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ライターの平藤清刀です。陸自を満期除隊した即応予備自衛官
でもあります。
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【2月10日配信】桜林美佐の国防ニュース最前線
「憲法改正、加憲で自衛隊は国を守れるのか?」
市川文一元陸自武器学校長
https://youtu.be/D_md0ZSJNds
こんにちは、エンリケです。
面白兵器技術の二十五回目は、
「対戦車誘導弾」の四回目。
きょうの主役はMPMSです。
さっそくどうぞ。
エンリケ
追伸
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意外と知られていない面白兵器技術(25)
「対戦車誘導弾(その4)『96式多目的誘導弾「MPMS」』」
市川文一(元武器学校長・陸将補)
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□はじめに
今年度も8月となり、防衛関係では概算要求が気になるところ
です。自分もOBとなり予算関係の情報は噂話程度しかありませ
んが、陸上装備関連予算については悪い噂しか聞こえてきません。
昔から、海上、航空重視の意見が多く、陸の担当者が根気よく各
所に説明して、陸・海・空のバランスを保ってきた訳ですが、状
況は海空重視に突き進んでいる気がします。
前の連載「驚くほどよくわかる防衛論」でも書いていますが、
防衛力はバランスが重要です。予算が少ない場合、何かを重視す
るというのは政策として大事なことですが、すべての事業に関し
て当てはまる訳ではありません。防衛力はなんといってもバラン
スです。
たとえとしては適切でないかもしれませんが、社会生活における
人格に近いものがあります。何かに優れていてもバランスに欠け
ると、社会生活に不都合をきたします。とくに最近では何かに突
出した才能を持っていても、人格のバランスに欠ける人は排除さ
れる傾向にあります。スポーツ、音楽、芸能で突出した才能があ
るにもかかわらず、第一線から外れていく人が非常に目立ちます。
防衛力も、バランスが悪いと弱点を突かれます。一国の防衛力と
は、巨大で複雑で繊細にシステム化されたものです。何か突出し
た力で全体をカバーすることはできません。唯一、その力がある
のは核戦力です。島国という地理的環境のため、どうしても海空
重視に意見が偏(かたよ)るのは一般論としてはやむを得ません
が、防衛力整備に関係する人、影響を与える人はしっかりとした
軍事知識を持ち、的確な議論をしてほしいものです。
さて、本題の兵器技術は、対戦車誘導弾の4回目MPMSです。開発、
装備化時期は軽MATよりも早く説明の順番が逆ですが、世界で唯
一の誘導方式であり世代も定義できませんから、まずは世代順に
軽MATを先に説明しました。MPMSは有線誘導ですが、目標を指
定すると自動追随しますので、あえて世代を定義すると2.75世
代ということになるのでしょうか。
▼日本が持つ匠の技で完成した「MPMS」
2.5世代の中MATと3世代の軽MATの間に、世界でも例を見ない
誘導方式の96式多目的誘導弾「MPMS」が開発されています。年代
順では、MPMSが軽MATの前ですが、対戦車誘導弾(名称は多目的誘
導弾です)としては特殊であり、世界で唯一、光ファイバーを使
用した誘導弾のため世代も定義できません(多目的という名称は
上陸用舟艇等の各種目標にも使用できるからです)。
中MATでようやく有線がなくなったのに、また有線の復活です。し
かし、有線といっても光ファイバーですから、情報の伝達量が桁
違いです。当然、光ファイバーの使用が先ではなく、求められる
性能を達成するために光ファイバーを使用せざるを得なかったと
いうことです。
MPMS運用の最大の特徴は、敵から発見されない遠距離の山陰から
射撃することができることです。つまり、ミサイル発射後に敵か
ら発見されて反撃される危険性が局限し、部隊の残存性が高まり
ます。しかし、これを射撃する側から考えると、見えない目標を
捉えて命中させなければなりません。
中MATを長射程にして照準手がレーザー照射して、遠距離から射撃
する方法もありますが、近年の戦車はレーザー照射を感知するセ
ンサーを備えているため、照準手の位置が特定されて反撃されま
す。ミサイルの射程が長くなるほどレーザーを照射する時間が長
くなり、敵に反撃する時間を与えてしまいます。
この性能を満たすために考えられたのが、ミサイルが目を持ち、
目標の映像を地上装置で捉えてミサイルを誘導することです。MP
MSは、最初に榴弾砲の射撃のように目標方向に無誘導でミサイル
を発射しますが、ミサイルは目標手前で目を開き目標を捉えます
(通常、この時点では多数の目標を捉えます)。ミサイルが捉え
た多数の目標の赤外線画像は光ファイバーを経由して地上装置に
送られ、操作手が1つの目標を指定するとミサイルは指定された
目標に向かい誘導されます。
ミサイルが捉えた赤外線画像データをリアルタイムで地上装置
に送り、さらに地上装置からの指令をリアルタイムでミサイルに
送るのは、通常の有線の通信容量では限界があります。また、有
線はミサイルか発射装置に収納するため細いことが必須条件です
から、伝送データ容量は限定されます。無線誘導にして電波を使
うと山陰からは射撃できません(最新のデジタル伝送技術を使え
ば細い有線で可能となるかもしれません)。
そこで、選ばれたのが光ファイバーです。現在では、データ伝
送の主役を担っている光ファイバーですが、MPMS開発時の1990年
代には、やっと実用化し始めた頃です。これを誘導弾に使うとい
う発想は各国にもあり、光ファイバーを使った誘導弾の開発も行
なわれていました。しかし、実現したのは日本のみです。日本で
も開発に非常に苦労した経緯があります。さて、何が、開発の障
害だったのでしょうか。
ミサイルは光ファイバーを引きながら飛翔しますが、光ファイ
バーの収納(糸巻きのように巻かれている)場所からうまく引き
出されないと切れてしまいます。重MATまで使われていた銅線と違
い光ファイバーはガラスや樹脂などの強度の弱い材質が使われて
おり、切れないよう抵抗なく引き出される技術が必要です。
ちょっと意外な障害ですが、各国とも光ファイバーがスムーズに
引き出される機構が作れずに開発を断念しました。これを達成し
たのは日本の高い技術、匠の技のみでした。このように、現在で
も他国が追いつけない匠の技を日本はたくさん保有しています。
何か形あるものには、デジタル化、AI、ロボットなどの最先端
技術のほかに、必ず機械的な機構やアナログ技術が必要です。最
先端技術を追いかけるだけでなく、日本が持つ匠の技を再認識す
ることが、技術立国日本の世界的地位を取り戻す重要な鍵となる
のではないでしょうか。
(次回に続く)
(いちかわ・ふみかず)
【著者紹介】
市川文一(いちかわ・ふみかず)
1961年生まれ。長野県出身。防衛大学校27期生。1983年、陸上自
衛隊に入隊。
2002年に1等陸佐に昇任後、第13後方支援隊長、統合幕僚監部
人事室長、装備施設本部武器課長、陸上幕僚監部武器・化学課
長、東北方面後方支援隊長、愛知地方協力本部長として勤務、
2015年陸将補に昇任後、陸上自衛隊武器学校長の勤務を最後に
2017年8月に退官。
退官後の9月にはYouTube「桜林美佐の国防ニュース最前線」に
出演。
https://youtu.be/6hPY3vgpidw
2017/10/21「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/jESYh1lIeSE
2018/2/10「桜林美佐の国防ニュース最前線」に出演
https://youtu.be/D_md0ZSJNds
著書に『猫でもわかる防衛論』(大陽出版)がある。
https://amzn.to/2qBGuNJ
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