配信日時 2018/09/05 20:00

【意外と知られていない面白兵器技術(29)】「地対空誘導弾(その3)『レーダー(その2)』」 市川文一

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
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【2月10日配信】桜林美佐の国防ニュース最前線
「憲法改正、加憲で自衛隊は国を守れるのか?」
市川文一元陸自武器学校長
 https://youtu.be/D_md0ZSJNds


こんにちは、エンリケです。

二十九回目の面白兵器技術は、
「地対空誘導弾」の3回目です。

レーダー技術の解説の二回目。
きょうは、フェイズドアレイレーダー
です。

市川さんは

<フェイズドアレイに関してある程度のイメージがあれば軍事を
語るのに非常な強みになります>

と書かれてますが、同意します。

その仕組みや概要を今日の記事で
つかんでください。
実にわかりやすくためになります。

さっそくどうぞ。

エンリケ

追伸
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意外と知られていない面白兵器技術(29)

「地対空誘導弾(その3)『レーダー(その2)』」

市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに

 前回の続きで、装輪装甲車(改)の開発中止に関する話題です。
防衛省のお知らせで「耐弾性、重量、量産コストに関する目標を
満たして開発を完了できる見込みが立たない」という記述があり
ますが、耐弾性と重量とコストはそれぞれが相反するもの(トレ
ードオフの関係)です。

 要求する側(防衛省)としては、「耐弾性能が高く、重量が軽
く、コストを安く」が開発目標になります。しかし、耐弾性能を
高くするためには装甲を厚くするか、鋼板の材質の強度を上げる
ことが必要です。装甲を厚くすれば重量が重くなり、鋼板の材質
の強度を上げるとコストは高くなります。

 結果的に目標が達成できなかったということは、元々の要求が
厳しすぎたのか、低コストで耐弾性能を上げるための開発期間が
短すぎた可能性があります。開発スケジュールを決める段階で、
市場(防衛産業)にすでに存在する技術で目標が達成できると判
断するための調査を、どれだけ綿密に行なったかという疑問が残
ります。

 装輪装甲車を開発できるメーカーは、ほかには三菱重工があり
ますが、三菱重工であれば目標を達成できる技術があるという見
積もりだったのでしょうか。まさに、歴史に「if」を持ち込むよ
うな話になってしまいますが、2年の開発期間があまりにも短す
ぎるというのは、少しでも装備品の開発に携わった者であれば感
じるところでしょう。

量産においても、戦闘車両であれば製造するのに2年間程度の期
間は必要です。これに、試験などの期間を加えただけでも3年以
上の期間が必要となります。メーカーの社内研究、開発を前提と
して、装備品がほぼ完成している状態でなければ無理な期間です。
装備品の維持・管理を専門とし、開発業務にも多少関係してきた
経験から、どうにも後味の悪い結果です。

さて、本題の兵器技術は地対空誘導弾の3回目、レーダーの続き
です。軍事用に使用されている最新のレーダーは、ほとんどが
フェイズドアレイレーダーです。軍事技術としてはやや専門的に
なりますが、フェイズドアレイに関してある程度のイメージがあ
れば軍事を語るのに非常な強みになります。

▼フェイズドアレイレーダーの仕組み

 前回説明したレーダーの知識があれば、一般的な軍事知識とし
ては十分ですが、最新のレーダー技術も含めて少し補足したいと
思います。やや、専門的になりますが面白い技術が使われていま
す。難しい原理は極力省略して機能を中心に説明します。

 まずはドップラーレーダーです。ドップラー効果により電波の
周波数が変化することを利用したレーダーです。ドップラー効果
とは、移動している対象が発する電波や音波の周波数が変化する
という現象で、わかりやすいのはサイレンを鳴らして走る救急車
が、近づくときはサイレンの間隔が短くなり、遠ざかるときはサ
イレンの間隔が長くなるという現象です。

 これをレーダーに応用すると、移動している航空機の反射波は
周波数が変化するため、移動速度も含めて位置が特定できます。
雲の動きも捉えられるため気象観測用として使われるほか、自動
車の衝突防止装置用としても使われています。

 軍事用としては、低空で侵入する戦闘機を捕捉するのに、パル
スレーダーと組み合わせて使用されます。パルスレーダーで低空
目標を捉えようとすると地表面からの反射波と重なり、目標を識
別できません。ドップラーレーダーは移動している航空機だけを
識別できるため、低空目標にも対応できます。

 そして、軍事用として現在多用されているのが「フェイズドア
レイレーダー」です。画像検索するとイージス艦のSPYレーダーの
アンテナ(縦方向が長い八角形のコースター状のもの)が出てき
ますが、これが代表的なフェイズドアレイレーダーです。イージ
ス艦の場合、これが全周に4つ付いていますが、前回のパラボラ
アンテナによる目標捜索と同じに考えると、全周捜索はできずに
四方向の間の抜けた捜索しかできないことになります。

 実は、フェイズドアレイレーダーは、この一方向を向いたアン
テナからさまざまな方向に電波を放射できるため、このレーダー
で全周360°の高域から低域までの捜索ができます。この八角形の
コースターの下には、たくさんの小さなアンテナが並んでいます。
この小さなアンテナから放射される小さな電波の特性を少しずつ
変えることで、小さな電波が合体した大きな電波はいろいろな方
向に放射できる仕組みになっています。

パラボラアンテナを使ったレーダーでは、一度に2つの目標情報
しか特定できません。(距離と方角、距離と高度)したがって、
3つの目標情報を取得するには複数のレーダーを使用します。

 また、目標を追随してミサイルを誘導するには、3つの目標情
報を正確に測定しなければならないため、パラボラアンテナを上
下左右に細かく機械的に動かす必要があります。フェイズドアレ
イレーダーが登場する前の、初期のSAM用のレーダーでは目標追随
専用のレーダーが使われていました。

 フェイズドアレイレーダーは、アンテナを機械的に動かす必要
がないため、故障しにくく、また、電気的信号で電波方向をコン
トロールするため、正確な目標情報が得られます。国産初の地対
空誘導弾、81式短SAMでもフェイズドアレイレーダーを使用してい
ます。

 短SAMや中SAMのように車載で使用するフェイズドアレイレーダー
は、重量やコストの問題でイージス艦のように4面にアンテナを
取り付けることができないため、1面のアンテナを使用していま
す。全種捜索時はパラボラアンテナのように回転させ、目標を補
足・追随、射撃するときには固定して使うのが一般的です。



(次回に続く)

(いちかわ・ふみかず)

 
【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。1983年、陸上自
衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合幕僚監部
人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕僚監部武器・化学課
長、東北方面後方支援隊長、愛知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤務を最後に
2017年8月に退官。

退官後の9月にはYouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」に
出演。 https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/D_md0ZSJNds
著書に『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)がある。
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