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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
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【10月6日配信】桜林美佐の国防ニュース最前線
「イージス・アショアは再検討するべき~装備品
老朽化で災害派遣に支障が出る!?」
市川文一元陸自武器学校長
https://youtu.be/aEOhNJ3twN0
市川さんの新刊が好評です。
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こんにちは、エンリケです。
四十三回目の面白兵器技術は、
「戦車の車両技術」の六回目です。
冒頭文がきょうも面白いです。
ほとんどの人は、
国史や名著や名言のさわりしか知らない、
というのが実態のようですね。
だから、原典に直接あたってエキスを吸収する
時間が極めて有益なんでしょう。
今の世の中、これだけ言われても、
現実は、やらない人が98%です。
やるだけでカンタンに2%の中に入れるわけです。
パレートの法則は8対2という数よりも、
「多数対少数」と捉えた方がいいでしょうね。
さっそくどうぞ。
エンリケ
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意外と知られていない面白兵器技術(43)
戦車の車両技術(6)
─サスペンション(懸架装置)(その2)
市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに
陸自兵站の補給の続きは、今回、休みとします。先日、小川和
久先生から非常に良い話が伺えたので、忘れないうちに優先して
紹介します。
孫子の兵法に「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず」とい
う有名な名言がありますが、意外とこの後の続きは知られていま
せん。何だ、「彼を知らず己を知らざれば戦う毎に必ず殆うし」
であろうと思われる方はあと一歩です。この間には、「彼を知ら
ずして己を知れば一勝一負す」があります。
小川先生は、「日本人の孫子の読み方は浅い(間違っていると
強い表現でした)」と言われました。この名言の中で一番大切な
のは、ほとんど知られていない(知っていても意識にない)2番目
の「彼を知らずして己を知れば一勝一負す」であると。
敵の力を知らなくても、我の力を確実に把握しておけば、戦い
の半分は勝つということです。さらには、敵の力を知らず我の力
もわからなくては(たとえ、敵の力が我よりも低くても、という
意味も含まれていると思われます)、常に危ういと、たたみ込み
ます。自分の実力を知ることが最も大切だということです。
そして、先の大戦も自分の実力を正確に客観的に把握していな
かったことが一番の敗因であるし、現在の日本も自国の実力を正
確に把握していないのが問題ということです。特に、日米同盟に
おける日本の実力(地政学的意味も含め)に対する理解が間違っ
ているということを先生は強調されました。このあたりの詳しい
ことは、ご著書を読まれることをおすすめします。(つづく)
さて、本題の兵器技術ですが、戦車の懸架装置(サスペンショ
ン)の2回目です。今回は、油気圧式の懸架装置を説明します。
サスペンションが油気圧式になるとサスペンションの機能を利用
して車体の姿勢制御(車体を前後左右に傾ける)ができます。こ
れは、戦車に独特の技術です。民間技術とあまり差がない軍用車
両技術ですが、姿勢制御は軍用独特の面白技術です。
▼姿勢制御できる油気圧式の懸架装置
70年代に入ると、日本の74TKをはじめとして油気圧式のサスペ
ンションが登場します。油気圧式とはスプリングとショックアブ
ソーバーの組み合わせのサスペンションと原理的には同じです。
スプリングの代わりに、ガスの弾力性を利用し、ショックアブソ
ーバーの役割はガスと一緒に封入されているオイルが果たします。
スプリングと違い、油圧ポンプを使ってオイルの圧力を変える
ことでガス圧も自由に変えられることができ、路面の凹凸による
衝撃の吸収性がよく、車高を変えることも可能です。軍事マニア
の間では74TKの姿勢制御が有名です。90TKも10TKも姿勢制御はで
きますが、61TKから74TKへの顕著な技術進歩が姿勢制御と砲安定
であり注目を浴びましたから、姿勢制御と言えば、74TKの代名詞
です(砲安定についてはのちほど説明します)。
姿勢制御とは、戦車の車体を前後左右に傾けることです。通常
の車両では必要のない機能です。陸自の車両でも姿勢制御ができ
るのは戦車だけです。姿勢制御は主に射撃のために必要な機能で、
走行には必要ありません。
また、砂漠や草原などの比較的平地の多い場所でも必要ありま
せん。日本のように起伏が多い地形だからこそ必要な機能です。
姿勢制御が必要なければ、複雑な機構をもつ油気圧式の懸架装置
ではなく、トーションバー式サスペンションで充分です。
では、姿勢制御が射撃とどのような関係があるのか、説明しま
す。まずは、前後の姿勢制御です。戦車は、砲身の下には車体が
あるため、砲身を下ろしていくと車体と干渉します。上から下方
に向かって射撃するのは苦手です。丘の上から射撃する場合、丘
に乗り上げなければ射撃できません。さらに、下方に向かって射
撃する場合であれば、敵方斜面に乗り出して、戦車の弱点である
上面をさらさなければなりません。ところが姿勢制御を使って後
方を持ち上げることによって、丘に乗り上げずに、また、敵方斜
面に乗り出すことなく射撃することができます。
起伏が多い日本で戦車を運用するのに、上下の姿勢制御は必須
の機能です。90TKは、中央の第3、第4転輪がトーションバー式
サスペンションのため、左右の姿勢制御はできませんが、上下の
姿勢制御は可能です。当然、10TKも姿勢制御ができます(10TKは
左右の姿勢制御もできます)。90TKが左右の姿勢制御ができない
のは、74TKに左右の姿勢制御が必要な理由の裏返しです。
戦車の車体が左右に傾いていると、射撃のために砲身を上げた
ときに傾いた方向に砲身がぶれます。これを砲手の技量で修正す
るのには、極めて高度な技術が必要になります。そこで戦車が傾
きのある場所から射撃する場合に、姿勢制御により車体を水平に
すれば普通に射撃できます。90TKは、砲手が行なうブレの修正を
射撃統制装置(FCS)が行なうため、戦車が傾いていても問題なく
射撃ができます。左右の姿勢制御は必要ないわけです。
10TKでは左右の姿勢制御も復活していますが、走行性能の向上
や射撃反動の吸収性の向上のために、全輪、油気圧式にしたこと
により、可能となった機能であり、74TKでの必要性とは異なりま
す。しかし、上下左右に姿勢制御できる機能は、起伏の多い日本
の地形で戦闘する際に何かと便利な機能で10TKの能力向上につな
がっているのは間違いありません。
姿勢制御を主体に油気圧式懸架のメリットを説明しましたが、
当初説明しましたように走行安定上も油気圧式懸架は優れていま
す。また、射撃時にサスペンションを制御することで命中精度を
向上できます。
最新技術であるアクティブサスペンションにも、自由にサスペン
ションの硬さが調整できる油気圧式が有利です。路面の状況に応
じてサスペンションをコンピューターで制御することで、非常に
安定した走行ができます。日本の戦車(機動戦闘車も)は、アク
ティブサスペンションをまだ採用していませんが、次の戦車はア
クティブとなるでしょう。
(次号に続く)
(いちかわ・ふみかず)
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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。1983年、陸上自
衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合幕僚監部
人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕僚監部武器・化学課
長、東北方面後方支援隊長、愛知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤務を最後に
2017年8月に退官。
退官後の9月にはYouTube
「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/aEOhNJ3twN0
著書に『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)がある。
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(代表・エンリケ航海王子)
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