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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
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【10月6日配信】桜林美佐の国防ニュース最前線
「イージス・アショアは再検討するべき~装備品
老朽化で災害派遣に支障が出る!?」
市川文一元陸自武器学校長
https://youtu.be/aEOhNJ3twN0
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こんにちは、エンリケです。
三十六回目の面白兵器技術は、
「軍事用車両の技術」の三回目です。
さっそくどうぞ。
エンリケ
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意外と知られていない面白兵器技術(36)
「軍事用車両の技術(3)不整地走破性能」
市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに
前回は、陸自の現状を紹介しましたが、海自、空自も同様の状
況にあります。特に現場の低充足はかなり深刻な問題で、船や航
空機がまともに運用できないのが実態です。筆者は陸自出身のた
め、細部の状況までは把握していませんが、募集広報のための体
験搭乗などが激減していることは、海自、空自の現状を物語って
います。
このような自衛隊の現状を知っているのか知らないのか、次期
中期計画でのF-35Aの取得増の報道がされました。旧軍の作戦失敗
の原因としてよく取り上げられるのが兵站軽視です。安全保障の
仕事に携わる者であれば当然承知している兵站軽視の問題も、な
ぜか、現在の防衛力整備に反映されないのは本当に不思議なこと
です。
現在の自衛隊の兵站は、旧軍以下です。というよりは、昨今の
防衛力整備の状況を考えると、「最新の兵器を買えば、それで戦
力が上がる」という誤った認識しかないのではないかと思われま
す。
保管施設、整備工場の建設や点検器材・工具の取得、兵器を使い
こなすための教育訓練は兵器導入当初から必要で、それぞれに多
額の経費が必要です。そして、定期的に交換する部品や故障した
ときに修理に使用する部品も必要となってきます。兵器をバージ
ョンアップする場合の費用は非常に高額です。
以上のように、新規に装備品を購入するときには、それに付随す
る多額の経費が必要で、現実に今ある装備品にも維持・管理経費
が必要ですし耐用年数を超えたものは更新しなければなりません。
しかも、装備品をすべて可動させ、使いこなすために、ここまで
の経費は最低限のレベルです。
さらに、実際に作戦を行なうには作戦期間に見合った備蓄が必要
となりますし、保管施設、補給・整備のための要員、補給のため
の各種システムがなければ、現地に物が届きません。現状では一
部の物資を除いて備蓄のレベルまで話が進めません。ここまで説
明しました最低限のレベルのクリアさえが課題となっています。
兵站軽視というよりは兵站無視と言った方がいいのが実態です。
さて、本題の兵器技術ですが、車両技術の3回目です。筆者が子
供の頃は、田舎だったこともあり道路は舗装されていませんでし
た。雨が降ると水たまりがたくさんできるような凸凹の道です。
当時の自動車は今のようなスタイル重視ではありませんから、凸
凹の道も問題なく走っていましたが、今の車では「亀の子状態」
になってしまうでしょう。ここで問題となるのが最低地上高です。
▼最低地上高を確保する(ファイナルギヤ、ハブリダクション)
不整地走破性能に必要不可欠な最低地上高を確保するために
第1に必要なのが車輪の大きさです。ただし、走行性能とのバラ
ンスがありますから、極端に大きくすることはできません。一般
の軍事用車両は高速道路などを長距離走行しますから、安定した
高速性能も必要となります。工事現場などで使う専用車両であれ
ば、高速性能は必要ありませんから大きな車輪を使用できます。
車輪には、これを回転させ固定するための車軸が必要です。車
軸が車輪の中心にあり真っ直ぐであれば、車輪の半径弱が最低地
上高になります。しかし、車軸は、エンジンからの動力を伝える
ためのデファレンシャル、ファイナルギヤとつながっているため、
この装置の大きさ分だけ最低地上高は低くなります。
ファイナルギヤとは、エンジンから変速機を経由した回転数を
最終的に減速して車輪の回転数にする装置で、通常はデファレン
シャルと一体化しています(そこで、一般的にはこの一体化した
装置を「デフ」と呼んでいます)。回転数を下げるためには小さ
なギヤと大きなギヤを組み合わせるため、どうしてもある程度の
大きさが必要となり、これが最低地上高を制限してしまいます。
自分の経験でも、不整地で車両が路面の凹凸で走行できなくなる
のは、デフが路面と接触する場合がほとんどです。
そこで、車軸にあるファイナルギヤを小さくするために、最終
減速を2段階で行なう技術が最近では使われています。車軸と車
輪をプレナタリーギヤ(遊星歯車)でつなぎ、最終的な減速を行
ないます(「遊星歯車」で検索)。これで、ファイナルギヤの減
速を減らすことができ、ギヤを小さくしデフを小型化できます。
しかし、デフをいくら小さくしても、車輪の半径以上の最低地
上高を確保することはできません。そこで登場するのがハブリダ
クションです(「ハブリダクション」で検索)。車軸から動力を
伝えるギヤを上に、車輪に動力を伝えるギヤを下にして組み合わ
せると、車輪の中止よりも上に車軸を配置することができます。
これで、車輪の半径以上の最低地上高を確保できる訳です。同時
に、プレナタリーギヤの代わりにハブリダクションで最終減速を
できるため、デフを小さくすることができます。
ハブリダクションは、最低地上高を確保するためには非常に有
効な装置ですが、構造が複雑になるためコストがかかります。ア
ウトドア用の民間用車両も、高価格なためわずかな車種しかあり
ません。世界的にもハブリダクションを使用しているのは、ほと
んどが軍用車両です。
余談になりますが、ハブリダクションの使用方法として最低地
上高を低くすることもできます。近年で多いのが、低床のノンス
テップバスに利用されています。大型車両では、車両の大きさに
応じて車輪も大きくなるため、どうしても車高が高くなります。
軍用車両とは反対に車軸を車輪の中心よりも下にすることにより
車高が低くなり、車両への乗り降りが楽になります。
(いちかわ・ふみかず)
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【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。1983年、陸上自
衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合幕僚監部
人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕僚監部武器・化学課
長、東北方面後方支援隊長、愛知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤務を最後に
2017年8月に退官。
退官後の9月にはYouTube
「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演。
https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/D_md0ZSJNds
2018/6/9「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/eHnT9jvqQjk
2018/10/6「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/aEOhNJ3twN0
著書に『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)がある。
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