配信日時 2018/11/12 08:00

【桜林美佐の美佐日記(2)】防衛産業は義理人情の世界──時代の潮流に棹さして

こんにちは、エンリケです。

いまのわが国で、防衛産業が果たしている
価値と意義がよくわかります。

「六分の侠気、四分の熱」
いいですねえ。

さっそくどうぞ。



エンリケ


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桜林美佐の「美佐日記」(2)

防衛産業は義理人情の世界──時代の潮流に棹さして

桜林美佐(防衛問題研究家)
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おはようございます、桜林です。

1週間ぶりのご無沙汰です。先週から始まりました日記ですが、
早速、広島県のSさんから激励のメッセージを頂戴しました。あり
がとうございます!今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます!

前回、当日記のネーミングに関する説明をちょっとだけしました
が「美佐日記」というのは、実は数年前に海上自衛隊の幹部向け
の部内誌に連載をしておりまして、そのタイトルを踏襲させて頂
きました。「男もすなる日記(にき)といふものを、女もしてみ
むとてするなり」の冒頭で有名な紀貫之の『土佐日記』をもじっ
たものです。

 そういえば『土佐日記』は紀貫之が女性になりきって書いたも
のですが、私はよく「本を読んで桜林美佐って男かと思っていま
した」と言われます。確かに、書いている時は、すっかり男にな
りきっていることが多い気がします。

そんな私が九州で暮らすことになって、何年かぶりに観始めたD
VDが映画『緋牡丹博徒(ひぼたんばくと)』シリーズです!
藤純子さん(現在は富司純子に芸名を変更)が女侠客「緋牡丹お
竜」として日本の津々浦々を巡り、渡世(「都政」ではありませ
ん、念のため!)修行をする物語であります。鶴田浩二や高倉健
などビッグネームが毎回、お竜に協力して各地で遭遇する悪いヤ
クザ者と戦ってやっつけるのですが、必ずしもハッピーエンドで
はないのが玉に瑕(汗)。

九州は熊本の博徒「矢野組」の組長だった父親を亡くし、後を継
ぐことになった竜子は「あたしは今日から男になっとよ」「あた
しは、女ではなかとごたい」といった台詞を口にしながら悪い奴
と戦います。「『任侠人を制す』の看板が泣いとりますばい!」
と言いながら悪党の拠点に突入する場面では、わが家のかなり小
さいテレビの画面に向かって「〇×△!!」と言葉にならない大
向こうをかけること多数、でした。ここから学ぶ?のは男っぽく
生きる女の姿と九州弁だけではありません、最も大きいのは男で
あれ女であれ、それを解するかどうかが価値基準になるであろう
「任侠」という概念です。

一宿一飯の恩義に命を懸けたり、恩人の仇討のために一生を捧げ
るとか、そんなことは人権や人命尊重という現代社会の一般的な
理念に悖(もと)るわけで、これらの言葉にシンパシイを感じる
ことすら否定されてしまいそうな、そんな世の中になりました。

そんな50年前の東映映画のような世界を今でも続けている希少
な人たちがいます。それが防衛産業の関係者です。かつてある人
が「防衛産業は『任侠』の世界なんですよ」と言ったのを強烈に
覚えています。確かに、関係企業の人からはよく「男と男の約束
だから」などという台詞を聞くことがあります。

しかし、官僚の方や自衛官に「任侠」を解する人がいるとは思え
ず、つまり防衛産業のことを理解しろと言ってもそもそも無理と
いうことです。また、昨今は防衛産業側も、なにせ防衛事業は企
業の一部門でしかありませんから、会社の「コンプライアンス」
にも従わなくてはならない。そうなると今までは「自衛隊のため
にひと肌脱ごう」という気持ちでできたことが通用しなくなって
いるのです。

 こういうと「これからはそんな義理人情なんかじゃなくドライ
な関係になって、企業が儲かるようにすべきだ」などと言う人が
いますが、ふうーん、じゃあ、艦艇の出港直前になにか不具合が
あって急いで修理に来てもらうとか、夜中に航空機の部品交換し
て朝までに間に合わせるとか、そういうのもすべて交通費や諸費
用を請求したら防衛費から払えるんですかね?と私は心の中で
突っ込みます。

 こうした企業の細かい働きは契約の範囲外なので、無償です。
運用している自衛官からすれば必死ですので企業が駆けつけてケ
アするのは当たり前と思うでしょうが、昨今の株主にも理解を得
なければならない企業活動においては到底認められないでしょう。
事業が継続できるのはそのあたりを、ある意味ごまかしてきたか
らで、この自衛隊と企業の関係性を崩したら、運用はガタガタに
なることは想像に難くないのです。

 防衛産業についての施策を「産業政策」として考えるか、それ
とも「自衛隊の運用を支える大切な力」として考えるかによって、
違いが出てきます。因みに、自衛隊の運用という側面は防衛省・
自衛隊サイドしか分かりませんので本来はその観点を力説しなけ
ればならない立場のはずですが、当の自衛隊側が、企業が運用を
共に背負っていることをあまり知らされてないということが悲劇
の始まりの気がします……。

 こうしたことを考え合わせると、どうでしょう? 防衛装備品に
ついての記事がこのところもあれこれ出ていますが、調達価格抑
制だとかコスト削減に関するものばかり。相手は単に商品を作っ
ている会社ではなく、運用現場と一体になっている人々なんです
けどね~と、私は嘆くしかないのです。

そんな思いを胸に、最後に私の好きな歌をひとくさり。

「妻をめとらば才長(た)けて、みめ麗しく情けある 友を選ば
ば書を読みて六分(りくぶ)の侠気(きょうき)、四分の熱~」
(※編集注 著作権は消滅しているようです。念のため)

昔、私は「六分の侠気」を「狂気」だとずっと思っていました。
それを知った国際問題アナリストの藤井厳喜さんに「でも、六分
の侠気って、今やほとんど狂気だよ!わっはっは」と言われ、さ
すが藤井先生!と唸ったことがあります(ご本人は覚えてないと
思いますが)。防衛産業にはまだ、そんな人たちがかろうじて生
き残っています。ま、時代の潮流には合わないのかもしれません
が!


(つづく)


(さくらばやし・みさ)


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艦式に海自参加せず、『自衛艦旗』の意味とは? 新型潜水艦おう
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【著者紹介】
桜林美佐(さくらばやし・みさ)
昭和45年、東京生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、
ディレクターとしてテレビ番組を制作。その後、国防問題などを
中心に取材・執筆。著書に『奇跡の船「宗谷」─昭和を走り続け
た海の守り神』『海をひらく─知られざる掃海部隊』『誰も語ら
なかった防衛産業[改訂版]』『武器輸出だけでは防衛産業は守
れない』『防衛産業と自衛隊』(いずれも並木書房)、『終わら
ないラブレター─祖父母たちが語る「もうひとつの戦争体験」』
(PHP研究所)、『日本に自衛隊がいてよかった』(産経新聞出
版)、『ありがとう、金剛丸─星になった小さな自衛隊員』(ワ
ニブックス)。月刊「テーミス」に『自衛隊密着ルポ』を連載。


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