配信日時 2018/08/30 08:00

【我が国の歴史を振り返る ─日本史と世界史に“横串”を入れる─(1)】「日本および日本人の4つの特色」 宗像久男(元陸将)

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こんにちは、エンリケです。

最初の配信となった前回は、
創刊準備号として、本連載の概略と狙いをお届けしました。

いかがでしたか?

それでは、今回から本編が始まりますよ。

まずは


「我を知りましょう」


さっそくどうぞ。


エンリケ

追伸
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我が国の歴史を振り返る
 ─日本史と世界史に“横串”を入れる─(1)

「日本および日本人の4つの特色」

宗像久男(元陸将)
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□はじめに

本メルマガは我が国と西欧列国や周辺国との歴史的な関わりを焦
点としていますが、その前にどうしても理解しておきたい我が国
の地理的特性や日本人の資質などを整理しておこうと思います。

1970年代になりますが、イザヤ・ベンダサン(山本七平氏のペン
ネームと言われています)の『日本人とユダヤ人』に出てくる
「日本人は水と安全はタダと思っている」との言葉が巷で話題に
なりました。今では、水道代を払い、ミネラルウォーターを購入
する人も多いことから、水をタダと考える人は少なくなったと思
いますが、本メルマガの焦点は、この「水」でなく「安全」の方
です。日本人の多くは今なお「安全はタダ」と思っているのでは
ないでしょうか。

最近は、時々奇妙な事件が起こり、我が国の「安全神話」が崩れ
たとの見方もありますが、私は、日本人のDNAに「『安全』、
その延長で『平和』とか『独立』はタダ」との因子が刷り込まれ
ているような気がしてなりません。これらは一朝一夕に出来上が
ったものではなく、我が国の地理的要因や環境などを背景に長い
歴史の中で出来上がったものと思います。まず、それら、いわゆ
る「我が国の特色」をはじめに簡単にレビューしておきましょう。

▼「四面環海」の「単一民族」

その第1は、我が国は「四面環海」、つまり島国であることです。
 
現在は、海を渡ることはそんなに難しいことではありませんが、
長い間、人類にとって海を渡ることは越えがたい障壁でしたので、
海の存在は「外敵から国を守る」ためには大きなメリットでした。

ただ「四面環海」とは言え、我が国は大海の孤島ではなく、ユー
ラシア大陸の東端に位置し、大陸と日本列島を隔てる対馬海峡は
わずかに約200kmの幅しかありません。その先に朝鮮半島が横
たわっており、古来よりさまざまな文化や技術が中国から朝鮮半
島、そして対馬海峡を経由して我が国に伝わってきました。
しかし、わずか約200kmでも大陸と「海を隔てている」ことは、
国防上、重要な価値を持っておりました。事実、我が国が対馬海
峡経由で侵略を受けたのは、鎌倉時代の2度にわたる「元寇」だ
けでした。この際も、鉄砲の語源になった「てつはう」という火
薬を用いた武器を駆使する元軍に対して当時の武士の戦いは全く
歯が立たなかったのですが、洋上にあった元軍船団を台風が襲う
などの幸運もあってこれを退けたのでした(「神風」説まで流布
されました)。

当然ながら、日本側から朝鮮半島に渡るのも大きな制限を受けま
した。歴史上は、7世紀の「白村江(はくすきのえ)の戦い」や
16世紀末期の豊臣秀吉の「朝鮮出兵」がありますが、我が国の祖
先達は、長い間、日本列島の中にとどまっていました。明治時代
以降の大陸進出については、本メルマガの主要テーマでもありま
すので、のちほど詳しく触れましょう。

また最近、北朝鮮の弾道ミサイルや核戦力が話題になっておりま
すように、科学技術の発展、なかでも軍事技術の大きな進歩によ
って、「四面環海」の意味が変わりつつあるのは事実です。それ
でも、中東から欧州各国へ向かって、多くの難民が行列を作って
歩いて逃れていく映像などを観ると、改めて島国の価値を認識す
ることができると思います。

その第2は、「単一民族」であることです。

我が国は、「単一民族」で「一国家」を形成し、「単一民族」と
して文化や価値観を共有してきました。島国だからそれが可能だ
ったとも言えるでしょう(先住民族もおりましたが、長い歴史の
中ですでに同化していると考えます)。

世界には大小約800の民族が存在すると言われております。現
在、国家は200足らずですので、計算上は、25%の民族しか
自前の国家を保有していないことになります。逆に、お隣の中国
には漢族の他に56の少数民族が存在しますし、朝鮮半島は1つ
の民族が2つの国家に分断されております。我が国のように、長
く「一民族一国家」を維持できたのは極めて希で、幸運と言える
と思います。

ついでに、後々のために「日本民族が『黄色人種』であること」
もつけ加えておきましょう。歴史の中の(白人である)欧米列国
との関係、そして同じ「黄色人種」でありながら、どうしても共
通の価値観を持てない中国や朝鮮半島が近傍に所在していること
も覚えておきたいものです。

▼「農耕民族」で「多神教」

我が国の特色の第3は、日本人は「農耕民族」であるということです。

縄文時代はさておき、日本人は、生活の主体が稲作など農業活動
により形成されている「農耕民族」に分類されます。さまざまな
議論があるようですが、生きるために命を懸けて争っても獲物を
獲得しようとする「狩猟民族」と違い、天の恵みに感謝し、お互
いに助け合って仕事をしないと収穫できないとの本質を有する
「農耕民族」は、基本的には争いを好みません。

他方、今や日本人の専売特許になっている「物づくり」技術は、
その源流をたどると、農業を効率的に実施するための農機具に行
き着くと言われます。農機具や刀剣類などの製造技術は大和朝廷
の時代から育まれてきたようですが、外国から渡ってきた技術を
もとに改善を加え、我が国独特の専門技術として発達してきまし
た。

また、「災害大国」と言われる我が国は、地震や台風など厳しい
自然環境との戦いの歴史でもありましたが、「物づくり」技術は、
こうした厳しい環境の中で生き残るために発達してきたと分析す
る人もおります。日本人は、長い歴史の中で厳しい自然さえも
「成長の糧」にして来たのです。

特色の第4は、宗教は「多神教」であることです。

現在の日本人には無神論者(無宗教の人)もおりますが、我が国
は、古来より八百万の神々が共生する「神道」を基本としており
ました。よって、まざまな仏が共存共栄している仏教の導入には
何ら違和感を持たなかったのでした。しかし、一神教のキリスト
教やイスラム教はまったく別で、ごく一部の人々を除き、これら
が広く普及することはありませんでした。

我が国と欧米列国の関係は、「宗教」を抜きには語れません。細
部については、そのつど、振り返りましょう。

▼育まれた日本人の資質とDNA

我が国は、長い歴史の中では、国内の統治をめぐる争い、戦国時
代のような領地の争奪戦、さらには明治以降の再三の戦争もあり
ましたが、周辺国や欧米列国などと比較すれば「争いの経験」は
極めて少なかったと言えると思います。

その中で、万世一系の天皇家を王朝として護持してきました。現
王朝は、記録の確かな6世紀以降、少なくとも1500年間は王
朝交代の証拠はなく存続しております。これは他に類がありませ
ん。

このような特色を背景にして、東日本大震災などにおいて世界じ
ゅうから賞賛されたような、礼儀正しさ、勤勉さ、賢さ、寛容さ、
争いを好まず平和を尊ぶ精神などが日本人の資質として育まれて
きました。他方、見方・考え方が狭隘になりがちな“島国根性”
のような資質も出来上がりました。

その延長で、日本人には「安全はタダ」とのDNAが培養され、
安全や防衛に関する意識や気概が、日本人の共通の資質として
十分発達して来なかったのではないでしょうか。

明治以降から昭和にかけては、必要性に駆られてこれらの意識
が覚醒しましたが、結果として国運を狂わす「敗戦」につなが
りました。国の行く末を左右する「戦争」に至る道にはさまざ
まな要因があります。それらの教訓や課題は「歴史から学ぶ」
主対象であり、本メルマガのテーマそのものであります。追い
追い振り返ってみましょう。

▼「FAR EAST」

最後に、西欧列国との関わり合いで言えば、我が国は地理的位置
にも恵まれました。つまり「FAR EAST」(極東)です。

 「地球球体説」は古代ギリシア時代から説かれておりましたが、
それを実証したのは「大航海時代」、有名なマゼランの世界一周
(1522年)でした。我が国は「FAR EAST」、ユーラ
シア大陸西側の欧州列国から地球のちょうど反対側、最も離れて
いますし、アメリカ大陸経由の西廻りでも広い太平洋を渡る必要
があります。

15世紀中頃から17世紀中頃まで、ポルトガルやスペインによ
る「大航海時代」と言われる大規模な航海が行なわれ、欧州以外
の地域がその餌食になりました。我が国は、地理的位置などが功
を奏して致命的な影響を回避できましたが、その後の欧米列国に
よる植民地拡大の歴史においても、もし我が国がインド洋とかカ
リブ海あたりに位置していたらまったく違った歴史になっていた
ことは容易に想像でき、ぞっとします。

次号から、西欧列国と関わり合いが始まった「大航海時代」にさ
かのぼり、「我が国の歴史」を振り返ってみたいと思います。



(以下次号)


(むなかた・ひさお)

 
【著者紹介】

宗像久男(むなかた ひさお)
 
1951年、福島県生まれ。1974年、防衛大学校卒業後、陸
上自衛隊入隊。1978年、米国コロラド大学航空宇宙工学修士
課程卒。
陸上自衛隊の第8高射特科群長、北部方面総監部幕僚副長、第1
高射特科団長、陸上幕僚監部防衛部長、第6師団長、陸上幕僚副
長、東北方面総監等を経て2009年、陸上自衛隊を退職(陸将)。
2018年4月より至誠館大学非常勤講師。『正論』などに投稿
多数。

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