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令和8年9月22日(第4592号)
「キャリアへの自信」は、どこから生まれるのか?
―大学生1,512名を追跡した研究ー
株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 3231字/読了時間4分)
■こんにちは。紀藤です。
さて、先日は、小学生の学習における
「自己効力感」についてご紹介しました。
復習になりますが、自己効力感とは、
簡単にいえば「自分ならできそうだ」と思える感覚のことです。
心理学者のアルバート・バンデューラは、
自己効力感を形づくる主な情報源として、
次の4つを挙げています。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<自己効力感を形作る4つの情報源>
・達成経験:自分でやってみて、できた経験
・代理経験:他者ができる姿を見ること
・言語的説得:周囲から「あなたならできる」と言われること
・感情的・生理的状態:不安や緊張、気分、体調などの状態
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして、この中でも最も重要だとされているのが、
「自分でやってみて、できた」という「達成経験」です。
では、これは小学生の学習に限った話なのでしょうか。
今回ご紹介するのは、中国の大学生1,500名以上を対象に、
「キャリア決定自己効力感」がどのような経験によって
支えられているのかを、約8ヶ月にわたって調べた研究です。
先日ご紹介した小学生の研究ともつながる、
興味深い結果が見えてきました。
ということで、早速中身を見てまいりましょう。
それでは、どうぞ!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<本日の論文>
タイトル:Sources of self-efficacy in career contexts: a longitudinal perspective(キャリア場面における自己効力感の源泉:縦断的観点から)
掲載誌:Current Psychology, Volume 44, Pages 7393–7403
出版年:2025年
著者:Biru Chang, Xiao Zhong, Zhijing He
所属:南京師範大学、山西医科大学
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
■30秒でわかる本論文のポイント
・中国の大学生1,512名を対象に、
キャリアに関する学習経験と自己効力感の関係を、
約8ヶ月にわたって調べた
・最も強く、一貫して自己効力感と関連していたのは、
「自分でやってみて、できた」という個人達成体験だった
・周囲からの肯定的な言葉や、
キャリアを考える際の前向きな感情も、
時間を超えて自己効力感と関連していた
・一方、他者の姿から学ぶ代理学習には、
有意な関連が見られなかった
一言でいえば、キャリアへの自信を支えるうえでも、
「自分でできた経験」が最も重要であり、
周囲からの励ましや前向きな感情も、
その自信と継続的に関わっていたという研究です。
■研究の背景と目的
この研究で扱われているのが、
「キャリア決定自己効力感」です。
これは簡単にいえば、
ーーー
キャリア決定自己効力感:
「自分は、必要な情報を集め、選択肢を検討し、
自分なりのキャリアを決めていける」
ーーー
と思える感覚のことです。
キャリア決定自己効力感は、
キャリアについて積極的に探索することや、
意思決定の質、目標設定、ウェルビーイングなどと
関わる重要な要因とされています。
一方、こうした感覚は、
何もないところから突然生まれるわけではありません。
その土台には、これまでに経験してきたこと、
周囲から受け取った言葉、
キャリアについて考えたときの感情などがあります。
これまでの研究は、一時点における相関を調べたものが中心でした。
そのため、それぞれの経験とキャリア決定自己効力感の関係が、
時間を超えて続くのかは十分に明らかになっていませんでした。
そこで本研究では、4ヶ月おきに3回の調査を行い、
主に次の2点を検討しました。
ーーー
1.キャリア学習経験を測る尺度は、
時間が経っても同じ物差しとして使えるのか
2.どのような経験が、
キャリア決定自己効力感と強く、継続的に関連するのか
ーーー
■研究の方法
研究では、中国にある同程度の規模の2つの大学で、
1学年にわたる縦断調査を実施しました。
調査は4ヶ月間隔で3回行われています。
・T1(初回):1,737名
・T2(4ヶ月後):1,605名
・T3(8ヶ月後):1,512名
最終的な分析対象は1,512名で、
平均年齢は19.95歳、女性が75.5%を占めていました。
調査では、「キャリア決定自己効力感」と、
その土台となる次の5つの「キャリア学習経験」を測定しました。
ーーー
<キャリア学習経験>
・個人達成体験:自分自身で何かを成し遂げた経験
・言語的説得:周囲から受け取った励ましや肯定的な言葉
・代理学習:友人や他者の姿から学ぶ経験
・肯定的情緒:キャリアを考えるときに生じる前向きな感情
・否定的情緒:キャリアを考えるときに生じる不安や緊張
ーーー
また、「初回と4ヶ月後、8ヶ月後で、
同じ概念を同じように測れているか」を確認する、
縦断的測定不変性も検証されました。
■主な結果(わかったこと)
◯わかったこと1:「個人達成体験」が、最も強く関連していた
キャリア決定自己効力感と最も強く、
一貫して関連していたのが「個人達成体験」でした。
その関連の強さを示す数値は、
初回がβ=0.26、4ヶ月後がβ=0.23、
8ヶ月後がβ=0.24でした。
時間が経っても、その大きさはほとんど変わっていませんでした。
つまり、「自分で何かを選んだ」「実際に行動してみた」
「難しいことを乗り越えた」「小さくても前に進めた」
といった達成経験が、
「自分ならキャリアを考え、決めていけそうだ」という感覚と、
持続的に結びついていたということです。
◯わかったこと2:「周囲からの肯定的な言葉」も、継続的に関連していた
「言語的説得」も、初回から8ヶ月後まで、
一貫してキャリア決定自己効力感と正の関連を示しました。
「あなたなら、できると思う」
「こんなところが、仕事で活かせそうだね」
「その選択は、あなたらしいと思う」
こうした重要な他者からの肯定的な言葉も、
キャリアに向き合う自信を支えている可能性があります。
達成経験ほど強い関連ではありませんでしたが、
その関係が8ヶ月後まで続いていたことは、興味深い点です。
(研究者らは、この結果には、
人間関係や他者のニーズを重視する中国の集団主義的な文化背景が
影響している可能性も指摘しています)
◯わかったこと3:「前向きな感情」も、自己効力感と関連していた
キャリアについて考えたときに生じる「肯定的情緒」も、
3つの時点すべてで、
キャリア決定自己効力感と正の関連を示しました。
将来について考えたときに、
希望や楽しさ、前向きな気持ちを持てること。
それ自体も、
「自分ならキャリアを選んでいけそうだ」という感覚と
結びついていたようです。
◯わかったこと4:「代理学習」と「否定的情緒」の関連は限定的だった
一方、友人や同年代の人の姿から学ぶ「代理学習」は、
いずれの時点でも有意な関連を示しませんでした。
他者の成功は、
「自分にもできそうだ」と励みになることがあります。
一方で、「それに比べて、自分は何も決まっていない」と、
焦りやプレッシャーを生むこともあります。
誰をモデルとして見るのか。
その相手との距離はどの程度なのか。
相手の成功を自分に重ねられるのか。
こうした条件によって、
代理学習の働きは変わるのかもしれません。
https://assets.st-note.com/img/1789027058-7Jp8rPO1BmSnUcLEHtWd3Cj0.png?width=2000&height=2000&fit=bounds&quality=85
PME(個人的達成経験)が最も強く、一貫して
CDSE(キャリア決定自己効力感)に影響していた
■まとめと感想
改めてこの論文を見てみると、
先日ご紹介した小学生の学習における自己効力感の研究と、
よく似た結果が示されています。
小学生であっても、大学生であっても、
最も重要なのは、やはり
「自分でやってみて、できた」という経験でした。
12歳から20歳へと年齢が上がり、
テーマが学習からキャリアへと変わっても、
達成経験の重要性は変わらないのでしょう。
ただ、20歳になれば、たぶん、
それなりに経験が小学生の時より増えています。
一方で、これまでに自分が乗り越えてきたことや、
工夫して前に進んだことは、意外と気付いていないもの。
だからこそ、考察にも書かれていた
「過去の成功経験を振り返ること」という実践的示唆に
意味があるのだと思います。
経験しただけでは、
それを達成経験として認識できていないこともあります。
自分の歩みを振り返り、
「確かに自分は、これをやってきた」と意味づけること。
これは、経験学習をポジティブな観点から振り返る、
「ポジティブ・リフレクション」という考え方にもつながります。
できなかったことから学ぶだけではなく、
「何ができたのか」「何が前進につながったのか」にも目を向ける。
そうして過去の経験を、
自分の未来を支える材料へと変えていくことが、
キャリアへの自信につながる一助になるのかもしれません。
本論文の考察から、そんなことを感じた次第です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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【編集後記】
◯今月のランニング:247km
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