配信日時 2018/12/10 20:00

【戦う組織のリーダーシップ ─今に生きる海軍先輩の教え─(17)】「海軍仕事術(その3)「分(ぶ)」を大切にする」 ─乗組員それぞれが自分の持ち場をしっかり守る─ 堂下哲郎(元海将)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊
した即応予備自衛官でもあります。
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堂下さんのデビュー作
『作戦司令部の意思決定─米軍「統合ドクトリン」で勝利する─』
への読者反響の一部です。

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「難しい内容をかみ砕き、例示も豊富、コンパクトにまとまって
いる」

「早速、大学の授業で活用、図書館にも入れさせてもらいました。
経営戦略、組織コミュニケーションにも有益な内容です。」

「作戦を組立てる側から理解でき目から鱗でした。防衛、外交関係
者、さらには一般の読者にとっても有益な内容を、詳細かつ分かり
やすくまとめられている。」

「政府機関の政策決定や企業経営者の意思決定にも、広く応用で
きるヒントが含まれている。」


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『作戦司令部の意思決定─米軍「統合ドクトリン」で勝利する─』
http://okigunnji.com/url/352/



こんにちは、エンリケです。

「海軍仕事術」の三回目です。

「艦橋」ということばの由来は、
非常に興味をそそられますね。

本文にある様々なエピソードも
ほんとうに有益で面白い。
武家の若者たちが、先輩から戦ばなしを
聞いている錯覚を覚えます。

まあ、ほかではお目にかかれない
内容ですね。

あなたはどう思います?


エンリケ



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【戦う組織のリーダーシップ─今に生きる海軍先輩の教え─(17)】

「海軍仕事術(その3)「分(ぶ)」を大切にする」
 ─乗組員それぞれが自分の持ち場をしっかり守る─

 堂下哲郎(元海将)
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□はじめに
 
 予算の季節ということもあり、海上自衛隊の新型護衛艦「30F
FM」(30年度計画の機雷戦機能〔M〕をもたせたフリゲート
〔FF〕)が話題になっていますね。完成予想図を見た方もいる
と思いますが、ようやく先進的なフリゲートの外観になってきま
した。オールド・セイラーの私としては、まずはブリッジ(艦橋)
まわりに目が行き、その使い勝手など想像してしまいます。

ところで、なぜ「あの部分」を「ブリッジ(艦橋)」と呼ぶよう
になったのでしょうか?船の歴史を少し振り返ってみたいと思い
ます。話は蒸気機関が実用化され、帆船の時代から外車船(外輪
船)の登場となった時代に遡ります。

外車船は、船体中央に巨大な機関室と左右の外舷に外車が必要に
なり、そのままでは船尾の舵輪の位置からは進行方向の海面はお
ろか船首さえ見えなくなります。そこで代わりの見張り場所とし
て左右の外車カバーの上が着目されたのですが、左右の行き来が
面倒となったので、連絡通路として左右の外車カバーに「橋」が
架けられました。やがてその「橋」の上に、船尾の操舵室にある
のと同じようなコンパスや舵輪が設けられ、「ブリッジ」が操舵
室と見張り台の機能をもつことになり現在に至っています。日本
語では「艦(の)橋」と訳されたわけです。

ウォーターラインモデル(1/700スケールの艦船模型)愛好家もお
られると思いますが、ブリッジ、マスト、煙突などは作り甲斐の
あるところですよね。予算がちゃんとついてカッコいい30FFM
になり、良いキットが発売されるのが楽しみです。


▼チームワークの重視

さて、今回は海軍仕事術の3回目としてチームワークの話をした
いと思います。前回はリーダーの率先垂範、陣頭指揮について話
しましたが、このような力強く積極的な海軍式リーダーシップと
いうものは強固なチームがあってこそ生きると思います。チーム
ワークのできていないところでリーダーがいくら頑張ってもそれ
は「空回り」になってしまいます。よくある失敗は、リーダーだ
けが独走して振り返ってみるとチームがついてきていなかったり、
デキるリーダーはつい自分で仕事をやってしまいチームの力をか
えって殺いでしまうなどです。

強いリーダーシップを作用させる時にはチームワークも強固なも
のになっていないといけません。グイッと引っ張ったらチームが
バラバラになるようでは困ります。リーダーの「張力」に堪えら
れるチームの団結力や実行力が求められますし、逆に言えばリー
ダーはチームの団結力などを見極めてリーダーシップの「馬力」
を調整しなければならないということでもあります。

 海軍の伝統は総じて軍艦が基本となっています(連載第15回の
「すべからく「艦」が基本になっています」というのは「すべか
らく」の誤用でした。ご指摘いただいた読者に感謝します)。軍
艦の乗組員は、上は艦長から下は一水兵に至るまで「部署」と呼
ばれる分厚いマニュアルの中に、出入港、航海、戦闘など、さま
ざまな任務を行なう場合の1人ひとりの役割が定められています。
また、装備品の1つひとつには操作担当者と整備担当者が個人名
で割り振られています。たとえば、武器、エンジン、通信機、真
水製造装置、厨房機器、トイレ、多数のハッチやバルブなどです。
どの1つが整備不良、誤操作となってもたちまち艦の機能を発揮
することは困難になります。

 したがって、軍艦では1人の過失も艦にとって致命的になりう
ることが徹底して教育され、その意味においては、階級による任
務の軽重はないということもできます。海軍では、このような
1人ひとりの立場や役割を「分(ぶ)」ともいい、「分を守れ、
分を果たせ」と教えられてきました。

▼長官退いてください

 一水兵の「分」も大事にするという意味で、機関科の森田貫一
中将(機23期)についての思い出話が阿川弘之著『高松宮と海軍』
に紹介されています。

 昭和初年、観艦式の折の思ひ出でした。陛下が行幸になります
から、日本海軍の生き神さまみたいな東郷元帥も来て、お召艦の
デッキに立つてお待ちしている。森田貫一さんもそこにいた。
 水兵が甲板洗ひをやつてゐます。這ひつくばつて甲板を水とモ
ップで綺麗に洗ひ清めて行くんだが、途中にたつているお偉方の
靴先が邪魔になるもんで、「ちょっと、そこの長官退いてくださ
い」、一人が言つたら、東郷元帥が「はいよ」と少し高いところ
へ、靴を濡らさないやうに避けたつていうんですがね。それを見
て驚いたのが、侍従武官長だつた陸軍の奈良武次大将で、森田さ
んに、「自分はけふ、恐ろしいものを見た。水兵が元帥に向かっ
て、ちよつと退いてくれと、あんなこと陸軍で言へるものぢやな
い。あり得べからざる話だ」、そう嘆じたというのです。
 「海軍ぢやごく当たり前のことなんだが、陸軍の人の眼には不
思議な光景と映るらしいねえ」と、森田老中将は笑って話されま
した。


▼なさってはなりません

 もうひとつ、将官のエピソードを見てみましょう。山梨勝之進
大将(海兵25期、のち学習院長)に関する話が知られています。
昭和28年、安部祐三海将(海兵75期)が長澤浩(海兵49期)第二
幕僚長(現在の海上幕僚長)の副官をしていた時の思い出です
(一部要約)。

 昭和28年当時、まだ多くの海軍の大先輩が健在で、第二幕僚長
への来訪も多かったのだが、そのなかのひとりが山梨大将であっ
た。山梨大将は、アポがあれば時間調整をして必ずピタリの時間
に来訪された。また、アポなしで来訪されるときには、一切事前
の連絡はされなかった。連絡を入れれば、余程のことでもない限
り、幕僚長が予定を空けて待たれることを御承知だからであり、
それをさせまいとの配慮であり、この点徹底されていた。

 山梨大将が、端正な服装で穏やかな笑みを湛えながら突然姿を
見せられると、副官としては跳び上がって挨拶し、幕僚長に来訪
を報告しようとする。
「副官、山梨は今日はお約束頂いておりません。お取次は無用で
すよ。」
「幕僚長は、今在室しております。会議中でもありません。届け
てまいります。お待ちください。」
「今日はお約束で来たのではありませんよ。」
「ご来訪を報告しないと後で私が叱られます。一寸お待ちくださ
い。」
「今日は、お時間は頂いておりません。お取次なさってはなりま
せん。ただ山梨が近くまで来たので立ち寄りました。長沢幕僚長
のご健勝とご活躍をお祈りしていますと、幕僚長のお仕事が全部
お済みになってから、伝言願います。いいですか、書類をお読み
になるのも大切なお仕事ですよ。」

 50期後輩の副官は金縛りにあったように動けない。副官付が急
いで淹れたお茶を飲まれて、御苦労さん、ありがとう、とニコリ
とされて後ろ姿になられる。山梨大将のご指示通りあとで長澤幕
僚長に報告すると、ジロリと睨まれた後で「ウン」とだけ答えら
れる。そして大抵の場合、翌朝、「山梨大将にはお礼の電話を差
し上げておいた」とだけ教えてくださった。

 海軍は、形而上でも一つの文化を持っていたといわれる。山梨
大将のご指導を考えるとき、少なくとも次のことに思い当たる。
「責務とそれに伴う権限に対する尊敬と敬意」。日時を約束され
て来訪されるとき以外、たとえ幕僚長室の前までお見えになって
も、決して長澤幕僚長の時間をとることはされなかった。私のよ
うな副官に対しても、職名又は「さん」づけで呼んで下さり、
「なさってはなりません」とまでの言い方で教えて頂いた。

 山梨大将は、先輩後輩の関係を脇に置いて公私のけじめをはっ
きりさせ、現職の第二幕僚長が負っている責務や立場を尊重する
ことで、「自らの分を守り、他の分を尊重すること」を自然な振
舞いの中で副官に示されたというエピソードだと思います。


▼海軍のチームワークの根底にあるもの

 水兵の「退いてください」と元大将の「なさってはなりません」
のどちらも、海軍において個人の「分」が大事にされていたこと
を示しています。乗組員一人ひとりが役割を担っている軍艦の例
を見ても、個人の「分の集積」が海軍におけるチームワークの基
盤だったことが分かります。決して命令を下すリーダーとそれを
受けるだけの部下という関係ではありません。

 運命共同体である軍艦では、艦を守るために厳しい躾や訓練が
課されていました。これによって培われた厳しい規律に加えて、
乗組員それぞれが自分の持ち場を守っていることによる相互信頼
や狭い艦内で共同生活をすることによる上下左右の愛情があった
からこそ強いチームワークが成り立ったのだと思います。


(つづく)


(どうした・てつろう)


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【著者紹介】
堂下哲郎(どうした てつろう)
1982年防衛大学校卒業。米ジョージタウン大学公共政策論修士、
防衛研究所一般課程修了。護衛艦はるゆき艦長、第8護衛隊司令、
護衛艦隊司令部幕僚長、第3護衛隊群司令等として海上勤務。陸
上勤務として内閣官房内閣危機管理室(初代自衛官)出向、米中
央軍司令部先任連絡官(初代)、統幕防衛課長(初代)、幹部候
補生学校長、防衛監察本部監察官、自衛艦隊司令部幕僚長、舞鶴
地方総監、横須賀地方総監等を経て2016年退官(海将)。

 
 

 
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