配信日時 2018/10/03 20:00

【意外と知られていない面白兵器技術(33)】「地対艦誘導弾の構造・機能(1)」 市川文一

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
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【2月10日配信】桜林美佐の国防ニュース最前線
「憲法改正、加憲で自衛隊は国を守れるのか?」
市川文一元陸自武器学校長
 https://youtu.be/D_md0ZSJNds


こんにちは、エンリケです。

三十三回目の面白兵器技術は、
「地対空誘導弾」の7回目です。

冒頭にうれしい言葉がありました。
国民としてぜひ知っておきたいことです。

さっそくどうぞ。


エンリケ

追伸
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意外と知られていない面白兵器技術(33)

「地対艦誘導弾の構造・機能(1)」

市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに

 31年度防衛予算概算要求に関するコメントをするため導入と考
えていた防衛予算の仕組みの説明に、思わぬ時間がかかってしま
いました。今回は話題として取り上げましたが、防衛予算をわか
りやすく丁寧に、大事なポイントを的確に説明するとなると、予
算の仕組み自体をテーマとして本腰で取り組まなければいけない
ボリュームがあるという思いを、この3回の連載を通じて痛感し
ました。

軍事、防衛関係の専門家でも防衛予算をまともに解説できる人は
少数で、解説書の類いもありませんから、今後、防衛予算をテー
マとして連載することも考えたいと思います。

 本題の31年度概算要求ですが、来年度の概算要求は通常年度と
違った大きな特性があります。来年度から新しい防衛計画の大綱
と中期防衛力整備計画が作成されるためです。来年度は新中期計
画の初年度となるため、防衛力整備の基本的考え方は新大綱、新
中期に基づくことになります。

 正しい順序は、新大綱、新中期の作成が先ですが、1年間とい
う短い期間で両者を作成しますので、時程がうまく噛み合いませ
ん。大綱や中期と年度予算の関係も、今後、変えていかなければ
ならないでしょう。

 防衛省の30年度と31年度の概算要求資料『我が国の防衛と予算』
の目次を比較すると一目瞭然ですが、「1 防衛関係費」の次の
項目、「2 各種事態における実効的な抑止および対処」が
「2 領域横断的(クロス・ドメイン)な防衛力の強化」に変わ
っています。この項目は大綱の「防衛力の役割」ですから、次期
大綱では防衛力の役割が変わるのか、大綱の全体の記述体系が大
きく変わることを意味しています。

 そして、中項目の1番目、2番目の「新領域の能力強化」と
「海空領域の能力強化」です。30年度までも類似の記述がありま
したが、次期大綱・中期では防衛力整備の方向性として強く打ち
出されることを示唆しています。特に問題と思われるのが「海空
領域の能力強化」です。今までも控えめに海空重視が記述されて
いましたが、新大綱、中期では、方針として明確にするというこ
とでしょう。

 筆者が陸出身なため誤解されると困りますが、防衛力、軍事力、
戦力はバランスが重要です。陸海空防衛力のバランスの中で、現
在、海空の防衛力が脆弱であれば、それを強化するのは当然です。
その辺の事情を前提とした海空重視は問題ありませんが、防衛力
のあり方や役割の中で、唐突に海空重視が打ち出されるのであれ
ば、安全保障、軍事の基本を無視した防衛大綱といえるでしょう。
(続く)

さて、本題の兵器技術ですが、地対空誘導弾は前回で終了し今回
は地対艦誘導弾です。地対艦誘導弾は島国の日本にとっては、非
常に有用な兵器です。他国が日本に侵攻する場合は海を渡らなけ
ればなりません。海を渡るためには船か航空機が必要ですが、大
戦力を輸送するには船を使わなければなりません。つまり、日本
への侵攻は必ず船が必要だということで、この船を叩くための兵
器が地対艦誘導弾です。

ここまで、長期間にわたって連載してきました誘導弾技術は今回
を持って終了します。次回からは、車両技術です。


▼長距離を飛翔できるジェットエンジン

 誘導弾の最後として、地対空誘導弾について簡単に、面白い性
能について触れたいと思います。対戦車誘導弾がATM(MAT)、地
対空誘導弾がSAMで、地対艦誘導弾はSSM(Surface-to-Surface
(Ship) Missile)と呼称されます。陸自の88式地対艦誘導弾は
88SSM、12式地対艦誘導弾は12SSMです。

 SSMのシステム構成は、基本はSAMと同じです。レーダーで艦艇
を捉えて追随、射撃管制(統制)装置がデータを処理して、ミサ
イルを発射します。ミサイルはあらかじめインプットされた経路
を飛翔し、目標付近でミサイルが目標を捕捉して誘導されます。
88式も12式も基本的なシステム構成とミサイル誘導方式は同じで
す。外観上は、発射機を搭載する車両が、88式は特大型トラック、
12式は中SAMと同様の専用車両、ミサイルが格納されているキャ
ニスターが88式は円筒(丸形)、12式は角柱(角形)と一目で区
別できます。

 SSMがSAMとシステム構成で大きく異なるのは、システムの規模
が大きいことです。SSMは、艦艇が目標となるためレーダーは海岸
線近くに配置せざるを得ず、発射機は秘匿、残存性のため内陸部
に配置しなければなりません。これら広範囲に分散された装置を、
システムとして射撃管制装置や指揮統制装置で統合しなければな
らないため、データ通信用の装置が多数必要となります。

 ミサイルは自ら電波を放射して、艦艇からの反射波に誘導され
るアクティブ方式で中SAMや11短SAMと同じです。SSMとSAMのミサ
イルの大きな違いは、SSMがジェットエンジンにより飛翔すること
です。ほかにジェットエンジンを使うミサイルで有名なのがトマ
ホークに代表される巡航(クルージング)ミサイルです。陸自で
使用するミサイルで、ジェットエンジンが使われているのはSSM
だけです。

 ジェットエンジンはロケットモーターのような高速の推進力は
得られない代わりに、低高度を地形の起伏に対応しながら長距離
を飛翔することができます。低高度を飛翔することでレーダーに
捕捉されにくくなります。低空目標は、地上からの反射波と重な
り元々レーダーで捉えにくい特性があります。最近は、前の連載
で紹介したドップラーレーダーにより移動目標だけ識別する能力
が高まりましたが、山や丘などの遮蔽物があれば、レーダーでは
捉えられません。

 また、地上が丸いことの影響で地上が平らな状態でも、5km先
しか地上にある目標は捉えることはできません。ミサイルが地上
すれすれに飛翔した場合は、目標から5kmまでは完全にレーダー
の死角となる訳です。

▼陸自にはトンネルを掘る能力もある
 
 SSMは、あらかじめ地形情報をミサイルにインプットし、内陸部
からミサイルを発射し、山などの遮蔽物を回避しながら低空飛翔
し、海上でミサイルが目標を捉えて誘導されるため、残存性が格
段に高まります。また、さらに残存性を高めるため、坑道を掘り
システムを掩蔽し、敵の砲爆弾から生き残れるように、坑道を掘
削する専門の機材を有する部隊も編成されています。

 坑道とは要はトンネルのことで、陸自にはトンネルを掘る能力
もあるということです。ただ、トンネルを掘るだけでは崩れるお
それがありますから、コンクリートを吹き付けながら耐久性のあ
るトンネルを作れます。一般道路にあるトンネルと変わらないレ
ベルのトンネルを作ることができます。

 誘導弾の説明から外れましたが、陸自には道路を補修し、橋を
架け、トンネルを掘るという民間の建設業者と同様の能力も保有
します。まさに自己完結組織です。災害派遣でも活躍する炊飯、
入浴、洗濯、浄水能力は、隊員が活動する基盤となる能力を被災
者支援に応用しているものです。


(次回に続く)

(いちかわ・ふみかず)

 
【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。1983年、陸上自
衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合幕僚監部
人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕僚監部武器・化学課
長、東北方面後方支援隊長、愛知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤務を最後に
2017年8月に退官。

退官後の9月にはYouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」に
出演。 https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/D_md0ZSJNds
著書に『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)がある。
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