配信日時 2018/11/07 20:00

【意外と知られていない面白兵器技術(38)】戦車の車両技術(その1) 「戦車の定義──戦車と付ければ戦車になってしまう?」 市川文一

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
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【10月6日配信】桜林美佐の国防ニュース最前線
「イージス・アショアは再検討するべき~装備品
老朽化で災害派遣に支障が出る!?」
市川文一元陸自武器学校長 
 https://youtu.be/aEOhNJ3twN0

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こんにちは、エンリケです。

三十八回目の面白兵器技術は、
「戦車の車両技術」の一回目です。

さっそくどうぞ。


エンリケ


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意外と知られていない面白兵器技術(38)

戦車の車両技術(その1)

「戦車の定義──戦車と付ければ戦車になってしまう?」

市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに

 財政審から「次期中期計画で装備品取得経費の1兆円削減」の
提言がされました。筆者はこれまで、与えられた機会を使い、防
衛力整備についての現実的な提言をしてきました。しかし、いわ
ゆる保守陣営からの発言は、現実の日本の予算の動きを無視した
「防衛力強化と防衛費増額、憲法改正」だけです。自分のように
イージスアショア導入再検討やFMS、輸入装備品の見直し意見を述
べる人は、ほぼ皆無です。「アショアを買う金がなければ予算を
増やせばいいだろう」といった具合です。

 しかし、現実の予算編成は、いかに安倍政権であろうと好きな
だけ必要な防衛費増額とはいきません。このような現実の予算環
境を無視して、アメリカに言われるままにアショアやSM3、F35を
取得して果たして総合的な防衛力は向上するでしょうか。本連載
を読まれている方は、即、否といえるのではないでしょうか。

同じことを何度も何度も繰り返しますが、兵器は買っただけでは
機能しません。教育訓練、日々の維持管理、故障整備、兵器の改
善やソフト更新などさまざまな経費が必要です。今ある古い兵器
を機能させるためにも経費が必要です。ゲームのように新しいア
イテムをゲットしたら戦力が上がるという世界とはまったく異な
ります。

読者のHさんからご要望の兵站の話ですが、有事、戦時の兵站の前
に、まず、平時の兵站があります。兵器は訓練で動かせば壊れま
す。今の乗用車や家電製品のように普通に使っている状態では故
障しないのとは違います。筆者以上の年代の方は、テレビや冷蔵
庫が頻繁に壊れるのを経験されていますが、まさに、同じ状態で
す。兵器は性能の限界近くで動かし、過酷な環境で使用するから
です。

故障したものは直さなければなりません。直すには部品が必要で
す。兵器を常時動ける状態にしておくには、部品補給をいかに短
時間で行なうかが勝負です。そのためには平時においても在庫部
品が必要です。

部品がなければ、部品が入荷するまで兵器は不可動となり使用で
きません。部品を買うのにも時間がかかります。最近では後年度
負担で買う部品が多くなっているため、契約してから部品が入荷
するまでに1年以上かかります。1年以上、兵器が不可動になる
ということです。

 現実の予算環境を考えずに新しい高額兵器を多数導入したツケ
は、こういったところに回ります。兵器はあるけど動かない。動
いても100%の性能を発揮できない。すでに自衛隊は、そんな
問題を多数抱えています。

 さて、本題の兵器技術ですが、車両技術の5回目、今回から戦
車の車両技術を始めます。車両技術とは少し離れますが、戦車の
定義から始めたいと思います。戦車を定義することで陸上兵器に
関する理解は深まります。


▼最強の陸上兵器「戦車」の車両技術

陸上戦力最強兵器といえば戦車です。このメルマガ軍事情報の読
者であれば、戦車と自走榴弾砲、偵察警戒車、装甲(歩兵)戦闘
車、自走無反動砲の違いは明確だと思いますが、軍事に詳しくな
い人は装甲車両に火砲が載っているものはすべて戦車です。

特に、戦車と自走榴弾砲、装甲戦闘車は概観が非常に似ています
から、区別がつきません。最近の日本の装備品であれば機動戦闘
車は概観だけ見れば装軌(キャタピラー)と装輪(タイヤ)の違
いだけで、10式戦車とあまり違いはありません。74式戦車と
比較すれば、不整地での機動力はやや劣るものの火力、機動力、
防護力の総合力では機動戦闘車が上です。

以上のように、戦車の定義は非常に曖昧です。陸上兵器を語るの
に戦車とは何かを説明できないのも、片手落ちな気がします。車
両技術のコーナーですが、ここで一度しっかりと定義したいと思
います。

戦車ですから、当然、火器や弾薬、装甲の話も出てきます。すで
に本連載で説明した事項ですから、中間の総仕上げとして、知識
の整理になると思います。本来は、運用、使用目的があって戦闘
車両を開発するわけですから、運用目的から定義するのが基本で
すが、運用目的と性能・能力の間には因果関係がありますから、
できあがった状態からでも定義できます。一般の方にも、わかり
やすい定義の仕方です。

戦車を定義することはあまり意味がありませんが、陸上兵器を理
解するのに非常に役立ちます(極端な話、ある国が○○戦車と名
称を付けると、それは戦車になってしまいます)。ここまで、火
器、弾薬、車両とかなりの兵器の技術を説明してきましたので、
その知識で、読者の皆さんが独自に戦車を定義するのも面白いで
しょう。

 戦闘車両は、火力、機動力(人員の輸送能力を含む)、防護力
のバランスで定義されます。火力に特化したのが自走榴弾砲や自
走無反動砲、自走高射機関砲で、機動力(人員輸送)に特化した
のが装甲人員輸送車(陸自では73式装甲車、96式装輪装甲車)
です。火力と防護力を落として機動力(人員輸送)を重視してい
るのが偵察警戒車や戦闘装甲車、火力と防護力を維持しながら長
距離機動を重視しているのが機動戦闘車です。

そして、火力、機動力、防護力、すべてにバランスよく優れてい
るのが戦車です。3つの要素すべてが、同時期に装備する兵器の
性能と同等以上です(人員輸送は除く)。まさに、最強の陸上戦
力といえます。ただし、能力が高いゆえに価格も高くなります。
価格が高いことが大きな理由で戦車不要論もありますが、最強の
陸上戦力が陸上戦力として不必要であるという論理矛盾になって
います。以下、それぞれの要素ごとに説明します。

▼直接照準と間接照準の違い

まず火力です。戦車火力の特徴は、大口径(だいたい80mm以上)、
直接照準火器で徹甲弾が撃てることです。最新の戦車では当然、
最高の貫徹力を持つAPDSFSが撃てることです。自走榴弾砲は間接
照準火器ですから、ここで明確に区別できます。戦車と自走榴弾
砲の概観は非常に似ていますが、運用方法が違いますから、軍事
的視点ではまったく別の兵器です。

概観から区別する場合は、戦車に比べると自走榴弾砲は車高が高
く、砲身が長く、砲身の先に大きめな砲口制退器がついています。
戦車でも砲口制退器が付いているものもありますが、自走榴弾砲
に比べると小さめです。最近の自走榴弾砲は砲身が長いので、ひ
と目で区別できます。

自走榴弾砲と比較すると自走無反動砲、自走高射機関砲、戦闘装
甲車については直接照準火器ですから、戦車と近い存在です。自
走高射機関砲は主として対空用に運用しますが、対地上目標用と
しても使用できます。

これらの装甲車両は、口径で区別できます。装甲戦闘車や偵察警
戒車、自走高射機関砲が装備している火器の口径は40mm以下が
ほとんどです。砲身が細ければ戦車ではないと判断できます。戦
後初の国産戦車の61式戦車でも口径は90mmなので、戦後の戦
車であればほとんどは口径で区別できます。

これが戦前、戦中だと、戦車かどうかの判断は火力では困難です。
30mmクラスの砲身を装備していても戦車と呼ばれます。当時は、
自走榴弾砲も装甲戦闘車もありませんでしたから、装甲されてい
るのが戦車だと考えてまず問題ありません。



(いちかわ・ふみかず)


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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。1983年、陸上自
衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合幕僚監部
人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕僚監部武器・化学課
長、東北方面後方支援隊長、愛知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤務を最後に
2017年8月に退官。

退官後の9月にはYouTube
「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
 https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
  https://youtu.be/aEOhNJ3twN0

著書に『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)がある。
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