配信日時 2026/09/19 13:44

運動は「最高の薬」なのか? ―48万人の大規模研究からわかった結論とはー【カレッジサプリ】

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令和8年9月19日(第4589号)


運動は「最高の薬」なのか?
―48万人の大規模研究からわかった結論とはー


株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 3415字/読了時間4分)

■こんにちは。紀藤です。

このシルバーウィークに、スイスに家族で来ております。

早朝ランニングがてら心理学者のユングの生家に訪れたり、
(ホテルから往復20kmでした。)

スイス国立博物館でその歴史などを見ると、
色々勉強になるなあと感じます。

またこのお話は、シルバーウィークシリーズで書いてみたいと思います。

*

さて、本日のお話です。

今日も論文でございます。
一昨日は「睡眠」、昨日は「食事」、そして今日は「運動」です。
健康三代テーマですね。


さて、「運動は健康にいい」ということ。

おそらく、ほとんどの方が、
そのようなイメージを持っているのではないでしょうか。
そして、実際そうなのです。

……とはいいつつ、
「実際に、どれくらい健康にいいの??」と尋ねられると、
意外とふわっとしているところもあるのではないでしょうか。

そんな中で今回ご紹介するのが、
医療・健康分野において信頼性の高い情報源として知られる
「コクラン・システマティック・レビュー」を、
さらにまとめて検討した研究です。

内容は、2,888件のランダム化比較試験と、
合計48万5,110名の参加者が含まれている、
大変大規模なものです。

結論を先にお伝えすると、
「運動によって死亡リスクは相対的に13%低下し、
生活の質も改善する」ことが示されました。

ということで、早速中身を見てまいりましょう。

それでは、どうぞ!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<本日の論文>
タイトル:Exercise / physical activity and health outcomes: an overview of Cochrane systematic reviews(運動・身体活動と健康アウトカム:コクラン・システマティック・レビューの概観)
掲載誌:BMC Public Health
出版年:2020年
著者:Pawel Posadzki, Dawid Pieper, Ram Bajpai, Hubert Makaruk, Nadja Könsgen, Annika Lena Neuhaus, Monika Semwal
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■30秒でわかる、この論文のポイント

・150件のコクラン・システマティック・レビューを統合した
 「アンブレラ・レビュー」である

・対象には2,888件のランダム化比較試験、
 48万5,110名が含まれている

・運動によって、全死因死亡リスクは13%低下していた

・運動は生活の質、とりわけ健康関連QOLを改善していた

・報告された有害事象の多くは、
 筋肉痛や一時的な不快感などの軽微なものだった

・一方で、元となった研究には
 バイアスや報告不足などの限界もあった


◯そもそも「コクラン・レビュー」とは何か

今回の研究を理解するうえで、
まず触れておきたいのが「コクラン・レビュー」です。

コクランとは、医療や健康に関する研究結果を収集し、
厳密な方法で評価する国際的なネットワークです。
その成果は「コクラン・ライブラリ」という
オンラインデータベースにまとめられています。

一つひとつの研究では、
対象者や方法によって結果が異なることがあります。

そこで、同じテーマを扱った複数の研究を集め、
全体としてどのような傾向があるのかを検討するのが
「システマティック・レビュー」です。

そして今回の研究は、
そのコクラン・システマティック・レビューを
さらに集めて検討したものです。

つまり、研究をまとめたレビューを、
もう一段上からまとめた「レビューのレビュー」。

専門的には「アンブレラ・レビュー」と呼ばれる研究になります。



■研究の背景と目的

運動不足は、心血管疾患、がん、糖尿病など、
さまざまな非感染性疾患のリスク要因として知られています。

WHOをはじめ、多くの機関が身体活動を推奨していますが、
運動の効果は研究対象によってさまざまです。

健康な人を対象にした研究もあれば、
がん、心血管疾患、精神疾患などを持つ人を
対象にした研究もあります。

また、運動の種類、頻度、期間も異なります。

そこで本研究では、
既存のコクラン・システマティック・レビューを幅広く集め、
次の点を明らかにしようとしました。

ーーー
1.運動や身体活動は、
死亡率や生活の質をどの程度改善するのか。

2.そして、運動によって、
どのような有害事象が起こり得るのか。
ーーー

言い換えれば、
「運動は、どれくらい効果があり、
どれくらい安全なのか」を大きな視点から確かめた研究です。



■研究の方法

研究チームは、コクラン・ライブラリに収録されたレビューのうち、
2000年から2019年までに公表されたものを検索しました。

対象となったのは、
運動や身体活動を単独の介入として評価した
ランダム化比較試験を含むレビューです。

最終的には、54種類の疾患や対象群を扱った
150件のコクラン・システマティック・レビューが選ばれました。

そこに含まれていたのは、

・2,888件のランダム化比較試験
・48万5,110名の参加者
・3歳から87歳までの幅広い年齢層

という、非常に大規模なデータでした。



■主な結果(わかったこと)

◯わかったこと1:死亡リスクが13%低下した

まず、最も印象的だったのが、
死亡率に関する結果です。

運動を行った群では、行わなかった群と比べて、
全死因死亡リスクが相対的に13%低下していました。

統合された相対リスクは0.87。
つまり、運動を行った人の死亡リスクは、
対照群の87%だったということです。

もちろん、運動をすれば誰もが必ず13%長生きできる、
という意味ではありません。

しかし、さまざまな疾患や条件を含む研究をまとめても、
全体として死亡リスクの低下が確認された点は、
運動の持つ力を示す結果だと感じます。

また、12カ月を超える長期的な介入でも、
比較的安定した効果が確認されました。

運動は、短期的な気分転換にとどまらず、
長期的な生命予後とも関係している可能性がある、
ということです。


◯わかったこと2:生活の質も改善した

次に、生活の質、いわゆるQOLについてです。

効果量そのものは全体として小さいものでしたが、
特に「健康状態に関連する生活の質」では、
より明確な改善が見られました。

疾患別では、
次の領域と順番で比較的大きな効果が示されています。

ーーーーーーー
<運動によるQOL改善効果が大きかった領域>

1位:精神疾患(SMD=0.45)
2位:心血管疾患(SMD=0.37)
3位:がん(SMD=0.31)

※SMD=標準化偏差値(Standardized Mean Difference)のこと。
0.45とは対照群にくらべて、
0.45倍ほど改善が高かったという効果量の目安です。
ーーーーーーー

これまで私自身、
運動がうつ症状や心の健康に役立つという研究を、
いくつも読んできました。

今回のような大規模な研究でも、
精神疾患を持つ人のQOLに比較的大きな改善が
示されていたことは、改めて興味深く感じます。

研究では、その背景として、
脳由来神経栄養因子、いわゆるBDNFや、
βエンドルフィンなどが関係している可能性にも
触れられていました。

運動は、身体だけではなく、
気分や認知機能にも影響を与える。

心と体は、やはり切り離せないものなのだと
思わされます。


◯わかったこと3:運動の悪い影響は、ほぼなし

「運動には、悪い影響はないのか」という点も
気になるところです。

100件のコクラン・レビューで
有害事象が報告されていましたが、
その多くは、運動後の筋肉痛や不快感といった、
軽微かつ一時的なものでした。

運動に直接起因する死亡や、
重篤な有害事象は極めてまれだったとされています。

この点だけを見ると、
運動は「効果が期待でき、
深刻なリスクが比較的少ない介入」といえそうです。



■この研究の限界

非常に大規模な研究ですが、
いくつかの限界もあります。

まず、元となったランダム化比較試験の68%で、
バイアスリスクが高いと判断されていました。

運動の研究では、
参加者本人に「自分が運動をしているかどうか」を
隠すことができません。

そのため、薬の研究のように
参加者や評価者を完全に盲検化することが難しい、
という事情があります。

また、研究によって運動の種類や頻度、
対象となる疾患が異なります。

したがって、
「どのような人が、どの運動を、
どれくらい行えば最適なのか」までは、
この研究だけではわかりません。



■まとめと感想

これまで私は、
運動がうつ症状や心の健康に役立つという研究を
読むことが多くありました。

おそらく、自分自身が運動によって
心の状態が整う感覚を持っているからこそ、
そうした論文に目が向くのかもしれません。

一方で、運動が体全体の健康に
どのような影響を与えるのかを、
これほど大きなデータで整理した研究は、
改めて興味深いものでした。

もちろん、運動をすれば何もかも解決するわけではありません。
やりすぎれば故障もします。

それでも、
「やらないより、やったほうがプラスが大きい」
というのは、私も強く実感しています。

睡眠、食事、そして運動。
あまりに当たり前のことですが、
当たり前だからこそ、その大切さを忘れやすいもの。

改めて、研究データからのその大切さを感じた次第です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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【編集後記】
◯今月のランニング:207km

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