---------------------------------------------------------------------------
皆さまの1日を5%元気にするビジネス系メルマガ『カレッジサプリ』
---------------------------------------------------------------------------
令和8年9月29日(第4599号)
手書きはPCより、本当に優れているのか? ←実はそうでもなかった
株式会社カレッジ 紀藤康行
---------------------------------------------------------------------------
※このメールは、メールマガジンにご登録頂いた方、名刺交換をさせていただいた方、研修にご参加頂いた方に配信をしております。
ご不要の場合は大変お手数ですが、メール下部の「配信停止はこちら」より解除くださいますようお願い申し上げます。
(本日のお話 4195 字/読了時間5分)
■こんにちは。紀藤です。
先日、「手書き VS キーボードはどちらが優れている?
―学習効果の比較実験からの発見(2014)―」
という論文の要約記事をご紹介しました。
↓↓
https://note.com/courage_sapuri/n/n19afa0f92a1a?app_launch=false
さて、今日はその研究の「続き」です。
科学というものは、あくまで「その時点での発見」です。
その後、同じような研究を行った結果、
当初の結論が支持されなかったり、
修正されたりすることも、ままあります。
先日ご紹介した論文では、
「手書きのほうが学習効果が高い」という大雑把な結論となり、
当時、大きな話題になりました。
では、本当にそうなのでしょうか?
この問いに対して、ケント州立大学の研究者らが、
2014年の研究と同じ方法を使って「直接追試」を行いました。
それが、2019年に発表された今回の研究です。
結論からいうと、
「手書きとPCで、学習成果に一貫した差は確認できなかった」
という結果だった(!)のです。
ということで、早速その中身を見てまいりましょう!
それでは、どうぞ。
====================================
<本日の論文>
タイトル:How Much Mightier Is the Pen than the Keyboard for Note-Taking? A Replication and Extension of Mueller and Oppenheimer (2014)
邦題:ノート取りにおいて手書きはキーボードよりどれほど優れているのか?:Mueller and Oppenheimer(2014)の追試と拡張
掲載誌:Educational Psychology Review, 31, 753–780
出版年:2019年
著者:Kayla Morehead, John Dunlosky, Katherine A. Rawson
所属:Kent State University(ケント州立大学)
====================================
■30秒でわかる本論文のポイント
・2014年の有名研究を直接追試したが、
「手書きのほうがPCより学習成果が高い」という結果は
一貫して再現されなかった
・PCでは手書きよりも多くの文字を書き、
講義内容をそのまま書き写す傾向は再現された。
しかし、その違いがテスト成績の差にはつながらなかった
・紙ではなく、スタイラスペンで書くeWriterでも、
手書きとほぼ同様の結果だった
・学習成果を予測したのは、「手書きかPCか」よりも、
テストに必要な重要情報がノートに含まれていたかどうかだった
つまり、「何で書くか」以上に、「何を書くか」が
大事なのかもしれないということです。
■研究の背景と目的
そもそも、2014年にMuellerとOppenheimerが発表した研究では、
PCでノートを取る学生よりも、紙に手書きする学生のほうが、
講義後の概念理解テストで良い成績を取ることが示されました。
理由として考えられたのが、「逐語的な書き写し」です。
タイピングは速く入力できるため、
講師が話した内容を、そのまま文字にしやすい。
一方、手書きは書くスピードに限界があります。
だからこそ、「これはどういう意味だろう」
「何が重要なのか」と考え、自分なりに情報を要約する必要がある。
この「自分の頭で情報を処理すること」が、
学習内容の符号化、つまり記憶の定着につながるのではないか、
と考えられたわけです。
ただし、科学において、
一度の研究結果だけで結論を出すことはできません。
そこで今回の研究では、2014年の実験をできる限り同じ条件で再現し、
その結果がもう一度確認できるのかを検証しました。
さらに、紙の手書き、ノートPC、eWriter、ノートを取らない、
といった条件を比較することで、
「そもそもノートを取ること自体に効果があるのか」
「後からノートを見返した場合はどうなのか」
についても調べています。
■研究の方法
研究は、2つの実験から構成されています。
実験1では大学生186名を対象に、
紙への手書き、ノートPC、eWriterの3条件に分けて、
TEDトークの動画を視聴しながらノートを取ってもらいました。
その後、記憶を尋ねる「事実問題」と、
内容を応用して考える「概念問題」に回答してもらいました。
また、2日後にもテストを実施しています。
実験2では、大学生215名を対象に、
紙への手書き、ノートPC、eWriter、ノートを取らない、
という4条件を設定。
さらに2日後のテストの前には、
自分のノートを7分間復習する時間も設けました。
つまり、「ノートを取ることそのものによる学習効果」と、
「あとからノートを見返すことによる学習効果」の
両方を検証したわけです。
■主な結果(わかったこと)
◯わかったこと1:手書きの優位性は、一貫して再現されなかった
まず、最大のポイントです。
実験1では、事実を尋ねる問題について、
手書き群のほうがPC群より成績が高い結果となりました。
しかし、2014年の研究で注目された「概念理解問題」では、
有意な差は確認されませんでした。
さらに実験2では、事実問題・概念問題のどちらについても、
手書きとPCの間に有意差はありませんでした。
概念問題に限っていえば、
むしろPC群のほうが数値上は高い結果になっています。
つまり、2014年の「手書きのほうが、概念的な理解に優れている」
という結果は、今回の追試では再現されなかったのです。
◯わかったこと2:PCでは「たくさん書く・そのまま書く」傾向は再現された
一方、2014年研究と同じ結果もありました。
PCを使った学生は、手書きやeWriterを使った学生よりも、
多くの文字を書いていました。
また、講義内容をそのまま書き写す「逐語的な重複」も
多くなっていました。
つまり、「タイピングすると、講義内容を機械的に書き写しやすい」、
という部分自体は再現されたわけです。
ただし、その違いが、実際のテスト成績には
一貫して結びついていませんでした。
「逐語的に書き写す=学習成果が下がる」
という単純な関係ではなかった、ということです。
◯わかったこと3:eWriterは、紙の手書きとほぼ同じだった
個人的に興味深かったのが、この結果です。
研究では、「eWriter」というスタイラスペン付きの
デジタル筆記端末も使用されています
(iPadなどのタブレットにペンで書くようなイメージ)。
このeWriter群は、文字数や講義内容の書き写し方、
そしてテスト成績についても、
紙の手書き群とほぼ同じ傾向を示しました。
つまり、「紙だからよい」というより、
「手を使って、自分のペースで書くこと」のほうが
重要なのかもしれません。
少なくとも、「デジタルデバイスだから学習効果が下がる」と
単純には言えなさそうです。
◯わかったこと4:「何で書くか」より「何を書くか」が重要だった
そして、今回の研究で最も示唆的だった結果がこちらです。
学生のテスト成績を強く予測していたのは、
文字数、逐語的な書き写しの量、
タイピング速度などではありませんでした。
もっとも重要だったのは、
「テストで問われる重要な情報が、ノートの中に含まれていたかどうか」
でした。
当たり前と言えば、当たり前なのですが、
考えさせられる結果です。
■考察
今回の結果を見ると、
「PCは講義内容をそのまま書き写してしまうからよくない。
手書きのほうが頭を使うので学習に優れている」
という2014年研究から広がった説明は、
少し慎重に考えたほうがよさそうです。
確かに、PCのほうが文字数が多く、
逐語的な記録も増えました。
しかし、そのことが学習成果を
明確に下げているわけではありませんでした。
また、eWriterでも紙とほぼ同じ結果になったことから考えると、
「紙そのもの」に特別な力がある、
と考えるのも早そうです。
むしろ、「重要な情報を見極める」
「あとから使える形で記録する」
「必要に応じて復習する」といった、
ノートの「使い方」に注目したほうがよいのかもしれません。
■この研究の限界
また、当然ですが、この研究にも限界があります。
まず、教材として使われたのはTEDトークでした。
大学の実際の授業では、先生が板書をしたり、
重要なポイントを繰り返したり、数式や図を書いたりします。
そうした場面では、手書きとタイピングで
違いが出てくる可能性もあります。
また、実験中はPCでSNSを見たり、
メールをチェックしたりすることは禁止されていました。
しかし、現実の授業では、
PCを開けばインターネットもSNSも使えてしまいます。
「ノートを取る方法」そのものではなく、
デジタル機器による注意散漫が学習に影響する可能性もあります。
したがって、この研究から、
「手書きとPCは完全に同じである」とまで言うことはできません。
■まとめと感想
ノートPCでの入力は、
講義内容を機械的に丸写しする傾向がある。
一方、手書きでは、
自分なりに情報を整理して書く必要があるため、
より深く内容を処理できる。
簡単にいえば、それが2014年の研究から得られた示唆でした。
ただし、今回の直接追試では、
そのメカニズムが実際のテスト成績の差につながる、
という結果は一貫して確認されませんでした。
「紙のノートのほうが優れている」と言われたら、
そんな気もする。
一方で、「PCでも、重要な内容をきちんと捉えてノートに残せれば、
学習成果につながる」と言われたら、それもそんな気がする。
少なくとも、自分自身が感じている「学習できた感覚」というものは、
意外と微妙で、曖昧なものなのだろうな……と思います。
昨日は「手書きが優れている」という研究を読み、
今日はその結果が再現されなかった研究を読む。
科学のおもしろさは、こういうところにもあるのかもしれません。
学習内容がTEDトークではなく、実際の大学の授業だったらどうなのか?
スタイラスペン+タブレットだったらどうか?
数式や図を書く授業だったらどうか?
復習方法が違ったらどうか?
……そんなふうに、使用するツールや学習内容、
学習者の特徴によって、結果が変わる可能性もあるのでしょう。
だからこそ、「手書きがよい」「PCがよい」と、
安易に二項対立で考えないこと。
そして、その結論が、どんな条件の研究から導かれたものなのかを
丁寧に見ていくこと。
正反対の結論になる、2つの研究を読んで、
そんなことを考えさせられた次第です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
※ 本日のメルマガは「note」にも、図表付きでより詳しく掲載しています。
https://note.com/courage_sapuri/n/n19afa0f92a1a?app_launch=false
==========================
【編集後記】
◯今月のランニング:296km
【メルマガのご感想について】
メルマガのご感想は、このメールに直接ご返信いただければ紀藤にのみ届きます。
皆さまのメッセージが励みになります!ぜひお気軽にメッセージくださいませ。
■□━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━□■
メルマガ「カレッジサプリ」公式サイト
https://www.courage-sapuri.jp/
★バックナンバーはこちらから読めます★
https://www.courage-sapuri.jp/backnumber/
■□━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━□■
このメールは、メールマガジンにご登録頂いた方、名刺交換をさせていただいた方、
研修にご参加頂いた方に配信をしております。
ご不要の場合はお手数ですが、メール下部の「配信停止はこちら」より解除くださいますようお願い申し上げます。
【メルマガ登録・解除について】
※メールアドレスの変更について
⇒「現在のメールアドレスの配信停止」→「新アドレスでの登録」にてご対応お願い申し上げます。
※メルマガのご登録はこちらから
⇒
https://1lejend.com/stepmail/kd.php?no=HSfoIRnMfw
※メルマガの配信停止はこちらから
⇒
https://1lejend.com/stepmail/delf.php?no=HSfoIRnMfw