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令和8年9月25日(第4595号)
「不快感は成長のサイン」と考えると、粘り強さや成長感が高まる
ーコーネル大学らの研究ー
株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 3525字/読了時間5分)
■こんにちは。紀藤です。
今日は「不快感を求めることで、個人の成長を動機づける」という、
なかなか興味深い研究を紹介します。
「何かを学ぶ」ということは、それまで知らなかった自分と出会うことだったり、
自分の無知さや至らなさと向き合うことだったりします。
ゆえに、学ぶことは必ずしも気持ちのいいことばかりではありません。
むしろ、痛みや不快感が訪れた先に、
新しい自分に出会うという行為のように思えます。
さて、そんな前置きの上、コーネル大学とシカゴ大学の研究者が、
大人2,163名を対象とした5つの実験を行いました。
そこで調べたのが、
「不快感を避けるのではなく、“成長のサイン”としてあえて求めると、
人はより学ぼうとするのか?」という問いです。
結論から言えば、不快感を求めるよう促された人たちは、
そうでない人たちと比べて、粘り強く取り組み、
よりリスクを取り、成長感を感じ、
再び挑戦しようとする傾向が高まりました。
まさしく「大人の学びは痛みを伴う」という言葉と重なる研究です。
ということで、早速中身を見てまいりましょう。それでは、どうぞ!
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<本日の論文>
・タイトル:Motivating Personal Growth by Seeking Discomfort
(不快感を求めることで個人の成長を動機付ける)
・掲載誌:Psychological Science, 2022年, Vol.33(4), pp.510–523
・著者:Kaitlin Woolley, Ayelet Fishbach
・所属:Cornell University SC Johnson College of Business/The University of Chicago Booth School of Business
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■30秒でわかる本論文のポイント
今回の研究のポイントをざっくりまとめると、以下のようになります。
・人は成長しようとするとき、しばしば「気まずさ」「不安」「苦しさ」などの不快感を経験する
・通常、不快感は「やめたほうがいい」という警告のように感じられる
・しかし「不快感は成長しているサインだ」と捉え直すと、粘り強さや挑戦行動が高まった
・この効果は、不快感を実際に伴う活動において特に見られた
・つまり、不快感の意味づけを変えるだけで、学びへの向き合い方が変わる可能性がある
■研究の背景と目的
何か新しいことに挑戦するとき、私たちはしばしば不快感を覚えます。
たとえば、人前で話す。英語でコミュニケーションを取る。
自分の過去のつらい経験を書く。
自分とは反対の考えを持つ人の意見を読む、などなど。
どれも学びや成長につながり得る行動ですが、
同時に「恥ずかしい」「気まずい」「怖い」「できれば避けたい」
という感覚も生まれます。
これまで、こうした不快感への対処法としては、
「不快感を減らす」「心理的な距離を取る」「別のご褒美を与える」
といった方法が多く考えられてきました。
しかし研究者たちは、少し違う発想をしました。それが、
不快感を消すのではなく、不快感そのものを
“目標達成に近づいている証拠”として捉えたらどうなるのか?
という問いです。
不快感は、成長そのものよりも早く感じられます。
英語が上達したかどうかは数か月経たないとわからないかもしれませんが、
「恥ずかしい」「難しい」という感覚は、その場ですぐわかります。
ならば、その『不快感は「進歩のフィードバック」』として使えるのではないか。
これが今回の研究のアイデアでした。
■研究の方法
研究では、大人2,163名を対象に、
全部で5つの実験が行われました。
内容もなかなか面白く、かなり多様です。
一つ目は、アメリカの有名な即興演劇スクール
「The Second City」での実験です。
受講生557名に対して、
「気まずさや不快感を感じることを目標にしてください」と伝えたグループと、
通常の指示を与えたグループを比較しました。
その他にも、つらかった人生経験について文章を書く、
COVID-19に関する重いニュースを読む、
自分とは反対の政治的立場の記事を読む、
銃暴力に関する記事を読む、といった実験が行われました。
いずれもポイントは同じです。
「不快感を避ける」のではなく、「不快感を探しにいく」と伝えることで、
行動がどう変わるのかを調べたのです。
■主な結果(わかったこと)
◯わかったこと1:不快感を求めると、「粘り強く挑戦」する
まず即興演劇の実験です。
「不快感を求めてください」と伝えられた人たちは、
通常の指示を受けた人と比べて、演技を続ける時間が長くなりました。
また、失敗を恐れず、より大胆な動きをする
「リスクテイキング」も増えました。
つまり、「気まずい=やめよう」ではなく、
「気まずい=今、挑戦している証拠だ」と捉えることで、
より一歩踏み込めるようになったわけです。
不快感の追求群のほうが、「平均保持秒数」が長い
◯わかったこと2:「成長感」と「またやりたい」が高まる
「困難な人生経験について文章を書く実験」でも、
同じような結果が見られました。
不快感を求めるよう促された人は、通常群よりも、
「自分は成長できた」という感覚を強く持ちました。
さらに興味深いのが、
「また同じような課題をやってみたい」という意欲も高まっていたことです。
つらい課題に耐えたから終わり、ではありません。
不快感そのものが、
「自分は意味のあることをやっている」という感覚につながっていた可能性があります。
◯わかったこと3:効果があるのは、「不快な場面」である
一方で、何でもかんでも不快感を求めればよい、
というわけではありませんでした。
COVID-19に関する重いニュースを読む場合には、
不快感を求めることで読む意欲が高まりました。
しかし、動物の写真など、
不快感をほとんど伴わない内容では効果が見られませんでした。
また政治的な記事でも、自分と反対の立場の記事を読むときには効果がありましたが、
自分と同じ立場の記事を読むときには効果は限定的でした。
つまり、「成長したいけれど、ちょっと避けたい」。
そんな場面にこそ、この考え方は機能するようです。
不快感な学習を伴う内容でも、「読書への動機」が高まる
◯わかったこと4:「不快感=成長」と自然に捉え直していた
さらに面白いのが最後の実験です。
参加者に「不快感は成長の証です」と細かく説明しなくても、
「不快感を求めてください」と伝えるだけで、
参加者は自然と「この不快感は、自分が学んでいる証拠なのかもしれない」
と解釈するようになっていました。
研究者たちは、この認知の捉え直しが、
行動の変化を生み出している可能性を示しています。
■考察
この研究のポイントは、
これまで目標追求を邪魔するものとして扱われがちだった「不快感」を、
まったく逆の意味に置き換えたところです。
普通は、不快だと感じると
「自分には向いていないのでは」「やめたほうがいいのでは」と思います。
しかし、「不快なのは、成長しているからかもしれない」と捉えれば、
同じ感覚でも意味が変わるわけです。
いわば、警告シグナルだったものが、進捗シグナルになる。
この発想の転換がポイントかと言えます。
■この研究の限界
もちろん、この研究には注意点もあります。
特に大切なのが、
「すべての不快感を成長のサインだと思えばいいわけではない」ということです。
たとえば運動中の鋭い痛みは、ケガのサインかもしれません。
あるいは精神的に強い苦痛を感じている場面で、
それを無理に「成長だ」と捉えて耐え続けることが適切とは限りません。
不快感には、「成長に伴う不快感」と、
「本当にやめるべき危険信号」の両方があります。
そこを区別する必要はありそうです。
また、今回の研究参加者はアメリカ在住者であるため、
文化が異なる地域でも同じような結果になるかは、
今後の検証が必要です。
■まとめと感想
改めて、この論文は非常に感覚的にもしっくりくる内容でした。
一般的に、不快感は
「これは目標達成を邪魔しているものだ」と思ってしまいがちです。
また、これまで目標追求の方法というと、
「達成したら、こんな素晴らしいことが待っている!」と、
未来のポジティブな面を強調する方法が多かったようにも思います。
「促進要因を増やし、阻害要因を減らす」と考えたときに、
明るい未来を描いて促進力を増やそう、
これも間違ってはいません。
ただ、阻害要因と考えられる不快感を、
まさに逆転の発想で、「実は促進要因なんだよ」と捉えなおすことは、
まさに2倍の効果がある(阻害要因を促進要因に変えるので)
「不快感こそが、成長のシグナルである」。
立教大学の大学院でも、
「大人の学びは、痛みを伴う」と標語として語られていたことが思い出されます。
たかだか言葉。されど言葉。
短い言葉が、何かに挑戦している人の背中を、
あと一歩押してくれることもあるのだろうな、
そんなことを思った次第。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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【編集後記】
◯今月のランニング:267km
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