配信日時 2018/10/10 20:00

【意外と知られていない面白兵器技術(34)】「軍事用車両の技術(1)エンジンと燃料」 市川文一

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
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【2月10日配信】桜林美佐の国防ニュース最前線
「憲法改正、加憲で自衛隊は国を守れるのか?」
市川文一元陸自武器学校長
 https://youtu.be/D_md0ZSJNds


こんにちは、エンリケです。

三十四回目の面白兵器技術は、
「軍事用車両の技術」の1回目です。

この連載も、各界の種々な人々に
読んでいただけているようで、
ありがたい限りです。

さっそくどうぞ。


エンリケ

追伸
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お読みになっての感想や
市川さんへの疑問・質問やご意見は、
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意外と知られていない面白兵器技術(34)

「軍事用車両の技術(1)エンジンと燃料」

市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに

 前回に引き続き31年度防衛予算概算要求に関するコメントです。
31年度要求の特徴として、新大綱、新中期の考え方が基本となっ
ていることについて前回コメントしましたが、もう一つの大きな
特徴が弾道ミサイル防衛を強く打ち出していることです。金額的
にも4244億円という多額の予算が使われています。

 新規後年度負担額2兆5141億円の17%を占めています。
ほかの装備の購入費、航空機2610億円、艦船1783億円と
比較すると、ミサイル防衛のための予算がいかに多いかがわかり
ます。ちなみに、イージスアショアを除く陸自の装備品等取得の
ための予算は約2000億円ですから、ミサイル防衛予算の半分
です。

 ミサイル防衛の有効性や問題などについては、前の連載や拙著
『猫でもわかる防衛論』で、詳しく説明していますが、きちんと
した議論もないままこれだけの巨額の予算を投じることに疑問を
感じます。本来は、国会において議論すべき重要な案件ですが、
おそらく予算委員会においても触れられることはないでしょう。

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 ミサイル防衛については、なんとなく有効性が高いと思われて
いますが、決してそんなことはありません。もし、筆者の考える
ことが正しく有効性の低いものであれば、負の遺産として今後、
維持・管理のための不必要な経費をつぎ込んでいかなければなり
ません。マスコミや軍事専門家からも、あまり疑問が寄せられな
いことも不思議でなりません。今の状況では、このまま予算が認
められることになるでしょう。ぜひ予算通過前に議論となってほ
しいものです。

さて、本題の兵器技術ですが、今回から車両技術について説明し
ます。火器や弾薬、誘導弾と違って、車両は一般に使われていま
すから、基本的な技術は民間用と同じで特異なものはありません。
ラリーや工事用の車両で使われている技術と共通のものがほとん
どです。実際に、陸自で使用している高機動車は、ほぼ同一仕様
でメガクルーザーとして販売されていました。

▼軍用車両も民間車のエンジンが使われている

 誘導弾の説明が一通り終了したところで、軍事用車両の技術を
説明します。今まで火器、弾薬、誘導弾と民間ではほんの一部し
か使用されていない技術の説明でしたから、基本となることを比
較的簡単にわかりやすく説明できました。ところが、軍事車両の
技術はほとんどが民間で使用されているもので、基本となる構
造・機能は同じです。

 車両の構造・機能の基本は、動力となるエンジン、動力をスム
ーズに走行装置(タイヤや履帯)に伝え、速度をコントロールす
るトランスミッションやトランスファー、実際に車両を動かす走
行装置、方向を変えるステアリング装置、車両を止めるブレーキ、
車両を安定して走らせるサスペンションなどです。

 軍事用車両では、さまざまな地形を走破できるように、これら
の機能が特殊に作られており、その仕組みはかなり専門的になっ
てしまいます。兵器技術の説明をするのに、イメージとしては最
も簡単そうな車両の説明が最も難しいというのが面白いところで
もあります。さまざまな地形を走破するという観点では、ラリー
などに使用するアウトドアタイプの車両技術は、軍用車両とほと
んど変わりません。

 そこで、一般道路を走る乗用車やトラックを民間用車両の基準
として、軍用車両の違いを説明していきます。軍用車両としての
特殊な技術もありますが、かなり専門的になってしまいますから、
扱うテーマも一般に馴染みの深いものに限定します。初回は、最
も馴染みの深いエンジンです。

 さて、いきなり肩すかしですが、実は、軍用車のエンジンは民
間車用のエンジンをそのまま使用している場合がほとんどです。
陸自の装備品についても、装輪装甲車や偵察警戒車といった装甲
(戦闘)車両と呼ばれるものでも民間車両と同じエンジンを使用
しています。逆に、これも面白い知識です。

 民間車両とまったく異なるエンジンを使用しているのは、戦車
を筆頭とした系列車や車体重量の重い戦闘車両です。ここでいう
系列車両とは、同時期に戦車、装甲車を開発し、整備性や開発費
の低減を考えて極力同一の部品を使用した車両です。国産の例と
しては、61式戦車と60式装甲車、74式戦車と73式装甲車のエンジ
ンは排気量と出力は違いますが、基本構造は同じです。構成部品
が同じであれば、整備性が良くなります。

また、最近の装備品の開発では単価の低減が求められているため、
新規開発をなるべく最小限に抑えて、既存の技術、民生品を使う
ことが多くなっています。なお、戦車など重量のある戦闘車両用
の特殊なエンジンについては、改めて説明しますので、ここでは
その他の民間車両ベースのエンジンに限定します。

 軍用車両に民間車のエンジンが使われているのは意外かもしれ
ませんが、エンジンに求められるのは小型で出力が高いことです
から、大型トラックに使われるエンジンに要求される性能とあま
り変わりません。車両技術については、民間技術として日々進歩
していますから軍用としても充分使えます。

▼軍用車両は通常、軽油や灯油を燃料とする

 しかし、軍用車両に搭載する際には、独特の選定基準がありま
す。軍用では、性能が高いからといって、通常、ガソリンエンジ
ンは使いません。ガソリンは揮発性が高く燃焼の引火点が低く、
火花などですぐに燃えるため銃弾が飛び交う戦場では非常に扱い
にくい燃料だからです(戦後当初まではガソリンエンジンも使わ
れていました)。

 同じ燃料でも、燃えやすさが異なります。燃えやすさを表す基
準として引火点と発火点があります。引火点とは火を近づけたと
きに燃える温度で、発火点とは火がなくても燃料自ら燃える温度
です。発火点は通常高温のため(ガソリンで250℃前後、軽油や灯
油で200℃前後)、燃料の管理で重要なのは引火点です。軽油や灯
油の引火点が40℃以上なのに対し、ガソリンの場合は-40℃以下
です。よほど極寒の地でない限り、火を近づければガソリンは引
火します。

 軽油や灯油でも高温になれば引火するので決して安全ではあり
ませんが、ガソリンに比べると扱いやすい燃料です。日本は夏で
も一日中40℃以上になることはありませんから、保管だけ考える
ならば直射日光の当たるところに置かなければ軽油や灯油は引火
温度に上がることは、まずありません。

 したがって、軍用車両では通常、軽油や灯油を燃料としたエン
ジンが、多くの面で有利です。自衛隊のほとんどの車両も、軽油
を燃料としたディーゼルエンジンが使われています。海外ではガ
スタービンエンジンを使った戦車も開発されていますが、燃料は
ジェット燃料で灯油に近い成分ですから、引火点も灯油とほぼ同
じです。

 ガソリンエンジンは、ディーゼルエンジンと比べ小型・軽量な
ため、小型車両には適しています。オートバイなどはその好例で
す。車両ではありませんが、小型の発動発電機もガソリンエンジ
ンを使用しています。



(次回に続く)

(いちかわ・ふみかず)

 
【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。1983年、陸上自
衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合幕僚監部
人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕僚監部武器・化学課
長、東北方面後方支援隊長、愛知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤務を最後に
2017年8月に退官。

退官後の9月にはYouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」に
出演。 https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/D_md0ZSJNds
著書に『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)がある。
 https://amzn.to/2qBGuNJ

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