配信日時 2026/09/30 18:55

協働学習は、批判的思考力を高めるのか? ―大学生1,455名を追跡した研究ー【カレッジサプリ】

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令和8年9月30日(第4600号)


協働学習は、批判的思考力を高めるのか?
 ―大学生1,455名を追跡した研究ー


株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 3956 字/読了時間5分)

■こんにちは。紀藤です。

「協働学習(Collaborative Learning)」という言葉があります。

学生同士が教え合ったり、授業外でスタディグループに参加したり、
一緒に課題やプロジェクトに取り組んだりする。
つまり、学生同士が「共に学ぶ」学習方法です。

まさに、私が関わらせていただいている大学や高校の
プロジェクト型授業なども、その一つといえるでしょう。

私自身、大学院時代にも、チームで課題について考え、
互いの意見をぶつけながら学ぶ経験をしてきました。

こうした協働学習は、高等教育において有効な指導方法であることが、
これまでさまざまな研究で示されています。

では、「協働学習をすると、学生の重要な成果とされる
『批判的思考力』が高まるのか?」

今回ご紹介する研究は、この問いについて、
全米19大学、1,455名の大学1年生を追跡して検証したものです。

結論からいうと、「協働学習をすれば、
誰でも批判的思考力が高まる」というわけではなかった、
というお話でした。

では、詳しく見てまいりましょう。それでは、どうぞ!


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<本日の論文>
タイトル:Collaborative Learning and Critical Thinking: Testing the Link(協働学習と批判的思考:その関連性の検証)
著者:Chad N. Loes、Ernest T. Pascarella
所属:Chad N. Loes:Mount Mercy University(Department of History, Politics, and Justice)
Ernest T. Pascarella:The University of Iowa(Department of Educational Policy and Leadership Studies)
掲載誌:The Journal of Higher Education, Volume 88, Issue 5, pp. 726–732、2017年
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■30秒でわかる本論文のポイント

・大学1年生1,455名を、入学直後から1年次終了まで追跡した

・協働学習への参加と「批判的思考力」の伸びとの関係を調べた

・学生全体では、協働学習による有意な効果は見られなかった

・一方、「入学前の学力が低い学生」では、
 協働学習と批判的思考力の伸びに正の関係があった

・特に「入学前の学力が低い白人学生」で、
 その関係が最も大きかった

つまり、「協働学習は誰にでも同じように効果があるわけではない」
という可能性が示されました。


■研究の背景と目的

まず、本論文のテーマ『批判的思考力』とは、簡単にいえば、
「目の前の情報をそのまま受け取るのではなく、
根拠を吟味し、分析し、妥当性を判断する力」のことです。

大学教育において、重要な学習成果の一つとされています。

一方、協働学習については、学業成績やSTEM分野での学習継続、
多様性への理解など、さまざまなメリットが報告されてきました。

ただし、「協働学習が批判的思考力そのものを高めるのか」
については、十分な研究がありませんでした。

そこで本研究では、「大学1年次に協働学習へ参加することは、
批判的思考力の伸びにつながるのか?」、
そして「その効果は、学生の学力や人種・民族的背景によって違うのか?」
を検証しました。


■研究の方法

研究の対象は、全米19の大学に所属する
フルタイムの新入生1,455名です。

2006年秋の入学直後と、2007年春の1年次終了時の
2回にわたってデータを収集しました。

批判的思考力の測定には、CAAPという標準化テストの
批判的思考モジュールを使用しています。

そして、「協働学習」については、
次の4つの活動への参加度を測定しました。

ーーー
<「協働学習」の測り方>

・授業内で学生同士が教え合った
・教員から授業外の学習グループへの参加を促された
・授業外の学習グループに参加した
・授業外で他の学生と課題やプロジェクトに取り組んだ
ーーー

さらに、入学時点での批判的思考力、ACT/SATなどの学力、
性別、人種、親の教育水準、学習意欲、大学の種類、
寮生活、課外活動など、さまざまな要因を統計的にコントロールしています。

その上で、「協働学習そのものがどの程度、
批判的思考力の伸びと関係するのか」を分析しました。


■「協働学習」と「協同学習」は何が違うのか?

ここで、個人的にも興味深かったポイントがあります。

それが、「協働学習(Collaborative Learning)」と
「協同学習(Cooperative Learning)」は、
似ているようで少し違う、という点です。

ーーーーー
●「協同学習(Cooperative Learning)」

こちらは特に初等・中等教育で用いられることが多く、
教師が学習活動を比較的明確に設計します。

たとえば、メンバー同士が相互依存する仕組みを作る、
一人ひとりに責任を持たせる、対面で助け合う、
コミュニケーションなどの社会的スキルを使う、
活動後にグループで振り返る、といったように、
かなり「構造化された学習」です。

●「協働学習(Collaborative Learning)」

学生同士が自律的に関わりながら、一緒に知識を作り、
共通の学習目標を達成していく。

つまり、教師が細かく枠を決めるというよりも、
「学習者同士の自主性に任せながら、共に学んでいく」
というイメージに近いようです。

個人的な感想ですが、、高校生と大学生の両方で
プロジェクト型の授業に関わっている身としても、
興味深く感じました。
ーーーーー

あくまで高校生は自由度が高いというか、
良い意味でも悪い意味でもやんちゃで、
ある程度しっかりしたフレームを用意しないと、
活動そのものが成立しづらいと感じることもあります。

一方、大学生になると、自分自身を客観視する力や、
相手の立場を推察する力が少しずつ高まってくるからなのか、
一定の自由度を持って「任せる」ことが、
むしろ学びにつながるな、と。

あくまで個人的な実感ではありますが、
この違いが初等・中等教育の「協同学習」か、
高等教育の「協働学習」かで定義がわけられているのが
面白いな、と思いました。



■主な結果(わかったこと)

◯わかったこと1:学生全体では、協働学習の効果は確認されなかった

まず興味深いのは、学生全体を平均すると、
協働学習への参加と批判的思考力の伸びとの間に、
統計的に有意な関係は確認されなかったことです。

つまり、「グループワークを増やせば、
それだけで批判的思考力が高まる」とはいえない、
ということです。


◯わかったこと2:入学時の学力が低い学生では効果が見られた

一方、入学前のACTスコアが低かった学生では、
協働学習への参加が多いほど、
批判的思考力の伸びも大きくなっていました。

協働学習が1標準偏差高まると、
批判的思考力は約3.6%高まっていました。

対して、入学前学力の高い学生では、
有意な関係は確認されませんでした。


◯わかったこと3:白人学生では正の関係が見られた

人種による違いもありました。

白人学生では、協働学習への参加と批判的思考力との間に
有意な正の関係が見られました。

一方、人種・民族的マイノリティ学生では、
有意な関係は確認されませんでした。


◯わかったこと4:「学力が低い白人学生」で効果が最も大きかった

さらに、「協働学習 × 人種 × 入学前学力」という
3つの要素を組み合わせて分析すると、
「入学前の学力が低い白人学生」において、
協働学習の効果が最も大きくなっていました。

協働学習への参加が1標準偏差高まると、
批判的思考力は約6.4%高まっていたとのことです。


■考察

ではなぜ、このような結果になったのかですが、
著者らが注目しているのが、
「社会的認知葛藤」という考え方でした。

人は他者と話すことで、
「自分とは全然違う考え方をしている」
「自分が当たり前だと思っていたことは、そうでもないのかもしれない」
と気づくことがあります。

特に、「学習準備ができていない学生
(入学時点で知識や思考の枠組みがまだ十分に形成されていない学生)」
ほど、他者の異なる視点に触れることによって
得られるものが大きいのかもしれません。

ちなみに、人種による差については慎重に見る必要があります。

この研究ではマイノリティ学生が292名と比較的少なく、
黒人、ヒスパニック、アジア系などに細分化した分析までは
できていません。

したがって、「白人だから協働学習が有効である」と
単純に結論づけられるものではありません。


■限界

本研究の限界ですが、19校という比較的大規模な研究ではあるものの、
リベラルアーツカレッジが多く含まれており、
すべての大学にそのまま一般化できるわけではありません。

また測定しているのは、
「どの程度、協働学習に参加したか」という頻度ですので、
「協働学習の質」までは測定できていません。


■まとめと感想

今回の論文を読んで、印象に残ったことが大きく2つあります。

1つ目が、「協働学習」と「協同学習」の違いです。

こうした、ふわっと使われがちな言葉ほど、
実は何を指しているのかを丁寧に見ていく必要があるな、
と思いました。

なんとなく、言葉の雰囲気で、その言葉を知った気になってしまうこと、
ありそうだな…、気をつけないといけないな、
と感じさせられます。

2つ目が、「協働学習を行えば、
誰でも批判的思考力が伸びるわけではない」という結果です。

自分とは違う考えを持っている人と一緒に学ぶと、
「そんな見方があったのか」
「自分は、そこまで考えていなかったな」
とハッとさせられることがあります。

でも、それは「学習準備が十分でない人」ほどそうであるのでは、
というのは、納得でした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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【編集後記】
◯今月のランニング:296km

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