配信日時 2018/08/29 20:00

【意外と知られていない面白兵器技術(28)】「地対空誘導弾(その2)『レーダー(その1)』」 市川文一

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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
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【2月10日配信】桜林美佐の国防ニュース最前線
「憲法改正、加憲で自衛隊は国を守れるのか?」
市川文一元陸自武器学校長
 https://youtu.be/D_md0ZSJNds


こんにちは、エンリケです。

二十八回目の面白兵器技術は、
「地対空誘導弾」の2回目です。

冒頭文にはショックを受ける方も多いでしょう。
受けてもらわないと困る、とも思いますが・・w

レーダー技術の解説は、
実にわかりやすくためになります。

さっそくどうぞ。

エンリケ

追伸
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意外と知られていない面白兵器技術(28)

「地対空誘導弾(その2)『レーダー(その1)』」

市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに

 最近の装備品開発に関する興味深い話題といえば、現在の96式
装輪装甲車の後継、装輪装甲車(改)の開発中止です。以下、防
衛省のお知らせを掲載します。

 「防衛装備庁において開発事業を進めている装輪装甲車(改)に
ついては、試作品に不具合(耐弾性能のばらつきの多い防弾板の
使用や板厚不足等)があり、当該不具合の改善等の必要な対応を
行うため、開発完了時期が、当初計画していた平成30年度から、
平成33年度以降に遅延することとなった旨を昨年12月に公表
しておりました。  

その後、試作品の受注企業において、新たな防弾材による耐弾試
験が行われていましたが、現状のまま開発事業を継続しても、耐
弾性、重量、量産コストに関する目標を満たして開発を完了でき
る見込みが立たないことから、装輪装甲車(改)の開発事業を中
止することとなりました。」

 受注企業は、現在の96式装輪装甲車を開発・製造しているコマ
ツです。日本においては、装備化を前提として試作品が作られた
以降に開発事業が中止になるというのは非常に珍しいことで、自
分の知識では、てき弾銃くらいしか思い浮かびません。

 今回の装輪装甲車(改)については開発という名称が付いてい
ますが、2015年2月受注の2017年1月納品ということでわずか2年し
か期間がなく、もともと社内研究などで開発の目処(めど)が立
っていないと新しい装備品を作るには無理な期間です。

昔から、日本では装備品の研究・開発に関する経費はメーカー負
担が多すぎるといわれてきましたが、今回については、ほとんど
がメーカー負担です。通常の開発事業であれば、要素ごとに3段
階くらいに順次開発を進めていくのが通常です。たとえば今回で
あれば、1回目が防弾性能、2回目が走行性能、3回目で総合性
能といった具合です。欠点は経費と時間がかかることですが、メ
ーカー負担は軽減できます。

おそらく今回の開発では開発要素が少ないという理由で、完成さ
れた試作車を一発で納品ということになったのかと思いますが、
巷で噂されている「コマツの技術力が不足した」というだけで済
まされる問題ではありません。現在の96式装輪装甲車を開発した
技術力のある会社が失敗したという事実について、今回の開発事
業を決めた防衛省も装備品開発のスケジュール等について再検討
する必要があると思われます。(次回に続く)

読者のYさんからご所見をいただきました。ありがとうございます。
旧海軍と米海軍との高射機関砲の比較をし、多層防空と国内の兵
器開発に関する技術力の必要性を戦史から紹介していただきまし
た。歴史からは、いろいろと学ぶことが多いのですが、日本で先
の大戦を語るときは戦争の悲惨さに終始してしまうのは残念なこ
とです。また、自衛隊での戦史研究においても、兵器技術の観点
からの研究が足りないことに気づかされました。

さて、本題の兵器技術は地対空誘導弾の2回目、レーダーです。
レーダーは地対空誘導弾以外でも使用されていますが、障害物の
ない空間で最も効果を発揮し、また、レーダーがなければ航空機
などの高速の目標を捕捉・追随することはできません。個人携帯
用誘導弾など至近距離の対空兵器以外は、ほとんどレーダーを装
備しています。対空用の兵器にはなくてはならないものです。

▼レーダーの原理

 SAMの目となるのがレーダーで、最初に目標を捉えます。レーダ
ーが最初に開発されたのは軍事目的ですが、今では飛行場をはじ
め、船舶用、気象用など、さまざまな場所で使われ、現代文明に
なくてはならないものとなっています。インターネットやGPS、
ロケットも最初は軍事目的で開発されたものが、今や文明を支え
る、なくてはならないツールとなっています。

 兵器は戦争に使われ、世界中で多くの人命を奪ってきましたが、
兵器開発のための軍事技術が近代文明発展の基礎となっているの
は、また、疑いのない事実です。皮肉な事実ですが、理想だけで
は語れない現実があることも、しっかりと認識しなければなりま
せん。

 このように、世界中で使用されているレーダー(現在では自家
用車両にも搭載されています)ですが、その原理は意外と知られ
ていません。基本原理は非常にシンプルなものですから、まずは
原理から説明します。

 レーダーアンテナ(衛星放送を受信するパラボラアンテナが代
表的なものです)から電波が放射されます。ここで使われる電波
は光のように直進性の高いものです。(G〔ギガ〕ヘルツと呼ばれ
る周波数の高いもの)放射された電波は、目標に当たって反射し
同じアンテナで反射した電波を捉えます。

最も基本的なパルスレーダーの場合、電波は一定間隔(極めて短
時間)で放射されます。電波の塊がボールのように次々に飛んで
いくとイメージしてください。この電波の塊が航空機などの目標
に当たると次々と反射し、反射した電波の塊が次々とレーダーア
ンテナに戻り、これを受信します。

電波の速度は光と同じで高速ですが、放射してから受信するまで
の非常に短い時間を計る技術は今や日常生活でも使用されている
身近なものです。電波の速度に時間を掛ければ距離が出ます。以
前、レーザーで距離を測る説明をしましたが、同じように電波で
目標までの距離がわかります。電波を放射した方向と角度、目標
までの距離がわかることで、目標の位置と高度が特定できます。

レーダーアンテナから電波を放射しながら、360°全周に回転さ
せることによりレーダーを中心とした、目標の位置がわかります。
これを表示したのがいわゆるレーダースコープと呼ばれるもので
す(「レーダースコープ」で検索)。目標の移動も時間経過に伴
って確認できます。現在でも、このタイプのレーダーは多数使用
されています。

この時、軍事用のレーダーで問題になるのが、目標の位置を確認
できても敵か味方かが判断できないことです。そこで、敵味方識
別装置(IFFと呼称されます)が登場します。地上装置から航空機
に対し敵味方を識別するための信号を送り応答を求めます。航空
機にも同様の装置が搭載され、地上装置の信号を受け取り味方で
ある信号を送ります。信号は暗号化されていますから味方にしか
読み取れません。これで敵か味方かを判断し、スコープに表示し
ます。当然ながら、この暗号は非常に秘密レベルの高いものです。

レーダーの性能は、電波の種類に影響されます。電波は文字が示
すとおり電気の波ですが、波と波の間隔(長さ)を「波長」、
1秒間の波の数を「周波数」と呼びます。電波の速さは一定です
から、波長が長いと周波数は低く、波長が短いと周波数は高くな
ります。電波の周波数が高くなると光の性質に近くなります。

つまり、周波数が高い電波では雲や雨が障害になり目標を捉えに
くい代わりに、目標の大きさやある程度の形状などがわかります。
周波数が低い電波は雲に隠れた目標を捉えることができますが、
目標の大きさなどはわかりません。軍事用のレーダーであれば、
広域で目標を捜索するときは周波数の低い電波を使い、敵味方の
識別をしたあと、目標を追随する場合や、ミサイルを発射したあ
とにレーダーでミサイルを誘導するような場合は周波数の高い電
波を使います。



(次回に続く)

(いちかわ・ふみかず)

 
【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。1983年、陸上自
衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合幕僚監部
人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕僚監部武器・化学課
長、東北方面後方支援隊長、愛知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤務を最後に
2017年8月に退官。

退官後の9月にはYouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」に
出演。 https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
 https://youtu.be/D_md0ZSJNds
著書に『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)がある。
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