配信日時 2018/10/15 20:00

【戦う組織のリーダーシップ ─今に生きる海軍先輩の教え─(9)】「海軍こぼれ話(1)自衛艦旗制定までの経緯」  ─旧海軍の良い伝統を受け継ぐ─  堂下哲郎(元海将)

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊
した即応予備自衛官でもあります。
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堂下さんのデビュー作
『作戦司令部の意思決定─米軍「統合ドクトリン」で勝利する─』
への読者反響の一部です。

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「難しい内容をかみ砕き、例示も豊富、コンパクトにまとまっている」

「早速、大学の授業で活用、図書館にも入れさせてもらいました。
経営戦略、組織コミュニケーションにも有益な内容です。」

「作戦を組立てる側から理解でき目から鱗でした。防衛、外交関係
者、さらには一般の読者にとっても有益な内容を、詳細かつ分かり
やすくまとめられている。」

「政府機関の政策決定や企業経営者の意思決定にも、広く応用で
きるヒントが含まれている。」


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『作戦司令部の意思決定─米軍「統合ドクトリン」で勝利する─』
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こんにちは、エンリケです。


さて今日から、
ちょっと一休みということで、
海軍こぼれ話を紹介くださいます。

わが自衛艦旗がいかに制定されたか?
をあなたは知っていますか?

読めばわかります。

わかったら、
一人でも多くの人に教えてあげてください。

この話が日本人の常識として
末長く伝わるようにしてください。

さっそくどうぞ


エンリケ


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【戦う組織のリーダーシップ─今に生きる海軍先輩の教え─(9)】

「海軍こぼれ話(1)自衛艦旗制定までの経緯」
 ─旧海軍の良い伝統を受け継ぐ─

堂下哲郎(元海将)
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□はじめに
 
 前回は、リーダーの第三の役割としての「先輩」としての顔に
ついて2つのエピソードを紹介しました。「私見:海軍式リーダ
ーシップ」としては「平時と有事のリーダーシップ」についてお
話しするとひと区切りつくのですが、ここまで固い話も多かった
ので、このあたりで「こぼれ話」をいくつか紹介してひとやすみ
ということにしたいと思います。気楽に読んでいただければと思
います。


▼韓国主催国際観艦式

今月5日、韓国主催の国際観艦式に海上自衛隊の艦艇を参加させ
ないことが発表されました。韓国で自衛艦旗が「軍国主義の象徴」
であるとの批判が高まり、韓国は自国の国旗と韓国国旗を艦船の
マストに掲揚し艦首と艦尾には旗を掲げないとする「統一ルール」
を参加各国に通知してきたのが発端です。

日本側は、マストに日韓両国の国旗を掲揚することは可能とし、
その上で自衛艦旗の掲揚は国内法上も国際的慣行としても確立し
ていると主張したのですが、韓国側は受け入れませんでした。過
去1998年と2008年に行なわれた韓国の観艦式では海自艦艇は自衛
艦旗を掲げて参加して何の問題もなかったのに、今回の対応は不
可解であり大変残念としか言いようがありません。

さて、今回はこの「自衛艦旗」が制定されるまでの経緯を麻生孝
雄元海将(海兵55期)の回想から紹介したいと思います。


▼おでん屋の暖簾

海上自衛隊の前身である海上警備隊が創設されたのが1952年4月、
その年の8月には保安庁警備隊となり、その艦艇は「警備艦旗」
を掲げていました。防衛庁海上自衛隊となるのが1954年7月のこ
とですから、その1年ほど前の話です。

麻生元海将が保安庁第二幕僚監部(のちの海上幕僚監部)に総務
部長として着任すると、前任者の中山定義氏(海兵54期)から
「現在の警備艦旗は『おでん屋の暖簾』とまで悪口をいう人があ
る。部内の人でも船に乗らない人は、何の旗か知らない人がいる
位で、外国船は勿論、日本の商船や漁船でさえも何の旗だか判ら
ない状況です。是非共新しい立派な自衛艦旗が定められるよう努
力してください。そして出来るなら、旧軍艦旗がそのまま自衛艦
旗となることを望みます」との「希望」が伝えられたそうです。

 その後、警備艦旗の見直しのため部内から新しい艦旗の図案を
募集しましたが、いずれも日章(旭光)、鳩、桜、波などをデザ
インしたもので、これというようなものはありませんでした。当
時、第一幕僚監部(のちの陸上幕僚監部)も芸術大学の指導を受
けて隊旗制定の研究中であったため、芸大の意見を聞いてみると
「部隊の旗として旧海軍の軍艦旗は最上のものであった。国旗と
の関連、色彩の単純、鮮明、海の色との調和、士気の昂揚等凡て
の条件を充たしている」とのこと。

 確かに旧軍艦旗は「良い旗」で海上部隊の強い希望も寄せられ
ていたといいますが、当時は自衛隊発足を旧軍隊復活の兆しと見
る厳しい世論もあり簡単に制定できず「艦旗の制式は、日章と光
線を主体とした図案を研究する」という方針をやっとのことで決
定したといいます。

▼画家としての良心

 麻生部長は、この方針に基づき上司の了解を得て、知人の米内
穂豊(すいほう)画伯(米内大将の親戚)に旭光を主体とする新
しい艦旗の図案を依頼しました。画伯は、名誉なことと快諾され
たのですが、1週間ほどして「既に20枚程描いてみたが、どうし
ても自分の意を充たすようなものが出来ない。旧海軍の軍艦旗の
制式の寸法があれば参考にしたいから貸してくれませんか」との
連絡がありました。

 旧軍艦旗の寸法を届けてから5日ほどしてまた連絡があったの
で部長がお伺いすると、画伯は威儀を正して「旧海軍の軍艦旗は、
黄金分割のその形、日章の大きさ、位置、光線の配合等、実に素
晴らしいもので、これ以上の図案は考えようがありません。それ
で旧軍艦旗そのままの寸法で図案を一枚書き上げました。これが
お気に召さなければ御辞退いたします。ご迷惑をおかけしてすみ
ませんが、画家としての良心が許しませんので…」との挨拶でし
た。

 部長からは、「新しいものを考えて頂いてありがとう御座いま
す。旧軍艦旗と同一といわれるかも知らないが、新しいものを追
求し、新しいものが旧軍艦旗と一致したのですから私は満足です。
これが採用されるかどうかわかりませんが、私に勇気をつけてく
れました…」と御礼を述べました。「新しい図案」を見た部長は、
「頭から電気に打たれたような感動」を感じたといいます。

その後、種々意見が出されたものの原案採用で庁議がまとまり決
裁されました。のちの話では、吉田茂首相は「世界中でこの旗を
知らぬ国は無い。どこの海に在っても日本の艦であることが一目
瞭然でまことに結構です。旧海軍の良い伝統を受け継いで海国日
本の護りをしっかりやって貰いたい」と喜ばれたと伝えられてい
ます。

 このようにして決まった自衛艦旗でしたが、その掲揚場所につ
いてはもう一幕あったのです。当時、内局では国旗を艦尾に、自
衛艦旗は後檣斜桁(後部マストから後方斜め上向きに取り付けら
れた円材)に掲げるべきとの意見が強かったそうです。しかし麻
生部長らは昔の軍艦旗のように自衛艦旗は艦尾に、国旗は艦首に
という意見で折衝を続けました。この問題は決着がつかないまま
麻生部長は転出し、後任に杉江一三氏(海兵56期)を迎えたので
すが、同氏の非凡な手腕で昔の軍艦旗と同じように艦尾に自衛艦
旗、艦首に国旗ということが決裁されるに至ったのでした。

▼自衛艦旗にみる「伝統」

このように見てくると、自衛艦旗は単に「良い旗」だというだけ
でなく、海上自衛隊創設期の先輩方、海兵54期中山定義氏、55期
麻生孝雄氏、56期杉江一三氏の思いが凝縮して実現したものだと
いうことが分かります。しかも、それは単に海兵出身者がそう思
ったというだけではなく、新たな海上自衛隊を作り上げようとし
た隊員の心を一つにするものであり、海軍の伝統の優れた部分を
象徴しており、諸国海軍に共通する国際的な慣行にも一致してい
たということだと思います。

伝統とはさまざまに定義し得るものですが、「なぜこうでなけれ
ばならないか」を説明してくれるものとも言いうると思います。
このような経緯を踏まえると、今回、韓国が「発案」したような
「統一ルール」と私たちの「自衛艦旗」の持つ伝統は相いれない
ものであると得心されるのではないでしょうか。



(つづく)

(どうした・てつろう)


 
【著者紹介】
堂下哲郎(どうした てつろう)
1982年防衛大学校卒業。米ジョージタウン大学公共政策論修士、
防衛研究所一般課程修了。護衛艦はるゆき艦長、第8護衛隊司令、
護衛艦隊司令部幕僚長、第3護衛隊群司令等として海上勤務。陸
上勤務として内閣官房内閣危機管理室(初代自衛官)出向、米中
央軍司令部先任連絡官(初代)、統幕防衛課長(初代)、幹部候
補生学校長、防衛監察本部監察官、自衛艦隊司令部幕僚長、舞鶴
地方総監、横須賀地方総監等を経て2016年退官(海将)。

 
 
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