配信日時 2026/09/21 13:56

「自分はできる」は、どこから生まれるのか? ―小学生を1年間追跡した自己効力感研究【カレッジサプリ】

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令和8年9月21日(第4591号)


「自分はできる」は、どこから生まれるのか?
 ―小学生を1年間追跡した自己効力感研究


株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 3591字/読了時間4分)

■こんにちは。紀藤です。

引き続き、家族で旅行に来ております。
先日はツェルマットという、スイスの観光地(マッターホルンが有名です)に
電車で移動をする1日でした。

チーズフォンデュが有名だそうで、お店で食べたのですが
チーズの量が半端なく多くて、乳脂肪な1日でした。

また早朝から12kmの朝ランと坂道ダッシュ。

*

さて、本日のお話です。

「自己効力感」という、心理学では非常に有名な概念があります。

これは心理学者のアルバート・バンデューラが提唱したもので、
簡単にいえば、「自分ならできそうだ」と思える感覚のことです。

自己効力感を形づくる情報源として、次の4つが知られています。

-----
・達成経験:自分自身でやってみて、できた経験
・代理経験:他の人ができる姿を見ること
・言語的説得:周囲から「あなたならできる」と励まされること
・感情的・生理的状態:不安や緊張、気分、体調などの状態
----


この自己効力感は、運動でも、勉強でも、
仕事やキャリアでも、私たちのさまざまな行動に
影響を与えることが知られています。

考えてみれば、感覚としてもわかるような気がしますよね。

さて、今回ご紹介するのは、
オーストラリアの小学6年生を1年間追跡し、
「4つの情報源が自己効力感と学業成績にどのようにつながるのか」
を調べた研究です。

結論を先にお伝えすると、
時間が経っても一貫して自己効力感を予測していたのは、
「自分でやってできた」という達成経験だった、という話です。

では、早速その中身を見てまいりましょう。

それでは、どうぞ!

---
<本日の論文>
タイトル:Sources of self-efficacy in academic contexts: A longitudinal perspective(学業的文脈における自己効力感の源泉――縦断的視点)
掲載誌:School Psychology Quarterly, 31(4), 548–564
出版年:2016年
著者:Huy P. Phan、Bing H. Ngu
所属:University of New England, Australia
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■30秒でわかる本論文のポイント

・オーストラリアの小学6年生328名を対象に、
 1年間で3回の調査を行い、
 自己効力感の4つの情報源と学業成績の関係を調べた

・4つの情報源のうち、
 1年間を通じて一貫して、その時点の自己効力感を予測していたのは
 「達成経験」だけだった

・自己効力感は、3つの時点すべてにおいて、
 その時点の学業成績を有意に予測していた

端的にいえば、誰かに励まされたり、
他の人が成功する姿を見たりすることも大切です。

ただ、自己効力感を持続的に育てるうえでは、
最終的に「自分自身でできた」という経験が重要であることを
示した研究といえます。



■研究の背景と目的

バンデューラの社会的認知理論では、
自己効力感は、人が目標を立てて行動し、
困難に直面しても努力を続けるうえで、
中心的な役割を果たすと考えられています。

そして、自己効力感を形成するものとして、
達成経験、代理経験、言語的説得、感情的・生理的状態
という4つの情報源が示されてきました。

しかし、これまでの研究には、いくつかの限界がありました。

第一に、多くが中学生以上や大学生を対象としており、
小学生を対象にした研究が少なかったことです。

小学生は、認知的な成熟度やこれまでの学習経験が、
大人や年長の学習者ほど十分ではありません。

そのため、自分自身の達成経験だけでなく、
周囲の大人からの励ましや、仲間が取り組む姿に、
より大きな影響を受ける可能性もあります。


第二に、従来の研究の多くが、
ある一時点だけを切り取った横断研究だったことです。

ある時点で「達成経験が多い子ほど自己効力感も高い」
とわかっても、その経験が時間を越えて、
その後の自己効力感につながるかどうかまではわかりません。

そこで本研究では、小学生を1年間にわたって追跡し、
次の点を明らかにしようとしました。

ーーーー
<研究の目的>

・自己効力感の4つの情報源を、
 小学生でも区別して測定できるのか

・4つの情報源のうち、
 どれが自己効力感を持続的に予測するのか

・自己効力感は、その後の学業成績とどのようにつながるのか
ーーーーー



■研究の方法

調査対象となったのは、
オーストラリア・シドニーにある公立小学校4校の
小学6年生328名でした。

男子187名、女子141名で、年齢はおおむね11~12歳です。

調査は、1学年度の中で3回行われました。

・T1:2月第1週
・T2:7月第2週
・T3:12月第1週

対象とした教科は「数学」です。

各時点で、自己効力感の4つの情報源を測る20項目の質問紙、
数学課題に対する自信を測る5項目の質問紙、
そして数学テストを実施しました。

学業成績については、
30項目の数学テストと学年末の総合評価が用いられました。

分析には、構造方程式モデリングという統計手法が使われています。

この研究の重要な点は、
単に「達成経験が多い子ほど、自信も高かった」という
同時点の相関を見ただけではないことです。

前の時点で本人が持っていた自己効力感や、
それぞれの情報源の状態を統計的に調整したうえで、
どの情報源が、その後の自己効力感を追加的に予測するのか
を検討しました。



■主な結果(わかったこと)

◯わかったこと1:4つの情報源は、それぞれ異なるものとして確認された

まず分析の結果、
「達成経験、代理経験、言語的説得、感情的・生理的状態」
という4つの情報源は、小学生においても、
それぞれ異なる要素としておおむね区別できることが確認されました。

つまり、小学生であっても、
「自分でできた経験」「人ができる姿を見る経験」
「周囲からの励まし」「自分の感情や身体の状態」は、
別の情報として捉えられていたということです。



◯わかったこと2:一貫して自己効力感を予測したのは「達成経験」だった

単一時点ごとに見ると、
T1では達成経験と代理経験が、
T2とT3では達成経験と感情的・生理的状態が、
自己効力感と有意な関連を示していました。

しかし、前の時点の状態を考慮した1年間の縦断モデルでは、
結果がより明確になりました。

3つの時点すべてで、一貫して自己効力感を有意に予測していたのは、
達成経験だけだったのです。

時間を通じて安定的に自己効力感と結びついていたのは、
「自分で取り組み、できたと感じる経験」だったといえます。


◯わかったこと3:自己効力感は、学業成績を一貫して予測していた

また、自己効力感は3つの時点すべてで、
学業成績を有意に予測していました。

標準化係数は、T1がβ=.46、T2がβ=.20、T3がβ=.45でした。

つまり、「自分は数学の課題に取り組める」と感じていることは、
実際の数学テストや学業評価とも、
一貫して関係していたということです。

ただし、本研究は実験ではなく縦断的な観察研究です。

そのため、「達成経験が自己効力感を高め、それが成績を上げた」
という因果関係まで確定したわけではありません。

それでも、時間の順序と過去の状態を考慮したうえで、
達成経験、自己効力感、学業成績の間に
一貫した予測関係が示されたことは、重要な結果だと思います。


■考察 ー研究から考えられることー

では、代理経験や言語的説得、
感情的・生理的状態への働きかけには、
意味がないのでしょうか。

もちろん、そうではありません。

「学習の初期」には、
先生や仲間が「どのように考え、どのように解くのか」を見せることが、
挑戦のきっかけになります。

また、「前よりここができるようになったね」
「この方法を使ったから解けたね」と、
努力や戦略に焦点を当てたフィードバックをすることも役立つでしょう。

不安や緊張を和らげ、
安心して取り組める状態をつくることも大切です。

ただ、これらは「達成経験」そのものに代わるというより、
本人が「自分でできた」という経験にたどり着くための支え
と考えたほうがよさそうです。

どれほど周囲が「あなたならできる」と伝えても、
本人の中に「でも、実際にはできていない」という感覚が
積み重なっていれば、その言葉は届きづらくなります。

だからこそ、励ますだけで終わらせず、
本人が本当に「できた」と感じられる課題を用意することが
大切なのでしょう。



■まとめと感想

この論文を読みながら、私は自分の子どものことを考えていました。

ひらがな、あるいは運動など、苦手だと感じるものに対して、
「できないから、やりたくない」という気持ちを
めちゃくちゃアピールします。

なんなら、その機会を予期しただけで、
外に出ようとせず、強烈に抵抗感を示します。

そのようなとき、「頑張ればできるよ!」
「とにかくやってみよう」と挑戦を促しても、
やっぱり効かないこともある。

むしろそのほうが多い。

だからこそ、その子の関心や今の力に合わせて、
少し頑張れば届く課題を用意する。

そして、自分の力でできたと実感できる
ベイビーステップを重ねていくことしかないのかもな、
と思いました。

小さな「できた」を、一つずつ丁寧に積み重ねていくこと、
その子に合わせたベイビーステップをつくり、
その歩みを急がずに支えること。

子どもの学びに関わるうえで、
大切にしたいなあと、改めて思った次第です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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【編集後記】
◯今月のランニング:227km

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