配信日時 2018/11/21 20:00

【意外と知られていない面白兵器技術(40)】戦車の車両技術(その3)─専用エンジンの開発─ 市川文一

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
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【10月6日配信】桜林美佐の国防ニュース最前線
「イージス・アショアは再検討するべき~装備品
老朽化で災害派遣に支障が出る!?」
市川文一元陸自武器学校長 
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こんにちは、エンリケです。

四十回目の面白兵器技術は、
「戦車の車両技術」の三回目です。

戦闘支援と後方支援の違いが
よくわかる冒頭文です。

さっそくどうぞ。


エンリケ


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意外と知られていない面白兵器技術(40)

戦車の車両技術(その3)─専用エンジンの開発

市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに

 前回の続きで、戦闘支援部隊と後方支援部隊です。戦闘支援と
後方支援の違いは、少しわかりにくいかもしれません。自衛官で
も混同する場合がありますから、職種・機能で区分するのが最も
わかりやすいと思われます。

場所的には戦闘部隊とほぼ同じ地域で、戦闘に直接関わる支援を
するのが、情報、航空、通信、施設、化学部隊の戦闘支援部隊で
す。職種は、それぞれの部隊名と同じです。

戦闘部隊の後方に位置して、補給・整備・輸送・衛生・会計・警
務・音楽支援を行なうのが後方支援部隊です。後方支援と兵站が
同意義に使われる場合もありますが、陸自では同じではありませ
ん。補給・整備・回収・輸送の機能が兵站です。なお、衛生・会
計・警務・音楽部隊の構成職種は、部隊名と同じです。

そして、兵站の機能を受け持っているのは、武器、需品、輸送科
職種が主体となりますが、航空、通信、施設、化学にも補給整備
機能があります。自衛官でも補給機能は需品科職種で整備機能は
武器科職種と勘違いしている人がいますが、器材の整備、整備に
必要な部品補給の機能は航空、通信、施設、化学、武器、需品の
職種が受け持っています。ただし、部隊として兵站機能を受け持
つのは後方支援部隊(後方支援連隊や後方支援隊)で、航空を除
く各職種隊員が所属しています。航空については、陸自の中でも
特殊なため説明は省略します。(続く)

 さて、本題の兵器技術ですが、前回までは戦車を定義してきま
したが、今回から戦車の車両技術に入ります。一般車両と違い、
戦車では特殊な技術が使われているため、兵器技術として特徴的
です。ただし、各装置それぞれの基本構造・原理は一般車両と変
わりありませんから、疑問があるところは通常の車両技術を参考
にしてください。

▼最強の陸上兵器「戦車」のエンジン

戦車のような重車両では、エンジンを収納するスペースと重車両
を走らせる出力(パワー、馬力)の関係で、専用エンジンとして
開発しなければなりません。専用エンジンを開発することで、整
備性も追求できます。

民間車両であれば、通常の使用でエンジンが故障することはあり
ませんし、整備のためにエンジン交換することはほとんどありま
せん。交換しなければならないような故障が発生した場合は、車
本体を買い換えた方が安いでしょう。

しかし、戦車などの重量のある戦闘車両では、エンジンの負荷が
大きいため訓練などの通常の走行でも故障します。10式戦車のエ
ンジンの出力は1,200ps(馬力)で、乗用車の感覚からすると非常
に高い数値ですが重量との関係を考慮すると、乗用車のほうが高
出力です。

出力が100psの乗用車だと重量は1t(トン、1000kg)程度です。
10式戦車は44tですから、1tの乗用車に置き換えると27psしかあり
ません。4分の1の最高出力ということです。通常、乗用車を走
らすときは、20~30%程度のエンジン出力しか使いませんが、こ
れを戦車に置き換えると、ほぼ全力の出力を使わないと乗用車の
ような走行ができないということです。戦車は常にエンジンが酷
使されています。

当然、戦闘になれば、被弾などにより損傷します。作戦間、通常
走行の故障でも、戦闘による損傷でも、極力早く復旧することが
戦力を維持する上で極めて重要です。整備性を考え、早く交換す
ることを前提に設計するのとそうでないのとでは、復旧の時間は
まったく異なります。

戦車のように専用にエンジンやトランスミッションなどを設計す
る場合は、整備性まで考えるのが一般的です。日本でも、戦後初
の国産戦車である61式戦車から整備性を考えて開発されています。
61TKでは、エンジンとその他動力伝達装置を一体化したパワート
レーンの二つの装置が単純な機構で連結されているため、短時間
でエンジンやパワートレーンの交換ができます。

74TK以降では、エンジンと動力伝達装置が一体化したパワーパッ
クという装置になっており、61TKよりもさらに単純な機構で連接
されています。動力系統になにか問題があり走行不能となった場
合は、いちいち故障箇所を見つけることなくパワーパックを交換
することにより非常に短時間で復旧できます。交換したパワーパ
ックは、その後、時間をかけて修理すればいいわけです。

戦車のエンジンは世界的にディーゼルエンジンが一般的です。最
近の戦車でディーゼルエンジン以外なのは、アメリカのM1のガス
タービンエンジンくらいです。各国とも自国の最高の技術を持っ
て小型・軽量・高出力・低燃費のエンジンを開発しています。乗
用車では、水冷の4サイクルのエンジンが一般的ですが、戦車のエ
ンジンは空冷や2サイクルのものもあります。

日本では74式戦車が空冷、2サイクルです。空冷はエンジンに直接
冷却の装置を組み込まず、外側にファンを付けて冷却するため構
造が簡単で安価です。水冷ではエンジン本体に水が巡回する空間
が必要となるため構造が複雑で高価格となります。しかし、空冷
に比べ冷却効果が高いため、一般的に水冷エンジンは出力を高く
できます。90式戦車では水冷、2サイクルエンジンが使われていま
す。

エンジンの2サイクル、4サイクルとは、燃料が1回燃焼するときに
エンジンのピストンが動く回数を表しています。2サイクルはピス
トンが2回の上下で燃料が1回燃焼します。4サイクルはピストンが
4回の上下で燃料が1回燃焼します。つまり、出力は2サイクルが有
利で、燃費は4サイクルが有利です。

この2つの組み合わせで、戦車のエンジン開発の変遷がよくわか
ります。61TKが空冷・4サイクル(570hp)、74TKが空冷・2サイク
ル(720hp)、90TKが水冷・2サイクル(1,500hp)、10TKが水冷・
4サイクル(1,200hp)です。61TKから、74TKの開発においてはエ
ンジン出力向上のため4サイクルを2サイクルへ、90TKでは、さら
に空冷を水冷にして出力向上を図りました。

10TKの開発では出力はやや落ちたものの、車体重量が減ったこと
と、エンジンからの出力効率を高めたため実際の走行性能は90TK
を上回ります。何よりも4サイクルになり、低燃費と排ガスの黒鉛
の低減により環境性も改善されています。2サイクルを4サイクル
にして出力が300hpの低下に抑えられているのは、日本の技術力の
高さを表しています。

ちなみに、10TKでは、日本の戦車として初めてクーラーがつきま
した。90TKまではクーラーがありません。今の時代、クーラーが
ない車など考えられませんが70年代までの車はクーラーがないの
が普通でした。年代的に74TKにクーラーがないのは納得できます
が、90年代では車にクーラーは標準装備になっていた90年代の90
TKにクーラーが装備されていないのはおかしな気がします。

このあたりの事情は知りませんが、車両内部のスペースの問題か
金額の問題でしょう。装備品の単価低減は常に問題になりますか
ら単価低減のためにクーラーを外した可能性が高いと思われます。
戦車用のクーラーとなると金額的にも馬鹿にできません。



(いちかわ・ふみかず)


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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。1983年、陸上自
衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合幕僚監部
人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕僚監部武器・化学課
長、東北方面後方支援隊長、愛知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤務を最後に
2017年8月に退官。

退官後の9月にはYouTube
「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
 https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/aEOhNJ3twN0

著書に『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)がある。
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