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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
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【10月6日配信】桜林美佐の国防ニュース最前線
「イージス・アショアは再検討するべき~装備品
老朽化で災害派遣に支障が出る!?」
市川文一元陸自武器学校長
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こんにちは、エンリケです。
三十七回目の面白兵器技術は、
「軍事用車両の技術」の四回目です。
さっそくどうぞ。
エンリケ
ご意見・ご感想はコチラから
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意外と知られていない面白兵器技術(37)
「軍事用車両の技術(4)被弾や悪路にも強いタイヤ」
市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに
兵器技術に限らず、一度失われた技術を回復するのは大変なこ
とです。戦後、軍事技術についてはアメリカから制限が加えられ、
特に航空技術は世界的にも大きく出遅れました。現在も、国内開
発の努力が続けられていますが、世界標準になかなか追いつけま
せん。
軍用機についても、一時、国内開発に予算が投入され国産機も
逐次増えてきましたが、最近になって新機種は外国産ばかりです。
そういえば、基礎研究に投入される予算も右肩下がりで、今後、
ノーベル賞の受賞も右肩下がりになるだろうという報道もされま
した。
国産できる装備品があるのに、安い輸入兵器を買うべきだとい
う議論は消えることなく、逆に勢力を増している感があります。
装備品を開発し製造する技術は、日本の安全保障に直結するのみ
ならず、多くの民間製品にスピンオフ(転用)されています。
多くの国が、なんとか国産の兵器を開発しようと国家として努
力を傾注していますが、なぜか日本は、安い国外兵器を導入しよ
うとしています。国民の税金で国産の装備品を買えば国内に税金
が還元されますが、輸入すれば国外に税金が流出します。装備品
の国産を進めることにより国の経済対策にもなるわけです。兵器
の国産化は、安全保障と経済対策の両面から国の政策の柱とすべ
き事項であるのが本来の姿でしょう。
読者のHさんから、ご所見、ご意見、ご要望をいただきました。
ありがとうございます。自動車関連の仕事をされているというこ
とで、ギヤの重要性と高い技術力が必要なことをご教授いただき
ました。また、「プラナタリーギヤではなくプラネタリーギヤで
はないか」と誤字をご指摘いただきました。最後に「現代戦の兵
站のうちの補給」についての説明を要望されていますので、今後
「はじめに」で取り上げていきたいと思います。
さて、本題の兵器技術ですが、車両技術の4回目です。車両技
術は民間技術が進んでいるため、知られていない軍用車両の面白
技術を見つけるのは骨が折れます。どうしても、専門的な分野に
入ってしまいますが、今回は、誰もが知っている馴染みの深いタ
イヤの話です。今回で装輪車両の説明は終了し、次回からは戦車
の車両技術を始めます。
▼タイヤ(ランフラット、トレッドパターン、空気圧調整)
軍用車両に使用されるタイヤも、いろいろな工夫がされていま
す。まず思い浮かぶ代表的な技術がランフラットです。パンクし
て空気圧がゼロになっても走れるタイヤで、装輪タイプの戦闘車
両はほとんどがランフラットです。民間用車両のタイヤにも使用
されていますが、ごく一部の車種だけです。自衛隊の車両でもす
べてに使用されている訳ではありません。車両を運用する場面と
コストでランフラットを使用する車両が決まります。
ランフラットにも2種類のタイプがあります。民間用車両で多
く使用されているサイドウォール強化タイプと軍用で使用が多い
中子(なかご)タイプです。
サイドウォール強化タイプとは、タイヤのサイドウォールと呼ば
れる地面と接触しないホイールにつながっている箇所の強度を高
めることで、パンクしてもタイヤの形状を保ち安定した走行がで
きるものです。中子タイプは、タイヤの中のホイールに金属製
(最近は樹脂製のものも出てきています)のリングが装着されて
いて、パンクした時にはこのリングがタイヤの形状を保持して走
行します。タイヤの中に金属製のタイヤがあるとイメージしてく
ださい。
戦闘車両に代表される軍用車両は、通常のパンクだけではなく
被弾によるパンクを前提としてランフラットタイヤを装着してい
ます。被弾の場合は地面との接触している部分が損傷する訳では
なく、サイドウォールの部分が損傷します。つまり、サイドウォ
ール強化タイプではランフラットタイヤの役割を果たせません。
必然的に中子タイプを使わざるをえなくなります。
タイヤのトレッドパターンも軍用車両は特殊です。タイヤが地
面と接触する部分には、凹凸の模様が刻まれています。これをト
レッドパターンと呼びます。タイヤの駆動力、制動力や車両の操
縦性、安定性、また、雨や雪道での排水性やグリップのために、
さまざまなパターンが刻まれています。
通常走行用のタイヤでは、操縦性や安定性、静粛性、雨天時の
排水性を重視したリブ型かリブ型とブロック型の組み合わせのパ
ターンが刻まれています。雪道用のスタッドレスタイヤでは、排
水性と雪へのグリップを重視し、滑りやすい冬の路面での駆動力
と制動力を確保しています。一般の車両ではほとんど使用されて
いませんが、泥濘地などの悪路用のタイヤではラグ型と呼ばれる
パターンが刻まれています。工事用車両などでよく見かけます。
不整地走破性能が必要な軍用車両には適したパターンです。
通常走行用のリブ型やリブ型とブロック型の組み合わせのトレッ
ドのタイヤでは雪道は走れませんし、冬用のスタッドレスタイヤ
も通常走行は可能ですが操縦性や安定性が劣るため、高速走行等
には注意が必要です。同様にラグ型は泥濘地で非常に強さを発揮
しますが、高速走行では操縦性、安定性が劣ります。あらゆる路
面に万能なトレッドパターンはありません。
軍用車両では泥濘地などの悪路でも走行できなければならないた
め、過去にはラグ型のトレッドパターンのタイヤが多く使われて
いました。近年では高速走行も重視されるようになったため、悪
路走行での走破性能を少し犠牲にして、ブロック型のパターンの
使用が多くなっています。自分の経験でも、ラグ型からブロック
型にパターンが変わったときは、悪路走破性能がかなり落ちたこ
とが記憶にあります。反面、高速道路では安定した走行ができる
ようになりました。
トレッドパターンだけで、高速性能と悪路走破性能を両立させる
のは不可能です。そこで登場するのがタイヤの空気圧調整です。
通常走行、高速走行では空気圧を少し高めに設定し、滑りやすい
泥濘地などでは空気圧を低めにします。
空気圧の低いタイヤで高速走行するのは、極めて危険です。高速
回転によりタイヤが波打つスタンディングウェーブ現象が起き、
そのまま走り続けるとタイヤがバースト(破裂)します。したが
って、通常、タイヤの空気圧を低くすることはありません。空気
圧は規定の圧力よりやや高めに設定したままです。
泥濘地などを走破する能力は地面との接地面積が大きく影響しま
す。接地面積が大きいほど走破能力は高くなります。タイヤの空
気圧を低くするとタイヤが潰れる分だけ接地面積が大きくなりま
すから、泥濘地に入ったら空気圧を低くすればいいわけです。
タイヤの空気圧を運転席で自由に調整できれば、短時間で通常
走行から悪路走行へ、悪路走行から通常走行へ移ることができま
す。軍用車両とラリーなどに参加する一部の車両にしか必要のな
い特殊な技術といえます。
ちなみに、軍用車と同様に特殊なF1(自動車レースの最高峰)
の世界でも、タイヤの機能は乗用車の世界とはまったく異なりま
す。タイヤが回ることで車が走るのはタイヤと地面の間の摩擦力
によるもので、アイスバーンなどの摩擦がほとんど発生しない滑
りやすい路面ではタイヤが空転して車は進みません。
F1クラスの超高速の世界でも、タイヤの回転が速すぎるため
に空転してしまいます。そこで、F1で使われるタイヤは高速回
転するタイヤが熱で溶けることによる粘りで地面との間に摩擦力
を生み、車を走らせます。タイヤを溶かしながら走行している訳
です。F1のレース中に何度かタイヤ交換するのもそのためです。
軍事技術ではありませんが、日常生活を超えた異世界では、通常
では想像もできない技術が使われています。
(いちかわ・ふみかず)
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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。1983年、陸上自
衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合幕僚監部
人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕僚監部武器・化学課
長、東北方面後方支援隊長、愛知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤務を最後に
2017年8月に退官。
退官後の9月にはYouTube
「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/aEOhNJ3twN0
著書に『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)がある。
https://amzn.to/2qBGuNJ
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