こんばんは、エンリケです。
短期連載「米中AI大戦」の最終回です。
「きのうの連載記事も面白かったです。シナ人の「克米」意識と
の指摘は納得ゆくものですね。最後に「経験工学」への言及があ
りましたが、もっと知りたいところです。どうすればわかるでし
ょう?」(やまびこ)
とのお問い合わせをいただいています。
想像以上に読者さんの
「AIと国際情勢とわが国防の関わりを知りたい」
思いは強く深いようですね・・・
わが国でAIについて広く共有されている感覚は
「ビジネス分野のみ」で、最も重要な国防安保面での
AIをめぐる建設的な意見をあまりみかけません。
さいきんでは、
中共が日本のファーウェイ排除に文句を言ってきていますが、
ここは毅然として米国側の「ソフトウエアカーテン」にあると
言わなきゃいけないはずです。
これらの問いを真に満たすには、
明日ご紹介するものが必要ではないか?
と思います。
明日21時に、ご紹介のメールを差し上げます。
では
兵頭二十八さんの短期連載
「米中AI大戦」
の最終回をお楽しみください。
AIと孫子
という、一見かけ離れたものが見事につながります。
エンリケ
ご意見・ご感想はコチラから
↓
http://okigunnji.com/url/372/
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【短期連載】米中AI大戦(最終回)
AIに勝ちたければ『孫子』を再学習せよ
兵頭二十八
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「兵は拙速を聞くも、未だ久しくて巧みなることは睹ず」……と
は、有名な『孫子』「作戦篇」の警句である。
春秋時代の小邦間の攻伐状況を背景に綴られ始めた古典『孫子』
に出てくる「兵」という字は、戦争、それも「防衛戦争」ではな
く「外征戦争」のみを、明確に意味していた。今で言う「侵略戦
争」の指南書だったのである。
当時、小邦の君主が将軍に向かい、「国外へ遠征せよ」と命じ
た目的は、領土面積をむやみに広げることよりむしろ、自国内の
まだ放置状態にある広い可耕地を金属器によって開墾させるため
の労働力(農業奴隷)を、戦争捕虜として獲得してくることにあ
った(より一層こまごまとした解説は、昔わたしがPHP文庫向
けに書きおろした『新訳 孫子』に譲りたいと思う)。
したがって、『孫子』が推奨している「拙速」とは、さて外征
戦争を始めようか、始めまいかと迷ったときに、ろくな検討(廟
算)もしないで、さっさと開戦してしまえばいいんだ──という
「好戦」のニュアンスではいささかもなかったことに、昭和前期
の日本人たちは驚くほど無案内であった。
そうではなく、『孫子』が敢えて強調した「拙速」とは、万全
の計画を立てて開始したはずの外征戦争でも、途中で予定通りに
進展しなくなることがあるが、そのさい、敵地でまだ成果が少し
も得られていないことに拘泥して、遠征軍の引き上げを遅らせて
はならない──こちらから仕掛けた侵略は、なりゆきの良否にか
かわらず、必ず予定通りに早く撤収すべし。さすれば国家の利益
と安全は損なわれない──という意味なのだ。
毛沢東の権力を継承した国家指導者・鄧小平は、この本義を正
しく把握していた。
1979年2月に鄧小平は、人民解放軍56万人をベトナム国境
に集中させ、そのうち30万人に越境攻撃をさせたが、戦争慣れし
ていたベトナム兵の巧みな防御戦闘のため、中共軍には大損害が
重なった。敵首都のハノイを脅やかせるかどうかは疑われる状況
だったが、鄧小平は最初からの計画どおり、一撃ののちは躊躇な
く兵を引いた。
このおかげで、装備も戦術も旧式だった中国兵が泥沼にはまっ
て底なしに消耗する事態は回避され、他方では対外的な政治的な
目的(ベトナム領内にソ連軍基地を置くことは許さないという脅
し)は達せられたのである。しかも鄧小平の人民解放軍に対する
指導力は、磐石化した。
なぜ、「一撃離脱」主義は、外征戦争を安全にするのだろう?
それは、敵国人たちが、決して、わが軍の戦法の癖、戦技の欠
点、兵器の短所等に、深く確信を抱くことができないからである。
たまたまそれに気付いても、その隙を衝く実験のチャンスは与
えられない。だから、いつまでも理解は表層レベルにとどまる。
そのため敵国として、わが軍についての集団的な「学習」はなか
なか進まない。だから、こっちは「ボロ」を出さないで、兵力も
戦法も温存ができるのだ。
これを人に説明するとき、わたしはいつも「ブラックバス」と
「ブルーギル」という、戦後の日本に持ち込まれた獰猛な外来魚
を、喩えに持ち出す。
専門家たちは、これらの繁殖力旺盛で悪食な外来魚たちが、湖
沼に前から先住している(あるいは漁労者により持ち込まれて増
やされていた)魚類を捕食し尽くし、絶滅に追い込むだろうと警
告し続けた。だが、何十年経っても、ヘラ鮒も鯉もニジマスもワ
カサギも、絶滅したりはしなかった。
先住魚類たちは「ブラックバス」や「ブルーギル」を何年も間
近に観察することにより、いやでも「侵略者」の習性に詳しくな
り、敵の能力の限度も理解することになり、それぞれに合理的な
対策を編み出して、時間とともに、同じ池の中の仲間に普及させ
てしまったのである。
2003年にイラクを占領した米軍が、「居座り」を始めた時
から直面したのは、まさにそんな事態だった。
2001年のアフガニスタン作戦のように、一撃離脱で立ち去
ってさえいれば、イスラム武装勢力が米軍の「弱点」を見切るチ
ャンスは与えなかった。なのに、わざわざ占領軍となって現地で
政権交替を監督し、新国家建設まで付き合うとなったら、どんな
愚かな敵勢力でも、駐留を続ける米軍の弱点をしっかりと学習し
てしまうのに、時間はかからない。
AIが「ディープラーニング」に頼っている限り、そのマシー
ンは「初めての現象」が起きたときに、当座は、何も理解できな
いだろう。
だとしたら、毎回、異なる土俵(戦場)を選び、異なる軍種・
兵器を用意し、異なるルールで争い、常に一撃離脱に心がけたな
らば、わが軍は、敵陣営が利用するAIに有益な「学習」を許す
こともなく、敵陣営を、戦うたびに翻弄できると期待してもよい
であろう。
(おわり)
(ひょうどう・にそはち)
兵頭さんへのメッセージ、ご意見・ご感想は、
このURLからお知らせください。
↓
http://okigunnji.com/url/372/
【著者紹介】
兵頭二十八(ひょうどう・にそはち)
1960年長野市生まれ。高卒後、北海道の陸上自衛隊に2年間勤務し、
1990年、東京工業大学 理工学研究科 社会工学専攻博士前期課程
修了。現在は作家・評論家。著書に『あたらしい武士道』
『精解 五輪書』『属国の防衛革命』 『日本の戦争 Q&A』
『【新訳】孫子』『【新訳】名将言行録』『自衛隊「無人化計
画」』 『逆説・北朝鮮に学ぼう!』『ニッポン核武装再論』
『陸軍戸山流で検証する日本刀真剣斬り』『予言日支宗教戦争』
『もはやSFではない 無人機とロボット兵器』『「地政学」は殺
傷力のある武器である』『北京が太平洋の覇権を握れない理由』
『日本史の謎は地政学で解ける』 『AI戦争論』 など多数。
函館市に居住。
PS
弊マガジンへのご意見、投稿は、投稿者氏名等の個人情報を伏せ
たうえで、メルマガ誌上及びメールマガジン「軍事情報」が主催
運営するインターネット上のサービス(携帯サイトを含む)で紹
介させて頂くことがございます。あらかじめご了承ください。
PPS
投稿文の著作権は各投稿者に帰属します。その他すべての文章・
記事の著作権はメールマガジン「軍事情報」発行人に帰属します。
最後まで読んでくださったあなたに、心から感謝しています。
マガジン作りにご協力いただいた各位に、心から感謝しています。
そして、メルマガを作る機会を与えてくれた祖国に、心から感謝
しています。ありがとうございました。
●配信停止はこちらから
https://1lejend.com/d.php?t=test&m=example%40example.com
---------------------------------------------------------
発行:おきらく軍事研究会(代表・エンリケ航海王子)
メインサイト
http://okigunnji.com/
問い合わせはこちら
http://okigunnji.com/url/169/
Copyright(c) 2000-2018 Gunjijouhou.All rights reserved