配信日時 2018/12/06 21:00

【短期連載】米中AI大戦(1) 兵頭二十八

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
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WEB http://wos.cool.coocan.jp
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こんばんは、エンリケです。

きのうお約束しました通り、
きょうから5回程度にわたって

「軍事とAIの最前線」
が見える短期連載「米中AI大戦」をお届けします。

ペンス米副大統領の歴史的な中国弾劾演説の背後にあるもの
AI技術は社会に何をもたらすか?
米中のAI格差
なぜ中共はAIに走るのか?
AIで勝つにはどうすればいいか?

などがわかる内容です。

これまでいただいた
「AIと軍事・安保・国防にかかわる5大疑問」
に応えるものでもあります。

著者は、現代の軍学者・兵頭二十八さん。
わが国で最も広く知られる軍事啓蒙家です。

最新技術・軍事技術を、わかりやすくかみ砕いて
面白く説明することで定評があり、これまでも、小銃
や無人兵器などの分野で先駆的な著作を残されていま
す。

兵頭さんへの疑問・質問やご意見ご感想もゼヒお寄せください。

さっそくどうぞ。


エンリケ


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【短期連載】米中AI大戦(1)

 米中は「ソフトウェアカーテン」で互いを締め出す
  ~「新OS」で「第二のビル・ゲイツ」を夢みる新企業~

    兵頭二十八
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 中国から日本に対して「AI分野で共同開発しましょう」とか、
「共同研究しましょう」といった呼びかけが、時としてあるようだ。

 これを真に受ける人々は、二重の「罠」にはまるであろう。
 IT/AI業界には、何か優れた新案を、いちはやく完成し、
いちはやく特許を取り、いちはやく普及させて「国内標準」化、
さらには世界のデファクトスタンダード化しおおせた起業家が、
誰でも、次のビル・ゲイツ(1994年以降、十数度にわたり世
界一の富豪にランキングされている、マイクロソフト社の創立者)
になれる機会が、ころがっている。

 1980年代にわが国にパーソナル・コンピュータの普及の大
波が押し寄せたとき、一般消費者の選択は、アップル社の基本オ
ペレーション・ソフトで動作するマッキントッシュ系列か、さも
なくば、マイクロソフト社の基本オペレーション・ソフト(当初
はMS‐DOS、そののちはウインドウズ)の上で動作する諸系
列(IBM、NEC、エプソン……etc.)の、ほぼ二つに一つし
かなかった。

 マイクロソフト社は、インテル社やアップル社のようにハード
ウェアには手を出さず、PC用の基本ソフトと、抱き合わせの汎
用事務系ソフトでアメリカ市場を速やかに制覇。すぐに世界の自
由主義市場は席捲された。

 そうなっては、圧倒的な共用利便性(すなわちサードパーティ
からリリースされるオフィス用ソフトやゲームソフトの豊富さ)
のゆえに、旧ソ連や中共、反米的なイランや北朝鮮の公務員系の
ユーザーたちですらも、甚だ不本意ながら、MS‐DOSやウイ
ンドウズを頼りにし続けるほかはなくなったのである。

 独占禁止法には抵触しないで、合法的な「独占」「寡占」がで
きてしまうというところが、この基本ソフトウェア・ビジネスの
旨みだろう。

 同様の、基本ソフトウェア支配による市場独占競争が、スマー
トフォンのOSに関しても起きている。こちらでは、先行したア
ップル社の「iOS」に、グーグル社(当時)の「アンドロイド
OS」が追いついて、以後、この2系統で世界市場がほぼ寡占さ
れている。

 いったん、自社発明の基本ソフトで世界市場をなびかせてしま
えば、以後何十年にもわたり、権利料を世界人類から徴収できる
仕組みができあがる。誰でも、一代にして大富豪・大企業に成り
上がれてしまう。

 だが、それだけではない。
 ある企業の開発した基本ソフトによる事実上のグローバル市場
制覇は、その企業に、他国を知的財産権によって拘束・支配でき
る可能性や、他国の私人や法人の情報を「物のインターネット」
を通じて吸い上げて、他国の秘密をまる裸にし、世界じゅうの個
人の全生活に随意に干渉する力までも、与える可能性がある。

 たとえば、アメリカ合衆国の企業が普及させたソフトが、中華
人民共和国の住民の全人生を監視できたり、あるいはその逆に、
中華人民共和国の企業(そこには共産党がしっかりと入り込む)
が普及させたソフトが、アメリカ合衆国の住民の全人生を把握で
きるという「常態」を、どちら側であれ、政府と国民が、甘受で
きるだろうか? もちろん、そのソフトのユーザーである限りは、
全国民が、他国企業のために厖大な権利料を貢ぎ続けるのである。

 ……忍び得るわけがないだろう。米中のどちらも、敵国のソフ
トウェアによる「被支配者」の境遇へ落ちることなど、拒否する。
 90年代から2000年代にかけて、中国マネーのおかげで億万
長者になれたアメリカの投資家がいかほど残念がろうが、犬の遠
吠えだ。

 今後、米中両国は、ソフトウェアと知的財産のバリアーを厳重
にめぐらし、IT/AI関連分野の技術と商品に関しては、互い
に互いをとことん排除するしか道はない。資本交流も、人的交流
も、情報交流も、遮断に向かうであろう。

 そして、IT/AIと無関係な商品や研究などは、もう考えに
くいご時世なのであるから、米中は、経済的にはCOCOM(対
共産圏輸出統制委員会。1950年?94年)時代に逆戻りする。

 この政策は、アメリカにとっては「権利章典」(基本的人権)
の防衛の問題になるので、もはや投資家などの出る幕ではないの
だ。米国指導者層のうち、安全保障政策立案グループは、この方
向でコンセンサスをまとめてしまったところだろう。それが表出
したのが、2018年10月4日のペンス副大統領による、歴史的
な中国弾劾演説であろう。

 これから米中間に、透過を禁ぜられる「ソフトウェアカーテン」
が構築されて行く過程で、日本国内の企業や研究所はすべて、そ
のカーテンの中国大陸側にいるのか、米国側にいるのか、米国政
府から詰問されずにはおかないだろう。

 AI開発で中国との提携に深入りしていた日本の法人や私人は、
米国市場からは切断され、中国側からは、完全な奴隷の身分を受
け入れるように迫られる。この「二重の罠」から、無傷で脱出で
きたら、大したものだろう。


(次回に続く)


(ひょうどう・にそはち)


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【著者紹介】
兵頭二十八(ひょうどう・にそはち)
1960年長野市生まれ。高卒後、北海道の陸上自衛隊に2年間勤務し、
1990年、東京工業大学 理工学研究科 社会工学専攻博士前期課程
修了。現在は作家・評論家。著書に『あたらしい武士道』
『精解 五輪書』『属国の防衛革命』 『日本の戦争 Q&A』
『【新訳】孫子』『【新訳】名将言行録』『自衛隊「無人化計
画」』 『逆説・北朝鮮に学ぼう!』『ニッポン核武装再論』
『陸軍戸山流で検証する日本刀真剣斬り』『予言日支宗教戦争』
『もはやSFではない 無人機とロボット兵器』『「地政学」は殺
傷力のある武器である』『北京が太平洋の覇権を握れない理由』
『日本史の謎は地政学で解ける』 『AI戦争論』 など多数。
函館市に居住。

 
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発行:おきらく軍事研究会(代表・エンリケ航海王子)
 
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