〇〇〇〇さん
こんばんは、坂佐井です。




西欧の神話・歴史・宗教まとめ読み～第11話　最後の晩餐


　
ゲッセマネの園に入る少し前、イエスは十二人の弟子たちと一緒に食事をとった。



モーセの故事をしのぶ過越しの祭りの前日のことである。
　


食事中の最中にイエスは手を止めて、



「あなたたちの一人が私を裏切ろうとしている」

　

と告げた。



「まさか」



「私じゃありません」



「だれですか」

　

弟子たちは驚いて口々に叫んだ。



イエスは言葉を続けて、



「私と一緒に食べ物を鉢に浸した者が私を裏切る。私はどの道去って行くが、私を裏切った者には不幸が残る。生まれて来なかったほうがよかったものを」

　

と呟いた。

　

イエスのすぐ近くにすわっていたユダが体を傾けて、

　

「それはだれです？」

　

と尋ねた。



イエスはパンを鉢に浸してユダに与え、



「あなたがしようとしていることをしなさい今すぐに」

　

と小声で言った。

　

ユダはあたふたと席を立つ。

　

ほかの弟子たちは、買い物でもいくのかなと、深くは考えなかったらしい。
　


ユダは一同の会計係であり、こうした用向きをイエスのためにときどき果たしていたからである。

　

それに、イエスの言葉はこれまでもわかりにくいことが多かった。



「裏切り者がいる」という発言は、それ自体ただごとではないものを含んでいるけれど、イエスは平然としている。

　

またたとえ話かもしれないと、弟子たちはそう考えたのではあるまいか。

　

ユダが去っていったあとで、イエスはパンを取って祈り、それを切り裂いて弟子たちに与えた。



「食べなさい。これは私の体である」

　

ついで葡萄酒を満たした盃を取って祈り、



「みんな、この盃から飲みなさい。これは私の血である」

　

そして、それが神との新しい契約であることを弟子たちに告げた。



パンと葡萄酒による契約の儀式は、この故事を受け継いで今でも教会でおこなわれている

　

最後の晩餐を終えたあと、ペテロはまだ心の中で、わだかまりが渦巻いていた。



「会食の最中にここにいる一人が私を裏切ろうとしている。と、言っていたけれど、あれはユダなのだろうか…まさか…。だが、とにかく、私は絶対に裏切らないぞ」
　


その思いをイエスに伝えておきたかった。



「ほかの人はともかく、私は絶対に大丈夫です」

　

と、ペテロは決然とイエスに告げた。イエスは振り向き、ゆっくりと首を振った。



「いや。はっきりと言っておこう。あなたは今夜、鶏が鳴く前に三たび私のことを知らないと言うだろう」



「とんでもない。そんなこと絶対にありません。ご一緒に死ぬことになっても、あなたを知らないなんて…私が言うはずがないでしょう」



「そうかな」

　

イエスがそう予告したことは、なにもかもイエスには見えていたのだろうか。



イタリア旅行のとき、最後の観光地であるミラノで、この旅行のハイライトともいうべき、サンタ・マリア・デレ・グラツィエ教会、下を噛みそうな名前だが、ここにレオナルド・ダ・ビンチの名作「最後の晩餐」があり、見に行った。

　

鑑賞するには事前に予約する必要があり、約三十人ずつの組に別れて、十五分の鑑賞が許されるのである。



中は、厳重に警備され、温度、湿度を管理されたなかに、その名画はあった。



絵は説明するまでもないだろう。長いテーブルが横に延び、中央に赤い衣装と青いトーガをまとったイエス・キリストが両手を広げて座っている。



両側に6人ずつ、合計12人の弟子たちが驚き、ざわめいている。



会食の真っ最中にイエスが、

　

「ここにいる一人が私を裏切ろうとしている」

　

と言った、その瞬間の光景を描いたものだと現地のガイドが解説してくれた。
　


ヨハネの耳元でペテロが「誰だろう」とささやている。



その近くで銀貨の入った袋を握り締めたユダが描かれていた。

　

「最後の晩餐」の名画は素晴らしいものでした！！・・・つづく

　
　
さて、次回の西欧の神話・歴史・宗教まとめ読みは、イエス・キリスト編の第12話、「ゲッセマネの祈り」をお送りする。
明日十字架に架かる。その恐怖に打ち勝つために神に祈りを捧げるイエスの苦悶。お楽しみに～





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