれませんが、TAMIYAのプラモデルにこの
タイプの戦車が多いので探しやすいと思います。また、61式戦車
と比較してもらうとよくわかります。

 74式戦車が開発された当初はツルッとした細身の砲身でした。
途中から、チャックのついた太めの砲身になりました。実は、砲
身そのものの太さは変化ありません。砲身の外側にカバーが装着
されていて、全体として太くなっています。さて、これは何のた
めのカバーでしょうか?

 以前、砲口制退器の説明の中で、重さで砲身が曲がる話をしま
したが、熱でも砲身が曲がります。金属は熱くなると膨張するた
め、砲身に温度が高い部分と低い部分があると砲身が曲がる場合
があります。砲身が最も熱くなるのは弾を発射したときに発射薬
が燃える熱によるものですが、温度差は薬室側が高く砲口側が低
い状態のため砲身が曲がることはありません。では、どのような
ときに曲がるのでしょうか?

 炎天下に置かれた金属は非常に熱くなります。鉄の塊である戦
車は、夏には卵焼きが焼けるほどの熱さになります。そうです、
太陽光により砲身の上部が熱くなり下方に砲身が曲がります。重
さで曲がるのも下方ですから、炎天下では太陽光により余計に下
方に曲がります。

 また、冬季、砲身に強い横風が当たると、風が当たっている側
が冷やされて風が当たっている方向に砲身が曲がります。要する
に、砲身の前後(砲尾、砲口)の温度差は問題ありませんが、上
下左右に温度差があると温度が低い方向に砲身が曲がるというこ
とです。

 直接照準火器の照準は、砲身が真っ直ぐなのが前提です。砲身
が曲がっていたら目標に命中しません。炎天下の射撃では、砲身
が下に曲がるために目標を正しく照準すると弾はその下方に当た
ります。2発目については砲身の曲がり分を修正することができ
ますが、初弾を目標に命中させるのは非常に困難です。経験と勘
によりその日の天候や気温を考慮して、照準を修正するしかあり
ません。

また、弾丸は発射後には砲口内で真っ直ぐに飛ぼうとしますから、
曲がった砲身は真っ直ぐになろうとします。弾丸が砲口から出る
ときには真っ直ぐになろうとした砲身が再び曲がろうとするため、
弾丸の弾道に異常な作用をします。砲身の曲がりが大きいとこの
挙動が大きくなり、弾丸が発射される方向を予測することは困難
です。

砲身が曲がったことによる発射方向の影響と砲身の挙動による影
響は天候や気温によって変化するため、これをデータ化するのは
非常に困難であり、熱による砲身の変化を最小限にすることが求
められます。この熱による砲身の曲がりを防止するのが74式戦車
以降の砲身に装着されているカバー、サーマルジャケットです。

 サーマルジャケットは、2種類の構造もしくはその複合の構造
が使われています。1つは断熱材を使い砲身に外気温を伝えなく
すること、もう1つは液体により砲身の上下左右を均一の温度に
することです。これで、砲身が外部の気温の影響を受けずに常に
同じ状態で射撃ができます。砲身の重さによる曲がりについては、
最初から照準器や射撃統制装置に曲がり分の修正値を入れておけ
ば問題ありません。

 90TK、10TKでは、さらに砲身の曲がりを検出する装置(センサ
ー)が付けられており、射撃のつど、砲身の曲がり分を射撃統制
装置(FCS)で修正しています。これで、より正確な射撃をするこ
とができます。

このように、センサーによる砲身の曲がりを検出し、FCSで照準を
修正できるにもかかわらず、90TKにも10TKにもサーマルジャケッ
トが装着されています。このことが、逆に、熱による砲身の曲が
りが命中精度にいかに大きく影響するかを物語っています。

年内はこれが最後のメルマガとなります。年明けは第2週から配
信の予定です。皆様どうぞ良いお年をお迎えください。


(つづく)


(いちかわ・ふみかず)


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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。1983年、陸上自
衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合幕僚監部
人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕僚監部武器・化学課
長、東北方面後方支援隊長、愛知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤務を最後に
2017年8月に退官。

退官後の9月にはYouTube
「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
 https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/aEOhNJ3twN0

著書に『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)がある。
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