配信日時 2018/11/28 20:00

【意外と知られていない面白兵器技術(41)】戦車の車両技術(その4)─トランスミッション/最近の戦車は「オートマ」 市川文一

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
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【10月6日配信】桜林美佐の国防ニュース最前線
「イージス・アショアは再検討するべき~装備品
老朽化で災害派遣に支障が出る!?」
市川文一元陸自武器学校長 
 https://youtu.be/aEOhNJ3twN0

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こんにちは、エンリケです。

四十一回目の面白兵器技術は、
「戦車の車両技術」の四回目です。

戦車にはクラッチがある。
考えてみれば当たり前のことなんですが、
そんな感じがしないのはなぜでしょうね。

戦車も、MTからATに進化しているとか。
10TKのスムーズな走りに
身をゆだねたい欲求に襲われましたw

さっそくどうぞ。


エンリケ


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意外と知られていない面白兵器技術(41)

戦車の車両技術(その4)
 ─トランスミッション/最近の戦車は「オートマ」


市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに

 陸自兵站の続きです。補給・整備・回収・輸送の機能の中でも、
多種多様で複雑なのが補給です。整備についても、多種多様な器
材を扱うという観点からは同じですが、整備の要領や手続きに関
してはほとんどの器材が同じです。補給については物によって特
性が異なるため、それぞれに要領や手続きが異なります。

 普通、補給といって、まず思い浮かぶのが水と食料、冬季であ
れば毛布です。災害派遣でも最初に優先される補給物品です。災
害派遣であれば、その後の補給物品といえば、簡易トイレ、衣類
や日常品、紙おむつ、燃料などになります。そして、これらの補
給は被災者を対象とした物であり、部隊が使用する補給物品とな
ると少し変わってきます。

 災害派遣で活動するには車両や施設器材が必要なため、これら
を動かすための燃料は必須の補給品となります。そして、車両や
施設器材が故障した場合は修理しなければなりませんが、修理の
ためには部品が必要となります。燃料は、重要な補給品としてす
ぐに思い浮かびますが、部品が補給品として必要不可欠だという
のは、意外かもしれません。

 これが、防衛出動になると優先される補給品は大きく変わりま
す。水や食料は生命の維持に直結しますから、あらゆる作戦・行
動において優先される補給品です。そして、防衛出動で一気に重
要度が上がるのが弾薬です。戦場においては、弾薬がなければ命
を守れませんし、任務も達成できません。災害派遣と防衛出動に
おける補給の特性の大きな違いです。

 補給品の種類によって特性も大きく異なります。水や食料はす
べての人に必要なため、入手は容易です。ただし、長期間保存で
きるものを大量にとなると、それなりにノウハウが必要となりま
す。弾薬は、入手が限定されます。基本は、自衛隊で備蓄されて
いるものです。余裕があれば国内の弾薬メーカーが製造しますが、
限度があります。輸入している弾薬であれば、輸入に頼ることに
なりますが、輸出国の政策に左右されます。(以下続く)

 さて、本題の兵器技術ですが、前回は戦車のエンジン、今回は
戦車のトランスミッションです。陸自において、大型トラックは
最近までマニュアルのトランスミッションが使われていましたが、
戦車はすでに74TKからセミオートマチックが使用されています。
車両の基本的技術は同じでも、軍用技術が先行している一例とい
えます。


▼スペックに現れない10式戦車の凄さ

 今ではほとんどの乗用車がオートマチックのトランスミッショ
ンのため、車を走らせるのに変速が必要だということを知らずに
車に乗っている人が多いのかもしれません。今でも一部のスポー
ツタイプの車ではマニュアルのトランスミッションが採用されて
いますが、非常に少数です。

変速を知らなければ、ギヤチェンジ、クラッチなども知らないで
しょう。オートマチック車は、アクセル、ブレーキ、ハンドルの
操作で車を走らせますが、マニュアル車では、クラッチとギヤチ
ェンジのためのシフトレバーの操作も必要です。70年代の車では、
これが一般的でした。

 車を発進させるときには大きな力が必要ですが、一端、走り出
すと力は必要なく、タイヤを高速回転させなければならなくなり
ます。これをトランスミッションなしで行なうと、高速走行はエ
ンジンをフル回転させなければならなくなります。出せるスピー
ドにも限界があります。発進から高速走行までスムーズに車を走
らせるため必要なのがトランスミッションで、マニュアル車では
左足で踏むクラッチと左手で動かすギヤチェンジのためのシフト
レバーで操作します。この操作を機械で行なうのがオートマチッ
ク車です。

 戦車も乗用車と同様に以前はマニュアルでしたが、最近開発さ
れた戦車はほとんどすべてがオートマチックです。国産戦車も戦
後では完全マニュアルは61TKだけで、74TKはセミオートマチック
です。発進と停止ではクラッチ操作が必要ですが、ギヤチェンジ
はノークラッチ操作です。90TKからは乗用車感覚で乗れるオート
マチック車です。筆者も61TKから10TKまでの戦車の操縦体験があ
りますが、90TK、10TKの操縦は非常に簡単です。

 車両全般に共通したことですが、戦車で使われているトランス
ミッションも民間用と構造・機能はほとんど変わりません。違い
は、民間用にはない重い車体を動かすため、高い出力のエンジン
からの動力をスムーズに駆動輪に伝えるための細かな工夫と高出
力に耐えられる強度です。当然、民間で使われているものを流用
することはできませんから、開発が必要です。

 そして、前回も説明した整備性です。民間用車両でエンジンと
トランスミッションが一体化したパワーパックとして同時に交換
できるものはありません。一体化させることで簡単に交換できま
すが、冷却水やオイルの配管、動力伝達用シャフト、電力・電気
信号用ケーブルなどを集約しなければならないため、余計なコス
トがかかります。

民間用車両では頻繁にエンジンやトランスミッションを交換する
必要がないため、単にコスト増になるだけです。戦場で故障した
戦車をどれだけ早く復旧できるかは、作戦・戦闘の勝敗にも結び
つく重要な要素です。戦車の開発においては必要不可欠なコスト
です。

戦後初の国産戦車の61TKは、前進5段、後進1段の一般的な仕様
のマニュアルトランスミッションです。一般的仕様のためにギヤ
チェンジが非常に難しく、操縦手の高い技量が必要な戦車でした。
オートマチック車では想像できませんが、シフトレバーを動かし
てもスムーズにギヤチェンジができないのです。初心者では発進
することもできないほどです。

これが74TKでは、セミオートマチックとなり、発進のクラッチ操
作もスムーズなため、格段に操縦しやすくなりました。また、61
TKと74TKの大きな違いに走向装置があります。61TKは、今でもブ
ルドーザーなどで使われている2本のレバーで戦車の左右への方
向を操作します。レバーを引くと駆動輪にブレーキがかかりキャ
タピラーの回転が遅くなるため、レバーを引いた方向に曲がりま
す。これも、スムーズな走向には熟練が必要です。74TKでは、オ
ートバイのハンドルと同様の横一直線のレバーで操作します。感
覚的にはオートバイと同じです。

そして90TKからは、完全なオートマチックですから、普通車感覚
で操縦できます。さらに10TKでは、HMT(油圧機械式無段階自動変
速操向機)が使われています。民間用で一般的に使用される用語
ではCVT(無段変速機)で、HMTもその一つです。乗用車では、ベ
ルト式、チェーン式、トロコダイルCVTが多く使用されています。
最近人気のハイブリット車は、電気式CVTや電気、機械併用式CVT
が使用されています。HMTはオートバイや農機具などに多く使われ
ている技術です。

HMTは、無段変速の言葉どおり非常にスムーズな走行が可能です。
また、エンジンからの出力を非常に効率よく駆動輪に伝えられる
工夫がされているため、馬力などの数字のスペック上の性能は90T
Kに比べて低くなっていますが、実際の走行性能は10TKのほうが数
段上です。加速性能も高くコーナーリングも軽快です。90TKまで
は、ハンドルを操作した後にタイムラグがあって車体が曲がる感
覚がありましたが、10TKではほとんど乗用車と変わりません。

 前進と後退の最高速度がほぼ同じであることも、10TKの特徴で
HMTの技術によるものです。後退速度が速いのも戦場における戦闘
で非常に有利です。

富士の総合火力演習で履帯が外れたことで、10TKの性能が疑問視
された時期もありました。コスト低減と軽量化の影響が各所に出
ていることは間違いありませんが、それを差し引いても10TKは世
界トップクラスの戦車です。運動性能に関しても、これだけ軽快
に走れる戦車は他にはない気がします。軍事研究家・評論家・ア
ナリストは、数字で表せるスペックでしか語れませんが、数字で
表せないことはたくさんあるのも真実です。




(いちかわ・ふみかず)


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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。1983年、陸上自
衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合幕僚監部
人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕僚監部武器・化学課
長、東北方面後方支援隊長、愛知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤務を最後に
2017年8月に退官。

退官後の9月にはYouTube
「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
 https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/aEOhNJ3twN0

著書に『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)がある。
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