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令和8年9月15日(第4585号)
幸せな従業員は、本当に生産的なのか?
―「ハッピーワーカー仮説」を検証した研究
株式会社カレッジ 紀藤康行
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(本日のお話 3324字/読了時間4分)
■こんにちは。紀藤です。
昨日は、午前中、原稿の執筆。
また午後からは外部人事パートナーとして
関わらせていただている企業様へのコンサルティング&コーチングでした。
*
さて、本日のお話です。
皆さまは、「ハッピーワーカー仮説」という言葉を
ご存じでしょうか。
これは、簡単にいえば、
「幸福な従業員は、生産的である」という仮説です。
1990年代末~2000年代の初頭に
「ハッピーワーカー」という表現が用いられるようになりました。
そしてポジティブ心理学やウェルビーイングへの関心が高まるにつれて、
「幸せに働くこと」と「成果を上げること」の関係が、
改めて問われるようになりました。
現在、「従業員のウェルビーイング向上」に取り組む企業も
増えてきました。
その背景には、従業員を大切にするという企業の責任だけではなく、
「従業員が幸せであるほど、よりよいパフォーマンスにつながるのではないか」
という暗黙の期待もあるように思われます。
では、それは本当なのでしょうか?
今回ご紹介する論文は、まさにこの問いを、
大規模な職場データから検証した研究です。
タイトルは、そのものずばり、
「従業員の幸福感は生産性に影響を与えるか?」。
幸福感は、本当に売上を高めるのか。
そして、高めるとすれば、働く時間が増えるからなのか、
仕事のスピードが上がるからなのか、
それとも別の理由なのか。
研究方法の精緻さも含めて、
たいへん勉強になる内容でした。
ということで、早速中身を見てまいりましょう。
それでは、どうぞ!
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<本日の論文>
・タイトル:Does Employee Happiness Have an Impact on Productivity?(従業員の幸福感は生産性に影響を与えるか?)
・著者:Clément S. Bellet、Jan-Emmanuel De Neve、George Ward
・所属:エラスムス・ロッテルダム大学、オックスフォード大学、マサチューセッツ工科大学
・出版:SSRNプレプリント、2023年2月22日改訂
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■30秒でわかる本論文のポイント
・本研究では、英国の大手通信会社のテレセールス従業員1,793名を対象に、
毎週測定した幸福感と、売上や通話記録などの業務データを
組み合わせて分析しました。
・その結果、幸福感が高まると、労働時間が増えるわけではないものの、
売上が増加することが示されました。
・その最大の理由は、電話の件数を増やしたことよりも、
顧客との通話を売上につなげる「成約率」が高まったことでした。
・また、この効果は、定型的な販売よりも、
顧客に合わせた提案や交渉が必要な、
複雑な仕事で強く見られました。
つまり、幸せな人は「長く働く」ことで成果を上げるのではなく、
スケジュールの順守や作業速度、
そして顧客との通話を売上につなげる成約率を高めることで、
より効果的に仕事をしていた、という結果になりました。
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■研究の背景と目的
これまでにも、幸福感と仕事の成果には
一定の関連があることが報告されてきました。
しかし、ここには大きな問題があります。
幸福だから成果が上がったのか。
それとも、成果が上がったから幸福になったのか。
あるいは、職場環境のよさといった第三の要因が、
幸福感と成果の両方を高めているだけなのか。
単純に両者の相関を見るだけでは、
その因果関係まではわかりません。
そこで本研究では、主に次の3点を
明らかにすることを目的としました。
・幸福感は生産性を高めるのか:
実際の職場において、従業員の幸福感が売上に与える
因果的な影響を検証する。
・幸福感は何を変えるのか:
労働時間、仕事の速さ、スケジュール順守、成約率のうち、
どの要因が成果の向上につながるのかを調べる。
・どのような仕事で効果が大きいのか:
定型的な仕事と、柔軟な提案や対人交渉を必要とする複雑な仕事で、
幸福感の効果が異なるのかを検討する。
■研究の方法
対象となったのは、英国全土11拠点のコールセンターで働く、
テレセールス従業員1,793名です。
研究チームは、毎週木曜日に、
「今週、全体としてどのくらい幸せを感じましたか?」
という質問を送り、5段階の顔文字を使って
回答してもらいました。
そして、その結果を、
「日々の売上件数、通話数、勤務時間、出勤率、休憩時間、
スケジュールの順守率」など、
詳細な業務データ(成果変数)と結びつけました。
さらに興味深いのが、因果関係を調べるための工夫です。
研究では、「コールセンターの窓の割合」と
「その地域の悪天候」を組み合わせた指標を、
幸福感の変化を捉えるための「操作変数(IV)」として用いました。
窓の少ない建物では、
外の天候は従業員の気分に影響しにくい。
一方、ガラス張りの建物では、
雨や霧、雪といった天候が視覚的に伝わり、
気分にも影響を与えやすくなります。
また、顧客からの電話は全国から振り分けられるため、
コールセンター周辺の天候が顧客の購買行動に
直接影響する可能性は低いと考えられます。
この仕組みを利用して、
業績とは切り離された「気分の変化」を捉えようとしたのです。
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■主な結果(わかったこと)
■わかったこと1:幸福感が高まると、売上が増加した
分析の結果、0〜10に換算した幸福感が1ポイント上昇すると、
週あたりの売上は約3.36件増加しました。
ベースラインの週25件と比べると、約12%の増加です。
別の統計的な推計でも、幸福感が1ポイント高まると、
1時間あたりの売上が約14%増えるという結果が得られました。
幸福感が売上を高める、
因果的な効果が示されました。
■わかったこと2:幸せだから「長く働いた」わけではなかった
一方で、幸福感が高まっても、実質的な販売時間、出勤率、
残業時間、有給休暇の取得、休憩時間には、
明確な変化が見られませんでした。
つまり、幸せな従業員は、
長時間働いたから売上が増えたわけではない、
というのがポイント。
変わったのは、仕事の「量」よりも「質」です。
■わかったこと3:最大の要因は「成約率」の向上だった
幸福感が高い従業員は、スケジュールをより適切に守り、
1時間あたりの電話対応件数も増える傾向がありました。
しかし、売上増加に最も大きく関係していたのは、
通話を売上に変える「成約率」の向上でした。
単に電話をたくさん受けたのではありません。
顧客との会話を通じてニーズを捉え、
提案を売上につなげる力が高まっていました。
■わかったこと4:複雑な仕事ほど、幸福感の効果が大きかった
固定電話やインターネット回線の受注といった
比較的定型的な仕事では、
幸福感の効果はほとんど見られませんでした。
一方、テレビや携帯電話を組み合わせた提案、
解約を希望する顧客との再契約・アップグレード交渉など、
柔軟な判断や対人スキルを必要とする仕事では、
強い効果が確認されました。
さらに、顧客満足度が低く、
難しい顧客対応が増えた週ほど、
幸福感が売上に与えるプラスの影響が大きくなっていました。
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■考察
なぜ、幸福感が成約率を高めたのでしょうか。
その説明の一つとなるのが、
ポジティブ感情に関する
「拡張―形成理論(拡大構築理論)」です。
[
https://note.com/embed/notes/n11dc4e9aac3e?theme=auto](
https://note.com/embed/notes/n11dc4e9aac3e?theme=auto)
ポジティブな感情は、視野を広げ、
思考の柔軟性や創造性、
情報処理の効率を高めると考えられています。
気分がよいときには、顧客の話を余裕を持って聞き、
相手に合わせて提案を変え、
難しい場面でも柔軟に対応しやすくなるのかもしれません。
また、ポジティブな気分は、
顧客との摩擦や感情労働の負担を減らす可能性もあります。
本研究から見えてくるのは、
幸福感は人を長く働かせるのではなく、
複雑な状況における認知的・社会的な働き方を
よくする可能性がある
ということです。
■まとめと感想
本研究を読んで、まず感じたのが、
研究設計の緻密さでした。
曖昧になりやすい「幸福感」をどのように測るのか。
「生産性」を何によって捉えるのか。
そして、売上が増えたとき、
その理由は労働時間なのか、仕事の速さなのか、
それとも成約率なのか。
それらを一つずつ定義し、
誰が見ても納得しやすい論理的な構造を組み立てていく。
研究とは、こういう営みなのだなと、
改めて感じます。
また、個人的に印象に残ったのは、
幸せな従業員は「より長く働く」のではなく、
「よりよく人と関われる」ことで
成果を高めていたという点です。
気分がよければ、相手の話を少し丁寧に聞ける。
難しい状況でも、別の提案を考えられる。
相手との摩擦が起きても、余裕を持って対処できる。
たしかに、そうだよな…と。
ウェルビーイングは、エンゲージメントを媒介して、
生産性を高める、という話は他にも聞いたことがあります。
今回はエンゲージメントという言葉は出てこなかったものの、
まさにそのつながりも感じます。
改めて、「ハッピーワーカー仮説」を実証的に検証した、
たいへん興味深い論文だと感じた次第です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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https://note.com/courage_sapuri/n/n8742c81eb975?app_launch=false
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【編集後記】
◯今月のランニング:162km
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