配信日時 2018/12/05 20:00

【意外と知られていない面白兵器技術(42)】戦車の車両技術(5) ─サスペンション(懸架装置)(その1)─ 市川文一

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
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【10月6日配信】桜林美佐の国防ニュース最前線
「イージス・アショアは再検討するべき~装備品
老朽化で災害派遣に支障が出る!?」
市川文一元陸自武器学校長 
 https://youtu.be/aEOhNJ3twN0

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こんにちは、エンリケです。

四十一回目の面白兵器技術は、
「戦車の車両技術」の五回目です。

きょうも面白いです。

さっそくどうぞ。


エンリケ


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意外と知られていない面白兵器技術(42)

戦車の車両技術(5)
 ─サスペンション(懸架装置)(その1)


市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに

 陸自兵站の補給の続きです。前回、どこでも入手できる水や食
料と通常では入手できない弾薬という、優先度が高いという意味
では同じでも特性がまったく異なる補給品を例として紹介しまし
た。部隊が作戦を行なうためには、多くの補給品が必要ですが、
水や食料と弾薬のように、それぞれ特性が異なり補給要領も違う
ためさまざまな工夫や考慮が必要です。

 補給を考える上で、考慮すべき3つの要素は「取得」「保管」
「交付」です。補給品の種類によってそれぞれの要素で考慮すべ
き事項が変わります。当然、前回説明したように部隊の行動が基
準となりますから、災害派遣と防衛出動では必要な補給品そのも
のも変わります。

 取得の段階で基準になるのが部隊の行動で、作戦の準備段階か
ら作戦終了まで、いつ、何がどのくらい必要なのかを見積もり、
取得の要領を決定します。装備品本体や整備用部品、弾薬などは、
取得するのに制限がありますから、数年で必要な補給品を取得す
るのは困難です。平素から各種作戦行動に対応できるように、備
蓄するのが基本となります。

 兵站でまず問題となるのが、この備蓄です。限られた防衛費の
中から備蓄のための経費を捻出するのは大変なことです。とりあ
えず、今ある装備品を維持管理し、射撃訓練に使う弾薬を取得し、
新しい装備品を開発するだけでも、現在の防衛費ではギリギリで
す。備蓄のための予算はほとんどありません。

 また、備蓄とは、使うか使わないかわからない、ある意味無駄
な買い物です。一般の製造業では不良在庫ということになるので
しょうか。安全保障や国防に深い理解がないと、なかなか認めら
れるものではありません。自分のように国の防衛に直接関係する
仕事をしてきた者からすると当然のことですが、安全保障や国防
に関心のない人の立場であれば、無駄と思ってもやむを得ない気
がします。それだけに、安全保障に関する最低限の共通教育は必
要不可欠なのではないでしょうか。

 さて、本題の兵器技術ですが、戦車の懸架装置(サスペンショ
ン)です。サスペンションは、ほぼすべての車両に装備されてい
る装置ですが、戦車の場合は車体重量の関係で独特のサスペンシ
ョンが使われています。

▼トーションバー式サスペンション

 懸架装置(サスペンション)は、車両を安定して走らせるため
に重要な機能です。乗用車では、乗り心地に影響します。サスペ
ンションがないと、路面の凹凸が直接、車体の動きに影響を与え
ます。速度が速いと車両は飛び跳ね、まともに走ることができま
せん。

 サスペンションは、路面の凹凸の変化を吸収して車体の上下動
を抑えます。路面の凹凸に合わせて車輪が上下して、車体は水平
のまま走るイメージです。民間車両(軍用でも戦闘車両を除くほ
とんどの装輪車)では、凹凸の変化を吸収するのにバネ(スプリ
ング)が使われます。スプリングは路面の凸で縮み、凹で伸びる
ため、路面の凹凸にうまく対応できます。

 しかし、スプリンは縮んだあと戻るときに同じ力を車体に与え
るため、車体が振動してしまいます。このスプリングの力を吸収
して車輪の上下動をスムーズにするのが、ショックアブソーバー
です。ショックアブソーバーは、火砲が射撃したときの衝撃を吸
収する駐退機に近い構造をしています。基本構造は、注射器で液
体を押し出すときにゆっくりとした動きをするのと同じ原理を使
ったものです。

 注射器の穴の大きさを変えることにより、サスペンションの性
質も変わります。穴が小さくなるほどスプリングの動きが抑制さ
れます。スプリングの特性を変えるには取り替えるしかありませ
んが、ショックアブソーバーは穴の大きさを変えることでサスペ
ンションの硬さを調整することができます。この調整を、速度や
走行状態(カーブ、登り下り、路面など)に応じて電子制御すれ
ば、常に理想的な状態で走行することができます。

最近の道路は、ほとんどがきれいに舗装されているため、乗用車
のサスペンションは固めに設定され、車輪の上下動が制限されて
います。高速では、サスペンションの設定が柔らかいと車体の挙
動が大きくなり、走行が不安定になります。たとえば、カーブで
は遠心力で外側へ車体が傾きますが、高速では傾きが大きくなり
連続したカーブでは車体が左右に傾くため、安定した走行ができ
ません。

装輪車ではスプリングとショックアブソーバーの組み合わせのサ
スペンションで車を支えられますが、戦車のような重車両ではス
プリングが大きくなり収納するスペースがありません。戦車の車
体を支えているのは転輪と駆動輪ですが、10TKであれば、片側で
7個、両側で14個ですから、14個の大きなスプリングを収納する
にはかなり大きなスペースが必要です。

そこで、重車両に多く使われるのがトーションバー式サスペンシ
ョンです。国産戦車では、61TKがトーションバー式を90TKが油気
圧式とトーションバー式のハイブリット方式を使用しています。

 トーションバー式とは、細長い金属の棒の片側を固定して、も
う片側を捻る時の反発力を利用しています。同じ金属を使えば棒
を太く、短くすれば捻りにくくなりますから、反発力も強くなり
ます。スプリングに比べると細長い真っ直ぐなスペースを利用で
きるため効率よく収納でき、同じ反発力を得るためには軽量で作
ることができます。

60年代までは、世界のほとんどの戦車がトーションバー式サスペ
ンションを使用していました。シンプルの割に能力が高いため戦
車には適したサスペンションといえます。最近でも、日本の90TK、
アメリカのM1やドイツのレオパルドIIに使用されています。


(次号に続く)
 



(いちかわ・ふみかず)


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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。1983年、陸上自
衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合幕僚監部
人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕僚監部武器・化学課
長、東北方面後方支援隊長、愛知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤務を最後に
2017年8月に退官。

退官後の9月にはYouTube
「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
 https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/aEOhNJ3twN0

著書に『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)がある。
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